318 ICTによる地域再生 

以下は、今年7月17日に私が所属する技術同友会の例会でさせて頂いた講演の記録です。技術同友会とは、技術系出身で企業の経営トップや、中央官庁の次官/局長経験者、大学教授を務められた方々で構成される勉強会で、私も、毎回、例会の講話を聞きながらおおいに勉強をさせて頂いています。この例会で講演をさせて頂くのは大変名誉なことで、前回の私の講演は「スーパーコンピューター京」をテーマにしたものでした。この時も、そして今回もそうなのですが、事務局スタッフの講演録作成技術は素晴らしく、私が言い忘れたことまでしっかり補足されています。

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 皆様、こんにちは。今日は「ICTによる地域再生」というテーマで、お話をさせていただきます。地域再生は、いろいろなやり方があると思いますが、財政出動による地域再生ではなく、お金を使わずに再生するお話をしたいと思います。私は、先月6月末まで富士通におりましたので、今日のお話の主体のほとんどが、富士通とお考えいただければと思います。

 今、地方が抱える一番大きな課題は、少子高齢化だと思います。そしてこの課題には、医療・介護の問題があり、そこには「費用」と「それを支える労働力」の問題があります。これらの問題をどのように解決するのかという議論があると思います。もう1つの課題は、財政です。先般、増田寛也先生が執筆された、人口減少で消滅する自治体の本(『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』)が大変ヒットしました。けれども私は、人口減少で自治体は消滅しないと思います。それよりも財政破綻で自治体が消滅するほうが、遙かに可能性が高く現実的ではないかと考えています。「財政破綻をしたときに、その地域の財政を、国が本当に支援する余裕があるのか」という意味で、2番目の課題に財政を書いています。つまり「財政出動だけで、日本は再生できるのか」という議論をしたいと思っています。

 最近、「もう都会は嫌だから地方に帰りたい」と言う若いカップルが結構います。実際に田舎へ帰り、お子さんをもうけたカップルもいますが、お子さんが学齢期に達したときに、田舎には小学校も中学校もありません。はやく、小中学校の整備をしてあげないと、「田舎に帰っていらっしゃい」と言ったところで、子どもの教育問題によって田舎の生活は破綻してしまいます。いずれにしても、人口問題が1つの大きなテーマなわけです。

 それでは「人口減少は避けられるか」ということですが、これはもう予測の問題ではなく確定です。いろいろなことをここに書いていますが、人口減少は結論から言うと避けられません。合計特殊出生率というものがあり、正確には「2.05以上でなければ人口は増えない」と言われています。けれども、日本の合計特殊出生率は1.4で、それより低いのは韓国の1.3しかありません。

 欧米では、このようなことは問題になりません。フランスの合計特殊出生率は2.0です。日本はフランスを目指そうとしていますが、実はフランスも、もともと住んでいる白人のフランス人の合計特殊出生率は1.8です。一方、フランス人の18%を占める北アフリカからのイスラム系移民の合計特殊出生率が3.3となっています。それでも、1.8という数字は、先進国としては驚異的な数字です。御案内のように、フランスは婚姻制度を壊してしまいましたので、日本がこの1.8を達成するには、言い過ぎかもしれませんが、婚姻制度そのものを壊さなければいけないかもしれません。

イギリスもベルギーも合計特殊出生率は1.9で、ほぼ2に近いと言っていますが、イギリスは既に移民の比率が16%で、ロンドンの小学生の3分の1がイスラム系の移民です。ベルギーに至っては、去年生まれた新生児の50%がイスラム系です。ヨーロッパは200年後、300年後には、イスラムがメジャーになっているかもしれません。そういう意味で、人口減少の特効薬は移民が一番効果的といえますが、果たして「日本はそれに耐えられるか」という問題があると思います。

 地方が抱えているもう一つの大きな課題は、雇用問題です。雇用問題には、商業や製造業の問題や、農業の問題があります。商業と農業の問題は、それなりに食べていけるのに後継者がいないということです。けれども、それよりも大きな問題として、製造業の海外移転があります。実は地方は、人が足りません。人が足りないのになぜ雇用問題があるのかというと、地方で一番華やかな雇用先であった製造業が、海外移転をしているためです。日本の地域には大企業の大きな工場があり、釜石でいえば新日鉄、久留米でいえばブリヂストンというように、都市名と会社名が1対1のような企業城下町が、日本の地域を支えてきたわけです。それなのに、海外に事業が移っていくと、企業そのものは発展しますが、GDPはグロス・ドメスティック・プロダクトですから、減っていくわけです。この経済をもう1回再生できるかの議論が必要だと思います。

 今、人口流出が日本で一番多いのは北海道です。2013年、2014年も北海道でしたが、2011年、12年は福島県でした。けれども、2013年以降、もはや、福島県の人口流出は止まりました。むしろ、いわきや郡山の人口は増えています。北海道は、高橋はるみ知事が頑張っていらっしゃいますが、サービス業比率が異常に高く75%です。これまで、農業の一次産業から二次産業の製造業に主流が移り、これからはサービス業だといわれていますが、アメリカではサービス業は雇用を生んでいません。従って、サービス業比率が高いということは、雇用問題の先行きの明るさを示していません。

 人口流出については、静岡県が隠れた第2位で、2011年、12年、13年、14年と4年連続して第2位となっています。なぜ、静岡が2位かと言いますと、もともと静岡県は日本有数の製造業拠点で、そこからすごい勢いで海外に出ていっているからです。これは、「何十メートルの津波が来る」と大騒ぎをすることも一つの理由だと考えられます。経営者は、それに耐えるような堤防を造ることは考えません。「では、海外に逃げるか」となります。浜松から日系ブラジル人はほとんど消えました。「災害予測をやってはいけない」と言うわけではありませんが、円安になっても製造業は戻ってきません。ということは、人口は増えず、経済も成長しません。

 これらの地域の問題は、日本全体の問題の先取りではないかと考えています。今、地域で起きていることは、おそらく10年後20年後に東名阪で起きます。後ほど、東北の被災地の話をしますが、例えば陸前高田では1,000億円かけて嵩上げを完了しましたが、未だに何も出来ていません。一体、いつまで、何も無い状況が続くのか絶望に近い気持ちになりますが、あれは多分50年後の日本の姿です。20年後、50年後の東京をこの地域で見ているとすれば、「今、やれることは何だろうか」と前向きに考えたほうがよいと思い、これから、そのロジックをお話ししたいと思います。

 2011年に、タイラー・コーエン(Tyler Cowen)という人が『大停滞』という本を出しました。日本ではなぜか人気がありませんが、これはアメリカのベストセラーです。彼は、「世界中が停滞期に入る」と言っており、現在、そのとおりになっています。「高度成長の資源というのは無償の果実だ」と言っています。つまり、それは人口ボーナスということです。人口ボーナスが高度成長の源のため、この無償の果実を食べてしまうとその後に成長は来ません。必ず停滞が来るということです。日本は20年間停滞していますが、中国も無償の果実を食べた後の停滞現象に入りつつあります。

 日本は、「この20年間何をしているのか」とずっと馬鹿にされてきましたが、よくよくみると、日本は20年間も停滞していながら、ホームレスが街に溢れているわけではないし、ギリシャのようにデフォルトになるわけでもありません。「やはり日本はすごい、停滞の先駆者だ。むしろ日本から学ぶことがあるのではないか。」ということを、タイラー・コーエンが言っており、まさに世界が、そう考えるようになっています。

 皆さんがご存知のとおり、欧州では4つか5つ以外の銀行は、ほとんど破綻しており、ゾンビ銀行となっています。イギリスはノーザン・ロック(Northern Rock)を国有化しましたが、EUのECB(European Central Bank; 欧州中央銀行)は、銀行を破綻させることができません。今のEUの仕組みには、銀行を破綻する仕組みが無いためです。このため、破綻した銀行が今も営業しています。

 ヨーロッパで一番問題なのは、大学を卒業した若者の失業率が、大学を卒業していない若者の2倍ということです。これまでは「職を得るために勉強しなさい」と言われてきましたが、勉強すればするほど失業率が高くなるのであれば、「何をモチベーションに大学で学ぶのか」ということになります。そして、ヨーロッパが抱えるもう1つの課題は移民問題で、これはヨーロッパに深い影を投げかけ、テロなどに結びついているわけです。

 中国では、今、上海株が大きな騒ぎとなっていますが、この上海株に多くの素人が投資しています。農民が田畑を耕さず、毎日テレビを見て株価を追っていると国は滅びます。この中国の停滞が、いろいろな資源――鉄や鉄鉱石や石炭あるいは金属――のビジネスを鈍化させ、世界に不況をばらまいているわけです。

 今までBRICsと言われていた国が全て停滞しています。インドには27の州がありますが、州ごとに規制が異なり、27の国があるようなものです。さらに、民主主義国家のため土地収用はできず、インドで高速道路を建設できるのは国立公園の上だけと言われています。高速道路が無いのに車が売れるでしょうか。また、私も2年前にブラジルへ行きましたが、貧富の格差がひどく、2年前の時点で既にブラジルレアルはおかしくなっていました。ロシアは御案内のとおりです。そうすると、もうBRICsも全く成長しなくなりました。

 一方、今、メキシコは勢いがあります。なぜかというと、賃金が中国と逆転しているからです。メキシコの大統領の偉いところは、地場産業を優先しなかったことです。地場産業が潰れても、日本やヨーロッパの部品産業が行くことで、メキシコは世界有数の自動車製造国になってきているわけです。よくよく考えてみると、メキシコは地勢的に優れており、太平洋と大西洋のどちらにも行けます。アメリカは大陸横断をするのが大変で、ブラジルは出ていく先がアフリカしかありません。今、中南米では、「メキシコがブラジルを抜くだろう」と言われています。「アメリカへ行って馬鹿にされるぐらいなら、自分の国にいたほうがよい」ということで、メキシコとアメリカ国境のリオグランデ川を越える不法移民がいなくなっています。

 アメリカには世界から優秀な頭脳が集まってきます。サービス業は駄目だということで、アメリカでは、製造業への回帰がものすごい勢いで始まっています。今でもアメリカは世界最大の製造業大国です。中国は生産高ベースでナンバー1ですが、付加価値生産ベースでは、アメリカが今でも世界1です。そういう意味で、オバマ大統領の経済政策は、アベノミクス以上に成功しているわけです。それなのに、なぜ中間選挙であんな大敗を喫したかといえば、大半のアメリカ国民に敗北感があるからです。「給料も生活水準も上がっていない」ということで、トマ・ピケティの本がものすごく売れました。つまり、世界中が経済問題で悩んでいるということです。

 私の富士通生活の最後は、海外事業の責任者として2年間ぐらい世界中を飛び回っていましたが、日本に帰ってきて成田に降りると、こんなに緑豊かな国はない、しかもこんな安全な国はないと思いました。皆さんも感じていらっしゃると思いますが、こんなにマナーのよい国はありません。だから、私たちは決してこの国を粗末に扱ってはいけないと思います。

 日本は資源が無いとよく言われますが、とんでもないと思います。20世紀は、70年前に日本は石油で不幸な戦争をしましたが、21世紀は水の戦いになると言われています。カリフォルニアには何回も行っていますが、今年の1月から今日までカリフォルニアには雨が1滴も降っていません。大干魃です。もはや、カリフォルニア米なんかできませんので、TPPを恐れることはありません。車を洗うのにホースで洗っていたら警察が来ます。「今、ホースで車を洗ってはいけない。バケツ1杯の水で洗え」と言われます。そこまでアメリカは水で苦労しています。

 アメリカ中西部の農業地帯は、オガララ帯水層という400万年間で溜めた水を汲み上げて運営していますが、もうかなり枯渇しています。400万年溜めたものを200年で使ってしまったら、次に溜まるまで400万年待たなければなりません。中国も同じように地下水を汲み上げて農業をしています。となると、水資源が豊かな日本は食料問題で、すごくよいポジションにいるのではないかと思います。

 もう1つ、日本が世界に誇れる資産は、海岸線が長いということです。海岸線が長いと防衛上は脆弱になります。けれども、心配は要りません。日本は既に世界第2位の海軍大国だと言われるほどの素晴らしい備えを持っていると言われています。そして、日本の排他的経済水域の面積は世界の6位であり、中国の排他的経済水域の5倍もあります。その意味では、中国が焦って南シナ海で無理やり勢力拡大しているのも理解出来ます。中国は、陸上の資源だけではなく、海洋の資源がいかに大切かをよくわかっているのです。

 さらに日本がすごいのは、23年連続で、世界一の対外純資産を保有していることです。よく外貨準備高と言いますが、外貨準備高は資産ではありません。外貨準備高でいうと1位が中国、2位が日本、3位がドイツ、4位が韓国です。ところが、対外純資産は日本が1位、2位が中国、3位がドイツです。4位は韓国かというとそうではなくて、韓国の対外純資産はマイナスです。韓国はウォンでドルを買っているため、対外純資産はマイナスなのです。

 日本はすごい量の対外純資産を持っており、なおかつ毎年10%ずつ増えています。つまり対外純資産が増えた分だけ、国内総生産(GDP)が減っていると思えばよいのです。円安になっても対外投資は全く勢いが衰えておらず、そういう意味では、日本も本当に捨てたものではないと思います。

 こうした日本の優位性を一番よく知っているのは中国人です。私は、新橋の汐留の事務所にいたことがありますが、汐留近隣を歩いていると中国語しか耳に入ってきません。日本人は黙って歩き、中国人は大声で話すこともあると思いますが、店やコンビニの店員は全部中国人で、ツアーバスもそうです。私は今、大阪の会社へ行っていますが、大阪へ行くと、ユニバーサルスタジオジャパンを訪れる中国人で溢れています。私が泊まるホテルは、それなりの高級ホテルですが、9割方は中国人です。

 ICTの立場からすると、日本はものすごくよいポジションにいます。日本のICTは、先進国の中で世界有数の後進国であるからです。小泉元首相が、昔、「日本を世界一のIT立国にする」と言っていましたが、現在、結果的にはビリです。これは、規制緩和が整っていないためです。逆に言うと、それだけ伸び代があるということです。マイナンバーがようやく開始されることになりましたが、それだけITで成長できる余地があるということです。

やり尽くしていないという意味で、日本のポジションはすごくよいと思います。3.11の大震災で、IBMさん、NECさん、富士通、その他の企業のITを用いた貢献も結構役に立ちました。何も無いところでITを使うと、結構、再生に役立つことがあります。これを生かしていくべきではないかと思います。

 いよいよここから具体的なお話をします。まず一番お伝えしたいのは、クラウドです。クラウドは、それぞれの会社がコンピュータを入れるのではなく、全部を集めたところで共同利用をするというものですが、このクラウドは性能が上がれば上がるほどコストが安くなります。世の中は、大体、性能が上がれば値段が高くなります。性能が上がるほどコストが安くなる業界はありません。このため、IT業界はIBMも富士通もNECも少しも業績が上がりません。けれども、これを利用したら、土地や資金の限界を救済できるのではないか、そういうことを申し上げたいと思います。

 最初にお話ししたいのは、高齢者医療の課題です。宮城県の石巻は、仙台に次いで宮城県で第2番目の都市です。ここには石巻市立病院という大きな病院が海岸にありました。東日本大震災で、この病院は津波では流されませんでしたが、陥没して沈んでしまいました。つまり、水に浮かんだ城になり、もちろん使えなくなりました。沿岸の個人開業医の方たちも、診療所が潰されただけでなく、そこに通院していた高齢者の患者さんがみんな亡くなってしまいました。「診療所は無い、患者さんもいない」と、石巻は一時、無医村になってしまったわけです。

 そこで大震災後、石巻で在宅医療を始めたのが、武藤真祐先生です。皆さんも御存じだと思いますが、この武藤先生は天皇陛下の侍医をしていた方です。天皇陛下の侍医というのは天皇陛下のすぐ後ろに四六時中いるわけです。テレビで御覧になるとわかると思いますが、天皇陛下は大体、障害を持った方や困っている方など、社会的弱者を訪問します。天皇陛下と一緒に行かれた武藤先生は、任期を終えて東大病院に戻ろうとしたときに、「このまま東大病院で医者をしていてよいのか」と思われたそうです。そこで、彼はマッキンゼーに行って、ITと会計学を学んだのです。米国のCPA(Certified Public Accountant; 米国公認会計士)の資格も取っています。それで文京区で在宅医療法人を立ち上げたのですが、その直後に東日本大震災が起きました。武藤先生はすぐ石巻に来て在宅医療の拠点を作りました。

 在宅医療は何が大変かというと、1人で患者を診なければいけないということです。総合医というのは、実は専門医より大変です。NHKの「ドクターG」という番組がありますが、豊富な知識を持っていなければ、総合医になれません。けれどもマッキンゼーにいた武藤先生は、「グーグル(Google)で自分の症状を入力して検索したら病名が出てくる時代だろう。医学情報はもっとITに頼るべきだ。医者が大事なのは患者との会話だ。医者が患者と丁寧な会話をすれば、プラセボ(偽薬)でも病気は治る」ということを言っているのです。そういう意味で、私は武藤先生を尊敬しています。

 石巻市立病院の隣で大きな薬局を経営していた丹野佳郎先生という方もいます。この方も病院と一緒に薬局がなくなりました。武藤先生と一緒に在宅投薬をしています。医療というのは、医師と薬剤師と看護師の三位一体でないとできないわけです。丹野先生は、「初めて患者のところに行ってびっくりした。ものすごい量の薬がある」と言われています。いわゆる残薬の問題で、各家庭が薬局を開けるぐらいの薬を持っているのです。具合が悪いからいろいろなお医者へ行くのですが、「おくすり手帳」を出さなければわかりませんので、同じ薬をいっぱいもらってきます。患者もさすがに「これを全て飲んでよいのか」と思い、薬を飲まないわけです。

 マイナンバーが始まったら、そのようなことが無くなると言われていますが、それは真っ赤な嘘です。今でもレセプトデータがあるので、医局と医院でレセプトデータを共有すれば、薬の重複を回避できます。震災直後に、診療所もカルテも無くなり、おじいさんやおばあさんが自分の飲むべき薬がわからなくなったことがありましたが、レセプトデータを見せればすぐに解決ができたのです。けれども個人情報保護という名目の下に情報を出さなかったため、何百人もの老人が亡くなっています。「個人情報保護というのは、一体何のためにあるのか」ということもありますが、ITを活用するところはたくさんあります。

 これから医療費がどんどん増えてくると言います。現在、医療費で最大の問題は人工透析です。人工透析は腎臓病の問題だと思ったら大間違いで、根本は糖尿病が原因です。人工透析は、1人あたり年間で500万円かかっています。もちろん御自身で払っているわけではなく、保険で支払われているのですが、糖尿病患者は40万人いるわけです。500万円×40万で計算したら2兆円です。実は、糖尿病予備群が20万人いると言われており、そうなると近々、糖尿病患者は60万人となり3兆円かかることになります。日本の農業全生産高が2.5兆円ですから、人工透析費用が、日本の農業生産額を超えることになります。これでは、保険で負担することができなくなります。

 それではどうしたらよいのかを、富士通の例でお話しします。富士通には、高齢の従業員がたくさんいます。そこで、個人情報保護への配慮をするとともに、高齢従業員の承諾を得て、普通の血液検査をした際のデータを全部もらいトレースをしました。一般的には、糖尿病は空腹時血糖とヘモグロビン血糖値(HbA1c)の2つで、糖尿病になるかどうかを判断します。けれども一番優秀な専門医でも、検査対象の人が来年、糖尿病になる確率をあてられるのは67%と3分の2です。いわゆる人工知能ではありませんが、糖尿病と関係があるか無いかわからないデータを全部入れて、ビッグデータでデータ分析をさせたら、96%の確率で検査対象の人が糖尿病になることがわかります。

 糖尿病は遺伝子の問題もありますが、必ず糖尿病になると言われたら生活習慣を変えればよいのです。煙草をやめたり、よく寝たり、運動をしたり、食事のカロリーを減らしたりすれば防げるのです。そうすれば、さっきお話ししたような3兆円にも上る医療費を防げるのではないかと思います。

 「日本は世界一の長寿大国」と言っていますが、これも真っ赤な嘘です。アメリカのほうが遙かに長寿だからです。なぜかといえば、アメリカの貧困層は、殺人やクスリあるいは自殺で大体20、30代で亡くなってしまいます。このような人たちが若いときに亡くなってしまうので、全体の平均寿命を引き下げており、アメリカの中間層の人々は日本より遥かに長寿です。

 そして、長寿の質が違います。日本の100歳以上は90%が寝たきりですが、アメリカの100歳以上は90%が働いています。もちろん働くイコールお金を稼ぐという意味ではありません。社会に何らかの貢献をする仕事をしているということです。私も高齢者ですが、高齢者が体調不良になるというのは、殆どが病気ではなく老化です。老化は、医療では治りません。その老化防止こそ、生きがいと運動です。

 皆さんもご存じだと思いますが、これは徳島県上勝町の葉っぱビジネスです。葉っぱを売ってお金を儲けることは、決して生易しくはありません。これを実現した横石知二さんにお話を伺いましたが、彼は自腹を切って全国の料亭2,000軒を歩いています。それらの料亭が「どの季節のどのような料理のときに、どういう添え物の葉っぱが要るか」を調べ、それをもとに5,000種類のメニューを作っています。本当に大変なことです。自腹を切っただけでなく、最後は胃がんになって胃も切除されました。そのぐらい苦労してメニューを作っています。

 おばあちゃんは「こういう色のこういう大きさのこの木の葉っぱが欲しい」というオンデマンド注文をタブレットが見ながら、山に行って集めるわけです。たくさん集めても仕方がありませんから、必要な分だけを集めます。これをマイクロソフト(Microsoft)の前CEOのスティーブ・バルマー(Steve Ballmer)が聞いて、驚いたそうです。一般的に、デジタルデバイド――情報機器が使えない――の最大要因は年齢だと言われています。ところが日本の田舎のおばあちゃんが、タブレット片手にビジネスをしていることに大変驚き、シアトルからこの上勝町まで視察にきています。それでわかったことは、お金儲けができればデジタルデバイドなんて関係ないということです。ちなみに、上勝町は人口2,500人ですが、6割の1,500人ぐらいが高齢者です。けれども、寝たきり老人は4人と驚くべき状況です。

 『Retirement On The Line』という本が、アメリカでベストセラーになりました。どのような本かというと、ボストン郊外にある中空になっている針を作る工場は、従業員の平均年齢が74歳だという事例を書いています。高齢者は、社会保険・健康保険が不要で、最低賃金でも喜んで働くため、ものすごいメリットがあるそうです。97歳のおばあちゃんが、80歳のときに「毎日お遊戯とか歌なんて、私は嫌だ」と言って介護施設を出て、この会社に勤めて勤続17年だそうです。しかもこの工場で働いている人たちの前職は、全員ホワイトカラーです。ホワイトカラーの人たちが現場で働くことが面白くて仕方がない。この会社の採用事務所は2階で階段が17段あるそうですが、採用試験は「階段を上がってこられたら採用」(笑)だそうです。

 次は農業です。農業はやはり大事ですね。21世紀に伸びる産業は医療と農業と教育だと言われています。オランダはあの狭い面積で第2位の農業生産国です。けれども決して原料を作っているわけでなく、ITを一番使っているということです。日本もIT後進国なのですから、ITを使って農業をやればよいではないかと思います。富士通の例をご紹介します。

 1つ目は、山梨県のワイナリーです。もともとITエンジニアで東京にいましたが、お父さんの後を引き継ぎ、ぶどう園とワイナリーを始めました。お父さんがしたことだけではなく、自分も何かしなければいけないということで、温度計と通信装置を設置したそうです。気象庁が発表する気温は、日陰の百葉箱の中に入った温度計の気温ですから、実際の地面の気温とは全く違うわけです。しかも、山梨県というのは盆地で、夏暑い時はめちゃくちゃ暑く40℃近くになりますが、昼夜でものすごく温度差があります。

 中西先生がいらっしゃるので、このようなことをお話しするのは恥ずかしいのですが、気温が35℃以上になると農薬は不要になります。35℃以上になると、虫も細菌も死んでしまうので、農薬は要りません。農薬は虫も殺すけれど植物にとってもつらいため、温度管理をすることで農薬を激減することができます。2011年は、山梨の甲府盆地は何十年に一度かの不作の年でしたが、そのときのぶどうでこの農園で作ったワインをヨーロッパに出したところ、ビンテージを取ったそうで、そのぐらい効果があります。

 もう1つは酒米です。酒造りに使っている品種は山田錦ですが、蛋白質の含有量が少ない酒米ほど、よいお酒ができます。右下の図は人工衛星から見たものですが、蛋白質が少ないところが緑になっています。同じ山田錦でも成育状況が違うため、緑のところから酒米を取ってくると、久保田の萬寿になるというわけです。一方、赤いところから取ってきたら、普通の酒にしかなりません。しかも、刈り取るタイミングによって蛋白質の含有量が変わるため、蛋白質が増える直前で刈り取ればよいわけです。こうすることで、付加価値の高い酒米にすることができます。

 富士通は、会津若松に半導体工場を持っていましたが、御案内のように半導体はかなり厳しいため工場を閉じました。工場を閉じても税金や維持費がかかるし、壊すとしても費用もかかります。そこで、その工場で、低カリウムレタスの栽培を始めました。人工透析をしている方たちは、代謝能力が落ちているためカリウムが代謝できず、血中濃度のカリウムが増えると心臓が止まることになります。腎臓病を治すために心臓発作で亡くなったら意味がありません。ですから、カリウムを食べないようにしていますが、植物は窒素・リン酸・カリの3つでできているため、カリウムの無い野菜なんてありません。

 そこで、低カリウムレタスの栽培を始めたわけですが、レタスは窒素・リン酸・カリウムを十分に与えて大きくし、その後にカリウム抜きをします。ナトリウム系のカリウムに似たものを少しずつ代えていくと、レタスが騙されます。騙されたレタスが自分で代謝することによってカリウムが抜け、カリウム代替材に代わっていきます。それには湿度・温度・CO2や照明などにおいて微妙なコントロールが要りますが、これをITでやりましょうということです。

 話は、がらっと変わります。企業が海外へ行ってしまって駄目なら、代わりに人材を誘致すればよいという発想の転換があります。これを一番頑張っているのが徳島県です。徳島県には飯泉嘉門さんという総務省出身の知事さんと、CIO(chief information officer)の丸山 力さん――元日本IBMの副社長――がいます。私はその丸山さんと友達で、「とにかくおまえ講演に来いよ」と言われ、この講演も実は徳島でやりました。

 徳島がすごいのは、ここは限界集落日本一なのです。けれども、飯泉知事は全然めげておらず、「俺たちは限界集落が消滅しないための実験をやろう」と前向きの考えです。私も行きましたが、これ以上の限界集落が多い県はありません。でも、徳島は光ファイバーが全部引かれており、古民家をサテライトオフィスにしたら、結構若い人が来たそうです。

 都会のビルの監獄のようなところでITプログラムを作るより、サーフィンの後にプログラミングをするのであれば、間違いなく優れたプログラムができます。家はたくさん余っていますので、ブロードバンド環境――光ファイバー――があれば、都会にいるのと同じだけの仕事ができるわけです。「これはすごい」ということで、結構な勢いで、いろいろなところから人材が集まっています。

 これは、丸山さんから「おまえ、次に徳島の話をするときは、これを絶対入れてくれよ」と注文されて入れた例ですが、半IT半イノシシ狩猟という、30歳のお嬢さんのお話です。このお嬢さんは大阪でSEをしていましたが、イノシシ猟の免許を持っていて、イノシシを仕留めるのが趣味だそうです。鉄砲で撃つのではなく仕掛けをするのですが、イノシシがかかったか、朝、会社へ行く前に見に行くわけです。イノシシがかかっていたら、お嬢さんが解体までします。解体し終わってから、会社へ行ってプログラムを組むわけです。すごいでしょう。会社のバーベキューパーティーがあると、自分で獲ったイノシシを出すということで、豊かな生活だなと思います。

 では、なぜ徳島はこんなことができたのでしょう。徳島は地形的に大阪に近いため、アナログのときは大阪のテレビを全て見ることができました。山間地が多いのですが、アナログは電波が迂回するため見ることができたのです。けれども、デジタルは迂回しないため、テレビが見られなくなったそうです。おじいちゃんおばあちゃんは、毎日テレビを見て楽しく暮らしていたのに、NHKと徳島テレビの2つしか見られなくなったため、飯泉知事が総務省から補助金をもらい、限界集落の隅から隅まで光ファイバーを引きました。

 そのときはテレビを見るために光ファイバーを引いたわけですが、IP電話も使えるようにしたことが、サテライトオフィスの設置に繋がりました。飯泉さんは、さらに「野良仕事をしながらでも使えるように全部Wi-Fiにする」と言っています。これはNTTさんにとってよいことかわかりませんが、そのような地域活性化方法もあり得ると思います。

 先ほど申し上げたように、若いカップルが戻ったのはよいけれど、子どもが5歳か6歳になったときに、学校が無いという問題があります。私は、これに対する解の1つが、アメリカの公立小学校にあると思います。アメリカで9.11が起きたときに、国土安全保障省を作るために、どこかの予算をカットする必要があり、一番狙われたのが教育予算でした。9.11後にアメリカの公立小中学校から美術と音楽の授業がなくなり、国土安全保障省が膨らむたびに、アメリカの教育予算がどんどん減りました。

 このため先生がいなくなり、その解決策としてMOOCを使い始めました。次のページで御紹介しますが、カーン・アカデミーのMOOCを使っています。これは無料です。このオンライン教材を活用するようになったら、学校のレベルが上がったそうです。なぜかというと、公立小学校には、家は貧しくても優秀な子がたくさんいますが、いろいろな子どもたちがいるため、そのような子どもの足を引っ張る子たちもいるわけです。けれどもオンライン教材で、優秀な子どもたちが、足を引っ張られることなく、勉強ができるようになったのです。

 これがカーン・アカデミーです。彼はバングラデシュからアメリカに来た移民です。数学の才能を使ったヘッジファンドで博打をしていたのですが、「これは人類のためになる仕事ではない」ということで、ユーチューブ(YouTube)に教育教材をアップしたのです。そうしたら爆発的な人気が出て、今ではビルゲイツ財団やグーグルが、これに大きな資金を投入しています。3,000本以上のビデオがあり、アメリカの公立小中学校が、これを本格的に使い始めました。私は、この事例が、過疎地教育の1つの解になるのではないかと思います。東進ハイスクールが衛星授業を展開したことで、他の予備校の生徒が減少しています。優秀な先生の高いレベルの授業をITで配信することは、過疎の村の初等中等教育環境を再生する1つの解決策になると思います。

 では、本題の地域産業振興を一体どうするのかについてお話ししたいと思います。私はシリコンバレーに3年住み、最近も、毎年、定点観測に行っていますが、シリコンバレーのイノベーション能力はすごく断トツです。なぜ、こんなにシリコンバレーはすごいのか。行かれた方は御存じでしょうが、シリコンバレーはアメリカの田舎町です。アメリカの都会はボストン、ニューヨーク、ワシントンです。アイビーリーグは全て東海岸ですし、IBMみたいな立派な会社は全て東海岸です。 

シリコンバレーは田舎ですが、田舎だからこそイノベーションが起きるということもあるのではないでしょうか。テレビ番組の『秘密のケンミンSHOW』がすごく人気があるそうですが、日本各地にはいろいろな隠れた伝承技術やノウハウがたくさんあります。それは本当に面白いので、地域のいろいろな伝統文化をもっと生かすべきではないでしょうか。

 今日、霞が関の方がいらしたら申し訳ありませんが、江戸時代に地域独自の文化ができたのは、徳川幕府が中央集権をしなかったためと思うのです。しかも、参勤交代で江戸に来るとマーケティングできるわけです。都会で今、何が流行っているのかがわかり、「これを作ろうじゃないか」ということで郷里に戻って産業化すれば、それがよい循環になります。つまり、中央集権をしなかったということが、日本の地域文化にすごく役に立ったのではないかと私は思います。

 同じことをしているのがドイツです。やはりドイツを見習わなければいけないのではないかと思います。「ミッテルシュタント(Mittelstand)」というのは、ドイツ語の「中小企業」を意味しています。ドイツの輸出は70%が中小企業で、なおかつ、付加価値のほとんどを中小企業が持っています。雇用数の7割が中小企業――これは日本も同じだと思いますが――で、もっとすごいのは中小企業が高学歴人材の吸収母体になっていることです。このため、ドイツにおいては「高学歴若年層の失業率の高さ」は、問題になっていません。

 これは、ドイツは日本に負けて、日本と方向転換をして、グローバルニッチを攻め、消費財から生産財に移ったためです。私は、ドイツの戦略はすごくよかったと思います。なぜドイツはそんなことができたのかというと、ドイツは地域がすごく発展しているためです。日本は、東京の1人当たりのGDPが断トツに高く、東京と九州の差がものすごく開いています。九州全体の税収と、東京の六本木ヒルズの横にある西麻布税務署の税収を比べると、西麻布税務署の税収のほうが多いわけです。そのぐらい地域格差ができてしまっています。

 ドイツで、1人当たりのGDPが1番のところはレーゲンスブルグ(Regensburg)です。先月、私はレーゲンスブルグに行ってきましたが、こぢんまりとした小さな街ですが、世界遺産に指定されており、すごく美しい街です。私がそこで行ったレストランは2000年前の建物でした。この資料にはいろいろ書いていますが、もともと神聖ローマ帝国の議会があったところで、世界最古の薬局もあります。そのおかげでバイオテクノロジーの大学があり、バイオ産業がすごく盛んで、海外への輸出能力もすごく高い。これが、地域が発展する典型的な例の1つです。

 なぜ、ドイツでは、このようなことができるのかというと、フラウンホーファー(fraunhofer)研究所があるからです。フラウンホーファー研究所は、隠れたチャンピオン企業を生んだ一番の母体です。釈迦に説法で皆さんのほうがよく御存じだと思いますが、フラウンホーファーの一番の特徴は、ノーベル賞を生まない研究所です。応用研究に徹底的に特化しています。少なくとも私がいたときは、富士通もフラウンホーファーに随分委託をしていました。なぜかというと委託費が安いからです。「フラウンホーファー型クラスターモデルが、ドイツの中小企業を支えている」と言われています。

 もっとわかりやすく言いますと、フラウンホーファー研究所は、ミュンヘンに本部がありますが、ドイツ国内になんと67カ所に分散しています。さきほどもお話ししましたように、ノーベル賞と真逆の研究をしています。年間予算は20億ユーロで、今、1ユーロが136円ぐらいだとすると、大体2,700億円ぐらいです。70%が民間委託で、国は3割しか資金を出していません。世界中の民間企業から委託を受けています。

 なぜ委託費が安いのかと言いますと、研究員が2万3,000人もいますが、若い人ばかりで給料は驚くほど安いためです。なぜ安い給料で若い研究者は頑張れるのかというと、彼らは実用研究をしているため、2~3年ですぐ成果が出ます。成果が出たら10倍ぐらいの給料で引き抜かれるわけです。フラウンホーファー研究所は、若い研究者の登竜門となっています。これは、非常にうまい研究開発モデルだと思います。日本はこれについてもっと真摯に学ぶべきところがあるのではないかと思います。

 次は、イタリアです。「ドイツはすごいけれどイタリアは駄目でしょう。イタリアがいなかったら第2次世界大戦は勝てた」と馬鹿なことを言う人がいますが、イタリアはそんなに馬鹿にしたものではありません。この前、独立しようとした北部同盟の人は「ローマより南はアフリカだ」と言っています。このぐらい北部と南部は違うのです。北部の人たちが中心となり輸出をしていますが、G7で対日貿易が黒字なのはイタリアだけです。しかも5,000億円の黒字です。

 ドイツと同じように、イタリアも中小企業が中心で、個人の創造力をすごく大事にしています。山形には、奥山清行さん――山形東高を出て、日本のインダストリアルデザインのメッカの武蔵野美術大学を卒業し、いきなりフェラーリに勤められた方――がいらっしゃいます。北陸新幹線は奥山清行さんのデザインです。金沢の駅に行ったら北陸新幹線と同じ模様のごみ箱――あんなにきれいなごみ箱はありません――も、奥山さんのデザインです。奥山さんはミラノやパリにコネがありますから、日本でもイタリアでしていることができるだろうということで、山形の鉄瓶や天童木工の家具などを作り、ヨーロッパに一生懸命山形県の工芸品を売っています。

 「奥山清行さんがいる山形はよいけれど、俺たちのところには奥山清行さんはいない。どうしたらよいのか」という声があります。それにはやり方があります。例えば、東京で外国人に最も人気のある街として、浅草寺近くの合羽橋があります。外人は浅草寺に行かないで合羽橋に行きます。試しにローマ字で「Kappabashi」と、グーグルで引いてみてください。英語のサイトがたくさん出てきます。そこには「ワールド・ラージェスト・クックウェア・マーケット(World’s Largest Cookware Market)」と書いてあります。調理器具では世界最大――本当かなと思いますが――で、あそこに行ったら何でもあるぞということです。

 外国人が喜ぶのは食品サンプルで、これを口伝えで聞いて「おお、すごいな」とみんなが来るわけです。SNS(Social Networking Service)に、日本語で発信しても駄目ですが、英語で発信したら、仲間がどんどん増え爆発的にブランドが浸透していきます。SNSは、そういうメカニズムです。潜在的に日本はよいものを持っているのだから、SNSで、世界に向けて発信するとよいと思います。

 同じようなことを、サンフランシスコで、「SFMADE 」としてやっています。サンフランシスコは、アメリカの西海岸、カリフォルニア、シリコンバレー周辺で最も活況を呈していると私は思いますが、エドウィン・リー(Ed Lee)さんというサンフランシスコ市長がいます。2年前に「イノベーション・キャピタル・オブ・ザ・ワールド(Innovation Capital of the World)」という幕を掲げており、「随分大きなことを言っているな」と思っていましたら、本当に今、サンフランシスコはそうなりました。

 サンフランシスコやカリフォルニアは、環境オタクの街です。タバコは麻薬より悪いと言われており、タバコを吸っていたらシリコンバレーの経営者にはなれません。遺伝子組み換え食品をすごく嫌います。私が住んでいたときに、ホールフーズ(Whole Foods)という、他のスーパーよりも2割ぐらい高いスーパーがありましたが、そのスーパーでは遺伝子組み換え食品は一切売っていません。「少しやり過ぎかな」と思うぐらい、サンフランシスコは健康オタクだと思っていただければよいと思います。「サンフランシスコで作っているのだから変なものはない。環境にも健康にもよい」といって、SFMADEの地域ブランドを作ったところ、アメリカだけでなくて世界にSFMADEが大きな地位を占めるようになりました。

 もう1つの地域活性化の例は、得意技クラウドです。昔、東京の蒲田で中小企業のおっさんたちが、みんなで頑張ってよいものを作るという話がありましたが、東大阪市は「まいど1号」という人工衛星を上げました。東京も負けていられないということで、5,000m下に潜り込む「江戸っ子1号」という深海探査機を作っています。このようなことを地域で行えば、すごくよいことができます。仮想工業団地という考え方があります。基本的な技術はありますので、「俺は何ができるか」をお互いに知り合い、それを組み合わせることにより、よいものを造るということです。

 私が4~5年前にこういうことを言い出したときに、その例は、石川県バーチャル工業団地しかありませんでした。けれども今はグーグルで「仮想工業団地」や「バーチャル工業団地」で引いていただくと、日本全国のいろいろなところに出てきます。すごくよいことです。工業団地といっても、隣り合わせにいる必要はなく、ある程度の距離のところにあれば、クラウド上であたかも隣にいるようなことができます。飛行機に乗って行かなければいけないような遠くでは駄目ですが、車をちょっと走らせれば行けるようなところでしたら、隣り合わせにいるのと同じことだという概念がバーチャル工業団地です。こういうことは、地域の活性化にすごく意味があると思います。

 経済産業省は、この20年間に20回、成長戦略を作りましたが、20回失敗したと言われています。20連敗して次に勝つということがあり得るかについて、お話をしたいと思います。CEPS(Centre for European Policy Studies)は、ブリュッセルにあるヨーロッパの政策研究のシンクタンクです。このシンクタンクが、日本の停滞の仕組みをずっと研究しています。日本人はなぜあの停滞の仕組みを研究しないのかと思いますが、海外ではたくさん研究されています。

 ヨーロッパはこの20年の間に年率3.5%で、1.8倍になりました。ヨーロッパは3.5%で成長しているのに、日本は成長していません。これが失われた20年と言うのですが、「それは本当なのか」を調べています。15歳から64歳までの生産年齢人口1人当たりのGDPで見ると、日本はヨーロッパやアメリカに負けていません。つまり、経済産業省や、時の政府が政策を失敗したわけではありません。会社の経営者も決して間違ったことをしたのではありません。ましてや従業員がサボったわけでもありません。日本の1人当たりのGDP――生産年齢人口の実質GDP――は、この20年間で大体35%ぐらいで、ヨーロッパとアメリカに負けていないのです。負けていないということは成長しているということです。「成長しているのに成長していないのだから、成長するわけがない」というロジックが出てくるのです。

 このギャップはどう説明するのかということですが、生産年齢人口が減っているということです。もし1人当たりの生産能力が上がらなかったら下がりますが、日本は生産年齢人口が減った分を、一生懸命頑張って補っているのです。ヨーロッパは日本と同じ少子高齢化社会なのに、なぜ成長しているかというと、ヨーロッパはこのギャップを移民で埋めています。フランスが18%、イギリスが16%と無視できないぐらいの移民を入れて、成長率をアップさせたのです。日本は、それをやるだけの覚悟があるかということです。

 彼らがもっと「日本はすごい」と言ったのは、必ずしも正規雇用だけではないけれど「生産年齢人口に対する雇用率が約80%」ということです。ヨーロッパの雇用率は約65%と低い状況です。ヨーロッパに北アフリカから来た移民は、決してサボって失業しているのではありません。フランスに来た移民の人たちはものすごく勉強します。大学進学率も北アフリカから来た移民のほうが高いし、大学での成績も彼らのほうがよいのです。ところが就職が無いのです。そうしたら――こんなことを言ってはいけませんが――、イスラミックステートに行くようになるのは当然です。このようなことは、社会をおかしくしてしまいます。そう考えれば、「日本は駄目な国ではないし、もっとやりようがある」ということを申し上げたいと思います。

 フランスやイギリスみたいに移民を2割3割よんでこない限り、日本はいくら頑張っても成長しません。そういうことを念頭に考えたら、財政出動をしている暇はありません。少し言い過ぎかもしれませんが、成長しないのだから、無駄な金を出しても仕方がないと思います。では、日本が抱える最大のリスクは何かということですが、これは「良過ぎること」です。「こんなにひどい国はない」と思っていらっしゃるかもしれませんが、少なくとも東アジアの近傍から見たら、公害は無いし、空気を吸ってもちゃんと呼吸できます。日本では当たり前ですが、それができない国もあります。水はきれいで、食料品は安全で、失業者もそれほどあふれていない。こんなによい国はありません。

 この良さに私たちが気付いていないと、はっと気付いたときに全く違う国の人たちが、このよさを謳歌しているかもしれません。それでもよいけれど、私たち自身がこの国はこんなによい国だということを自覚して、もっとうまく、将来の若い人たち――今の私たちの子どもや孫――に、大きなツケ回しをしない形でこの国を再生できたら、もっとよい国になるのではないかと思います。

 今日、講演をお聞き頂いている方々の年齢は「食い逃げの世代」と言われています。一番よいところを食べて逃げる。ツケを子どもや孫に回しているわけです。これでは児童虐待になります。これを解決して日本をもっと栄えさせるためには、宣伝のようになりますが、ITを使っていただければ、無料に近いコストで世の中が変えられるのではないかと思います。今日は、漫談みたいなお話で申しわけありませんでしたが、これで終わりにさせていただきます。

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