43 福島第一原発1-3号機メルトダウン

私の会社では、外交評論家である岡本行夫さんに定期的な勉強会をお願いしている。昨日は、岡本さんの事務所の顧問を勤められている、元三菱マテリアル副社長の冨士原さんも、ご一緒に講演され、今回の東日本大震災と福島第一原発の問題について、いろいろ教えて頂いた。おりしも、新聞やTVでは、福島第一原発の2-3号機も1号機同様メルトダウンしていることを東電が認めたと報じている。この報道を聞いて、今更、驚く方は極めて少ないと思われる。逆に言えば、殆ど、公知の事実になってから正式に認めたような気もしないではない。

岡本さんは、歯に衣を着せぬ直球型の議論をされる方であるが、決して原発推進者でもなく、また原発排斥者でもないので、現実を直視した極めて冷静な議論をされていた。また、冨士原さんは、原子炉燃料を加工製造する企業のTOP経営者として、原発については高い見識をお持ちであり、私としても大変参考になった。

昨日の講演で改めて、印象に残ったことを幾つかご紹介したいが、まず最初は、核燃料は核分裂反応を停止させた後、「対数時間」でクールダウンしていくということだ。これは二つのことを言っている。一つは、核分裂反応停止直後の、しかるべき対応処置について1分、1秒の遅れは、その後の何年、何十年分にも相当するということだ。つまり初動のミスが決定的になるということ。今、国会で議論されている海水注入の一時停止の問題である。「対数時間」のもう一つの意味は、完全にクールダウンするには何年、何十年とかかるということである。

そして、福島第一原発の防波堤の高さが5.7mだということ。これは、想定される津波の最大値にぴったり合わせているわけだが、通常の土木設計の概念は「想定被害の最大値」の2倍から、3倍で設計をするのが常識だそうだ。そうした安全係数をかければ、確率は3σの外に行くので「常識的な安全確保」がなされるというわけだ。つまり、この防波堤の高さ設計が一つの象徴であり、「絶対安全」を豪語していた福島第一原発は随所で、日本の土木工法の常識を満たしていなかったといえると言う。

そして、菅総理の浜岡原発停止要請の根拠についてである。確かに、今年1月の日本地震学会の報告書では、今後30年間に浜岡原発が大地震に遭う確率を84.5%としており、他の原発地域の2-3%に比べて格段に高い。これを見ると、菅総理の決断も正しかったかなと思えるのだが、岡本さんが指摘するのは、この今年1月に予測された福島第一原発の今後30年間の大地震遭遇確率である。なんと、0.0%なのだ。もう一度言うと0.0%である。日本地震学会は、福島第一原発は今後30年間に大地震に遭う確率は殆どゼロだと言っていた。そうした地震学者の意見をベースに浜岡原発を止めたのは全くおかしいと岡本さんは言う。

大体、アメリカでは、地震の予測をしようとすること自体が。「非科学的」だという常識が通説となっていて、むしろ地震が起きたときに、どう対処すべきかという議論に正当性を見出しているという。そういえば、地震予知学に関しては、あの四川省大地震が起きるまで、中国が最も盛んだった。それまで、中国では、地震は完全に予測可能とされていた。だから、耐震建築など必要ないのだと、地震が来る前に逃げればよいのだから、建物に過度の耐震構造を持たせる必要が無いという論理である。しかし、あの四川省大地震のあと、中国の地震予知学はさっぱり精彩が無い。ひょっとすると地震予知学というのは、政治に利用されやすい学問なのかも知れない。

さて、今回の福島第一原発事故を契機に原発排斥運動が世界中で盛んになってきた。また、自然エネルギーにビジネス活路を見出そうとしている人たちが、この機を捉えて、実力を遥かに超えた過度のアッピールを行い始めている。風力発電や太陽光発電が原発の代替役を果たすのは、多分、10年や20年では済まない。50年、100年のレンジで考えざるを得ないだろう。私は、今まで、何度も言ってきたが、日本は風力環境や太陽の日照時間で世界の中でも不利な地域にいる。「日本中の家庭の屋根に太陽光発電を!」などと馬鹿なことを言っている政治家も居るようだが、日本は、2030年には全世帯の半分が無所得世帯になる。どうして無所得の家が屋根に高価な太陽光発電パネルを付けられるのか?ちょっと、その、お粗末な頭でも考えられるだろうと言いたい。要は、夢を論じるのではなくて、もっと現実を語ろうと言いたい。

そして、私は、決して原子力発電の排斥論者ではない。少なくとも、今まではそうだった。そう、今回、2週間にわたって、福島を訪れる前までは。私が、最初に訪れた会津地方は2000mの山並みで囲まれた、東京以上に安全な場所である。それでも、福島県というだけで、不当な風評被害に苦しんでいる。そして、次に訪れた福島県伊達市の工場でも、数々の不当な差別に苦しんでいた。伊達市は、福島第一原発から60km離れているが、福島市と隣接するとともに、すっかり有名になった飯館村とも隣接している。当然、飯館村から通って居る人も何人かいる。だから、万が一に備えて、毎日、工場の外と中の放射線量をリアルタイムで計測、モニターしている。そうした緊張感の中で、地震で徹底的に破壊された工場を従業員全員で一生懸命復旧作業を行った。もちろん自分達の職場を確保するためである。当然、会社も、この方々のために出来ることは何でもするだろう。

こうした福島県の現場を見て、住民の方々と話をしてみると、今回の原発事故は、やはり取り返しの付かないことをしたのだと思う。もう、日本の原発全体が元には戻れないのだと思わざるを得ない。失敗学で有名な畑村先生を長とする事故調査委員会が発足したが、この委員会が、いくら綿密に調査しても、もはや失敗学の成果である「再発防止策」は不要であろう。日本では、もう、二度と原子力発電所が建設されることはないからだ。福島県の住民の方々の意見を代弁すれば、「ノーモア広島、ノーモア長崎、ノーモア福島」であろう。そして、これは福島県だけの意見に留まらない、今後、日本全体の意見になっていくことは間違いない。

さて、そうした前提で、我々は電力対策として、何を考えなければならないか?である。風力や太陽光も結構だが、当面の対策にはならない。しかし、この電力の困窮状況を放置していれば、間違いなく、日本の全産業が衰退する。石油火力は、当然として、天然ガス火力と石炭火力を国の総力を挙げて強化すべきである。もはや、個々の電力会社の投資計画に任せておくべきではない。幸い、天然ガスは、地下水の汚染問題はあるにせよ、世界中でシェールガスブームで沸き立っている。そして、天然ガスは気体であるから、液体の重油より、もちろん固体の石炭より燃焼効率は格段に良いからCO2排出規制にも適合した化石燃料と言える。天然ガス火力発電所なら、東京湾のど真ん中でも建設できるのだから、日本全国にどんどん作ればよい。さて、次に全世界に豊富にある石炭だ。今でも、米国、中国、インドなど世界の主要エネルギー消費大国は石炭火力発電が主力である。なにも日本だけが、良い子ぶって、国を滅ぼすことは無い。日本も、効率の良い、石炭火力発電を、ぜひ先頭に立って目指すべきである。

最後に、少し明るい話をしたい。私が、三菱重工の佃前会長とインドに行ったときに、佃さんから大変良い話を聞いた。佃さんは、インドのアルワリア国家戦略委員会副委員長に対して、三菱重工が開発中の高効率石炭火力発電設備の説明をしたのである。私も、びっくりしたのだが、この最新式の設備では、固体の石炭を2300度と言う高温で、ガス(気体)に変えて燃焼させるのだ。だから、従来の石炭火力にくらべて30-40%も効率が改善されるという。

凄い技術だ。石炭を馬鹿にしてはいけない。石炭がガスになるのだ。何だか、気持ちが、わくわくしてきた。でも、ちょっと変だ。私は、後で、佃さんに質問をした。「2300度って、鉄でも溶けちゃうんじゃないですか? そのボイラーは一体、何で作るんですか?」。すると、佃さんは「良い質問だ。鉄は1500度で溶けてしまう。だから容器の壁の鉄の中に穴をあけてパイプをとおし、そこに高速に水を通おして冷やすんだ。」と教えてくれた。何と凄いことを!武者震いするようなテクノロジーだ。しかも、基本は、石炭を燃やして水で冷やすという単純な話なので、ガンマー線とかベーター線とか難しい話は一切無い。同じ、高度なテクノロジーを使うなら、こちらの方が遥かに筋が良い話だと思った。

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