79 Robert・Reich著 「余震:AfterShock」

久ぶりに読み応えのある本に巡り合った。昨日も茨城県沖を震源とする地震があり、東京では震度3であった。3.11大震災の余震は、未だ相当続くだろう。同じ連動型のスマトラ島沖大地震でも余震は5年も続いたらしい。さて、今日、ご紹介する本の題名の「余震」は、あの米国発世界恐慌を引き起こしたリーマンショックの余震である。スマトラ沖大地震と同様に、3年経った、今でも余震は続いている。むしろ、その連鎖は欧州にまで飛び火し、世界中を大連鎖に巻き込んでいる。著者、Reich氏はUCバークレイの教授であるが、クリントン政権の労働長官を務め、オバマ大統領まで三代の政権に関わっている。このReich教授は、リーマンショック後の余震は、今後ともアメリカ経済を苦しめると予想する。なぜなら、その根本原因である貧富の格差を是正しない限り、アメリカ経済は立ち直らないという。そして、その格差を縮める政策はオバマ大統領に至ってすら微塵も見られないというわけだ。

私がよく講演で使わせて頂いている、Thomas Picketty & Emmanuel Saez両氏が作成した最上位1%の富裕層の所得が国民総所得に占める割合のグラフを、この著者も用いている。このグラフによれば、大恐慌が起きる前の年である1928年と、リーマンショックが起きる前の年の2007年が、ともに米国の最上位1%の富裕層がアメリカ中の富の25%近くを占め、貧富の格差が極大だったことを示している。つまり著者は、この2つの大恐慌は、いずれも貧富の格差拡大がもたらしたものだと主張する。(私も常々、講演で同じことを言っている。)

さて、一昨日、WSJはアメリカの家計所得が3年連続減少し、ついに1996年のレベルにまで戻ったと報じている。そういえば、1997-2000年まではITバブルで、それが弾けたと思ったら、今度は、2002年から2007年まで住宅バブルが引き継いだ。結局、アメリカ経済の成長とは人為的なバブルによって引き起こされた虚構の繁栄だったのだ。

それでは、なぜ貧富の格差が拡大すると経済が破綻するかである。それは、例えば年収数百億円もの所得を得るお金持ちは、いくら浪費をしても使いきれないから消費に回るお金はホンの僅かの割合でしかない。一方、益々、貧乏になった庶民は、消費を手控えるから、世の中の経済が回らなくなるというわけだ。そして、もっと性質が悪いのは、大富豪たちは、消費にお金を回すどころか、もっと、お金を稼ごうとして、成長著しい米国の外の途上国へと投資を回すから、ますます米国内に、お金は回らない。例えば、米国政府がAIG救済のために投じた税金は、AIGにお金を貸していたゴールドマン・サックスに、そのまま還流し、ゴールドマンは、それを金利が安い米国内には投資しないで、金利の高い海外の新興国に投資するという具合で、結局、金融救済と言う名目で出費された国民の税金はウォール街の博打打ちに利用されただけだったというわけである。

それでは、オバマ大統領が金融支援に税金$7000億ドルも使っても米国の経済が立ち直るわけがない。1929年に起きた米国発の大恐慌から米国が復活できたのは、第二次世界大戦だった。欧州や日本の工場が全て焼け落ちて、世界で工場と言える設備は米国にしか残らなかったからだ。そのため、戦後、世界の工場と化した米国は未曾有の復活を遂げた。あまりに工場が繁忙だったために、労働者の賃金は上昇し、健全な中間層が拡大して、貧富の格差は著しく縮まった。この膨大な中間層の消費が米国経済を益々押し上げたのだった。

2008年11月、バラク・オバマが次期大統領に選任されたときに、ボルカー元FRB議長はオバマに対して、「今回の恐慌は、米国の人々が自分の収入以上の生活を続けてきたことが根本問題だ」と語ったのに対して、クリントン政権で経済諮問委員長だったタイソンは、「本当の問題は、人々の収入が増えていないことなんです」と語った。Reich教授は、タイソンの言っていることが正しく、中間層の収入を増加させることが米国経済を復活させる唯一の解であると述べている。さすが、クリントン政権の元労働長官だ。

さて、それでは貧富の格差が著しい中国について、Reich教授はどう見ているのだろうか? 教授は、中国の最近の経済発展のスピードに中国の人々の消費支出の伸びが追いついていないと言う。むしろ中国の家計所得が国内総生産(GDP)に占める割合が下がり続けているのに、企業の投資額はどんどん増えているという。具体的には、1999年、中国の個人消費はGDP比で50%あったものが、2009年には35%まで下がっている。一方、企業への投資額は35%から44%にまで増加していると言う。中国企業は増加する収益を従業員に分配するのではなく、逆に新工場、新設備、技術開発費に投資しており、労働分配率は下がり続けていると言う。さらに、中国は、リーマンショック後の不況対策として2009年5850億ドルもの途方もない大型政府支出を行い国内経済を刺激したが、これもインフラや生産設備能力の増強に使われて、中国の過剰生産設備が、より一層過剰になっただけだったと言う。

もともと、多くの中国人は退職後の社会保障が脆弱なので、貯蓄性向が強い。つまり、アメリカのように贅沢な消費行動をしないのだ。したがって、中国国内の過剰生産設備は海外に向かわざるを得ない。その行先が米国であり、欧州であった。その米国・欧州の消費者が購買するための、お金が無くなったのだから、深刻である。むしろ米国は収入が減った自国の消費者の代わりに、中国の消費者に米国製品を買って欲しいのだ。ところが、中国の消費者は、急成長し発展する経済の正当な分け前を手にしていない。ある意味で、米国と中国は同じデッドロックに陥っているとも言える。

最後に、Reich教授は、「人間の幸せは収入に比例しない」。だから、富裕層は、そんなに貪欲に富を増やそうと考えないで、もっと格差をなくし、中間層を増やす努力をしないと、結局、米国も中国も双方ともに手詰まりになって世界経済は破綻し、富裕層が溜め込んだ富でさえ泡と消えることになると警告しているのだ。この話は、米国と中国だけの話ではない。日本も、全く同様だと思った方が良い。やはり資本主義も大きな変質を遂げつつあるのかも知れない。私には、「自由主義」、「市場原理主義」だけで、社会や経済が自律的に落ち着くべき先に収斂するようには、どうも思えない。

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