29 ドイツ博物館

ミュンヘンには、これまで数十回来ているのに、このドイツ博物館には一度も来たことがなかった。恥ずかしながら、私は、この度、初めて訪れたのだが、科学技術の博物館としては世界一だという。丁度、イースター休暇で、子供達で満員だったが、このように子供が展示の全てを見るには数日を要するという。ドイツでも、子供達の理科離れが深刻なので、学校の教師や教育熱心な親たちが、このように子供を連れて来るのだという。ドイツの子供達は幸せだ。日本にも、こうした博物館があったら良いのにと思うのは私だけだろうか。そして、この博物館は、子供達だけでなく、大人でも面白い。私は、時間がなかったので、船と飛行機とロケットのコーナを集中的に見せて頂いた。

まず、最初に見たのは第二次世界大戦で世界中を恐怖に陥れたドイツの潜水艦、Uボートである。実物が展示してあったのだが、想像していたより遥かに大きい。こうして実物が展示してあるところが凄い。錆びてボロボロになっているところもあるが、そこがまた迫力がある。こんな粗末な設備の潜水艦で長い間水中に潜っていたのだと、また感慨に浸る。次は、同じく第二次世界大戦でロンドンを空襲したV2ロケットである。これも、こんなに大きかったのだとビックリした。そして、そのV2の隣に展示されているのがV2の前身であるV1ロケットである。何とV1の羽根は木製だった。重量の都合で木材を使わざるを得なかったのだろうが、こんな稚拙なものから、巨大なV2ロケットまで短期間に随分進歩したものである。そのV2ですら、飛行距離がたった300キロしかなかったので、オランダまで運んで、ロンドンまで飛ばしたらしい。ドイツ国内から直接攻撃できる力は未だ備わってなかったのだ。

最後に見たのは、同じく第二次世界大戦で使われた名戦闘機メッサーシュミットである。そして、その横に置いてあったのが、量産直前に敗戦となり世に出ることがなかった、メッサーシュミットのジェットエンジン版であった。凄い。このジェットエンジン版のメッサーシュミットから見たらプロペラ機のメッサーシュミットはおもちゃの様に小さくて可愛いものに見える。多分、ジェットエンジン搭載のメッサーシュミットは、たった1機でも、敵のプロペラ戦闘機、数十機を瞬時に撃墜したことだろう。この2機の戦闘機を並べて見て見ると全く対等な喧嘩にはなりようがないことが直ぐにわかる。

第二次世界大戦末期のドイツは核兵器も実用化寸前にあった。あと2、3年戦争の集結が長引いたら、ドイツは、その核兵器をUボート、V2ロケット、ジェットエンジン搭載のメッサーシュミットに搭載していたに違いない。これでは誰もドイツには敵わない、アメリカでさえもドイツを負かすことは容易ではなかっただろう。少なくとも、そう思わせる。この博物館は、単にドイツの科学技術の歴史を展示しているだけではないようだ。「ドイツは先の戦争に負けたけれども、ドイツの科学技術は世界水準を遥かに凌駕していたんだ」と子供達に鼓舞しているようにも見える。一方で、「これ程進んでいた科学技術を戦争とは別な方面に使っていたらドイツはもっと豊かな国に成れた」とも言っているようにも見える。

そして、私は考えた。Uボート、V2ロケット、ジェット戦闘機、こうしたイノベーションを生み出したものは、やはり戦争だったのではないかと。天文学的な賠償金を背負わされ欧米各国から追い詰められたドイツが、どうしようもない窮地から抜け出すために必死で考え付いたイノベーションの数々ではなかったかと。もし、ドイツが第二次世界大戦で生み出した数多くのイノベーションの引き金になったものが追い詰められた窮状だったとすれば、今の日本の追い詰められた状況こそが、21世紀の人類を救うイノベーションを生み出す、その土壌になるはずだとは思わないか。

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