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450 Z世代への期待

2021年11月16日 火曜日

アメリカにおけるZ世代とは1996年以降に生まれた人々を言うが、今、この世代が全世界から注目を浴びている。それは、トランプ大統領の再選を阻止したのが、この世代だと言われているからか。正確に言えば、Z世代の人々はバイデン大統領を支持していたわけではない。どちらかと言えば、民主党の大統領候補選挙でバイデン氏と争ったサンダース上院議員の熱烈な支持者だった。それでも、トランプだけは絶対に再選させてはならないと、彼らが得意なネットを駆使して懸命な選挙運動を展開した事が大きい。

アメリカの世代定義は、ベビーブーマー世代(1946~1964生)、X世代(1965~1976生)、ミレニアル世代(1977~1995生)、Z世代(1996~2012生)となっている。1945年以前の戦前に生まれた世代は沈黙の世代と呼ばれ、特に分析される対象とはなっていない。このZ世代の最大の特徴は、昔、SONYの出井CEOが言い始めた「デジタルキッズ」そのものである。とにかくスマホを30分も離せない連中が31%もいる。片時も離せない人たちは14%。スマホを1日10時間以上使っていると答えるのが、男性で26%、女性で33%居るのだから驚く。それを聞いて「ろくでもない奴らだ」と決めつけるのは早計である。Z世代の人々にとってスマホは身体の一部なのだ。

さて、日本で、このZ世代に相当する人々を探すと、まず私の頭の中に浮かぶのは女子プロゴルファーである。賞金ランキングの上位5人に入っているのは稲見萌寧、古江彩佳、小祝さくら、勝みなみ、西郷真央と全員Z世代である。彼女らのゴルフを見ていると、これまでの日本のゴルフの常識を幾つも超えていることに気が付く。とにかく皆、同じようにスイングが綺麗で澱みがない。だから打球は真っ直ぐに飛び殆ど曲がらない。そして飛距離も正確で、グリーンに乗ればパターはすこぶる上手い。こんなに素晴らしいゴルファーは、男子、女子ともに、これまで日本に居ただろうか?いや、一人もいなかった。

だから、彼女らの素晴らしい技術は、たぶんコーチのお陰ではない。それでは、一体、誰が彼女らを指導したのだろうか? 私は、彼女らの教師はYouTubeに違いないと思っている。彼女らは、アメリカの一流プロのスイングをYouTubeで学んでいる。そして、スマホで自撮りした自らのスイングと比べて練習を重ねてきたに違いない。これがZ世代の勉強方法なのだ。アメリカの大学進学率は男子で30%、女子は40%で先進国の中では最も低い。しかし、現在のアメリカのZ世代の中高生は86%が大学への進学を希望している。自宅での勉強方法はYouTubeだ。わからない事があれば、先生にスナップチャットで尋ねて教えてもらう。

Z世代が生まれる前の年、1995年はインターネット元年と呼ばれている。Windows95が出荷され、パソコンが大ブームとなり、インターネットの普及に拍車をかけた。しかし、Z世代の彼らが10代を迎える頃には、もはやパソコンからスマートフォンの時代へと移って行った。だから、彼らは今でもパソコンは殆ど使わずに全てスマホで済ましてしまう。検索もGoogleではなくてYouTubeだ。全て動画で知識を得る。そして、メールは使わない。情報交換は全てスナップチャット(アメリカの若者世代で人気No1のSNS:画像は受信すると消滅し保存されないので気軽に送付できる)である。さらに彼らはFacebookを全く使わない。両親世代と交わりたくないとの思いがあるからだ。そして、Twitterはニュースを見るだけに使っている(私と全く同じだ)。

さらにアメリカのZ世代は、2001年9月11日に起きたニューヨーク同時テロを知らない。その代わりに、2008年のオバマ大統領の登場は鮮烈に覚えている。そして、その年に同時に起きたリーマンショックがアメリカのZ世代の心に深い傷を残している。両親やその友人など地域の人々が苦しむのを間近に見てきたのだ。仕事と自宅を失い、毎日、どうしても次の仕事が見つからないまま自尊心を失う大人たちをずっと見てきた。毎日のように、最低時給15ドルを求めるデモに出会い、莫大な学費ローンの返済で苦しむ大人たちの姿は彼らの人格を形成する思春期に起こった悲劇だった。

だから、彼らは大学に進学する気持ちは大変強いものの学費が高い一流大学は目指さない。奨学金が支給される大学に焦点を絞り、年額1万ドル以上の学費ローンは絶対に組まないつもりなのだ。そして、彼らは自分達の親世代であるX世代やミレニアル世代のように絶対に借金まみれにはならないと誓っている。18歳から24歳のZ世代の若者の36%は月に一度は自分のクレジットスコア(信用格付)を確認しながら使っている。親世代が飛びついた仮想通貨(ビットコイン)についてもZ世代の若者は全く冷ややかである。そして、20代で貯蓄を始めたZ世代の若者は35%にも及び、12%は老後資金の貯蓄だと言っている。彼らは、将来の年金など全く信用していないからだ。

そうしたZ世代の消費行動も驚くべきものがある。彼らは古着を買うことが大好きで、それを新たなファッションにまでしている。日本でもメルカリなど中古品活用が盛んだが、アメリカでも2017年から2019年までの2年間で中古品市場が大幅に伸びている。メルカリの山田CEOが苦戦しながらもアメリカ市場に多額の資金を投入している意味がよくわかる。その中でも、この2年間の中古品購入増加率を見てみるとベビーブーマー世代が15%増。X世代が18%増、ミレニアル世代が37%増なのに対してZ世代は46%増と積極的に中古品購入を増やしている。

そして、これはZ世代の若者が単にケチだからと言うわけではない。彼らは、社会的責任に対して極めて敏感なのだ。地球温暖化、気候変動、社会正義といった諸問題に対して極めて前向きに行動する。今回も、英国で開催されたCOP26に絡んでグレタ・トゥーンベリさんの言動に注目が集まったが、確かに、彼女は最初たった一人の運動として始めたのかもしれないが、この全世界のZ世代がグレタさんの味方についた事が運動拡大に寄与したのかも知れない。そして、彼らZ世代はBLM、#MeToo、LGBTQ+などダイバーシティ、インクルージョンを推進する社会運動にも積極的である。これも彼らが、学生時代に起きたフロリダやテキサスの高校における銃乱射事件が長期的な影響を及ぼしていると言われている。

もう一つ、このZ世代の消費行動がアメリカ経済全体にも大きな影響を及ぼしている。まず、彼らはTV放送を見ない。動画を見るのはYouTubeかネットフリックスかTikTokである。これまでアメリカの広告業界を牛耳ってきたTV業界が全く力を失った。長い間、オリンピック放送を独占して、IOCに対しても厳然とした支配力を持ってきたNBCでさえ、今年の東京オリンピックは殆ど視聴されることがなかったという。別に、東京オリンピックがつまらなかったと言うわけではない。TV放送を視る人が居なくなったというだけの話である。

その他の消費行動の変化についても、いくつかあげておきたい。Z世代が化粧品を買うときにはYouTubeで使い方と、その効果を見てから購入するので、これまで無料で化粧を指導してくれたお店には買いに行かない。また、Z世代は車には興味がない。運転免許証も慌てて取得することはない。UberやLyftなど移動サービスが幾つもあるからだ。それでも車を購入するときは、現在アメリカで主流となっているSUVではなくて中古のセダンを買う。多くの友人を乗せられるし、燃費も良いし、駐車もしやすいからだ。また、ゲームについても一人ゲームは購入しない。友達と繋がれるゲームを好む。

そんなZ世代が、白人至上主義のトランプ大統領を絶対に再選させたくなかった理由がもう一つある。それは各世代の人種構成にある。各世代の非白人比率は、ベビーブーマー世代が18%、X世代は30%、ミレニアル世代が39%で、Z世代は48%と半数近くになる。こうした世代ごとの人種構成の変化を見てみると、アメリカ社会の将来が見えてくる。Z世代が社会のリーダーとなる時代には、明らかにアメリカでは非白人が多数派になっている。その時のアメリカにおいて、現在のZ世代が持っている特長である、堅実さ、謙虚さ、社会に対する正義感などが、今より大幅に広がってくれば、アメリカが、再び、世界のリーダーになれるのではないかという希望が持てる。