330 光り輝く女性たちの物語   (6) 

これから、ご紹介する杉山千明さんは、既に高校生の息子を持つ、立派な、お母さんでありながら、Facebookでは友達5000人、フォロワー5300人を抱える、いわばFacebookの女王的な存在である。普段の何でもない投稿でも、直ぐに300人から「いいね」が来るし、プロフィール写真の更新では500人ほどが、たちどころに「いいね」を押して来る。そして多くの投稿が日常的な話題で、一番多いテーマは自宅の庭に咲く美しい花である。一体、どれだけ沢山の花が咲いているのだろうと「あなたの家は植物園?」と聞いたことがある。

千明さんの家は静岡市の山あいで江戸時代から続く農家で、父方の一族には自民党若手のホープである城内実衆議院議員がいる。城内代議士の父上で元警察庁長官だった城内康光氏と千明さんのお父さんは従兄弟である。千明さんの、お父さんも、お母さん共に花が大好きで、しかも、お互いに好きな花の種類が全く異なるので、庭には膨大な種類の花が一年中咲き続けている。千明さん自身、小さい時からの愛読書は園芸大百科であり、東京港区にあった花屋チェーンの店長経験から、今でも花束やアレンジを頼まれている。Facebookに、その作品が時々投稿されるが、それは見事なものである。

さて、千明さんの実家の生業は、元々はお茶とみかん生産者で、現在はイチゴ生産者。イチゴは毎年15000本の苗を作り栽培している。今シーズンも静岡産出の新品種『きらぴ香』を総面積2000平米のハウスで栽培中である。Facebookのプロフィールで千明さんの写真をご覧になられた方は、あまりに綺麗すぎて、これは修正写真ではないかと思われるかも知れないが、実際に会うと、実物はもっと綺麗である。そんな千明さんと私がFacebookで友達になれたのは、千明さんがFacebookを始めたばかりで、未だ100人も友達が居なかった時だからだ。今なら、5000人を超えているので友達申請すらできない。

千明さんの投稿を見ていて、地元の山間部の町おこしや、地域のボランティアとして一生懸命活動している様子が見て取れたので、当時、私が勤務していた富士通総研のコンサルタントが書き起こした地域振興策の本を何冊か、お送りした。それが縁だったのか、それから何ヶ月かした2013年6月に千明さんから連絡があり、自分がキャスターを務めるネットTV番組が始まるので、その第一回のゲストに出演してくれないかと言う依頼が来た。開始当時、このTV番組のスポンサーは教育事業を行う財団で、財界や政界、ジャーナリズムで活躍している人たちを、若い人や世界に向けて紹介することが主旨の番組であった。この第一回の番組(2013/7/13)のビデオは以下のYoutubeでご覧になれる。  https://www.youtube.com/watch?v=_62s5UC0hhE

私は、このスタジオで初めて実物の千明さんである「生」千明に出会った。ここで、第二回の主演予定者であった、あのNHKプロジェクトXのプロデューサーとして有名な今井彰さんにも初めて出会う。私も千明さんも、こうしたTV出演は、初めての事なのに、高名なNHKプロデューサーが目の前で見ているのである。先のyoutubeをご覧になられれば判るが、芸能活動はしていたとはいえ、生番組のMC経験の全く無い、千明さんがガチガチに緊張しているのも致し方ないと思う。

その後、この番組は2年半続き、多くの著名人が出演する。千明さんの地元静岡4区選出である、前環境大臣 望月義夫衆議院議員も、この番組に出演されている。そして、その2年半後の2015/12/9にリニューアルしたネットTVの第一回目に私は再び出演した。 以下のYoutubeをご覧になれば、この2年半で、千明さんのキャスターぶりにも、ずいぶん進歩があったことが判る。 http://www.youtube.com/watch?v=rjTFSF535JM&sns=em

しかし、千明さんにとって、この2年半を含む、ほぼ5年間ほど、Facebookの投稿からは全く窺い知れぬ苦闘の歴史があった。実は、千明さんには、目の中に入れても痛くない、器量好しの、一人息子のA君がいる。A君は、小さい頃から体を動かすのが大好きで、やんちゃで、人一倍手の掛かる子供だったが、人懐っこい性格で、皆んなを笑わせることが大好きな青年である。

このA君は、これまで自由奔放に成長してきたが、小学校高学年になると急に周囲との成長の違いを意識し始め、自分に自信を無くし段々と不登校になっていった。心配した千明さんがA君を連れてこども病院で検査してもらうと、アスペルガー症候群(最近では正式名を自閉症スペクトラムと呼ぶ)とADHDと両方あると診断されたが、A君のIQは小学生でありながら、既に東大生の標準値を遥かに超える高い値であることも分かった。授業中に出歩くなど、友達に比べて多動性も強く、空気が読めない所があり、注意散漫で子供っぽい所もあった。かなり担任泣かせだったそうだ。

日本では、このアスペルガー症候群を「発達障害」と呼ぶが、アメリカでは「障害」と言うより「非凡な才能」という意識がある。過去には、エジソンやアインシュタインもアスペルガーと言われており、最近ではAppleのスティーブ・ジョブスや、Facebook創業者のザッカーバーグもアスペルガーではないかと言われている。世界一のイノベーション発祥の地と言われるシリコンバレーでは小学生の3分の1がアスペルガーの疑いがあるとも言われている。この数値は、アメリカでもダントツに高いが、それも世界中から集まってくる稀有の天才の子供達だからではないかと言われている。だから、シリコンバレーの小中学校は、アスペルガーの子供達をとても大事に指導する。シリコンバレーを支えてきたのは、いつも、非凡な異才達の力だったからだ。

ここで、千明さんは、不登校になりがちの息子のA君を学校に行かせる策として、何と小学校のPTA会長を引き受けたのである。結果、先生達や父母達と仲良くなり、学校や地域に奉仕することで、少しでも息子のA君が抱える問題の理解を得ようと、必死の努力を続けたのであった。先ずは周囲にカミングアウトすることにより独りで抱え込む事を避け、同じ悩みを持つ父母とも助け合えた。A君に協調性を持たせるため、千明さんは、A君に和太鼓やコーラスを習わせ、リトル野球、ボランティア活動などにも参加させた。お祭りやイベントで皆んなと一緒に太鼓をたたくことで連帯感を持たせることができ、小学校は何とか皆と卒業することができた。

しかし、中学校に入学すると、学制服を着る事や、同級生と同じ行動をする事が苦痛で、教室に入ると必ず吐き気や腹痛、チック症状なども表れ、体調が悪くなってしまい、事態はさらに深刻になった。千明さんは、もはや無理やり学校に行くことを強いずに、放課後職員室に顔を出して、プリントをやったり、絵を描いたり、時には担任とグランドでキャッチボールをしてもらったり、定期的に親子でスクールカウンセリングも受けた。今度は太鼓の代わりに、本人が興味を持ったドラムの教室に通わせてみた。千明さんがFacebookの投稿で「ドラムすこ」と呼んでいる所以である。

こうした経過を千明さんは、断片的にFacebookに投稿しているので、千明さんの友達やフォロワーの方は、ドラムすこの成長をよくご存知だと思う。千明さんが、凄いのは、この投稿の中で、A君のことで、愚痴や嘆きを一切言っていないことである。だから、この投稿を読んだ方の多くが、千明さんの投稿に共感し、何か応援してあげよういう気持ちになるのは自然な流れである。

A君は、小さい時から仮面ライダーが大好きだった。今では、A君は、もう大好きを通り越して、仮面ライダー、ヒーローそのものになりたいのだ。千明さんとA君は、日本武道館で開催される『超英雄祭』や映画『仮面ライダーXスーパー戦隊』は必ず観に行き一緒に研究する。千明さんも、驚いていたが、日本武道館や映画館を埋め尽くす熱烈なファンの大部分は大人だったことだ。つまり、大きくなって、まだ仮面ライダーにご執心とは子供じみているという考えは全く間違っている。

それにしても、Facebookの力は凄いものがある。千明さんがFacebookに投稿した、A君の仮面ライダーへの思いを見た、業界関係者がA君への応援を始めたのだ。仮面ライダーのイベントを見せてくれたり、仮面ライダーに抜擢される率の高い若手俳優の登竜門とされる、某イケメンコンテストへのオーディションも受けてみた。残念ながら、A君は、惜しくも二次で落ちたが、まだ若いので、これから毎年挑戦をする覚悟である。

さて、A君は、中学校の授業には殆ど出席は出来なかったのだが、信頼関係を築いてきた先生方の、ご好意で無事卒業できることになった。校長先生、先生方が一堂に会して、A君だけのための卒業式を開いてくれたのだ。千明さんは、本当に嬉しくて、先生方に感謝し、咽び泣いたという。そればかりか、この中学校の先生方は、あちこち探し回ってA君に最適な高校を見つけ出してくれたのである。

それは、ちょうど静岡市内に新設されたばかりの私立高校で、全日制と通信制がミックスしたような単位制高校であった。週3日学校に行くか、休んでもインターネットでの自宅学習で補うことができる。毎日通いたければ全日制を選べる。極め付けは、この高校には人よりキラリと秀でた才能を磨く、選択コース授業があることだ。自由な校風で制服やアルバイトも自由である。この高校の在学生徒の7割が不登校経験者だという。環境を変えてやることにより、A君は全日制に通い沢山の友達が出来て、笑顔を取り戻し、毎日楽しい高校生活を送っている。最近ではこの高校のモデル生徒として県内CMに抜擢された。

元々音楽が大好きで、特に歌うことが好きなA君は、部活は軽音部、コースは声楽を選択した。そして、声楽の先生はイタリアで修行したプロのバリトン歌手から教師になった方だった。今、A君は、週に2日、合計6時間にわたりマンツーマンで声楽の特訓を受けている。先生から音大に行かないか?とまで言われるが、A君はまだまだ自分の実力に納得いかず、学校から帰ってくると寝るまで歌い続けている毎日だという。

やがて、A君は、主役の仮面ライダーにはなれなくても、主題歌を歌うアーティストや脇役、制作スタッフでも良いから、仮面ライダーに対して何らかの形で関わりたい、どんな仕事でも極めたら、皆に夢を与えるヒーローなのだと考えられるようになる。とにかく、千明さんの5年間の苦労が、ようやく実って、今、A君は前向きに夢を見つけ人生を歩み始めたのである。最終的には役者になって仮面ライダーに変身したいという目標が、A君に大いなるやる気を与えている。

この話を聞いていて、私は少し非現実的な気がして不安になった。そして聞いてはいけないことを千明さんに質問してしまった。「もし、A君が頑張っても、夢が実現しなかった時は、どうするつもりなの?」と。

しかし、母は強い。「口に出しては言わないけれど、最近、彼は、お祖父ちゃんと一緒に、イチゴハウスやイチゴの出荷場に自ら進んで着いて行く機会が多くなったんです。いろいろ、手伝いながら、教えてもらっているみたいです。今では耕運機も使いこなせます。地域のボランティア活動にも積極的に参加しています。きっと、彼なりに、我が家の後継者の事や、夢が叶わない場合のことも考えているんです。私は、スポーツマンや芸能人は、実家が自営業の人の方が成功すると聞いたことがあります。将来に対して余計な不安を持たずに、今、やるべきことに集中できるからだと思います。だから、生きる目標を見付けた彼の将来について、私は、応援してあげたいし、地域の皆様、Facebookの皆様も応援して下さっているので、あまり心配をしていません。」

千明さんは、美しく強い母として、静岡が誇る、光り輝く女性の一人である。

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