421   ポスト・コロナ時代に向けて(1)

いよいよ日本でも4月7日に緊急事態宣言がなされて、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が大きな脅威として捉えられるようになった。それでも、シリコンバレー在住の友人たちから見ると、日本は、政府も、国民も、まだまだ考えが甘いと厳しく批判をしている。ニューヨークと同様にシリコンバレーを含むカルフォルニア州でも、社会インフラを支える必要不可欠な労働者以外の通勤を厳しく禁止している。昨日も、友人とTV会議で、シリコンバレーで、今、起きていることについて、いろいろ話を聞くことが出来た。

アメリカでは、リーマンショックの後、金融界で盛んに「ニューノーマル(新常態)」という言葉が語られるようになった。つまり、これからは、リーマンショック以前の「常態」に戻ることはないという意味である。COVID-19についても、巷間に期待されているようなワクチンが短期間に開発されることがないとすれば、現在行われているような異常なロックダウン政策は長期間にわたって継続せざるを得ない。そうだとすれば、現状(新常態)の中で、これから、どうやって生き残るかを考える。それは、40年近く前に発見されたHIVウイルスのワクチンが、未だに開発されていない現実を見据えてのことである

元来、シリコンバレーが世界一のイノベーション聖地になったのは、多くの人々が常日頃からランチやディナーを介して頻繁に情報交換を行なってきたからである。こうした貴重な会話は、組織を離れたインフォーマルな関係で、しかも非常にクローズドな社会で行われている。だからこそ、会話の場所は、オフィスではなくて外部のレストランでなくてはならない。ところが、今回のCOVID-19騒動で、レストランもクローズ、自身も外出できないということで、そうした貴重な機会は全く失われてしまった。

こうした状況の中でも、なんとか打開策を見つけるのがシリコンバレーの人々である。現在、多くの情報交換の場はTV会議システム(ZOOM)で行われている。今、日本ではZOOMはセキュリティー対策が甘いという理由で使用禁止にしている企業も多いが、シリコンバレーの人々は、そんなことは全く気にもかけていない。もともと、雑談の中で、万が一面白い話があれば儲け物という考えで話しているので、オフィシャルな場とは捉えていないこともあるが、新興企業として精一杯頑張っているZOOMを、皆で応援しようという気持ちもあるに違いない。

さて、そこで、食事もなしに、お互いに面と向かって長時間雑談するのは、いかにも不自然である。レストランではウエイターが食事を運んでくれて、話はどんどん進む。一方、TV会議では、レストランからデリバリーで調達するわけだが、その料理は何が適しているだろうということになる。それで、レストラン側も、いろいろ考えた。食事する場所も狭いし、配膳の準備にも手間をかけてはいられない。結論は「鍋料理」が最適ではないかという話になった。こうなるとレストランも営業を続けるのに必死なので、TV会議に適した鍋料理の開発に専念しているという。

別に、TV会議でなくても、毎日、自前で調理した単調な料理だけでは味気ない。やはりプロが調理したレストランの料理が食べたいというのは、誰しも同じである。そこで、シリコンバレーでは、テイクアウトかデリバリーという選択があるが、圧倒的に人気なのはデリバリーサービスの方だという。レストランの方は、一度でも事故を起こしてしまったら致命的なので、ウイルス感染も含めて食品の安全性については万全を期しているはずだが、一方、依頼する客側としては、どうしてもデリバリーサービスへの不信感が拭えない。

そこで、さすがシリコンバレーである。いよいよ登場したのが自動走行車によるデリバリーサービスである。今や、外出禁止令で街中の道路はガラガラである。自動走行車にとっては最適の環境だ。そうは言っても時速65マイルのフリーウエイは走行禁止で、時速35マイル以下の一般道だけでの走行が許されている。今後、自動運転車の開発は、人間を運ぶより、まずレストラン料理のデリバリーサービスから発展するのかも知れない。シリコンバレーの街中をレストランのデリバリーサービス車が走り回る景色を早く見てみたい。

かつて半導体の製造で一番重要なのはクリーンルームなのだが、チリやゴミなどの汚染物を排出するのは人間で、人間が製造現場に立ち入ることが、汚染対策の最大の問題だとされた。この結果、最先端の半導体製造工場では、品質を向上させるためには、人を介在させてはいけないという意味で自動化投資が促進された。同じような話が、今回のCOVID-19感染問題で病院や介護施設でもありそうだ。今、日本で一番問題になってきそうなのが、病院や介護施設での集団感染だ。こうした分野では、人が介している以上、感染の機会を撲滅するのは非常に難しい。医師も看護師も、COVID-19に感染するのを非常に怖いと思っている。患者の方だって、少々の病気なら、この際、病院へ行くのはやめておこうということになる。

今回のCOVID-19が、これまでのウイルスと異なる一番厄介なところは無症状感染者が感染源となって他人を感染させるということだ。したがって。全ての人の感染・抗体検査を行いスクリーニングしない限り収束させる道はない。せめて、COVID-19の感染・抗体検査だけでも、可能な限り、人手を介しない自動化システムを促進するべきだろう。日本では、今も、諸外国に比べて、さっぱり検査数が進まないのは、医師も看護師も、現状の検査システムに関わるのが怖いからだ。それは誰しも当たり前で、決して、医療関係者だけを責めるわけにはいかない。

こうした状態が2−3ヶ月で済むなら我慢もできるが、1年、あるいは2年も続くと医療崩壊というより社会全体が崩壊する。簡単には出来そうもないワクチンの出現に大きな期待をするよりも、我々は、今の状態を「新常態」として認めて、新たな社会システムを構築していかないと誰も幸せにはなれないだろう。

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