先週、「Fujitsu乾電池」でお馴染みのFDK 湖西工場を見学、電池の勉強をさせて頂いた。せっかくなので、ここで学んだことを皆様とシェアするため、書き物として残したいと筆をとったが、とても一回で全て書き尽くすことは出来ないと思ったので、(その1)と記した。しかし、(その2)を何時書けるかは未だわからない。
このFDKは、湖西工場だけでもアルカリ乾電池を年に4億個生産、インドネシア工場の6億個と合わせると年間生産数量10億個にもなるとのことだが、世界一の米国ベンダーのデュラセルは年間50億個も生産していて、世界第二位も、第三位も米国ベンダーであるとのこと。日本の2強であるパナソニックとFDKも、まだまだ頑張り続けないといけない。
さて、地球温暖化防止のための救世主だった原子力発電が、今後、主役の座から降りるとしても、太陽光発電や風力発電と言った再生可能エネルギーが、原子力発電の代替を担うには、まだ20年から30年以上の歳月がかかるだろう。その過渡期を担うのは、やはりLNG,石油、石炭といった化石燃料による火力発電しかありえない。そして、風任せ、お日様任せといった頼りない再生可能エネルギーを、少しでも早くエネルギーの主役に祭り上げるために大きな役割を果たすのは、やはり「電池」である。
そして、車の世界で、今後のエコカーの主流になるであろう、ハイブリッドカー、EVカーの開発・製造においても鍵を握るのは、モーターではなくて、やはり「電池」である。また、今春、3.11大震災後、国の通信インフラ、特に携帯電話の基地局が脆弱であることが問題視された。日本の携帯キャリアーは、世界一の信頼性を誇る日本の電力網にあって、外部電源が3時間以上も途絶えることなど考えもつかなかったからである。ここでも、今、大きく見直されているのがやはり「電池」である。携帯キャリアー各社は、基地局の電池を48-72時間の停電に耐えられるよう、従来より大容量の電池に順次置き換えようと計画をしている。
家庭のおいても同様である。あの東京電力の計画停電が国民に与えた恐怖心は当分の間消えそうもない。各家庭でできることは自助努力として行おうと、充電可能なバッテリー付の家電機器を各部屋に配備しつつある。私の妻などは、100万円以上もする大型バッテリーの購入を真剣に考えている。まさに、日本中が「電池オタク」になりつつある。しかしながら、私も含めて、専門家のような顔をしている人たちも、一体、どこまで「電池」のことを知っているのだろうか、はなはだ大きな疑問である。ましてや、マスメディアに至っては、大方は信用ならないと思ったほうが良い。その意味で、こうして電池の工場で現物を目の前にしながら、開発技術者から直接説明を聞くことの価値は大きい。そう思って、私はFDKの湖西工場に来た。
私自身も、ノートブックパソコンの事業責任者として、ずっと長い間、電池と関わってきた。この間、一般的に言われてきたことは、LSIを含む電子回路、あるいは電子部品に比べて電池の技術の進歩は非常に遅いということだ。大体、信号を扱う技術に比べてエネルギーを扱う技術は誤魔化しがきかないからだ。しかも、危険で扱いにくい。最後は、今を時めくリチウムイオン電池に辿り着いたが、エネルギー密度が高い分だけ危険極まりない。一度、釘を刺して意図的に火災を起こしてみたが、もう一旦火がつくと、どんな消火方法でも燃えるものが無くなるまで消えることはない。
そして、電池は充放電も極めて厄介だ。米国のあるパソコンベンダーが、電池で火災事故を度々、起こしたのも急速充電だった。大体、急速充電は、電池寿命を著しく短くすることになるので、余程のことがない限りは、やらないほうが良い。「えー!、じゃあガソリンスタンドに設置されたEVのための急速充電器は何のためにあるの?」と思われるかも知れないが、それが事実である。私も「リチウムイオン電池を車に積むなんて危険じゃないの?」と思ったが、「でも、ガソリンタンクの方がもっと危険だろ!」と言われると、確かにそれはそうだ。便利さとは、常に危険とトレードオフで得られるものらしい。
そして、現在、トヨタ中研の社長で、かつて全トヨタ技術系のTOPだった瀧本さんは、「トヨタのハイブリッドシステムにおける電池制御の最大の目的は、電池寿命を最大限伸ばすことにおいている」と言われたが、これは顧客視点から見て全く正しい。ハイブリッドカーやEVにおいて、最も高価な部品である電池を、年中交換させられるような車はユーザーから見たら真っ平御免である。そして、現在プリウスに使われているニッケル水素電池も、次機種のプリウスに使われるリチウムイオン電池も、寿命を最大限伸ばすためには、最大使える電力を電池容量の40%までで我慢するしかない。電池の残存価値のためには、それ以上は出来るだけ使わない方が良い。
そんなリチウムイオン電池の欠点を補う新しい電池を、このFDKの湖西工場では作っている。その名も、「リチウムイオンキャパシター」だ。「なんだ、やっぱりリチウムイオンじゃあないか?」と思われるかも知れないが、従来の電気二重層のキャパシターの片方をリチウムイオンにしただけで、リチウムイオン電池の欠点が全て消える。つまり、万が一火がついても消火出来る。つまりリチウムイオン電池のような熱暴走はしない。また、元々の出自がキャパシターなので急速充電は得意中の得意である。そして、100%近く放電できるので実態としての電池容量が大きいなど、かなり有望な次世代電池のように見える。そのリチウムイオンキャパシターの製造工程を、今回、FDKの湖西工場でじっくりと見せて頂いた。
実際に、このリチウムイオンキャパシターを搭載したEVを見せて頂いた。この車は地場のクラシックカーメーカーとの共同作品である。やはりEVだけあって、加速はスポーツカーにも負けない物凄いものがあるということだ。そうは言っても、本格的に車メーカーに採用されるには、未だ少し時間がかかりそうだが、先ほど述べた携帯の基地局向けには、リチウムイオンキャパシターは、かなり有望視されている。まずは、そこから実績を積んでからだと言う。やはり、佐吉翁の出身地である湖西では世界に負けない面白い技術が育ちつつある。