誰が、どこで、何のために行なったのかは全く分からないが、COVID-19にはHIVウイルスの一部ゲノムが組み込まれているという。もしかすると、人工的に作られたかも知れない、このウイルスは、人類がこれまで経験したことのない特性を持っているので、感染症の専門家でも、その正体が分からない。無症状感染者が感染能力を持つとか、一度陰性になった患者が再び陽性になるとか、抗体を有しても再び感染する可能性があるとか、なんだかHIVの多くの特性を受け継いでいるようだ。
もし、HIVとかなり近い特性があるとすれば、発見されてから40年近く経っても、未だにワクチンが開発されていないHIVと同じく、ワクチンの開発は巷間で噂されているほど簡単ではないかも知れない。つまり、COVID-19と人類の戦いは長期間に渡って続くと考えた方が良い。もし、そうだとすれば、経済的打撃は計り知れないものがあるが、もっと心配なのは将来がある子供や若者たちの教育である。ようやく、日本でもオンライン教育が話題に上がってくるようになったが、オンライン教育とは本来、COVID-19対策としての一時凌ぎであるべきではない。
そもそも、同じ年の子供たちを一同に集めて一人の先生が一斉教育するという形式が不自然だと考えた方が良いだろう。明治政府が導入した今の日本の義務教育は、1807年にドイツのプロイセンが富国強兵政策として始めた「逃亡しない従順な徴兵候補を育成するための制度」であった。そのため、皆が、一定水準の知識を習得することが重要で、秀でた才能を育むことは初めから考えられていない。むしろ、政府への批判を抑制するための洗脳教育に主眼が置かれていた。
一方、日本の江戸時代まで行われていた寺子屋は、異なる年代の子供たちを集めて、それぞれの理解の進捗に合わせた個別教育が行われていた。この結果、緒方洪庵や福沢諭吉など、明治の日本を支える多くの秀才たちを輩出した。今の日本の一斉教育は、優れた秀才たちの発達を抑制し、付いていくのが困難な子供たちを落ちこぼれさせている。1億総平均の教育制度で、国を起こすイノバーションは生まれない。しかし、一人一人の学生に対して丁寧な個別教育を人間の教師に委ねるのは全く無理がある。まさに、人工知能を駆使したオンライン教育の出番だろう。
アメリカには「不登校」という問題がない。むしろ、富裕層の子供たちは、昔から自宅で家庭教師に教育をさせていた。そして、1993年、全米各州でホームスクーリングが合法となった。これは、多発する銃乱射事件、公立学校の教師品質劣化の問題などをきっかけとして、オンライン授業によるe-ラーニングが注目を浴びるようなったからだ。現在、アメリカの多くの大学がホームスクーリング卒業生に入学許可を与えている。むしろ、飛び級入学を許可された神童たちの大半はホームスクーリング卒業生だと言われている。
こういう話をすると「それじゃあ、アメリカは子供たちの社会教育はどう考えているのか?」と心配する向きもある。それは、全く余計なお節介である。アメリカの子供たちは集団生活をするための社会教育はフットボールやアイスホッケーなどの団体スポーツとかボーイスカウトやガールスカウトなど集団活動によって、きちんと社会教育を受けている。むしろ、学習障害やパニック障害などに苦しんでいる子供たちこそ、学校は苦痛の場所でしかない。公立学校への予算が毎年削減され続け教育品質の劣化が問題となっているアメリカではあるが、日本ように学校でのいじめ問題で自殺にまで追い込まれる話は殆ど聞かれない。
さて、このCOVID-19の騒ぎが長期化すれば日本経済も崩壊状態になる。「会社も倒産し、もう都会はこりごりだ。故郷に帰って農家でも始めよう」という若者が今よりも増えるだろう。これは長期的に見れば、個人にとっても、日本社会にとっても良いことに違いない。しかし、これまでも都会の喧騒から過疎の田舎に帰った若いカップルが一番悩む問題は子供の教育問題だった。すでに、小学校も中学校も廃校になり、小さな子供を通わせる学校がないからだ。これこそ、オンライン授業によるホームスクーリングが救済してくれる絶好の対象だ。むしろ、一斉集合教育を行っている都会の学校より質の高い教育が受けられるかも知れない。
現在、アメリカで一番問題になっている教育問題は大学授業料の高騰である。今回のCOVID-19の問題により、入学予定者の20%が大学入学を辞退しているという。もちろん、経済の悪化で授業料を払える見込みがないからだ。現在、アメリカの上位100位までの大学の年間授業料は900万円である。4年間で3600万円、これで日本からアメリカの大学に留学できる学生は、どれだけいるだろう。もちろんアメリカ人でも、そう簡単には払えない。学生ローンを借りた学生が卒業後に自己破産するのが後を絶たない。こんなに高い授業料でも、中国やアジアの富裕層の子弟たちのアメリカの大学への入学は、どんどん増えている。国民の不満は強まる一方である。
こうした大学教育における格差是正への取り組みの一つとして、オンライン授業がある。それが、大規模オープンオンライン教育MOOC(Massive Open Online Courses)である。私は、2012年まで、MOOCの日本組織であるJMOOCの理事を努めさせて頂いた。当時の理事長は、元早稲田大学総長で、当時放送大学理事長だった白井克彦先生、同じく理事には、東進ハイスクールの永瀬社長もおられ、ここで私は大学におけるオンライン授業の勉強を沢山させて頂いた。
この中で、私が、一番感動した話は英国のThe Open University(英国オープン大学)である。1963年に設立された公立大学で、全世界からオンラインで18万人の学生が授業を受けていて、80%近くが働きながら学んでいる。世界大学ランキングも日本の東大とほぼ同格で、英国の大学満足度ランキングでは堂々の1位である。オフに向けてはバッキンガムシャー州に48ヘクタールもの広大なキャンパスを持っている、このオープン大学が2012年Future Learnという名のMOOCを創設した。今や、学ぶ気があれば、オンライン授業により、どこに居ても学べる環境ができた。
このCOVID-19の喧騒の中で、日本の中でもオンライン授業を単なる一時凌ぎの手段と考えずに、むしろ、日本の将来を担っていく、次の世代を育む新しい教育システムとして発展させていくべきだと願っている。