お世話になった皆様へ
本日付けで、44年間勤めた富士通、4年間勤めた富士通総研を退任します。この間、多くの素晴らしき出会いにめぐり合うことができ、そのお陰で有意義な人生を送ることが出来ました。応援して頂いた皆様に心よりお礼を申し上げます。この長きに渡り、一番思い出に残っていることは、小さいながら現地子会社のCEOとして米国駐在を経験させて頂いたことでした。その経験が、私の、その後の人生に大きな影響を及ぼしました。
米国から帰国後は、製品部門、海外事業部門、研究開発部門の総責任者などの重職を経験させて頂きました。また、富士通総研に移ってからは、見よう見まねで経営コンサルタントの仕事のやり方を学ばせて頂きました。これだけの多くの勉強の機会を与えて頂きながら、富士通グループを卒業し、社会に貢献する時期が若干遅すぎたかも知れません。こんなに富士通グループに長く居続けた理由は、多分、とても居心地が良かったせいでしょう。
今回の退任は、「もう、そろそろ良いでしょう。」と背中を押されたものと思っています。 しかし、まだ来年6月まで富士通及び富士通総研から非常勤顧問の肩書きを頂いており、当面のスケジュールを見ても相変わらず講演や社外会合で多忙な毎日が続いております。そうは言っても、来年以降のことを考えて少しずつワークスタイルを変えていかなくてはと思います。
昨日は、日立造船の株主総会で社外取締役として再任して頂きました。この一年間、初めて富士通グループ以外の会社経営に参加しましたが、これは私にとって大変新鮮な驚きの毎日でした。何しろ軽薄短小から、いきなり重厚長大なビジネス世界に飛び込んだのですから当たり前です。谷所社長のご厚意により、取締役会の参加だけでなく、研究開発部門のヒアリングや日立造船が抱える日本全国の工場をくまなく見学させて頂きました。
創業130年を超える、かつては世界第二の巨大造船会社だった日立造船が主力の造船事業を分離し、第二の創業に向けて全社を挙げて取り組んでいる姿は感動さえ覚えます。しかも、日立造船が目指す、新たな事業分野は、環境、防災、資源(エネルギー、水)といった、地球と人類の存続に不可欠なテーマでもあります。これこそは、私が富士通のCTOとして、次世代技術戦略を企画している時に目指していたテーマ、そのものでした。しかし、富士通グループはヴァーチャルな情報処理産業に軸足を置いており、リアルなインフラ構築については何の力も持たなかったので、どこから手を着けたら良いかわかりませんでした。
それが、今、日立造船では、私の目の前に展開されています。こんなに面白いことがあるでしょうか?これは、少し言いすぎかも知れませんが、生涯を一つの職場だけで過ごすというのは、ひょっとすると、とても不幸なことかも知れません。昨日も、NHKのTV取材でも話したのですが、日本の会社の経営陣は「3ばっかり」だと言われています。つまり、「日本人ばっかり」、「男ばっかり」、「生え抜きばっかり」だと。これでは経営陣にダイバーシティが足りなくなるのは当たり前です。
こうした会社では役員全員が金太郎飴なので、役員会で異論反論が全く出ないし、当然、そうした環境ではイノベーションも生まれません。そういうことを防ぐ意味でも「社外取締役」を導入することは有意義だと思いますが、例えば生涯、一つの会社でしか生きてこなかった経営トップが、いきなり、よその会社の社外取締役になって何か役に立つことがあるのでしょうか?「うちの会社では、こうしていた」と言ったところで、業態も市場環境も違う会社では、元の会社の事例が、そのまま直ぐに役立つとは思えません。
そんなこともあって、今、本当かどうか分かりませんが「社外取締役市場」で人材が払底していると聞いています。多くの会社が望む「理想の社外取締役」の条件とは「理系で経営トップとなった海外駐在経験者」なのだそうです。まず、なぜ理系なのか?ですが、シリコンバレーで成功している起業家が、殆ど理系なように、現代の経営は経験や勘に基づく手法では限界があるということのようです。市場で現実に起きていることを統計学的に把握出来ないとダメだと言うのです。
もう一つ、なぜ海外駐在経験者かという問題です。転職が一般的でない日本の会社の中で、海外駐在は擬似的な転職経験になります。日本の本社とは全く価値観が異なる海外の子会社では別の会社に転職したとでも割り切らないととても仕事が出来ません。そして、自分の部下や同僚の現地社員は、既に何回かの転職を経験しているので、そういう人達と毎日一緒に議論をしていると、自分も沢山転職した経験を持っているような錯覚に陥るのです。これが、実に貴重な体験になります。そうした経験をすれば、社外取締役として、これまで全く関わりがなかった会社の経営に参加しても、直ぐに、その会社の経営に貢献できることでしょう。
こんな論理が通用しているのかどうか分かりませんが、もし、本当にそうであるならば、今日のラストデイから「社外取締役」という立場で、いろいろな会社の経営に参加することも真剣に考えてみようかと思っています。今晩9時からNHKニュースウオッチ9で特集「社外取締役」が放映される予定です。その中で、たった5分ですが私の取材映像が流れます。東京からカメラマンを含む4名のクルーを連れて二日間にわたり合計1時間以上もTVカメラを回し取材された中からエッセンスだけが流れる筈なので中身の濃い内容となっていると思われます。
全くの偶然ですが、丁度、私のラストデイに、NHKが、私の新しい門出を祝して下さっているような気もします。皆様、永い間、本当にご支援ありがとうございました。