401   今、ベルリンが熱いのは何故か?

私が初めてベルリンに行ったのは、2007年6月、ハイリゲンダムG8サミットに参加する安倍総理に同行して、日本―EU ビジネスラウンドテーブルに参加した時だった。ドイツには、富士通とシーメンスの合弁会社の取締役会に出席するため、シーメンスの本社があるミュンヘンには年に数回訪れていたが、シーメンスの祖業である通信事業を興したベルリンに訪れる機会は全くなかった。

ドイツは東西統合の前の首都はボンであり、金融の中心地はフランクフルトで、ドイツを代表する重工業であるシーメンスと自動車の代表であるBMWはミュンヘンが本社なので、製造業の中心地はミュンヘンという印象があり、ベルリンの印象は全く薄かった。それでも、ベルリンを訪れると、やはりドイツの歴史を背負った大都会である。ブランデンブルグ門は威厳あるドイツのシンボルであり、中でもペルガモン美術館は中東の古都バビロンの市街地の城壁をそっくり移設したものなどを見せられると、心底、ドイツの強さに圧倒される展示だと感銘する。

そして、新たに建設された新ベルリン駅は全面太陽光発電パネルで覆われており、当時のドイツの再生エネルギー政策への傾注を沸騰させていた。この時代のドイツの太陽光発電政策は世界から注目されていたが、これは実に巧妙な東西ドイツの融合政策だった。つまり、ソビエト連邦の半導体基地であったドレスデンの設備は、最先端テクノロジーから遥かに遅れたものであり、微細加工が不要な太陽光発電パネルにしか使えなかった。それを国家的プロジェクトとして興したのが、当時世界一の太陽光発電パネルメーカとなったQセルである。

そのQセルが生産した太陽光発電パネルを東ドイツの公共施設に積極的に設置して、その高価な電力を旧西ドイツに購入させて、旧東ドイツへの所得移転を行なった訳である。もちろん、そうした経済合理性がない無理筋の政策は破綻し、Qセルは中国ベンダーとの競争力に敗れて破産、太陽光発電による旧西独から旧東独への所得移転も、旧西独市民の抗議によって終結を迎えることになった。ドイツを範として行われた、高価格FITによる日本の太陽光発電政策もドイツが政策転換した直後に破綻への道を歩むことになる。

そんなベルリンが、今、世界から注目を集めている。シリコンバレーに代わる、世界のイノベーション聖地になるかもしれないと言われているからだ。ベルリンは1944年の陥落から1989年のベルリンの壁崩壊までの26年間の空白を、その後の29年間が穴埋めするどころか、むしろ、リープフロッグ現象でとして世界の各都市を追い抜いてしまったとも言える。元々、東ベルリンは私有地を認めていなかったため公共政策はやりやすい。また、これまでのメルケル首相の積極的な移民政策もあって、ベルリンには優秀な天才達が世界中から集まってきている。トランプ大統領のH1Bビザ制限政策で困っているシリコンバレーとは対照的である。

ドイツの政策は、日本の将来の政策の手本だと思った方が良い。ドイツは憲法で国が借金をすることを禁じており、国家債務はゼロである。その代わり、消費税は20%にも及び、国民にも相応の負担を強いている。そして、ドイツはEUの首領として、アメリカ、中国と対等に並び立つヨーロッパの力を保持するための施策を講じている。いわば、米中への対抗として第三勢力を育む、その象徴がベルリンである。ドイツは、米国のIT勢力に対抗するために、ウーバーもAirbnbも禁じている。そして、今回のEU個人情報保護指令GDPRである。これは、明らかに米国のGAFA (Google, Apple, Facebook, Amazon) への対抗政策だと思った方が良い。

その上で、ベルリンのタクシー手配アプリで最大のスタートアップはダイムラーが買収して完全子会社とした。ドイツのタクシーは、殆どが、ダイムラー製(ベンツ)だからである。また、カーシェアリングのスタートアップ最大手はBMWが買収して完全子会社とした。BMWは購入者の平均年齢が50代であり、カーシェアリングの中心層である30代の顧客とは競合しないことが分かったからだ。これから繁栄するシェアエコノミーのビジネスにアメリカ勢は絶対に入れないというドイツの決意である。

フィンテックでもドイツは先手を打っている。ベルリン発の「N26」は無店舗銀行として欧州の最大手として、もはや1,000万口座を保有しているという。このビジネスモデルもアメリカや中国のスマホ銀行とは一味違う。N26はパスポートによる申請で口座開設ができる。口座開設が認可されるとMaster Cardのデビットカードが送られてくる。決済は、全て、このMaster Cardで行われる。送金手数料、為替手数料はゼロだが、現金を預け入れる時だけ1.5%手数料をとる。現金の引き出しはATMだけでなく、Master Cardを取り扱う小売店でも行える。また、日頃の決済情報から与信情報を得て、最大1万ユーロまでは即時融資を行うようである。

さらに、ベルリンは、世界最大の「ビーガン」コミュニティーとして、今後の世界の食文化をリードするかも知れない。私は、「ビーガン」という言葉は、先々月、シリコンバレーを訪問して初めて聞いた訳だが、シリコンバレーでも、現在、大きな潮流になりつつある。「ビーガン」とは「完全菜食主義者」であり、いわゆる一般的な菜食主義者である「ベジタリアン」とは全く違う。植物性たんぱく質を素材とした合成肉や、豆乳から作ったヨーグルトなど、たんぱく質をきちんと摂取することによって栄養バランスをしっかり取っている。

なんだか、日本の禅宗による精進料理と似ているような気がするが、今後、世界の人口の半数を占めるであろうと言われているムスリム向けにも、ビーガン料理はハラル認証以上に潔癖な食事なので、きっと流行るに違いない。ベルリンでは、ビーガン専門レストランが沢山あるのだという。そういえば、今、シリコンバレーで流行っている「瞑想」も「座禅」そのものだし、何だか日本文化が世界中からパクられているような気がしてならない。私たちは、自分たちの文化の優れた点が、よく理解できていないのではないだろうか?

今、シリコンバレーにいる優秀な人材は、GAFAのブラックホールに、どんどん吸い取られていく。スタートアップですらも、IPOするより、早い時点でGAFAに買収されることを望んでいる。そして、これまで、世界中からシリコンバレーにやってきた優秀な人材はトランプ大統領の反移民政策で、もはや簡単には入ってこれない。そうこうしているうちに、世界は、あっという間に大逆転が起きる。ひょっとすると、ベルリンが、シリコンバレーにとって代わる日も、そう遠くないのかも知れない。

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