197  グローバル人材育成 (その8)

そろそろ、このシリーズの最後にしようと思う。もともと、この投稿は、グローバルに活躍するために必要な資質とは何か?ということで、自分のつたない経験の中から特に印象に残ったことを回想録のように綴ってきた。そして、今、それを読み返してみると、これは、グローバル・ビジネスとは全く無縁の方たちにも当てはまる話ではないかと思ってきた。

我々のライフスタイルは、好むと好まざるとに関わらず、グローバル化の波に影響されている。「今、アメリカで起こっていることは、近いうちに、必ず日本でも起きる。」という名文句がある。日本で新たなビジネスモデルで成功した経営者の多くは、その範をアメリカから得ている。そのアメリカで、今、起きている新たな雇用形態が「フリーエージェント」と呼ばれる職業である。全米の労働者の35%が、既に、このフリーエージェントであるという。

アメリカ社会におけるフリーエージェントの増加は、会社という組織が、社員と言う固定のリソースに頼らなくなったことを意味する。組織の団結力よりも、個の資質を重要視するようになったことの表れでもある。そして、既存の組織の団結力よりも、むしろオープンなソーシャルネットワーキングに頼るという新たな組織力の方が、より成果を生むということもあるだろう。労働市場が流動化しているアメリカでは、個人の最大の関心事は、必ずしも報酬金額だけではない。その仕事を通じて自身のコア・コンピタンスが、いかに強化されるかというキャリア・パスを重要視する。

日本では、こうした働き方がないのかと思ってよく考えてみると、当社のコンサルタントがそれにあたることに気が付いた。彼らは、顧客企業の戦略策定部門に臨時で雇われたエージェントである。多くの企業は、大きな戦略の見直しは、そう年中行っているものではない。そして、それが必要になった時に、社内から精鋭を引き抜いてくるのも新たな摩擦を引き起こす。それなら、こうした戦略策定に慣れた社員を、社外から臨時で集めてくれば良いという話になるのは良く理解できる。

つまり、業務は国内市場に限定された超ドメスティックな企業であっても、その働き方(ワークスタイル)は、意識しない間に、どんどんグローバル化していく。グローバル人材育成は、日本企業にとって最大の懸案事項であると、同時に、働く側の社員にとっても、最も関心を持たなければならないテーマでもある。そして、そのキーワードは「個の力」である。部下に頼らないで何でも自分でこなす力。これさえ持っていれば、どこに配転されても怖くない。リタイアした後でも、いろいろな仕事をこなすことが出来る。

自民党政権に復帰し。再登場した安倍総理は、永田町に留まるところなく、日本全国を飛び回っている。TVで放映される、その安倍総理の陰にぴったり付き添っているのが、柳瀬唯夫総理秘書官である。秘書官となる前は経産省大臣官房審議官で、その前職の産業再生課長の時代に、ご一緒に日本の産業再生に関して議論させて頂いたことがある。腰も低く、極めて優秀な方である。そう、その産業再生課長の前は、麻生総理の首相秘書官をされていたのにも関わらず、私たちと膝を突き合わせて対等に議論に加わって頂いた。

さて、一国の権力者である総理大臣に四六時中ぴったりと付き添って支える総理秘書官とは、どんな働き方をされているかを、皆様は、どこまで、ご存じだろうか。昨年、経済産業省審議官を退職された岡田秀一さんは、小泉内閣時代、5年間という異例の長さの総理秘書官を務められた、日本の総理秘書官の代表みたいな方である。その岡田さんから聞いた大変ショッキングな話がある。「伊東さん、総理大臣秘書官に秘書はつかないのですよ。だから、コピーもFAXも、メールも何でも自分でやる。そんな仕事を5年間もやっていたものだから、役所に戻ったときも、その癖が治らなくて、今まで通り、普通に自分でやっていた。そしたら、人事から文句が来ました。貴方の秘書が悩んでいますよ!信用されていないのではないかと」

そう、総理大臣秘書官こそ、グローバル人材育成のための最適なキャリアパスなのかも知れない。

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