270 ついに出た、ホールインワン

とうとうやってしまった。私には、一生縁のないものだと思っていた「ホールインワン」が、何と136名が参加する大規模コンペ、「富士通パートナー様プロ・アマチャリティーゴルフ大会」で出てしまうとは想像すらしていなかった。そもそも、ホールインワンとはゴルフの実力者が出すもので、私のような下手者がツキで出すモノではないと思っていたからだ。武蔵丘ゴルフコース、149ヤードの12番ホールでグリーンに落ちたボールがピンに向かって転がり始めた時に、同伴者の山岸陽子プロが、突然「入れ!」と大声で叫ぶと、本当に入ってしまった。

同伴者が興奮して大騒ぎしているなかで、自分自身は、「こんなことってあるのか?」と呆然自失。それから自分がやってしまったことの重大さを少しずつ自覚し始めると表彰式が終わるころには、とうとう気分までもが悪くなり、大会の最後で関係者をねぎらう慰労会までいることが耐えられなく、早々に会場を失礼した。このホールインワンを自分がやってしまったことが、あまりに不釣り合いだと思ったからである。

それでも、何か楽しいことが起きたら、写真を撮ってFacebookにでも投稿しようと小型のデジカメをポケットの中に忍ばせていたことを、ホールインワン達成直後に思い出し、同伴者の方達と、その場で記念写真を撮ることができた。自宅に帰って少し落ち着いたところで、この記念すべき大イベントを友人たちに、何とかお披露目することが出来た。そして自分のFacebookへの投稿をあらためて見てみると、やはりトンデモナイことをしでかしたのだと思った。

このコンペは、その冠とおり、参加者のプレー代の一部が「あしなが育英会」に寄付されて、東日本大震災で親を失った子供達への支援に使われる。私は、米国駐在中に富士通の在米子会社が協力して行っているチャリティーゴルフコンペに何度か参加したことがある。このチャリティーコンペは長期入院で闘病生活を送っている子供たちへの支援が目的だった。米国人は、こうした催しに積極的に参加する方が多いが、このゴルフコンペは普段、普通の方が入れないスタンフォード大学所有のゴルフコースで行われるので特に人気が高い。何しろ、あのタイガー・ウッズがスタンフォード大学の学生時代、頻繁に練習したゴルフコースである。だから、当日のプレー代は、近所の名門ゴルフコースより遥かに高いにも関わらず、大勢の参加者がある。

スタンフォード大学のゴルフ場は月曜日が定休日であるが、チャリティーなど慈善事業を行う場合は、終日、無料で使わせてくれる。会場運営は富士通現地子会社の社員がボランティアで行っているので参加者から頂いたプレー代は全て寄付金となる。そして、このゴルフコンペでは朝から大変な騒ぎがある。多くの参加者があるので18ホールのショットガン方式で行われるため、スタート前に、自分がティーオフを行うホールまで到達していなければならない。それが、実は大変なのである。スタンフォード大学の私設ゴルフ場であるため関係者以外がプレーすることを想定していない。どのホールにも、そこが何番ホールかという表示がない。従って、自分が指定されたホールに正しく到着するのが至難の業である。反面、これが、また普通のゴルフコースと余りに違っていて、何とも面白い。一番、圧巻なのは、ティーから、真下の大学内の道路を超えて、向こう側のフェアウエーに向かって打つホールがある。ここでは、毎回、打ちだしの初速度を測定して、プレーヤーがどれだけの飛距離を出す能力を持っているかを教えてくれるサービスを行っている。

そして、プレー終了後は、表彰式の他にチャリティー・オークションがある。主催者である富士通は各種ノートパソコンを提供しているが、例えば協賛社のアメリカン航空は東京・サンフランシスコ間の往復ビジネスクラス航空券を提供してくれたりする。これらを参加者の間でオークションをして競り落としたお金が、また寄付金として加えられる。実は、このオークションで驚いたことがある。富士通製のノートパソコンが幾らで競り落とされるか興味を持って見ていると、実に市販価格を遥かに超えて落札されていた。もちろん落札者は承知の上でやっている。この機会に安く手に入れようなどと言う魂胆が全くない。これがアメリカ人の凄さでもある。

今回、実は、富士通のチャリティーゴルフコンペに参加する前の週に、ホールインワン保険の加入通知が送られてきた。もう何十年も前に入ったが、この保険は解約しないかぎり自動継続となるので、毎年契約書が送られてくる。いつもは、この契約書を見るたびに、何と無駄なことをしているのだと思うのだが、今年ばかりは少し違う目で見ていたのである。実は、先月、日立造船労働組合主催の全社コンペに参加した。このコンペは、滋賀県の甲賀にあるゴルフ場を一日貸し切って、総勢200人近い参加者を18ホールショットガンでプレーさせる壮大な規模のゴルフコンペである。

私は、組合の書記長とある役員の方と回らせて頂いたのだが、この役員の方が、昨年のこのコンペでホールインワンをやられたと言う。「よりによって、こんな大規模のコンペでホールインワンをやってしまうなんて」と少し後悔の念で語られたのが印象的だった。それで、私も、今年に限っては「災難はいつ降りかかってくるかわからない。まあ、保険だけは入っておこう」と自分に言い聞かせていた矢先の、今回のホールインワンであった。

最後のホールを上がってくると、山本社長から「伊東さん、おめでとう。今回、ホールインワンの商品は用意していなかったのだけれど、今、特別に用意させているから」とお祝いの言葉をかけて頂いた。そして、その言葉通り、表彰式で司会役の戸張捷さんに呼ばれて壇上に上がると富士通専属の藤本麻子プロからワインを頂いた。そして、戸張さんが素晴らしいアドバイスを私に下さった。「伊東さんね。今日は136人の参加者がいるんですよ。この人たち全員に記念のプレゼントを差し上げるのも良いけれど、いっそのこと、それを全て「あしなが育英会」に寄付したら?」と仰った。何とも素晴らしい提案であろう。この戸張捷さんの貴重なアドバイスを、そのまま頂き、私は、これから保険会社と交渉していくつもりである。

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