2018年12月 のアーカイブ

404  IWC(国際捕鯨委員会)脱退について

2018年12月28日 金曜日

12月26日、日本政府はIWC(国際捕鯨委員会)からの脱退を表明した。このことは世界中から驚愕を持って迎えられ、その後の日本国内メディアの論調を見ても、誰も支持していない点で一致しているのは、近年では珍しい。これまで6年間にわたり安部総理が命がけで努力を重ねてこられた「地球を俯瞰する外交」の成果が全て吹き飛んだ。自民党の中にも、国際派を自認する議員が沢山おられるのに、なぜ、このような愚行を許したのか、私には理解出来ない。

クジラを食べることは日本古来の食文化であるという主張は、私にも理解できる。実際、戦後の食糧難の中で、私達は鯨肉によって生きながらえてきた。しかし、今の日本は、イヌイットの人たちのように鯨を食べなければ生存が侵される事態に陥っているわけではない。そもそも「固有の食文化」には、どれだけの主張が許されるのだろうか? 一つの例として、隣国である韓国の犬を食べる食文化について考えてみたい。欧米人の間では、「犬を食べる」こと自体が話題にすることすら忌まわしいと考えられており、この「韓国の食文化」なるものが、どれだけ韓国と韓国人を貶めているか計り知れない。

ヨーロッパ人にとっての「犬」は、実は大恩人である。アフリカからヨーロッパ大陸に渡ってきた彼らの祖先は、1万年以上も前から犬と共同生活を行い、犬に狩猟を助けてもらっていた。彼らをヨーロッパの飢えと寒さから救ったのは犬だった。実際、犬との共同生活を行う習慣がなかったネアンデルタール人は、その飢えと寒さから絶滅したと言われている。もともと、犬の祖先であるオオカミは、人間を襲う習慣がなく、人間に対して親近感を持っていたと言われている。ローマの建国者がオオカミに育てられたと言い伝えられていることも、あながち無縁ではないだろう。

アフリカでは、つい最近までチンパンジーを含む猿を食べる、我々から見ると信じ難い食文化があった。彼らが、そこまで飢えていたのか知る由もないが、チンパンジーは森に住んでいるので、食べるものは、他にもあったような気がしないでもない。しかし、こうした猿を食べるという奇習で、結果として、彼らは、エイズ感染という大きな復讐を得ることになった。その結果、アフリカ大陸では、今でもエイズが猛威を振るっており、多くの命を奪っている。

欧米人は、クジラを食するという文化はなかったが、石油が発見される近年までの間、ランプの油を取るために、膨大な数のクジラを乱獲していた。この責任は重大であり、クジラを食する日本の食文化に対して、文句をつける方がおかしいという論調は、一見、正しいようにも見える。しかし、彼らはクジラに対する考え方が変わったのである。これは、クジラそのものより、同じ海洋哺乳類であるイルカを例にとって考えるとわかりやすい。

近年、イルカのIQはチンパンジーよりも高く、知力において人間に最も近い生物として意識されるようになった。日本では、イルカやクジラを魚の仲間として考えている点で、こうしたイルカの高い知能に関する意識が低い。昨年夏に江ノ島で開催されたヨットのプレ・オリンピックにおいて、競技者を接待するアトラクションとしてイルカショーを企画したら、大ブーイングで欧米の競技参加者からショー見学をボイコットされたという事実は、あまり大きく報道されなかった。

それでは、なぜ、イルカが人類の祖先に最も近いチンパンジーよりIQが高いのだろうか? それは体毛がないからだと言われている。皮膚は脳の原型であり、多数のセンサーと情報ネットワークが張り巡らされている。体毛がないと、その皮膚が、直接外界と接することができるので、知能が高度に発達するのではないかと言われている。人類とチンパンジーは、DNAでは、たった2%しか違わないが、体毛があると無いとでは大きく違う。イルカは、体毛がないことで、チンパンジーを超える知的能力を得たのであろう。

欧米人にとって、日本人がチンパンジーより知能が高いイルカを捕獲し食べることこそ、韓国人が犬を食べること以上に野蛮な行為だと考えている。クジラやシャチも、イルカと同じ海洋哺乳類であるが、あまりに大型で、イルカのように精密なIQ測定は行われていない。しかし、彼らの行動を観察していれば、多分、イルカと同様の高度な知能を有していることは容易に想像できる。IWC脱退を支持する人達は、IWCが「クジラ資源の保護と活用」よりも「クジラの捕獲禁止」を目指していると非難しているが、それは全く正しい。IWC加盟国の多くが、クジラを捕獲して食べることはダメだと言っている。

それでも、もともと肉食文化の欧米人が、コメを主食としてきた菜食主義の日本人に対して何を偉そうなことを言っているのかという反論もあるだろう。それは、尤もなことだが、最近、欧米ではビーガン(完全菜食主義者)の台頭が著しい。インドに多いベジタリアン(菜食主義者)とビーガンは、どこが違うのだろうか? ビーガンは動物の肉は食べないが、たんぱく質はきちんと摂るという点で大きく違う。大豆のような植物性たんぱく質をベースに人工肉を作って、今までと同じ食習慣を続けようというものである。彼らは、豆乳からヨーグルトまで作る。

このビーガンこそ、まさに、日本の寺院を原点とする精進料理である。日本には、こうした世界に誇れる先進的な食文化がある。日本の地域を活性化するための食文化としては、もっと、世界に愛されるものを選択すべきだろうと思う。

403   日立がABB の送配電事業を買収

2018年12月17日 月曜日

本日、日立製作所がABB 送配電事業を8,000億円で買収すると発表した。その、発表に立ち会ったのは、もちろん日立製作所会長で経団連会長の中西宏明さんである。私は、中西さんから、これまで何回も日本の電力送配電に関する熱い思いを聞いていたので「中西さん、とうとうやり遂げたな」と、今日の発表を聞いて改めて大きな感銘を受けた。このABBの送配電事業買収は、単なる日立の事業分野の拡張に止まらない中西さんの熱い思い入れがある。

今、メディアに取りざたされている英国の原発事業について、これから中西さんが、どのような決断を下されるのか私には全く思いも及ばない。それは、とりあえず置いておいて、中西さんの強い思い入れは、理想的な発電形態とは一箇所で大規模で発電する集中型ではなく多くの場所で中小規模で発電する分散型だということである。災害大国日本では分散型によるリスク回避は極めて重要な課題である。もちろん、この中小規模発電の中には太陽光や風力、地熱や小水力発電も含まれる他、ビル・ゲーツが推奨する冷蔵庫大の密閉型原子力発電炉も含まれるだろう。

ところが、今、日本では太陽光、風力発電などの再生可能エネルギーを用いた発電に関して、既存の電力網との接続が大きな問題になっている。もともと、日本の9電力会社は、極めて高品質の電力を提供するだけでなく、その地域が必要とする電力需要に対して、全く問題が生じないよう十分に余裕がある発電能力を備えている。従って、電力会社相互間の電力融通も極めて限られた範囲にとどまっており、しかも融通に関しても、相手の電力品質に関しては疑いもなく高品質なものであり、特別な措置は全く必要がなかった。

ところが、欧州では、国境を越えて、お互いに電力融通をするのは日常的なことであるものの、融通を受ける相手方からの電力品質に関しては全く信用のおけないものとして考えていた。つまり、供給される電力の品質は、電圧もさることながら、周波数が極めていい加減なものであり、これが実は大問題だった。日本では、相手方の電力品質を信用した他励式と呼ばれる変圧器で電力融通を受けるのが一般的だったが、欧州では、そんなやり方では全くうまく行かない。

つまり、欧州では自励式と呼ばれる方式で、周波数について全く信用できない相手方から受けた電力を一度、直流に変換して直流送電するのである。その後、然るべき変換を行い、自国の送電網に適合する交流に変換するという手順を踏む。だから、欧州の送配電網は、電圧も周波数も、全くいい加減な風力や小水力、太陽光発電と言った再生可能エネルギーを受け入れる耐力が極めて強い。この仕組みは、今後、地球温暖化を防ぐための再生可能エネルギーによる発電比率が増大する時代には必須の要件である。

日本のメディアは、再生可能エネルギーによる発電拡大を褒めそやすが、現状の日本の送配電網と再生可能エネルギー発電とは極めて相性が悪い。規模が小さい間は全く問題ないが、再生可能エネルギーの発電比率が大きくなるに連れて問題はより深刻になる。つまり、日本の送配電網は再生可能エネルギー発電時代に向けて基本から抜本的に作り直さなければならない。そうした意識がメディアにも政府にも経済界にも全く欠けている。

さらに大きな問題は、日本の送配電網を抜本的に作り直すにしても、その自励式変換、直流送電に伴う基礎技術が、今の日本企業には全く存在しない。中西さんは、日本の送配電網を作り直すには、誰かが欧州の自励式技術を導入するしかないのだと言う。それが、まさに、今回の日立製作所によるABBの送配電事業の買収につながっている。

これまで日本は道路網について巨額の資本投資を行い、それに見合う成果を挙げてきた。しかし、これからの日本にとって重要なインフラ投資は道路よりも送配電網の拡充ではないかと中西さんは言う。それが、今回の日立のABBの送配電事業の買収につながっている。問題は、政官含めて、中西さんと同じ問題意識を、どこまで共有できるかにある。どうか、政官一体となって、今回の日立によるABBの送配電事業の買収を、ぜひ日本の将来に活かして欲しいと私は思う。

402   ファーウエイ(華為)について

2018年12月11日 火曜日

米中貿易戦争の真只中、トランプ大統領の対中関税政策がクローズアップされる中で、ファーウエイの副会長(CFO)である孟晩舟がカナダで逮捕されたことが大きな注目を浴びている。今回、孟氏は、イラン向けの制裁に対する違反とかの嫌疑で逮捕されたと言われているが、それは実態とは、殆ど関係がないだろう。アメリカは、トランプ大統領就任の、ずっと以前から、ファーウエイを制裁の標的にしていたからだ。

トランプ大統領が次々と表明する政策は、欧州をはじめとする各国から大きな非難を浴びているが、なぜか対中政策だけは、支持されているように見える。世界は、今や、鄧小平時代の韜光養晦(とうこうようかい)政策から逸脱した習近平の攻撃的な政策に大きな危機意識を持っている。それにつけても、中国の産業政策は長期的な視点から見て素晴らしい視点を持っている。中国は、あらゆる産業の中で、特に通信事業を取り立てて力を入れてきた。つまり情報通信技術こそが、国防政策および国内の治安維持にとって最優先の課題だと早くから認識していたからだ。

特にファーウエイは人民解放軍の庇護の元で、非上場の準国営企業として国から長きにわたり手厚い保護を受けてきた。私は、富士通時代、英国や日本国内のビジネスにおいて、ファーウエイと競合したら絶対に勝てないことを学んだ。特に、価格では、逆立ちしても全く勝てる見込みがなかった。これは全く言い訳にしか過ぎないが、ファーウエイは上場していないので、我々と競合するビジネスで、果たして本当に利益が出ているのかどうか全くわからないのだ。それでも、お客様から見ればコストが安いほうが良いに決まっている。

そうした圧倒的な価格競争力でファーウエイは、世界市場で覇者となった。こうしたファーウエイの世界制覇に関して、アメリカは以前から大きな懸念を持っていた。つまり、ファーウエイ製の通信機器には、密かに中国政府が自在にコントロールできるバックドアが装備されているのではという疑念である。今や、近代戦争では、核兵器など、もはや役立たずの過去の遺物になった。ハッキング攻撃、電磁波攻撃、宇宙攻撃といった、新たなテクノロジーを用いた次世代兵器が国防の中心となってきている。

当然、中国は、こうした時代の到来に備えて、ファーウエイを前線に立て、国を挙げて着々と準備を進めてきたが、一方、アメリカも、日本も、英国も、カナダも、オーストラリアも情報インフラは民間主導の自由競争の世界で、国防とは全く無縁の存在として国の関与を控えてきたのだった。トランプ大統領が、未だに42%という信じ難い高い支持率を保っているのは、アメリカが、これまで世界に表明するのを憚ってきた多くのタブーを、あっけらかんとTwitterで表明する素直さにあるのかも知れない。

アメリカは国防上の極秘情報を共有する5eyesという連合体を持っている。つまり、アメリカ、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドという、どんな事態にあっても、絶対に裏切らないアングロサクソン連合体である。トランプ大統領は、まず、この5eyesからファーウエイを締め出して、次に9eyes、13eyesと言った準情報共有連合からファーウエイを締め出して行くだろう。しかし、残念ながら日本は、このどのeyes連合にも参加を許されていない。先の大戦の敗戦国であるドイツやイタリアですら13eyesには入っているというのにも関わらず、日本は未だにアメリカから心底信用されてはいないのだ。

その日本ですらも、ソフトバンクが、いち早くファーウエイを締め出すと表明した。当然、アメリカにおいて、携帯電話会社であるSprintを抱えるソフトバンクとしてみれば、アメリカの国防政策に協力するのは自明である。それでも、情報通信事業というのは国防上の懸念という観点から言えば、非常にわかりやすい。しかし、今後、アメリカは対中国政策として、もっと広範囲な事業に対して制限を加えて来るだろう。

それが、本当に、世界経済にとって正しい政策かどうかは、私にはわからない。それでも、日本は、アメリカに対して、正面から逆らって独自の政策を打ち出すことは絶対に許されない。今後、世界が、グローバリズムからナショナリズムへ、協調から対立へと、その基本姿勢を変化させていく中で、我々は、日本の立ち位置を、もう一度見直さなければならない時期に来ていることだけは、どうも確からしい。つまり、米国の強硬姿勢は、日中関係、日露関係を、従来以上に難しくする。