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476  金婚記念日を迎えて

2023年12月3日 日曜日

今月2日に、結婚して50年目となる金婚記念日を迎えた。生まれた時から、それほど丈夫ではなかった私が、金婚を迎えることが出来るなど想像もできなかったが、それだけ長生きできたことを本当に「めでたいことだ」と喜んでいる。同時に、半世紀の長きにわたって一緒に苦労を共にして付き合ってくれた妻に心から感謝している。改めて振り返ってみると結婚してすぐから今日まで、私たちの夫婦は本当に苦労が多い50年間を送ってきた。

就職してから3年目、貯めたお金は好きなスキーに全て使い果たし、一銭の貯金もなく結婚する気など全くなかった私に、突然迷い込んだ見合い話に乗った。そこで直感的に「私は、この人と結婚するしかない!」と感じて、今の妻と結婚した。それから30年間ほど、子供たちが大学を卒業するまでの間、妻は、ずっとお金に苦労していたように思う。私は戦後の高度成長時代の典型的な猛烈サラリーマンとして家に帰らぬこともしばしばだったので、二人の男の子を抱え、一人で何もかもこなす大変な激務だったと思う。

特に、私がアメリカに単身赴任した3年間、妻は世帯主として全ての責任を負い、一人で家を守った。だから、リタイアして家にいることが増えた現在、妻がいわゆる家事以外の仕事を、なんでも上手にこなしているのに驚いている。妻の行動を見ていると、家の設備や備品に何か不具合が起きた時に、どこからか工具と部品を取り出して来てあっという間に修理してしまう。これまで長い間、私に言っても、いつまでも何もしてくれないので、一人で対処するしかないと思い、対処方法を試行錯誤で学んできたのだろう。

私自身の健康問題は、世界中を飛び回っていた50代から60代までに大きな試練が何度も訪れた。アメリカでゴルフをしている最中にクリークを飛び損ねて足の踵を骨折した時は、アメリカの医師からは直ぐに手術すべきだと言われた。しかし、アメリカで手術するのは費用面を考えてもリスクが大きいと日本に一時帰国した。この時も、妻は私を車椅子に乗せて通院を手伝ってくれた。日本の医師は踵の複雑骨折は手術してもうまくいかないので、そのまま自然に治るまで大事にするしかないと言われた。その通り、自然治癒の方法をとった結果、今は右足と左足で少し高さが異なるが何とか普通に歩けている。

その後は、日本に帰国してからは前立腺癌にもかかり、いろいろな治療法を検討したが、最終的には放射線治療を選んで、寛解し、その後10年以上も再発は起きていない。それ以外にも、睡眠時無呼吸症候群など、いろいろな不具合が見つかっている。それらの根本原因は基本的には老化であり、完治は難しいと思っており、今後は穏やかに治療を続けるしかないと思っている。妻も最近は、老化に起因するいろいろな病にかかっており、いくつかの病院に通院している。私は昨年から、妻は今年から、後期高齢者向けの健康保険証も発行してもらい、今後は、お互いに助け合いながら緩い人生を送っていくつもりである。

私も妻も、後期高齢者になってから、一番恐怖に思っていたのが、運転免許証更新時の認知機能検査であった。二人とも、車の運転が出来なくなると日常生活で大きなダメージを受ける。暫くは、運転免許証を返還するつもりは全くない。車には高齢者向けのサポート機能をつけたし、運転も従来以上に安全運転に徹するつもりだが、運転免許証の更新ができないと何もできない。後期高齢者検定で実施する一番の難関である認知機能検査は、70歳以上から行われる高齢者講習で予告される。この中で一番難しいと思ったのが兵器、楽器、人体、家電製品など16カテゴリに属する絵を記憶する検査だ。

最初に見た時から「これは難しいな」と思った。16枚の絵を数分見せられてから、数字のテストなど、いくつかのテストを終えて、先ほど見た絵が何かを答えるのだ。こんな検査は、若い人でも簡単には出来ないのではないか?と私には思われた。それで、妻と一緒に予備テスト教材を買い揃えて認知機能検査向けの受験対策を考えた。どうも、16カテゴリーのテストは4パターンあるらしい。16x4で64枚の絵をA,B,C,Dと4カテゴリーに分けて、事前にしっかり覚えれば大丈夫だと確信した。これも妻は直ぐに覚えてしまい、私は、少し焦ったが、私も本試験の前には何とか覚えることができ、その結果、先々月無事に運転免許の更新が出来た。

金婚を迎えるというのは、単に「長生きしてめでたい」というよりも、その日から先は、お互いに助け合って、この先も実りある老後を過ごす始まりの日と思うべきだろう。日本では、平均寿命は女性の方が少し長いが、健康寿命は男女とも大きく変わりがない。つまり、女性は健康を害して寝たきりにならざるを得ない日々が長いということだ。私は、今現在は月に3日ほど会社に出勤し、2日ほど講演を行い、5日ほど自身と妻の通院に付き添う日々である。こういう日々がいつまで続くかわからないが、いくべき場所が、幾つかあるだけでも良いと考えている。

最近は、特に生成AIについて、会社の若い人たちと議論したり、大学での講演の際に、大学院生の意見を聞いたりするのが、とても楽しい。今の若い人達は、我々よりも将来に大きな不安を持っており、AIについても、いろいろな勉強をしているのが凄いと思う。今から50年ほど前にAIの研究者として入社、20年間ほど苦しんで諦めたAIだが、その時の経験は今、明らかに活きている。今の若い人達が、あの時の私たちと最も異なるのは、就職した会社が大きく変化する世の中で、何年持続できるのかわからない時代になったということだ。

今の時代は、勤続年数で評価されるとか、上司の言うことを真面目にやっていれば高い評価を得られる時代ではなくなった。生成AIは、これまで学んだスキルが役に立たなくなる可能性も生むだろう。その上、これまで企業において最も重要と言われてきたコミュニケーション・スキルだけで人脈を形成すれば昇進できる時代ではなくなってきている。若い人達は、今、Chat GPTを使いながら、これから起きる社会の大きな変化を少しずつ感じ始めている。そうした若い人たちとほぼ同じレベルで話し合えることが、今の私にとっては大きな幸せだと感じる。AI研究者として苦労した20年間が、今になって報われたと感じる日々である。

さて、これから、その生成AIが汎用AI(AGI)へと発展していく中で、私たち夫婦はこれからさらに少しずつ老いていく。後期高齢者になったと言うことは、これから終活をする時代だと言うことだろう。命が尽きた後に、子供達に迷惑になりそうなものは早く処分しなくてはならない。それが、実に沢山あるのだ。例えば、書籍もその一つだ。会社の役員室にあった大きな本棚に入れるためにと私費で沢山の本を買い、リタイアしてからもさらに買い増し、その本の数が、あまりにも多いので、今は倉庫会社に預けてある。全てを捨てるのは勿体ないので、どこか引き取ってもらえそうなところはないかと探している。この金婚の日を迎えて、その終活処理のスピードをもっと上げなくてはと思う毎日である。