44 ドーヴィルG8サミット

5月26日からフランス ノルマンディーの保養地ドーヴィルでG8サミットが開催された。初日から福島第一原発事故の問題が取り上げられ、思いがけず、日本の菅総理の存在が脚光を浴びたが、もちろん、これが今回のG8サミットの主題にはなりえない。私が、このG8サミットとかかわり始めたのは、2007年ドイツのハイリゲンダム・サミットからである。それは、この年から日本・EUビジネスラウンドテーブル(日・EU BRT)のメンバー(プリンシパル)になったからだ。つまり、日・EU BRTはG8サミットの前の週に開催と決められていた。なぜなら、日本とEUの首脳は、よほどのことが無い限り、G8サミットで首脳会談を行うからである。さらに、G8は、英国、フランス、ドイツ、イタリアとEUの主要4ケ国が参加していて、これらの各国首脳と一同に話ができるということもあっただろう。

私が、今年のG8サミットの開催で一番興味を持っていたのは、これがG8最後のサミットになるかも知れないということだった。ここ数年、中国やインド、ブラジルなどの新興国の台頭によって、G8サミットの存在意義が問われてきた。口の悪い人の中には、「イタリアとカナダを外して、中国とインドを入れたG8にしたらどうか?」と、憎まれ口をいう人も居たくらいだ。もちろん、このG8の替わりとして考えられているのは、昨年、公式の第一回が韓国で開催されたG20である。そして、今年、2011年はフランスが、G8とG20の両方の主催国となることは、ずっと以前から決まっていた。それで、いつも革新的な動きを見せるフランスが、今年、G8とG20の統合を行うのではないかと推測されていたのだが、果たして、そうはならなかった。

G8のGが「Great」でGDPの大きさを意味しているとすれば、昨年、中国が世界第二の経済大国になった時点で、もはやG8の存在価値はない。かつて、G7と呼ばれた時代には資本主義経済ではなかったソ連は入っていなかった。そして、あらためてG7とは、アメリカ、日本、ドイツ、英国、フランス、カナダ、イタリアを言う。そのG7+ロシアでG8なのだが、G8の様子をテレビで見ていると、G7+1の1はひょっとしたら日本ではないのかとも思えないか? 会議の途中の休憩時間で、日本の首相だけが、各国の首脳達の歓談から浮いているからだ。それは言葉の問題だけではなさそうでもある。穿った見方かも知れないが、かつての帝国主義時代の西欧の列強たちに、脱亜入欧を目指したアジアの新興国である日本が無理をして加わったという構図に見える。

2007年、ドイツで開催されたG8ハイリゲンダム・サミットでの主要議題は「地球温暖化」だった。ここでは、CO2排出削減に関する先進国と新興国を含む途上国との問題に関してG8としての取り組みについて議論が行われた。2009年、イタリアでのG8会議は、急遽、直前に大地震が起きたラクイラでの開催が決まった。このため、私達、日・EU BRTはイタリアでの開催を断念して、ベルギーのブルッセルで会議を行った。このイタリアでのG8会議のテーマの中には、イタリア政府の強い要請によって、地中海を渡って北アフリカから押し寄せる「不法移民の問題」が取り上げられたと聞いている。そういう意味で、今回のドーヴィルサミットは、大混乱が続いている北アフリカの問題が大きなテーマとなるに違いない。ヨーロッパにおける不法移民の問題は、アメリカにおけるメキシコ国境の問題より遥かに複雑である。EUは、事実上国境が無いので、一度、EUのどこかに入国できれば、後は、英国を除いて、EU域内ならどこへでも自由に行けるからだ。

そして、もう一つは、北アフリカから端を発した、ジャスミン革命が中東全域に広がっていることだ。従来のアメリカ vs 中東、イスラエル vs 中東、アメリカ vs テロリストという関係が、今後、大きく変化するかも知れない。アメリカが、だいぶ前から、その存在が判明していたビンラディンを殺害したのも、こうした背景があるだろう。9.11以降、アメリカは、どうしてアメリカが中東地域から、こんなに嫌われるのだろうと、ずっと調査してきたらしい。その結果、中東の人たちは、決して「アメリカ」や「アメリカ人」が嫌いなのではなくて、「アメリカがすること」が嫌いなのだということが判ったらしい。アメリカ以外に住む人は、皆、昔から判っていたことをアメリカは、ようやく理解したようだ。当然、アメリカは、今回、北アフリカから中東に吹き荒れるジャスミン革命を契機に、これまでアメリカを憎んできた人たちとの関係を改善する絶好の機会だと思っている。

そして、もう一つ、この北アフリカから中東にかけての地域は、旺盛な世界のエネルギー需要にとって極めて重要な地域でもある。福島第一の原発事故の問題は、もちろん、G8諸国にとって重要な問題であることは間違いないが、各国の首脳の頭の中では、再び、原発から化石燃料への回帰を目指した、新たなエネルギーの安全保障戦略のことが、ぐるぐる回っているに違いない。もし、日本の主要メディアが原発問題のことしか取り上げないとすれば、それは、また例の視界狭窄症に陥っていると考えたほうが良い。だからこそ、G8はG20とは別に必要な存在だという認識がG8各国に共有されたのではないか?と思うのは私の考えすぎだろうか。

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