328  光り輝く女性たちの物語 (4)

富士通は毎年4月に、幕張メッセに、全社の営業、システムエンジニア、コンサルタントを一堂に集めて決起集会を行っている。併せて、前年度に著しい功績があった社員を表彰する大事な場でもある。表彰される社員は一人一人、一段と高い所に登壇し、社長から直接表彰状と賞金を授与される。その中の一人であった富士通総研の女性コンサルタントである安藤美紀さんが登壇した時に、最前列で、私の隣に座っておられた、富士通前社長の黒川さんが「あんな綺麗な女性が富士通グループにいるのだね」と呟かれたのを、私は、今でも忘れられない。

これから紹介する美紀さんは、皆一堂に仲間由紀恵さんの「そっくりさん」と言う麗人である。私は仲間由紀恵さんの大ファンであるが、美紀さんは仲間由紀恵さん以上に、もっと魅力のある女性に見える。しかし、私は、ここで美紀さんの美貌について、これ以上語るつもりはさらさらない。私が、紹介したいのは、美紀さんの、コンサルタントして働き方と、その生き様である。

私が、富士通総研の社内で、美紀さんの成果発表を聞いていて、いつも感銘を受けていたのは、顧客の課題についてサイエンスを用いて解決していたことであった。当然のことながら、それは美紀さん一人だけの仕事ではなくて、富士通研究所の優秀な研究員達を巻き込んで協働した成果であった。どうして、美紀さんには、こんなことができるのだろうと、いつも不思議に思っていた。

ある時、美紀さんと、いつも一緒に仕事をしている研究員とアメリカに出張する機会を得て、その研究員に「あなた方が、美紀さんと一緒に仕事をしたいと思う動機付けは一体何ですか?」と尋ねた。彼は、以下の3つの理由があると答えたのである。まず、第一は、美紀さんが携えてくる商談の顧客が日本を代表する著名な企業であること。第二は、そのテーマが、顧客のコア事業の浮沈を左右する重要なテーマであること。最後の三つ目は、そのテーマを解決するに必要なテクノロジーの難度が高いということだった。

企業の研究員は、研究テーマが単に面白いということだけでなく、重要顧客が困っている命題に応えて、会社の業績に少しでも貢献したいと思っている。そして、その命題の難度が高ければ高いほど、それを解決した時に、自らの名声が高まるのではないかという期待もある。つまり、そういう命題を持ってきてくれる美紀さんと研究員たちは、お互いに利害関係が一致していた。しかし、美紀さんは、どのようにして、こうした協働関係が築けたのだろうか。

さて、美紀さんは、小学校から大学まで一貫して青山学院で学び、経済学部を卒業されている。小学校入学の際に「お受験」はされたかもしれないが、いわゆる受験戦争には巻き込まれずに、おっとりと育ってきた。あまりにおっとりと育ったせいか、まともな就職活動もしないまま、気が付いたら、同級生は、皆、就職先が決まっていたという。どうしようかと思っていたら、学生時代に秘書としてアルバイトをしていた東大の教授から、自分の研究室で、研究生として勉強したらどうかと言われて、それに従ったのだという。

その研究室は、動画の解析をして特定なシーンを自動的に選び出すというテーマを研究している理工系の研究室だった。経済学部出身の美紀さんは、ここで初めて理系の勉強の奥深さと楽しさを知る。美紀さんは、2年間の研究生活を終えて、大手通信キャリアのコンサルタントとして就職したのである。美紀さんは、その通信キャリア企業で新設された法人向けコンサルタント部門に配属されたのだが、チーフは外資系コンサルからスカウトされた新進気鋭のコンサルタントで、その部下には美紀さんを含めた新人4人しかいなかった。

コンサルタントというのは、大学を卒業して、すぐ商売できるようなものではない。当然、新人4人のコンサルタント部門に、重要な仕事は舞い込んではこなかった。あまりに暇だったので、美紀さんは、こんなことをしていては自分が腐ると思い、会社に勤めながら、通信制の大学で心理学を学び、学位を得た。よくご存知の方もいると思うが、現代の心理学は、統計学や認知科学といった、いわば理系の分野である。東大の理系の研究室でサイエンスの洗礼を受けたからこそ、無事に学位を取得できたのかも知れないと美紀さんは振り返る。

しかし、とうとう、そのコンサルタント部門はチーフも会社を去り、解散することになり、美紀さんは、富士通のコンサルタント部門への転職を決意する。その後、富士通は、グループのコンサルタントを全員富士通総研に集約することとなり、美紀さんも、富士通総研のコンサルタントとなった。私も、富士通を辞めて、富士通総研に転籍したので、幸運にも、美紀さんと巡り合えたというわけである。

結局、美紀さんは、こうして回り道した人生が、今、すごく役に立っているという。文武両道という言葉があるが、美紀さんの場合には文理両道というべきだろうか。文系と理系の両方の言語が理解できるバイリンガルとなった。美紀さんは、顧客と会話する時には、マーケッテング分野の言語で話しているが、富士通研究所の研究者とはコンピュータサイエンスの言語で会話する必要があるという。自分は、その両者の通訳なのかもしれないと美紀さんは言う。

さて、次の私の疑問は、美紀さんが、どのようにして顧客から、研究所の研究員がやる気を出すような良質の商談を引き出すことができるのかということである。実は、コンサルタント専業会社である富士通総研には営業が全くいない。コンサルタント自身が顧客を見つける以外は、富士通の営業からの仲介で仕事をしている。しかし、美紀さんは、営業が売りたいと思っている商品やサービスの販売支援をするコンサルタント業務は全て断ってきたという。

美紀さんが営業から引き受けるのは、顧客自身が本当に困って相談を持ちかけてくる場合だけに限ってきた。これは難しい仕事が多いのだが、やりがいはある。そして、美紀さんは、こうした商談を持ちかけられた時にも、外資系のコンサルタントがやるような「自分たちは、このようにして、あなたの悩みを解決する能力を持っている」というようなカッコ良いプレゼンテーションは一切しないのだという。美紀さんは、とにかく、顧客から話を聞く。困っていることの具体的な微細について、質問を交えながら聞きまくることに徹するのだという。

そして、解決に向けての道を探るのも、研究所の研究員も交えて、顧客と何度も試行錯誤を繰り返しながら、一緒に、事を進めていくのだという。こうした、やり方が顧客の信頼を勝ち得るのは当然である。美紀さんのようなコンサルタントは、一度、顧客の信頼を得ることによって、次からは営業の紹介がなくても、自らリピート商談を得ることができる。美紀さんが、次々と良質の商談を勝ち取っていく秘訣は、ここにあった。

さて、私が、今まで、美紀さんに対して疑問に思っていたことが、一応解決したところで、次に、こうした質問を美紀さんにぶつけてみた。「美紀さんは、女性であることがハンディだと思ったことがありますか?」。「それは、ないです。コンサルタントの場合、実力が同等だったら、女性の方が希少価値で男性より目立つから得ではないかしら」と言う。実は、私も、そう思うのだ。コンサルタントという職業は女性の方が有利だと常々そう思っている。

以前、美紀さんが、仲間の女性たちと話している時に、美紀さんが語った言葉を、私は今でも忘れられない。その時、美紀さんの仲間の女性たちは、皆、生え抜きの人たちばかりだったが、会社への不満を沢山述べていた。そこで、美紀さんが放った衝撃の発言「いやあ。会社なんて、どこも、そんなものよ。富士通なんて、まあ良い方だと思うわよ!」。中途入社の美紀さんが言うと、妙に、その発言に重みが出てくるのである。

私が、その話をすると、美紀さんは、今でも、この会話を覚えていてくれて、次のように話してくれた。「みんな、会社が自分のために何をしてくれるかという期待が高すぎる。そんな大きな期待をしたって、会社は自分のために、特別なことはしてくれない。それより自分が会社のために何ができるかを常々考えていれば、時に、会社も自分のために何かしてくれることがあるのではないかしら」

そして「美紀さん、他社からスカウトされることも結構あるでしょう」と最後の質問をすると、美紀さんの答えは。「それは、時々は、ありますよ。でも、私は、一度、転職を経験しています。新しい環境で、自分を認めてもらえるようになるまでの大変さ、相性の良い仲間を見つけていく大変さを、私は知っています。また、それを、もう一度やろうとは思いません。」

美紀さんは、ハッとするような外見とは裏腹に、こうして話してみると、ごく普通の人である。肩に力を入れず、特別な気負いもなく、自分の信条に逆らわず、着実に仕事をこなし、淡々と生きる様が、一層、魅力を増す「光り輝く女性」である。

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