276 最新鋭ゴミ焼却発電プラントを見学

私が社外取締役を勤める日立造船はゴミ焼却発電プラントに関して、欧州のトップメーカーであるイノバ社(本社スイス)を完全子会社化することによって、文字通り世界のトップベンダーとなった。日本や欧州のように国土が狭い地域ではゴミは焼却するのが当たり前となっているが、アメリカを含む世界の他の地域では、その広い国土を利用してゴミは埋設処理するのが一般的であった。

しかし、地球温暖化問題を契機として、埋設された生ゴミは二酸化炭素より遥かに温室効果が高いメタンガスを発生させる恐れがある一方、むしろゴミを燃料とすることによって発電を行えば、効率の良いバイオマス発電として大きな二酸化炭素削減効果があることが分かってきた。特に、中国は人口の都市集中と生活レベルの向上によって大都市におけるゴミ処理問題は大変深刻な課題となっており大規模なゴミ焼却発電プラントが次々と建設されている。

この中国に続いて大規模なゴミ焼却発電プラントを計画しているのがインドであり、これらゴミ処理分野での二つの超大国に続いて、これからゴミ焼却発電は先進国から途上国へと広がり世界的ブームになりつつある。日本でも、このゴミ焼却発電は大きなトレンドになっている。もし、日本中のゴミ焼却炉が全て発電すれば、その規模は原発6基分にも相当する。しかも、ゴミ焼却発電は、天候に左右される太陽光や風力と違い、24時間365日安定的に発電出来るベース電源となる。

こんな良い話はないはずなのだが、日本にはゴミ処理に関しては、各自治体ごとに処理を完結しなければならないという規制があり、発電に適した適正な規模に達しないという大きな問題がある。平成の大合併によって、自治体の規模は拡大されたが、それでもゴミ処理施設は自分たちの近隣には造らせないという住民エゴによって一カ所に集約することは、なかなか困難である。

それには、従来、ゴミ処理施設が、汚い、臭いだけでなく、有害な物質を含むかもしれない排煙や汚水、焼却灰などを産出するなど、住民から嫌われる要素を沢山抱えていたからに他ならない。それで、今回、内閣府から環境モデル都市に推薦されている松山市と、日立造船が、昨年5月に稼働させた最新鋭のゴミ焼却発電プラントである「松山市西クリーンセンター」を見学させてもらうことにした。

この松山市のゴミ焼却発電プラントは、松山空港に近い松山港に面した工業団地にある。建物は、まだ出来たばかりで新しく、ゴミ焼却炉というより港湾倉庫のように見える。見学者は入り口で、まず靴を脱がされてスリッパで見学通路を回って行く。床はピカピカに磨かれ、本当に奇麗で心地よい。まず、ゴミ収集車がゴミをピットに搬入するプラットフォームに案内された。8カ所の入り口にバックしてゴミ収集車が入り、荷台を上げてピット内にゴミを投入し終わってプラットフォームを出て行くと、駐車した場所には、投入し損ねたゴミの屑と漏れ出した液が残った。その後を、作業員の方が、ゴミを拾い上げ、モップで床を奇麗に磨いてピカピカに清掃するのである。市民が見学に来られた時に、「ゴミ焼却場は本当に奇麗な所だった」との印象を抱いてもらうためだそうである。

一時が万事で、この「クリーンセンター」と名乗るゴミ焼却場は、本当に文字通り「クリーン」である。ごみピットに蓄えられたゴミは5tのゴミ・クレーンで炉に投入されるまえに何度も撹拌されてほぐされる。一人で、このクレーンを運転する操作員の動作は、まるでUFOキャッチャーゲームの達人ではないかと思われるほどの見事さである。そして、いよいよゴミは焼却炉へと投入されていく。この焼却炉では1000℃近い高温でダイオキシンはおろか、あらゆる臭気成分も熱分解してしまう。だから、このゴミ焼却炉は臭わないのだ。

ゴミを燃やした、その熱で作られた400℃の高温蒸気がタービンを回して発電する。一日420トンのゴミを焼却して、6,600kWの電力を発生させる。その中からゴミ焼却炉自身が使用する2500kWを差し引いた電力は電力会社へ売電している。当然、この電力はグリーンな電力であるバイオマス発電なので、FIT制度が続く、当分の間は高値で買い取られる。

ゴミを焼却した後に残るのは、排ガスと焼却灰である。このうち排ガスについては濾過集塵機や触媒反応塔を介して、窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじんなど有害物質を全て除去して外部には一切だすことはない。そして、同じく有害物質を含んでいる可能性がある焼却灰については、まず鉄成分と銅成分を取り除かれた後、炭素棒に高圧をかけて発生させた3000℃にも上る高温プラズマで火山の溶岩流のように溶融させる。それを急激に冷やすと、ガラス化して黒曜石のような奇麗な石(スラグ)になる。こうした頑丈な固形物になれば、もう有害物質が含まれていても土壌を汚染したりする心配は全くなくなる。このスラグはアスファルト舗装の骨材として使われ、りっぱにリサイクルされる。

もう一つ、この焼却炉では、タービンを回す蒸気として、あるいは排煙や溶融した灰を冷却するために大量の水を使う。この水も薬剤で無害化したあと濾過装置や活性炭吸着装置及び膜処理装置を通過させて、また循環しているので、この施設から一滴の水も放出はしない。一昔前は、濾過して奇麗にしたということで水は川や海に放流していたそうだが、今は、全く外部には出すことはない。

素人なので、うまく説明出来ていないが、このゴミ焼却発電プラントは超高温処理、超高圧処理をこなす高度な稼働技術を必要とする立派な化学工場である。しかも、このプラントは鉄の溶鉱炉と同じく、一度冷やした炉を再び高温にまで到達させるのは時間的にも費用的にも無駄であるため24時間365日の運転が必要となる。こうした焼却炉の運転・保守作業は、焼却炉を設計・製造した技術を保有した人たちでないと無理である。実際、日立造船は松山市から、むこう20年間の運転・保守作業を請け負っている。

建屋内には、原発ほど複雑ではないが多くの計器類と炉内で燃える映像を表示したオペレーションセンターがあり、常時3名の監視員が見張っている。この方達も一日12時間勤務の変則2交代で従事している。そして、日立造船本社では全国のゴミ焼却発電プラントで使われている全計器類と焼却炉モニター画面を大阪築港工場の中央監視センターでリモート監視できるようにしている。現場で何が起きているか、あるいは起きつつあるかを中央監視センターでも24時間監視しているのだ。

一般的に、モノを作る、あるいは電気を作るという動脈系の産業については世の中の関心が高いが、廃棄物を処理すると言った静脈系の産業に関しては、あまり関心が高くない。しかし、世の中のシステムは、動脈系と静脈系と相まって一つの生態系として動いている。しかも、近年、その静脈系の技術も、どんどん高度化しているので、決して見逃す訳には行かない。ものづくり大国と言われた日本のステータスは、中国、韓国に押されて、どんどん凋落するばかりだが、動脈系ばかりでなく、この静脈系にまで注目した時に、日本の活躍する道は、まだまだ多く残されているような気がする。

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