65 スマートフォンが変えるインターネット

とうとうベライゾンがATTに引き続いてスマートフォンの料金体系を従量制に変えた。もはや、いくらでも使い放題というわけにはいかなくなったのだろう。やはり、スマートフォンは、ガラ携帯(ガラパゴス携帯:従来の日本型多機能携帯電話)の画面を大きくしてボタンを無くしただけでは済まない。私も、社給携帯はガラ携帯を使っているが、個人所有はスマートフォンに切り替えた。本音を言えば、電話としての使い勝手は、ガラ携帯の方が遥かに良いからだ。そして、個人所有とは言え、スマートフォンも自社品のREGZA Phone(ドコモのAndroid)を購入している。最初に驚いたのは、電池寿命の短さだ。1日保つのがやっとである。元来、携帯電話のヘビーユーザーではないのに、何故、このように電池が無くなるかと思えば、要は、スマートフォンが自分一人で勝手に通信しまくっているからだ。

そうした身勝手なスマートフォンの恐ろしさを経験したのは、スマートフォンを持参してローマで開かれた国際会議に参加した4日間だった。確かに、ローマに居る間中、ドコモからの警告メッセージが頻繁に来た。ドコモと契約しているキャリアに切り替えるよう、私に盛んにメールで促すのである。しかし、そのキャリアの名前のメニューは出ないし、先ほども述べたように、元々、私は携帯電話のヘビーユーザーではない。国際ローミング料金も大したことはないだろうと、たかを括っていた。しかし、出張から帰るとドコモからハガキが来ていて、「貴方の海外での料金は5万円です。これは月末の請求に含まれるので了承してください。」との通知を受け取った。たった、4日、それも殆ど使わないのに5万円である。これは、日本国内の固定料金である「かけホーダイ」のほぼ1年分に相当する。これ以来、私は海外出張には絶対にスマートフォンは持参しないようにしている。海外でこそ、ガラ携帯で十分だからだ。

さて、私が持っているREGZA Phoneには、ワンセグが付いているが、これはガラ携帯の名残でもある。ワンセグTV放送は、青森で3,11大震災に被災し携帯電話の通信が全て途絶えた時に大変役立った。一方、iPhoneをはじめとする海外製のスマートフォンにはワンセグはついていない。最近の若い人は、もともとTVを見ないし、その変わりYouTubeなどの動画サイトを利用しているので、ワンセグなどついていなくても全く問題が無いのだという。ところが、これこそが大問題を引き起こすのである。

大震災後に福島第一原発の事故が起きた後、日本に在住していた多くの中国人が帰国した。ある携帯電話のヘビーユーザーであった中国人は、こよなくiPhoneを愛していた。日本で彼がいつも使っていたアプリケーションはYouTubeなどの動画サイトだった。中国に避難のために一時帰国している間、暇だったこともあって、日本で居る時以上に動画サイトで楽しむ時間も長かったに違いない。そして、彼は、1ヶ月間の電話代請求書を見て、余りに驚き腰が立たなくなった。何と、1ヶ月の電話料金は8,000万円だったからだ。これでは、まともに請求されたら、殆どの人は破産してしまう。幸いなことに、3000名の要員を抱えるソフトバンクのサポートデスクは仙台にあり、震災で被災し、今回は、顧客に使い過ぎの警告を与えることが出来なかったとして、ソフトバンクは、その請求を断念した。

この話から想像できることは、中国のキャリアもソフトバンクも、海外ローミング料金に関して、それほど不当な請求をするはずがないから、この中国人は実態として、8,000万円に相当する通信量を一ヶ月で使ったのだと思われる。そうすると、8,000万円に相当する通信費を固定料金で数千円で済ますことが出来る制度は、顧客側から見ると大変有り難い話だが、キャリアから見たら大変な逸失利益である。つまり、殆どの加入者が、この中国人のような使い方をしていたら、キャリアは、もはや経営が持続できないということになる。ATTに引き続いてベライゾンもスマートフォンの料金体系を従量制に変えたということの背景がここにある。

私たちは、インターネットは使い放題、極端な言い方をすれば、通信料は殆どタダ同然だと思ってきた。ところが、スマートフォンの普及で、動画サイトなどを多用するヘビーな通信量を使うということになると、通信インフラの資源も無限ではないから、やはり限界が来る。そして、この動きは間違いなくモバイル系だけでなく、固定系にもやってくる。最近のアメリカ人は、これまでの商業放送としてのTVは、もはや見ないと言う。インターネットを使ったApple TVやGoogle TVを観るというわけだ。あれだけ全米に数多くあったDVDレンタルSHOPも全て倒産し、インターネットで配信するようになったわけだが、これもいずれ、固定通信インフラの限界にぶち当たるだろう。「地球の資源は有限、しかし、インターネットは無限。」という神話が、今、まさに崩れ去ろうとしている。さて、これで、世の中がどう変わるか? 皆で、頭がキリキリするまで考えてみよう。

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