慰安婦問題から徴用工問題、レーザー照射問題など、最近の韓国の日本に対する意識は異常とも思われる段階にまで高揚し、我々日本人の理解を超えている。一方で、3,000万人を超えた日本への観光客の第一位は中国人であり、第二位は韓国人である。日本の若者が韓国文化を好むのと同様、韓国の若者の日本文化に対する憧れも相当なものである。過去の歴史問題を抱える日韓の融和は容易ではないと言われているが、私は、そんなことはないと信じている。私たちは、お互いの国が抱える深刻な課題をもっと良く理解することが必要である。
そうした意味で、今回読んだ「82年生まれ、キム・ジョン」は、現代の韓国が抱える悩みを理解する上で、私には大変参考になった。この本を書いたチョ・ナムジョ女史は、韓国におけるベストセラー作家で、この「82年生まれ、キム・ジョン」は100万部を超える異例の大ベストセラー小説となり、既に、映画化も決定している。一方で、この本は韓国の恥部を著した忌まわしい小説として、K-POPのアイドルが、この本を読んだというだけで炎上し、社会から敵視されるという社会問題まで起こしている。
OECD加盟の先進国の中でも際立った女性蔑視の国として名高い韓国。米国LPGAの上位を韓国人女性が独占するようになったのも、彼女たちが、女性には未来がない韓国から脱出するための手段としてゴルフを選んだからだと言われている。この著作は、そんな韓国の女性差別の歴史を母親から自分に至るまで強い怨念のもとで描いている。しかし、この本を読んで、我々、日本人が「韓国って、酷い国だな!」と思うのは、少し早計である。程度の差こそあれ、私たち日本社会にも未だに存在する女性蔑視の原点が、この韓国文化にあると思った方が良い。
日本が韓国に比べて女性蔑視の考え方が、少しだけマシなのは、明治維新で日本が韓国より少し早く欧米文化を取り入れ始めたからだと思われるので、韓国の女性蔑視も、時を経れば段々と改善するだろうと思われるかも知れないが、実情は、それほど容易ではない。この本の読者層である、20−30代の女性は「これは、まさに私の物語です」と力を込めるのに対して、男たちは、お互いに小声で話しをするほど背筋がひんやりする怖い本なのだ。
この本が暴いている問題は、韓国の過去の「女性蔑視」の問題だけではなく、現代韓国男性の「女性嫌悪」の問題を正面から突いている。これまでの韓国は、女性蔑視の観点から意図的に女子を堕胎し、男子を選別してきた。これは、近代中国も同じである。この結果、男女の数のバランスが極端に不均衡になった。その結果、かなりの数の男性が、韓国生まれの女性とは一生結婚できないのだ。しかも、女性の大学進学率が高まったことで、女性の男性選別の基準は従来に比べて極めて高くなった。一方、韓国の男性には、先進国では珍しい徴兵制があるため、兵役の間に挫折する男性も少なくない。その結果、若年層の男性に、新たな「女性嫌悪」の感情が高まっている。
この本の主人公も、結婚し出産したため退職に追い込まれて、仕方なく専業主婦となり、なんとか子供を抱いて公園デビューを果たすが、ここで見知らぬ若い男性から「いい身分だな」と非難されて大きなショックを受ける。本来なら、国民一人当たりのGDPでは、とっくに、日本に追いついて、今頃は、日本を追い抜いていたはずの韓国経済は、日本以上に深刻で大きな停滞を招いている。日本から奪い取った液晶や太陽光パネルは、もはや中国に乗っ取られ、論理半導体も台湾に奪われ、近いうちにメモリーも中国に奪われるだろう。日本が陥ったジレンマに韓国も足元を掬われている。
70−80%と言われる世界一の大学進学率を誇る韓国。しかし、今の韓国では、それほど大量の高学歴人材を必要とはしていない。その結果、韓国社会は人材が余剰となり、若者の失業率が高いために、韓国の大手企業は50代の中高年齢層に対して早期退職勧告をするのが一般的だ。ところが、高度成長期の時代が日本より遥かに短かった韓国では、未だに、充実した年金制度が確立されていない。充実した年金制度が出来上がる前に高齢化社会を迎えた韓国の高齢者は極めて惨めである。
今の韓国で、日本に対して大きな声をあげて非難している人々の殆どが、こうした困窮を極めた50歳以上の高齢者だと言われている。それは、20-30代で日本に憧れる若者達とは好対照である。同じ、構図は日本にもある。K-POPに憧れ、韓国を頻繁に訪れ韓国料理を楽しむ、20-30代の日本の若者。逆に、嫌韓主義を貫き、街頭やネットでヘイトスピーチをしているのは、殆ど50代以上の人々ではないかと言われている。こうした現象を冷静に見ていると、現在、困った状態にある日韓関係の将来は、そう悲観したものにはならないようにも見える。
そして、この本が発売されると同時に韓国で起きた朴槿恵前大統領の訴追運動に、政治活動に目覚めた多くの女性が街頭デモに積極的に参加した。一方で、この運動に参加した多くの女性達が違和感を覚えたのも事実である。それは、朴槿恵前大統領を批判する言説や態度の中に「女性嫌悪」の言葉が数多くあったからだ。文在寅政権が誕生した直後から起きた韓国の#MeToo運動は本場米国のハリウッドを凌ぐものとなった。その波及効果は、韓国の権力中枢である検察から始まり、芸能界、大学、映画、文学などあらゆる分野に拡がった。
こうした韓国の大きな潮流を見ていると、今、日本のメディアで注目されている「反日」という運動以上の大きな流れが、「女性蔑視」や「女性嫌悪」という韓国の永い歴史を支配してきた大きな課題に対して起きようとしている。我々は、韓国という国を、もっと冷静に見守る必要があるだろう。そして、将来、「女性差別」という問題に関して、日本が、逆に韓国から素直に学ぶべきことが出てくるかも知れないと思った方が良い。