米中貿易戦争の真只中、トランプ大統領の対中関税政策がクローズアップされる中で、ファーウエイの副会長(CFO)である孟晩舟がカナダで逮捕されたことが大きな注目を浴びている。今回、孟氏は、イラン向けの制裁に対する違反とかの嫌疑で逮捕されたと言われているが、それは実態とは、殆ど関係がないだろう。アメリカは、トランプ大統領就任の、ずっと以前から、ファーウエイを制裁の標的にしていたからだ。
トランプ大統領が次々と表明する政策は、欧州をはじめとする各国から大きな非難を浴びているが、なぜか対中政策だけは、支持されているように見える。世界は、今や、鄧小平時代の韜光養晦(とうこうようかい)政策から逸脱した習近平の攻撃的な政策に大きな危機意識を持っている。それにつけても、中国の産業政策は長期的な視点から見て素晴らしい視点を持っている。中国は、あらゆる産業の中で、特に通信事業を取り立てて力を入れてきた。つまり情報通信技術こそが、国防政策および国内の治安維持にとって最優先の課題だと早くから認識していたからだ。
特にファーウエイは人民解放軍の庇護の元で、非上場の準国営企業として国から長きにわたり手厚い保護を受けてきた。私は、富士通時代、英国や日本国内のビジネスにおいて、ファーウエイと競合したら絶対に勝てないことを学んだ。特に、価格では、逆立ちしても全く勝てる見込みがなかった。これは全く言い訳にしか過ぎないが、ファーウエイは上場していないので、我々と競合するビジネスで、果たして本当に利益が出ているのかどうか全くわからないのだ。それでも、お客様から見ればコストが安いほうが良いに決まっている。
そうした圧倒的な価格競争力でファーウエイは、世界市場で覇者となった。こうしたファーウエイの世界制覇に関して、アメリカは以前から大きな懸念を持っていた。つまり、ファーウエイ製の通信機器には、密かに中国政府が自在にコントロールできるバックドアが装備されているのではという疑念である。今や、近代戦争では、核兵器など、もはや役立たずの過去の遺物になった。ハッキング攻撃、電磁波攻撃、宇宙攻撃といった、新たなテクノロジーを用いた次世代兵器が国防の中心となってきている。
当然、中国は、こうした時代の到来に備えて、ファーウエイを前線に立て、国を挙げて着々と準備を進めてきたが、一方、アメリカも、日本も、英国も、カナダも、オーストラリアも情報インフラは民間主導の自由競争の世界で、国防とは全く無縁の存在として国の関与を控えてきたのだった。トランプ大統領が、未だに42%という信じ難い高い支持率を保っているのは、アメリカが、これまで世界に表明するのを憚ってきた多くのタブーを、あっけらかんとTwitterで表明する素直さにあるのかも知れない。
アメリカは国防上の極秘情報を共有する5eyesという連合体を持っている。つまり、アメリカ、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドという、どんな事態にあっても、絶対に裏切らないアングロサクソン連合体である。トランプ大統領は、まず、この5eyesからファーウエイを締め出して、次に9eyes、13eyesと言った準情報共有連合からファーウエイを締め出して行くだろう。しかし、残念ながら日本は、このどのeyes連合にも参加を許されていない。先の大戦の敗戦国であるドイツやイタリアですら13eyesには入っているというのにも関わらず、日本は未だにアメリカから心底信用されてはいないのだ。
その日本ですらも、ソフトバンクが、いち早くファーウエイを締め出すと表明した。当然、アメリカにおいて、携帯電話会社であるSprintを抱えるソフトバンクとしてみれば、アメリカの国防政策に協力するのは自明である。それでも、情報通信事業というのは国防上の懸念という観点から言えば、非常にわかりやすい。しかし、今後、アメリカは対中国政策として、もっと広範囲な事業に対して制限を加えて来るだろう。
それが、本当に、世界経済にとって正しい政策かどうかは、私にはわからない。それでも、日本は、アメリカに対して、正面から逆らって独自の政策を打ち出すことは絶対に許されない。今後、世界が、グローバリズムからナショナリズムへ、協調から対立へと、その基本姿勢を変化させていく中で、我々は、日本の立ち位置を、もう一度見直さなければならない時期に来ていることだけは、どうも確からしい。つまり、米国の強硬姿勢は、日中関係、日露関係を、従来以上に難しくする。