私は、昔から「小銭入れ」を持つことが大嫌いだ。だからキャッシュレスの普及は、大歓迎である。一方で、私は金融取引詐欺に対しては極めて臆病である。提供されるシステムに不信感を持っているわけではなく、自分自身が、そうした詐欺に対して防御できるだけの用心深さを持っているのかについての自信がない。だから、今のところ、ネットバンキングにもスマフォ決済にも手を染めていない。
今から、20年前、アメリカに単身赴任した時に、既にアメリカはキャッシュレス社会だった。現地のアメリカ人は、ポケットに10ドル紙幣を3枚、1ドル紙幣を5枚ほど裸で持っているだけで、2−3ドルの駐車料金ですら、クレジットカードで支払っていた。当時の、クレジットカードは、今のようにICチップは実装されておらず、磁気ストライプだけだったので、スキミングはいとも簡単で、クレジットカードの不正請求は日常茶飯事だったにも関わらず。だから、私は、それが嫌で、少額決済はいつも現金で支払っていた。
いつも、ポケットには、常時、総額500ドル位の20ドル紙幣を持っており。お釣りのコインをもらうと25セント硬貨以外は、チップとして返金していた。都合の良いことに、アメリカでは支払い時にチップを渡しても嫌がる人はいない。25セント硬貨は、私の単身生活には必須のアイテムだった。アメリカの洗濯機は音が大きいので、アパートの室内に置くことを許されず、洗濯はアパート敷地内に設置されているコインランドリーで行う必要があった。そのコインランドリーが25セント硬貨しか受け付けなかったのだ。
それでは、一般的なアメリカ人はクレジットカードの不正請求に対して、どう対処していたのだろうか? 私は、いつもニコニコ現金決済をしていたので、3年間の駐在期間で不正請求には一度も会ったことがなかった。当時の、アメリカでは、一般的に平均して月に2−3回は不正請求が来るのだそうだ。しかし、アメリカのクレジットカード支払いは、不正請求があるとの前提で、銀行口座から直接引き落としすることはしていなかった。毎月、支払い請求書が郵送されてくると、支払いは小切手を返送することで行われていた。
友人に聞くと、支払い請求書の中で、身に覚えのない項目については、二重線で消し、合計から差し引いた金額分の小切手を修正した請求書と一緒に返送すれば事は済むのだという。身に覚えのない請求分は、サインをした証拠がないのだから、クレジット会社は、再度請求してくる事はないのだという。もちろんクレジット会社は不正請求してきた相手に支払う事は絶対にしない。実に、うまく出来たシステムである。
それでは、現在、小銭入れを持つことが嫌いな、私が、どのように小口取引でキャッシュレス決済をしているか、ご紹介しよう。簡単に言えば、銀行口座と紐付けされていないプリペードカードである。一番多用しているのは、交通系カード(私の場合は首都圏私鉄向けPASMO)だ。私の移動は新幹線が多いので、駅で弁当を買ったり車内で飲み物を買うのにも全て使える。ちょっと難解なのが、JR東海のEXカードとPASMOを組み合わせて使うことだ。面倒を避けるために、PASMOで一度駅を出てから、EXで新幹線専用口から入り直したりしている。
PASMOのチャージは最寄駅で行うのだが、外出用の財布と自宅用の財布にPASMOを、それぞれ1枚ずつ入れて、時々交換して駅でチャージしている。このカードは最大2万円までしかチャージ出来ないので、少し面倒だが、万が一紛失しても損害は最大2万円で済むので安心だ。それが、銀行口座やクレジットカードと紐付けされていたら、不正行為で損失額はいくらになるのか計り知れない。
もう一つ、キャッシュレスに使っているのが、楽天Edyカードだ。私の場合は、ANAのマイレージカードと共通になっている。私は、カルフォルニア州シリコンバレーによく行くが、そのときにはサンノゼ空港直行のANA便を使っているので、毎年、このANAカードには数万マイルのポイントが貯まる。このポイントをインターネットで楽天Edyに移す。現物のカードへの現金チャージは、近所のファミリーマートで可能だ。このEdyも使い勝手がよく、キャッシュレス決済の手段として結構重宝している。
最後は、クレジット決済のポイントだ。以前、勤めていた会社で出張や接待の前払いに使っていたクレジットカードがある。このカードは、今も、仕事専用のカードとして使っている。また、仕事のために必要な書籍の購入も、このカードで決済しているので、毎月、結構な金額になる。このクレジットカードのポイントは、クレジットカード会社が定める、いろいろな商品と交換できるのだが、どう見ても、私が欲しいと思う商品は見当たらない。
それで、ポイントが相当溜まっていたのだが、最近、このポイントがセブンイレブンが発行しているNanacoカードで現金化できることを知った。これも例によってインターネットで、Nanacoカードに転換、早速、近所のセブンイレブンで無事チャージ出来た。これも、全国どこのセブンイレブンでも使えてとても便利である。こんなに便利なカードがあれば、無理してセブンペイなど考えなくてもよかったのではないかと思う。
さて、私は大阪南港に本社がある会社の社外取締役をしていて、毎月、何度か通っている。定宿は、会社の近くにあるハイヤットだが、ホテルの夕食は結構高いので、近くの駅にあるレストランのサイゼリアで食べていた。サイゼリアは安くて美味しいイタリアンで、気にいっていたのだが、クレジットカード以外のキャッシュレス決済が出来なかった。「何でかな?」と思っていたら、先日、ある経済誌でサイゼリアの社長がキャッシュレスに対して抵抗感があるという意見を述べられていた。サイゼリアは、意図的にキャッシュレスを遅らせているのだ。
ところが、先日、いつも行くATCという駅で、私が社外取締役を勤めているゼンショー が「すき家」を開業した。「すき家」はサイゼリアとは全く反対で積極的にキャッシュレスを導入している店だ。PASMOでもEdyでも問題なく使える。ゼンショー の基本的な考え方は、外食は「注文」、「調理」、「配膳」、「支払い」の4つの業務で構成されており、これらを徹底的に合理化することを追求している。だからキャッシュレスは「支払い」の合理化として、非常に重要な構成要素だという理解だ。当然、私は、今後は、キャッシュレスが自由に使える「すき家」を利用するだろう。
キャッシュレスは、今後のFinTechの中でも重要な要素で、日本ではPayPayが大胆な投資をしているが、これは将来的には融資事業で大きなリターンを目指しているからだと思う。確かに、それも大きな流れだが、一方で、私が利用しているポイント換金事業は、今後、「仮想通貨」でも「デジタル通貨」でもない、「独自の通貨」としての機能を果たしていくのではないかと注目している。