2021年10月1日、私としては初めての著作である「2022年再起動する社会」がAmazonから予約販売開始された。書店での発売は10月18日からで、幸いなことに全国主要都市の著名な書店から多くの注文を頂いている。以前から講演依頼や原稿依頼にお応えしている中で「本を出してみませんか?」というお誘いは何度かあったが具体的な話に成就するまでには至らなかった。しかし、そのきっかけは突然やってきた。
昨年、コロナ禍の真最中に、古巣の富士通からお客様向けのセミナーである富士通フォーラムにて講演のお誘いを頂き「ポストコロナ時代に向けて」という演題でお話することを引き受けた。コロナ禍の中なので、当然形態はオンラインである。オンラインであることは対面でお話しできないという不都合はあるものの、主催者側の立場で見れば会場の予約も必要なく経費削減ができ、お客様側の立場から見れば、空いている時間にじっくり聴講することができるメリットがある。
このセミナーが終了した後に、その講演内容を、私が社外取締役を務めるゼンショーの取締役会でご披露させて頂いた。ご存知の方も多いと思うが、ゼンショーは、すき家、はま寿司、ジョリーパスタなど多数の業態を傘下に持つ日本最大の外食企業である。昨年、2020年4月に出された緊急事態宣言直後は全社の売り上げが急減し経営的にも危機的な状況に陥った。その後も、政府のコロナ対策は飲食業界を中心に規制強化が継続されてきた。しかし、元来、飲食業は昔からO157やノロウイルスなどの感染症に対して徹底的な予防対策を施している。従業員の手洗いの徹底や、厨房の器具や設備なども常時丁寧な消毒を施しているので、他の業種に比べたら感染症に対する認知度は極めて高い。
従って感染上の課題は店舗側ではなく、むしろ、お客さま側の振る舞いにあると思われる。その意味で、ゼンショー傘下の各業態において、殆どのお客さまは一人飯か家族飯で、見知らぬ他人と長時間会話をする状況にはなく、コロナ禍でも極めて安全な環境にあった。それでも、飲食業をスケープゴートとする世の中の風潮には逆らえず、イートインに抵抗感を持つお客様のために、テイクアウトとデリバリーを徹底的に拡大する施策を取った。デリバリー、テイクアウトに適した専用のメニューを考案し、持ち運びやすい包材にも工夫を凝らした結果、最近の業績はコロナ禍前を凌駕する状態にまで復活しつつある。
こうしたゼンショーにおけるコロナ対策の状況を見ていると、単に飲食業という「業種」で括って考えるのではなくて、そのビジネスのやり方である「業態」について議論する方が、より重要であることがわかる。なお、ゼンショーでは中国や東南アジアの店舗では、既にコロナ禍以前からデリバリーの方がイートインを凌駕するようになっていた。日本でもコロナ禍を契機に変化した飲食業の新たな「業態」は、コロナ禍が収束した後も継続される可能性は非常に高い。
むしろ、コロナ禍以前の外食業は、コンビニの中食と熾烈な競争に巻き込まれつつあった。しかし、今回、調理したてで美味しいテイクアウトメニューが数多く開発されたことで、徐々にコンビニとの競争に勝利しつつある。しかも、注文に応じて調理するので在庫を持たないですみ、現在大きな問題となっている食品廃棄問題にも大きく貢献することになる。このように、飲食業界だけを考えてみても、コロナ禍は、従来の業態が本当に最善であったかを問い直すきっかけとなり、その解決策は、コロナ禍が収束した後も事業継続の要になることが予想される。
私がゼンショーの取締役会でお話しした講演「ポストコロナ時代に向けて」では、従来の「業態」を見直し、新たに開発された「業態」が、コロナ禍が収束した後も継続される可能性が高いことを、色々な分野に関して述べさせて頂いた。この話を聞いていた同僚の社外取締役である安藤隆春氏から、「伊東さん、これ本にしましょうよ!」とのお誘いを突然受けた。安藤さんは、橋本内閣において総理大臣秘書官を務められ、東日本大震災の時には警察庁長官として全国の警察官を被災地に集めて復興に向けての陣頭指揮をされた。
本来は、私など直接お話ができる方ではないのだが、ゼンショー傘下にある北海道十勝の黒毛和牛の牧場見学を泊まりがけで、ご一緒させて頂いてから親しくお話をさせて頂くようになった。安藤さんは、若い時に警察庁からフランス国立行政学院(ENA)に留学されパリでの生活体験から、とてもお洒落で、文化・芸術の分野にも造詣が深い。現在、著名な芸能プロダクションの社外取締役も勤められているほか、いくつかのタレントエージェンシー、文化団体、出版社の顧問もされている。安藤さんが私に出版をお誘いして下さったのは単なる思いつきではなかった。
今回、私の著作の出版をマネージメントして下さったのは、安藤さんが顧問を務めるプロダクションSpeedyを主宰する福田淳氏である。福田さんは、ソニー・デジタルエンタテイメント・サービスの社長を経て、2017年、株式会社 スピーディ(Speedy)を創業され、ブランドコンサルティング、タレントエージェンシー、出版、農業、リゾート開発やスタートアップへのエンジェル投資など幅広く事業をされている。また、福田さんは、これまでの長年にわたるハリウッドでの業務経験を活かし、日本の芸能界に特有な風習に対する改革者でもある。その一例として、現在はSpeedy所属タレントである「のん」の地上波TVへの復活がある。私が大好きなニュース番組であるBS-TBS 1930に常時登場される堤 伸輔さんもSpeedyの顧問である。堤さんが番組でお話される造詣深いコメントに、私はいつも感心させられている。
また、今回、この著作を上梓するにあたって全く素人の私を優しく指導して下さったのが、Speedy所属の編集者である井尾淳子さんだった。このコロナ禍の中、対面でお会いしたことは一度もないがZoomオンライン会議やチャットやメールで頻繁に丁寧な指導を受けた。正直に申せば、私は書籍の出版に際して編集者の存在が、こんなにも重要な仕事だとは今まで全く知らなかった。井尾さんから指摘されることは全て少しも反論できる余地がなく、私も素直に納得して指導に従った。お陰様で、半年近い丁寧な指導を受け、「本の書き方」の基礎が少しわかったような気がしてきている。
私は、これまで講演ではそれなりの評価を受けているが、著作では全く経験が無いので、この本がどれほど売れるか全く自信がない。せめて、お世話になった方々に大きなご迷惑をおかけしないよう、現在、知人や友人に自分でできる範囲でのPR活動を手掛けている。もし、今回の上梓がうまくいけば、第二作、第三作と、今後も著作活動を続けていきたいと考えているが、さて、どうなることか。