(NHKニュースからの抜粋です)
ベラルーシの作家、アレクシェービッチ氏はウクライナ人の母とベラルーシ人の父のもと、ウクライナで生まれ育ちました。代表作に第二次世界大戦に従軍した女性たちの証言をまとめた「戦争は女の顔をしていない」のほか、「ボタン穴から見た戦争」「アフガン帰還兵の証言」など、国家に翻弄されてきた旧ソビエト諸国に暮らす人々の感情や記憶を聞き取り、著述したほか、2015年にはチェルノブイリ原発事故の被害者を取り上げた作品「チェルノブイリの祈り」などが高く評価され、ノーベル文学賞を受賞しました。
(以下、NHK記者からの質問への答え)
アレクシェービッチ氏
「誰も想像できませんでした。手に負えないナショナリズムが、ファシズムへとゆっくりと堕落していくようなものが、ロシアからやってくるとは」
アレクシェービッチ氏
「ほとんど眠れません。子どもの頃はずっとウクライナで過ごしました。そして夏になるたびに、おばあちゃんのところへ行っていました。今は私たちの村もおそらく爆撃されていると思います。私の親戚は今でもそこにいます。とにかく全く考えられないことです。自国(ベラルーシ)の政権のせいで、自分たちのことを侵略者の仲間だと感じ、なおさらつらいです。本当につらい。自分がベラルーシ人だと言うことを恥ずかしく思うのは初めてです」
アレクシェービッチ氏
「私は『なぜ黙っているのですか』と言わずにはいられませんでした。恐ろしいことはソビエトの時代が残っていることです。それは作りの悪い家や道路だけではなく、堕落した知識人が残るのです」
アレクシェービッチ氏
「90年代の変革について、市民は何が起きているのかほとんど理解できていませんでした。その後貧困が始まった時、すべてはゴルバチョフ(元大統領)や民主主義者のせいだと思うに至ったのです。プーチンはそのことを考慮に入れ巨額の資金をプロパガンダに投じました。そして多くの人々が彼を支持するようになりました。私たちが取り組まないといけないのは、この過半数を占めるプーチンの支持者と向き合うことであり、話をしないといけないのです。制裁が始まり、ロシアは大きな試練に遭うことになります。すでにルーブルは下落していますし、おそらく貧困が待ち受けているでしょう」
アレクシェービッチ氏
「ソビエト崩壊後、真の民主主義国家を作ったけれど、発展した経済もないし、家も道路も無い。足りないものばかり。それは西側のせいでしょうか。西側が私たちの代わりにすべてを作るべきだったのでしょうか。70年余り、ソビエト時代の思想の下で暮らし、その思想に何百万人もの人々を放り込み、残ったのは集団墓地と血の海だけだったとしたら、そんなにすぐに変わることはできません。どこからか美しい家やすばらしい思想や立派な工場を持ってくることなどできません。それは無理です。そのためには時間かけて準備し、真剣に取り組まなければなりません。強い艦隊や新型の爆撃機、それに新型の戦車などを使うのは、最も原始的で時代遅れなやり方です。つまり、彼は未来へと進めなかった人間なのです。彼が私たちを連れて行こうとする先は彼が理解できる場所、つまり過去なのです」
アレクシェービッチ氏
「彼は偉大なロシアを復活させたいのです。彼にはそうでないほかの世界など考えられないのでしょう。ロシアは、偉大なソビエト連邦が崩壊した時に感じた屈辱に耐えることができなかった」
アレクシェービッチ氏
「ウクライナが勝てば、プーチンはロシア国内で大きな問題を抱えることになるでしょう。そうなればもちろん、ルカシェンコも同じことになります。ウクライナの人々は今、自分たちの未来のために戦っているだけでなく、ヨーロッパのため、ウクライナの周辺の国々の民主主義のためにも戦っているのだと言うことができます。ですから、多くのベラルーシ人がプーチンと戦うために、それをなんと呼べばいいか…外国の土地へ向かいました。ウクライナ軍の部隊には多くのベラルーシ人がいます。なぜなら、ウクライナこそが未来への道を切り開いてくれると、皆が理解しているからです」
アレクシェービッチ氏
「私たちははっきりと自覚しないといけないのは、もし皆で団結しなければ、私たちはせん滅させられてしまうということです。今、プーチンの暴挙を前にして、皆が団結しています。闇はあらゆる所、あらゆる方角から迫ってきますが、どの国にも明るい側にいる人がいて、対抗しようとしているのです。私は自分がやるべきことをやるだけです。ただ座って「戦争と平和」を書いているわけではありません。何が起きているかを理解しようと努めています。人々の話を聴き、それについて書こうとしています。何が人を人でなくすか、何が人を人たらしめるかを。自分のすべき小さなことをやるべきです。私にとってとても大事なことばがあります。『誰もあなたに耳を傾けようとしない暗い時代はある。声を上げるのをやめたくなる。しかし声を上げなければ悲しみが生まれる。だから声を上げ続けなければならない』」