399 シリコンバレーの光と陰(4)

シリコンバレーが世界のイノベーション聖地であり続けた理由の一つに移民の力がある。Appleを興したスティーブ・ジョブスもシリア移民の子だし、グーグルの創業者の1人であるセルゲイ・ブリンもロシアからの移民である。移民や移民の子供達には、ハングリー精神が富んでいて既得権益を破壊する力がある。シリコンバレーが今日の地位を築いたのは、世界中から自信に満ちた優秀な移民が押しかけてきたからである。しかし、昨年、トランプ大統領が就任し、移民の規制に本気で乗り出してから、シリコンバレーにも異変が起こり始めている。

従来、シリコンバレーは優秀な技術者にはH1Bビザを発行して優先的に移住を受け入れていたが、トランプ大統領は、このH1Bビザの発行に対して極めて厳しい制約を付したのだ。このため、シリコンバレーの各企業は深刻な人材難に直面して、Googleなど各企業は移民の基準がアメリカより緩いカナダのトロントやバンクーバーに新たな開発拠点を設けることにした。このことにより、シリコンバレーは、従来に比べて優秀な人材濃度が希薄になったとも言える。今日現在ではトロントは人工知能の一大拠点になったし、バンクーバはAmazonの本部であるシアトルに近いこともあって、これまた大規模な研究開発拠点に成長し始めている。

こうした分散化現象は、小規模のスタートアップでも起きている。例えば、10人くらいのスタートアップですら、深センやバンガロール、テルアビブに分散開発拠点を持っている。具体的な話を聞いてみると、H1Bビザが簡単に取得できないので、社員の中にいる中国人やインド人、ユダヤ人に、彼らが良く知っている優秀な友人に対して各地域拠点で働いてもらうよう頼んでいるのだと言う。もはや、高速インターネットの普及で、地球の裏側に居ても立派に協業できるようになり業務の遂行には全く支障がないと言う。

トランプ大統領の移民排斥政策が、図らずもシリコンバレーの分散化を促進しているとも言える。もちろん、こうしたトランプ大統領の移民政策に対してシリコンバレーを含むカルフォルニア州の住民は大反対である。それでは、トランプ大統領が失脚あるいは再選できなかった場合に、またアメリカは、また寛大な移民政策に戻るかと言うと、そう簡単な問題ではない。もともと、トランプ氏が大統領に選ばれたのは、これまでタブーとされた、アメリカ人の本音を明言したからだとも言われている。従って、カルフォルニア州では反対が多いトランプ大統領の移民排斥政策は、カルフォルニア州以外では賛同者の方が多い可能性も十分にある。

こうした現象が起きると、これまでは、シリコンバレー以外では全く発展することが出来なかったイノベーションの聖地が、これをきっかけに世界中に分散される可能性が出てきたとも言える。カナダのトロントやバンクーバー、中国の深セン、インドのバンガロールやハイデラバード、イスラエルのハイファやテルアビブなど、シリコンバレーの複製が世界中に出来上がることになる。

シリコンバレーの分散化は、過度の住宅コスト高騰や交通渋滞からも、もはや避けられないかも知れない。Googleは、社員が交通渋滞で疲労することがないよう、モフェット・フィールドにあるNASAの空軍基地跡を借りて、社員送迎用に用意した100台のバス車庫にしている。朝夕には、この100台の送迎バスがGoogle社員を乗せて激しい渋滞の中、優先レーンを高速で走り抜けている。先日も、このバスに反感を抱いた他社の社員がGoogle社のバスに卵を投げつけたという事態も起きた。このような階級社会は、いずれ暴動にも発展しかねない。

いろいろな意味で、高度に発展し、巨大化したシリコンバレーは、今のままであり続けることが難しくなってきた。それでも、これまでも何度も「もう、シリコンバレーも終わりだな」と言われた事態から蘇り、これまで以上に発展してきた歴史を持っているシリコンバレー。今回も、これまでと形は変わっても、世界中のシリコンバレーのコピー都市と密接な連携を保ちながら、今まで以上に発展して行くことに違いない。

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