196 グローバル人材育成 (その7)

私は、ある時、富士通の海外事業総責任者として代表取締役副社長を拝命した。グローバル時代と叫ばれつつあるなかで、大変、やりがいのある仕事を頂いた。私は、これまでの会社人生の延長線上として、あらゆる問題は、現地に行って、現地の責任者と話すことで解決を図ろうとした。その結果、年間海外出張回数は30回、1年間の総飛行距離は27万マイルに達することになった。年間30回と言うと、隔週で成田から出発していることになる。しかし、それは長くは持たなかった、あと1年、そうした生活をしていたら、どこかで死んでいただろう。今、こんなことを書いている私はこの世にはいない。

そうした激務をこなす為に、会社は、私に、いつもファーストクラスを用意してくれた。そのファーストクラスの機内で、出発便か帰国便で必ず会う方がいた。日本電産の永守社長である。なにしろ、永守さんは目立つ。皆、機内はラフな格好をしているのに、永守さんだけは緑色系のネクタイをきちんと締められて、粋な京都紳士然とした姿は何しろカッコよい。聞けば、永守さんは、年間100日は海外、100日は日本国内の各地、残りの100日ほどを本社がある京都で過ごされると言う。よく考えてみれば、年間は52週、最後の100日とは土曜、日曜、休日ではないか。そう日本電産の役員会は、土日に行われるのである。永守さんに言わせれば、役員会などは、顧客対応に使える貴重な平日にやるものではないと言うことらしい。

だから、日本電産は怒涛の勢いで日本を代表するグローバル企業となったが、永守さんのようなタフな経営者は、誰しも、そう簡単に真似が出来るものでもない。では、どうしたらよいのだろうか? よく考えてみると、日本国内と海外(グローバル)とを分けて管理するという組織自体がおかしいのかもしれない。IBMやGEなど名だたるグローバル企業は、北米と南米、欧州、中東アフリカ、アジア、中国、オセアニアの各地域をフラットに同等の組織として管理している。つまり、少し、言いすぎかも知れないが、会社組織の中に「グローバル」という名前がついている組織がある会社は、未だ真のグローバル企業になっていないのかも知れない。

海外拠点を、どうマネージメントすべきかという議論は、富士通に居る時も随分沢山したが、そう簡単ではない。IBMのように、事業軸で全世界をマネージし、地域のTOPは管理部門だけを担当するというやり方を富士通が真似しても、必ずしも、うまく行くとは思えない。グローバル事業のマネージメントは、それぞれの企業の特質や歴史などを踏まえた上での最適なやりかたがあるのかも知れない。そういう意味で、欧米企業のグローバルビジネスモデルを学ぶだけでなく、日本で成功しているグローバル企業は、どうしているのかを知ることも意義がある。

今、日本で最も利益を上げているグローバル企業は商社である。三菱商事、三井物産、伊藤忠、丸紅と、それぞれ年間、数千億円と史上最高益を出している。この日本の商社は、どういうグローバルビジネスモデルを持っているのだろうか? ところが、意外にも日本の商社には外国人の役員がいない。それは、商社不要論とか商社滅亡論とか、世界に類似のビジネスモデルを持たないためにマスコミから揶揄されてきた日本の商社が、現在の姿まで持ってきた苦闘の歴史がある。つまり、現在の商社には、そのビジネスモデルを定義する規約がないため、全てをキチンとした契約で雇用する外国人役員を雇うことが出来ないのだ。

報酬制度も大きな課題だと言う。今の商社は莫大な利益の殆どを資源と食糧から得ているが、そういうことが永遠に続くとは限らないと言う。そして、資源と食糧という源流のビジネス以外を放棄した時に、商社はもはや成り立たないというのである。商社の最も重要な商品は「情報」であり、この「情報」を得るために、サプライチェーンの最上流から下流のリテールまで、何らかの形で関与して、世の中の物の流れの変化をいち早くキャッチすることが重要だと言う。

現在の利益の源である資源と食糧も、全て世界のリテールの動きをキャッチしているから投資と撤退を機を見て俊敏に行えると言うわけだ。セブンイレブン以外のコンビニに、全て商社が入り込んでいるのにも意味がある。全て部門利益こそが報酬の基本と考える外国人の役員から見れば、大して利益を上げていないリテールの部門の担当に、どうしてボーナスを出すのかが理解できないらしい。

そして、商社は現地に大きな拠点を作らない。プロジェクト案件ごとに、現地企業を核としてJVを立ち上げる。プロジェクトが無事、終われば、何の人的資産や固定資産も残さずに綺麗に撤退できるわけだ。いろいろ聞いていると、ひょっとすると、この日本の商社のビジネスモデルこそが、21世紀のグローバルビジネスモデルではないかという気もしてくる。グローバル世界から出遅れた日本。その日本にしかない商社というビジネスモデル。外国人には全く理解できない曖昧なビジネスモデルを、私たちは、よく研究してみる必要がある。

そして、商社のさらに優れたビジネスモデルとは、組織主体でなく個人主体で動いているところである。彼らは、高額報酬さえあればポストには拘らない。従って、高齢になっても身体が元気なら世界各地に働き場所はいくらでもある。もともと、世界を所狭しとグローバルに活躍した方々だから、知識と経験は豊富である。これから高齢化社会となる日本で、ぜひ働き方の見本を示して頂きたい。

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