2018年4月 のアーカイブ

388 お茶の水女子大での講義 (1)

2018年4月26日 木曜日

4月25日、お茶の水女子大理系大学院にて「AI(人工知能)と働き方改革」というテーマで、90分の講義を行わせて頂いた。私が行った社会人の講義は、第2回目だったが、第一回の講義があまりに好評で、本来対象である理系大学院生70人の他に、文系大学院からも20人が参加され、会場は90人の才媛の熱気で溢れ返っていた。思わず、私も年甲斐もなく張り切ってしまい、講義が終わった直後には、もう、立っていられないほど消耗しきってしまった。

しかし、講義中の90人の真剣な目は、私を刺すような殺気があった。日本の頂点に君臨する女子大のトップグループにいる才媛たちは、私の講演を、どのように聴き、何を感じてくれたのだろうか? その彼女たちの感想を、先ほど、今回の社会人講義を主宰して下さった、松下教授より送って頂いた。読むにつけて、私の方が感動してしまうことばかりである。今の国会の目玉法案とも言われている「働き方改革」ではあるが、日本の将来をリードする若い人たちは、ここまで先を読み、真剣に考えている。それと比較すれば、国会での議論は、まさに周回遅れにしか見えない。彼女たちの、厳しく、そして先見性のある感想をランダムに紹介して見たい。
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AIや働き方改革について、ニュースや記事を読んでもピンとこないと何となく違和感を感じていたのですが、今日の講義でメディアでは聞けない話を聞いて納得したことがいくつもありました。世界で変わりゆく時代の技術や考え方と、日本の制度や考え方のズレに対して、どうアプローチすべきか、就職する前に決心、決断する必要があると思いました。

これからの未来を生きていくためには、フレキシブルな考え方と広い視野が必要であると気がつかされました。従来の働き方は非常に古典的で生産性に欠けることがわかり、それでは世界に渡り合えないどころか生き残ることすら出来ないという危機感を抱きました。これから社会に出ていく身をとしては、自分にしか出来ない技を身につけ新しい考えを生み出していけるような広い視野とフレキシブルな姿勢を大切にしていきたいと思いました。

確かに、日本はサービスを受ける側も、提供する側もなぜか過剰なものを求めているような気がしてきました。日本の真面目さは良い所でもありますが、悪いところでもあると思いました。平凡な私が、講義で紹介されたような人たちと同じような働き方をしても生き残れないと思いますが、私自身が、自分で幸せだと感じる働き方をしたいと思います。

海外の成功している企業で取り入れていることは、日本のような軍隊方式ではなくて、フラットな組織で、様々な考え方を否定しない寛容さだと仰っていましたが、今の日本の会社組織とはあまりに異なりすぎていて、直ぐに全てを取り入れるのは難しいと思います。そうは言っても、それでは世界から取り残されるので、少しずつでも変えていくことが必要だと思いました。

最近、AIが話題になっていて、将来、多くの仕事がAIにとって代わられるだろうなとは思っていましたが、単純労働などあまり知的ではない仕事が対象で、医師や弁護士など高度な知的労働者は心配ないだろうと思っていました。確かに、人間より頭がよくタフなAIであれば、その可能性は高いなと今回改めて考えさせられてしまいました。

労働生産性が低い分野で、進化したAIを導入すれば効率が上がると思いましたが、やはり、現実問題、人は稼ぐために働いています。そんな中で、わざと効率を悪くして働き口を増やしている日本の現状がとても虚しく思えました。

人工知能が発達して、今後さらに様々なことに導入されていく中で、それでもなお人間にしか出来ないこと、さらには自分にしか出来ないことを今から真剣に考えて生きたいと思いました。自分にしかない強みを育んで、それを活かした仕事をしたいと思います。

在宅勤務は良さそうだなと思っていたのですが、今日のお話を聞いて、確かに一人で考えことをしたり、メールやLINEで意見を聞くより、直接会って話をした方が、色々な意見を取り入れられるし、気分転換もできるし、頭もよく回転するなと思い、会社に行くことは大切だなと思いました。

「医師で一番大切なのは医学知識よりも患者との会話能力」という、お話がありましたが、どんな活動においてもコミュニケーションはとても大事だなと思いました。今後、AIがどうなるのかわかりませんが、少なくとも人間の「あたたかさ」や感情的な部分を代替することができないと思うので、生身の人間と対面して行われるコミュニケーションはとても重要だと思いました。企業や研究室など、複数の人が関わる場での風通しの良い環境が重要だと思います。

日本は働きすぎとよく言われているので、生産性が低いのは意外でした。今回の講義で、日本の会社の働き方のどこに問題があるのかよくわかりました。

自分が、就職に対して思っていた違和感が少し明確になりました。終身雇用や一つの組織にずっと所属し続ける非効率・面白みのなさ、アメリカでは、皆が、普通に思っていることなのですね。私だけがおかしいのではないと安心しました。

日本社会とは一線を画した米国における働き方の常識やルールのお話は大変興味深く、関心を持ちました。どうして、日本も米国のようにならないのだろうかと心から思いました。日本社会の働き方改革が本来の意味で行われる、実現する日がくるとすれば、その時、日本社会全体が大きく変わる時なのではと思いました。

生産性のお話、大変勉強になりました。まさに、私も日本式システム開発が嫌で、外資系IT企業に就職を決めたところでした。「日本らしさ」と美化されている「生産性の低さ」をびしりと指摘頂いた、この講座、お茶大の色々な学生に聴いて欲しいです。

丁度、インターン募集が始まります。そこで、就活サイトに登録したり、様々な会社を調べています。私は、これまで、初任給や福利厚生、勤務時間をとても気にしていました。しかし、今日のお話を聞いて、自分の行く会社が10年後、20年後に残っているかも分からない上に、給与も勤務時間も、将来は絶対に変わっているはずです。大切なことは、どこの会社に勤めるということではなくて、そこで、自分は何ができるかという点にあると改めて気づかされました。
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いや、驚きました。これらの感想文のほうが、私の講義より遥かに立派な内容です。こんなに、真剣に受け止めて頂けるのなら、また、彼女たちに、別な話もしてみようかなと思いました。ただ、一つだけ気になることがあります。最近、女子学生の方が男子学生より遥かに優秀で感受性も高くなっているということはないのでしょうか?

387 柳瀬唯夫さんのこと

2018年4月11日 水曜日

今、国会で加計学園問題を巡って、かつて安部晋三総理大臣秘書官だった柳瀬唯夫経産省審議官が大きな話題になっている。加計学園問題の本質が何であるか、その中で柳瀬さんが、どういう役割を果たされたのか、私には全く知る由も無い。それでも、私にとって柳瀬さんは、経産官僚として、最も尊敬する三人の方々の一人である。柳瀬さんは、本来、日本を救済できる数少ない英才官僚なのに、こんなつまらない問題に関わり、その将来を摘み取られてしまったとしたら、日本にとって、本当に大きな損失である。

そもそも、経産省で私が最も尊敬する三人の方々の、最初の一人は、特許庁長官を退官後、富士通の副会長、富士通総研の会長と、私と全く同じ職歴を経た高島章さんである。私の妻は、学生時代にカトリックの洗礼を受けているが、私がインドに初めて出張する際に、遠藤周作の「深い河」を読んでから行くべきと言った。実際に、それは実に深い意味があり、大いに役にたった。このことを、当時、富士通の副会長だった高島さんにお話しすると「それは、素晴らしいお話ですね。実は、私は、遠藤周作とは初台教会の仲間で友達なのですよ。でも、深い河は、未だ読んでいません。ぜひ、読んで見ます」と言って頂いた。

その後、私が、高島さんの後任として富士通総研の会長に就任した直後に、高島さんは病気で亡くなられたが、その時、私は胡錦濤主席の招待で、上海万博の開会式に参加しており、高島さんの葬儀には参列できなかった。その後、私は、ヨハネ・パウロ2世の列福式の記念品を持参して初台教会で行われた高島さんの1周忌に参列した。初台教会は私の妻が洗礼を受けた記念の教会でもあった。ヨハネ・パウロ2世の記念品を高島さんの奥様にお渡しした時に、次のように驚くような凄いお話を伺った。

高島さんご家族は、プライベートにバチカンを訪問されたそうだ。奥様は、高島さんからイタリアは治安が悪いから、良い服は持たずに普段着で行こうと言われて、そのようにした。イタリアについた後、当時のバチカン大使から「ヨハネ・パウロ2世と謁見する手はずがついたので、どうぞおいでください」という連絡がきたそうだ。奥様としては、法王様と謁見するなら、一張羅を着てくれば良かったと後悔したが、とにかく謁見をさせて頂くことにした。そんなこともあり、私が、持参した、ヨハネ・パウロ2世の列福式記念品を高島さんの奥様は大変喜んで頂いた。

二人目は、今回の柳瀬さんと同じ経産省審議官になられた岡田秀一さんである。岡田さんは、東大法学部で私の弟と同級生で、司法試験、公認会計士試験と合わせて上級国家公務員試験に合格された稀代の秀才である。各省から選抜された、省庁再編本部で、同じく郵政省から選抜された私の弟と机を並べて、1年で380本の法律を改変した。その後、岡田さんは、小泉内閣で総理大臣秘書官となる。余りにも優秀だったので、岡田さんは、5年間も総理大臣秘書官を務めて、経産省に帰任する時には帰任部署がなく、一時、大学教授も務めてポストが空くのを待たれていたほどである。

その岡田さんに私は本当に助けられた。当時、日本―EUビジネスラウンドテーブルに参加していた私は、通商政策局長になられた岡田さんのご支援を頂き、存分に活躍できた。岡田さんは、流暢な英語を駆使して、老練なEUとの会議を極めて上手に運営されていた。日本―EUビジネスラウンドテーブルは、ドイツ、フランス、イタリアと開催される国は順に変わるのだが、現地日本大使館公邸の晩餐会には、経団連会長以下、少数の選ばれたメンバーしか参加できない。私が、いつも、この晩餐会に招待されたのは、岡田さんの采配があったからだろうと感謝している。そして、岡田さんが経産省を退官された時、弟と一緒に会食した時のことは、今でも忘れられない。

そして、三人目が、今回話題になっている柳瀬唯夫さんである。柳瀬さんは、もちろん経産省の超エリートとして。麻生内閣の総理大臣秘書官を務められた。しかし、その後、民主党への政権交代があり、柳瀬さんは、経産省に戻って産業再生課長に就任された。その時、私は、経団連の産業政策部会長を務めていた。お互いに、経産省産業再生課長と経団連産業政策部会長として、日本再生のために何をするべきか、私は柳瀬さんと、何度かサシで議論をさせて頂いた。そこで、私は、柳瀬さんから次のような衝撃の話を伺うことになった。後にも先にも、経産省官僚から、こんな話を聞くのは初めてだった。

柳瀬さんの話は、以下の通りである。「バブル崩壊後、経産省は20年間に渡り、20回も、次々と手を変えて、日本の産業再生政策について提案をし続けてきた。その結果が、何と20連敗である。しかし、その反省が全く無いまま、目先を変えて、次々と新たな政策提言をしてきたのだ。何が、間違えていたのか、そのPDCAを議論しないで、新たな政策を作ること自体が全く間違っていた」 何と素晴らしい話だろう。私は、心底、こんなに素晴らしい官僚がいるのだと心から感銘を受けた。

柳瀬さんは、民主党が崩壊し、自民党に政権が戻って安倍晋三氏が首相に就任すると、再び、異例とも思われる人事で総理大臣秘書官に就任した。アベノミックスの基本ストーリーは、やはり、柳瀬さんが深く関わっているものと思われる。アベノミックスに、賛否両論があるのは、私は百も承知しているが、多くの経済人は、これを高く評価している。その意味で、柳瀬さんは、大変良い仕事をされて、今回、その成果が高く評価されて経産審議官になられたものと理解している。

しかし、今回、このようなつまらない問題で、柳瀬さんのような稀代の官僚を、国会招致に召喚するのは大変残念であり、本当に痛ましい。官僚にとっても、政治家にとっても、困窮する国家を再生することが一番重要な問題のはずであり、それ以外のことはどうでも良い。今回の一連の問題で、日本最大のシンクタンクである霞が関の官僚たちの士気が、どうなっているのか私は大変心配である。政治家は、所詮、国家のことより次の選挙のことしか考えていない。政治主導という考えに、私は全く賛同していない。