本日、日立製作所がABB 送配電事業を8,000億円で買収すると発表した。その、発表に立ち会ったのは、もちろん日立製作所会長で経団連会長の中西宏明さんである。私は、中西さんから、これまで何回も日本の電力送配電に関する熱い思いを聞いていたので「中西さん、とうとうやり遂げたな」と、今日の発表を聞いて改めて大きな感銘を受けた。このABBの送配電事業買収は、単なる日立の事業分野の拡張に止まらない中西さんの熱い思い入れがある。
今、メディアに取りざたされている英国の原発事業について、これから中西さんが、どのような決断を下されるのか私には全く思いも及ばない。それは、とりあえず置いておいて、中西さんの強い思い入れは、理想的な発電形態とは一箇所で大規模で発電する集中型ではなく多くの場所で中小規模で発電する分散型だということである。災害大国日本では分散型によるリスク回避は極めて重要な課題である。もちろん、この中小規模発電の中には太陽光や風力、地熱や小水力発電も含まれる他、ビル・ゲーツが推奨する冷蔵庫大の密閉型原子力発電炉も含まれるだろう。
ところが、今、日本では太陽光、風力発電などの再生可能エネルギーを用いた発電に関して、既存の電力網との接続が大きな問題になっている。もともと、日本の9電力会社は、極めて高品質の電力を提供するだけでなく、その地域が必要とする電力需要に対して、全く問題が生じないよう十分に余裕がある発電能力を備えている。従って、電力会社相互間の電力融通も極めて限られた範囲にとどまっており、しかも融通に関しても、相手の電力品質に関しては疑いもなく高品質なものであり、特別な措置は全く必要がなかった。
ところが、欧州では、国境を越えて、お互いに電力融通をするのは日常的なことであるものの、融通を受ける相手方からの電力品質に関しては全く信用のおけないものとして考えていた。つまり、供給される電力の品質は、電圧もさることながら、周波数が極めていい加減なものであり、これが実は大問題だった。日本では、相手方の電力品質を信用した他励式と呼ばれる変圧器で電力融通を受けるのが一般的だったが、欧州では、そんなやり方では全くうまく行かない。
つまり、欧州では自励式と呼ばれる方式で、周波数について全く信用できない相手方から受けた電力を一度、直流に変換して直流送電するのである。その後、然るべき変換を行い、自国の送電網に適合する交流に変換するという手順を踏む。だから、欧州の送配電網は、電圧も周波数も、全くいい加減な風力や小水力、太陽光発電と言った再生可能エネルギーを受け入れる耐力が極めて強い。この仕組みは、今後、地球温暖化を防ぐための再生可能エネルギーによる発電比率が増大する時代には必須の要件である。
日本のメディアは、再生可能エネルギーによる発電拡大を褒めそやすが、現状の日本の送配電網と再生可能エネルギー発電とは極めて相性が悪い。規模が小さい間は全く問題ないが、再生可能エネルギーの発電比率が大きくなるに連れて問題はより深刻になる。つまり、日本の送配電網は再生可能エネルギー発電時代に向けて基本から抜本的に作り直さなければならない。そうした意識がメディアにも政府にも経済界にも全く欠けている。
さらに大きな問題は、日本の送配電網を抜本的に作り直すにしても、その自励式変換、直流送電に伴う基礎技術が、今の日本企業には全く存在しない。中西さんは、日本の送配電網を作り直すには、誰かが欧州の自励式技術を導入するしかないのだと言う。それが、まさに、今回の日立製作所によるABBの送配電事業の買収につながっている。
これまで日本は道路網について巨額の資本投資を行い、それに見合う成果を挙げてきた。しかし、これからの日本にとって重要なインフラ投資は道路よりも送配電網の拡充ではないかと中西さんは言う。それが、今回の日立のABBの送配電事業の買収につながっている。問題は、政官含めて、中西さんと同じ問題意識を、どこまで共有できるかにある。どうか、政官一体となって、今回の日立によるABBの送配電事業の買収を、ぜひ日本の将来に活かして欲しいと私は思う。