391 中西宏明さんの経団連会長就任

このたび、学生時代からの永年の友人である中西宏明さんが、6月1日付けで経団連会長に就任されたことは、まさに、同級生全員の誉れである。偶然かも知れないが、半年も前に設定されていた、翌6月2日の同級生ゴルフコンペにおいて、中西さんの経団連会長就任だけでなく、コンペの優勝まで、皆でお祝いを述べることができたのは、私たちの無常の喜びであった。

私にとって中西さんは、学生時代に私を指導してくれた大恩人であると共に、最も尊敬する経済人の一人である。テレビで放映される発言を聞いても、シンプルで分かりやすく、全く衒いがない。これから日本の経済界を変えてくれるのではないかという期待が大きいのは私だけではないだろう。そして、長い間、一緒に話しているせいか、私には、中西さんの気持ちが痛いほどわかる。

今、丁度、中西さんが会長を務める日立製作所の英国原発問題が、新聞紙上を賑わせている。前期、史上最高益を計上した日立の株価が1,000円にも届かない最大の理由は英国原発問題とも言われている。しかし、中西さんは、日本の原発に関して、その新設や再稼働の問題については、日立製作所の会長としても、経団連会長としても、今、その議論について積極的に与する気は全くないという。それでも、中西さんは、現実に、日本に54基存在する原発の廃炉問題について、日立は逃げる事は出来ないし、逃げるつもりもないと言う。だから、日立は、原発事業から撤退するつもりは全くないと明言する。

そして、今回の英国原発問題は、あくまで日立と英国政府の交渉事であって、日本政府には、その経緯を逐一報告はしているものの、支援してもらう事は一切期待していないと言う。そもそも、今回の問題は英国の内政問題であり、誇り高き英国政府は日本政府の干渉など望んでいない。その意味で、英国原発問題で、日本政府を巻き込んでいると言うような、一部マスコミの報道は事実を歪曲されていると憤慨する。それとは別に、英国原発事業は、日立の原発事業維持のためには何としても必要なのだと。だからこそ、総力を尽くして日立が生き残るための条件闘争を行っているのだと中西さんは言う。

中西さんのエネルギー政策の持論は、まず原発問題は外に置いて、日本の電力政策は世界の動向から見ても、今後は集中から分散に向かわざるを得ないだろうと言う。原子力か火力かは別にして、大規模発電所から電力を利用者に向けて配電していく従来のウォーターフォール型から、小規模分散型発電所の相互補完型へと移行する事は間違いないだろうと言う。その小規模分散型発電所としては、太陽光発電や、風力発電、小水力発電や地熱発電など多様な発電形態が含まれる。それぞれは、皆、不安定で頼りない発電源であるが、トータルとしては強力な発電インフラとなることは間違いない。

この時に、現在の送電網(配電網)とは、全く異なるものが必要となるが、この議論が、今の日本では、全くなされていないと苦言を呈している。欧州が再生可能エネルギーで世界に先行できているのは、この多国間を跨る送電網にあると言う。もともと、国境を超えた送電網では、相手の国の電力品質を全く信用していない。電圧も周波数も発電能力も、信用出来ないという前提で、送電網が設計されている。だからこそ、太陽光や風力といった、いい加減な電力でも全く困らない。一方、日本の電力網は、各地域電力会社の完璧な品質の電力供給を前提としているから、頼りない再生可能エネルギー発電の脆弱性には耐えられない。

中西さんは、中国の総代表を務められ、中国における日立の売り上げ1兆円を達成された後に、ロンドンに駐在され欧州総代表として活躍された。今日、鉄道や原発で日立が活躍できる基礎となった英国における日立のプレゼンスは中西さんが築かれたと言えるだろう。その後、日立本社の副社長を退任し、米国のシリコンバレーに駐在し、日立がIBMから買収したHDD(ハードディスクドライブ)事業の再建に従事された。川村さんが、中西さんを日立製作所再建のトップとして選ばれたのも、こうした海外での実績を評価されたからだろうと思われる。

私は、中西さんの足元にも及ばないが、米国シリコンバレーに駐在し、その後、富士通の海外事業の総責任者になった経験から、中西さんの考えに共鳴するところは非常に大きい。その意味で、中西さんには、日本の経済界を根本的に変えて欲しいと願っている。そう、せめて、日本企業を世界から見て、普通の会社に変えて欲しいと思っている。それほどまでに、日本企業の経営方針は世界標準からかけ離れている。今後、国内市場が一層低迷を続ける中で、日本企業の成長余力は海外市場での活躍しかあり得ない。

だからこそ、どの会社も「グローバル化」を声だかに叫んでいるわけだが、残念ながら日本の企業経営は根幹からしてグローバル経営とは程遠い。日本特異の新卒一括採用、年功序列、終身雇用、生え抜き社員の社長登用など、どれを見ても、世界の動向から見たら全く異様な光景である。だからこそ、忠実で上司に対して物言わぬ体育会系社員が尊ばれて、社内には忖度が蔓延り、いつの間にか、会社全体が腐って行く。今話題の日大アメフト部は、日本の企業文化を分かりやすく漫画化したものだと思った方が良い。

私のように、ここまで辛辣に物事を言うかどうかわからないが、中西さんは、こうした私の考えにかなり近いものを持たれていると思っている。だからこそ、私は、中西さんに、ぜひ、豊富な海外経験を活かして、まず、経済界から率先して、日本企業を世界の中でごく普通の当たり前の会社にして頂きたいと願う。就職氷河期に就活を迎えた人たちは今でも救済されていない。人材不足が叫ばれる中で、中途採用の促進など、労働市場の流動化を進めて頂きたいが、これは1社の方針だけで実現できるものではない。

先日、経団連会長室に案内された中西さんは、机に電源コンセントとイントラネットケーブルがないのに唖然としたと言う。それで、経団連のスタッフは直ちに電源コンセントとWiFiの設置を行ったらしいが、それは決してスタッフの責任ではない。多分、歴代の経団連会長は、寸暇を惜しんでメール作業などされなかったに違いない。一方、中西さんは、多忙極まりない現在でも、私たちへのメール返信の素早さには唖然とするものがある。あの、ホリエモンの名言「電話で仕事をする人とは絶対に一緒に仕事はしない。まさに時間の無駄だからだ。」に、私は心から賛同する。

中西さん、ぜひ、日本の企業文化を世界で戦えるように変えてください。日本の若い人たちは、もはや、旧態依然の叔父さん達が、リタイアするまで待てないのです。今のままだと、日本の優秀な若い人達は、どんどん外資系企業に移ってしまいます。ぜひ、経団連がリーダーとなって、日本企業文化の改革を促進されますよう、よろしく、お願いします。

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