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412  日本の深刻な人手不足 (2)

2019年7月2日 火曜日

6月24日の深夜、たまたま目覚めて見た、NHKのドキュメンタリー番組「ノーナレ」で報道された、今治タオル業界でのベトナム人実習生の過酷な労働実態。私も、これを見て、物凄く腹が立って、その後、朝まで一睡も出来なかった。その後、この番組を見た多くの視聴者の間で「今治タオル不買運動」が炎上している。今治タオル工業組合は、NHKに対して、この報道された企業は組合企業ではないと抗議したが、その後、今治タオル工業組合各社が下請けとして利用していた企業であることが判明し、ネット炎上は、さらに一層燃え盛っている。

今や、日本の深刻な人手不足を補うために、外国人労働者は欠かせない存在となった。農業、建設、小売、外食、介護などの業界では、もはや外国人労働者なくしては、1日なりとも回らない。外国人労働者の存在の是非を論じている余裕は、今の日本にはもはやない。彼らは、日本人と、同じ給与体系、労働規制のもとでは、日本人より遥かに勤勉に働き、生産性も高い。しかし、この外国人労働者を日本人より安い賃金で働く安価な労働者として見るのならば、そうした考えには、もはや持続可能性はない。

もう一つの誤った考えは、外国人労働者の招聘は、単純労働者ではなくて、高度技能労働者に限定するという考え方である。今の、日本で深刻な人手不足に陥っている職種は、どちらかと言えば、高度技能労働者ではなくて、単純労働者だからだ。確かに、どの企業も、大学新卒の採用においても、とてつもなく苦労しており、高度技能労働者も不足しているようにも見える。しかし、世界的に見れば、欧米を初めとして、大学卒の高学歴労働者が大量に余っている。欧米だけでなく、中国や韓国でも大学卒業者が深刻な就職難に喘いでいる。だから、日本の大学新卒に対する採用難は、一時的なものだと思った方が良い。

さらに、二つ目の誤った考え方は、実習制度の名の下に、安価な労働力として、外国人労働者を利用しようという考え方である。冒頭の、NHKノーナレの今治タオルの例が典型だが、もはや、こうした考え方は世界では通用しない。私の友人が、外国人採用の状況を調べるためにフィリピン、インドネシアを訪問したが、その実態に驚いたという。つまり、彼らの給与は日本の5分の一以下であり、日本に働きに来ることが、さぞや憧れだろうという日本側の期待は全く裏切られたというのである。彼らの選択肢は、日本だけでなく、ドイツや中国まで視野に入れており、日本以上に高い賃金で働ける可能性が高いからだ。特に、中国では富裕層の介護施設では日本とは比べものにならない高給が得られるという。

そもそも、フィリピン、ベトナム、インドネシアといった東南アジアの人々の賃金が日本に比べて遥かに安いという感覚自体が誤っている。昨年、どうして3,000万人もの観光客が日本を訪れたかについて真剣に考えて見たことがあるだろうか? まず、3,000万人の観光客の90%近くが、中国、韓国、台湾、東南アジアの人々で、欧米人は極めて少数である。彼らアジアの人々が、突然、日本文化の良さに目覚めたのだろうか?そんなことはありえない。彼らが、突然、日本に押し寄せているのは、日本の物価が欧米に比べて遥かに安いからだ。しかし、物価が安いということは、実は賃金が安いことを意味している。

日本が過去20年間、賃金の上昇が止まっている間に、中国や東南アジアの人々の賃金は10倍以上に上がっている。物価が安いことは、観光旅行やショッピングには大変都合が良いことだが、一方で、賃金が安いことは、出稼ぎに行くには最悪だ。その上、さらに労働条件まで過酷だという噂が広まったら、もう本当に日本に外国人労働者は誰も来なくなる。今、人手不足で悩んでいる企業の殆どは、賃金水準が低い。賃金が安いから、応募者が来ない。一定以上の賃金水準の企業であれば、今でも、人手不足は、それほど深刻ではない。それで、安価な労働力として外国人労働者を採用したがっている。そもそも、そうした考え方が成立しなくなっている。

つまり、誰もが働きたくない低賃金でしか成立しえない産業は、もはや持続性がない。そうした事業は、もう日本では存続できないのだ。それよりも、いかに高い生産性を実現するか? あるいは、もっと高い付加価値を創り出すか?が重要である。ロンドンのウルトラ・ファスト・ファッション企業であるプライマークは、日本で言えば銀座通りに相当するオックスフォードストリートで2,000坪の店舗を有し、価格はH&Mの2/3、英国では一位のアパレル企業となった。ロンドン市内で短納期に縫製することにより、過剰な在庫をなくして、バングラディッシュやカンボジアなどの途上国の低賃金で製造するH&Mに打ち勝った。

今や、日本で働く外国人労働者は、留学生のアルバイトまで含めると300万人を超えていると言われている。これは、全労働者の5%近くにまで達する水準である。日本は、既に、欧米各国と比べても遜色ない移民国家である。東京都内の地下鉄に乗れば、外国人が過半数を占めている車両も少なくない。その内の多くが、どう見ても観光客とは思えない。こうした外国人労働者を、どのようにして日本に同化させるのか? あるいは、英国やドイツが失敗したように、お互いに干渉しないという多文化主義を押し通すのか? 今や、喫緊に、日本の決断が迫られている。