今、シリコンバレーで最も注目を集めている企業はネットフリックスだという。オンラインで映画をストリーミング配信するネットフリックスが、なぜ、GoogleやFacebook以上に注目を集めているのだろうか? それは、ネットフリックスが、全世界で6,000万人近くのユーザを抱え、全米の通信量の3分の一を占有するということだけではない。ネットフリックスが、映画の世界で、従来、誰も考えられなかったマーケッティング手法を開発したからだ。
これまで、家庭で映画をテレビで観るときは、ソファーに座って背をもたれかけて、例えば居間で、家族一緒に観るものだった。しかし、ネットでオンライン配信される映画を観ている人たちは、大抵、机の上のパソコンの画面で前のめりになって観ている。この新たな聴衆たちは、2時間の映画を2時間も使って観たりはしない。退屈な場面はスキップし、感動した場面は何度でも観る。ネットフリックスは、ストリーム配信しているので、こうした、視聴者の行動がリアルタイムに把握できる。ネットフリックスは、このデータを全て記憶して視聴者個人ごとに細かく分析しているのである。
こうして、ネットフリックスは、視聴者が、どんな映画を好むかというだけでなく、どの場面が好きで、どの場面が退屈かを全て掌握することができる。そうした分析の上で、「貴方がお好きなのは、こういう映画ではないですか?」と勧めてくるのである。こうしたマーケティング手法が功を奏して、ネットフリックスは一気に、この市場の圧倒的なリーダーになった。しかし、ネットフリックスは、これだけで満足はしなかった。今度は、こうしたマーケティング手法を使って、映画を作る側に回ることになった。
最初にネットフリックスが挑戦したのは、連続長編ドラマである。まず、最初の数回のドラマを視聴者に無償で提供する。アメリカ人はタダのものには目がないので多くの人が観ることになる。ネットフリックスは、この数回分の映像配信で、視聴者が、どこに感動して、どこに退屈したかのデータを細かく分析して、それ以降のストーリを視聴者好みに変えて行くのである。NHKの朝の連続ドラマでも、高視聴率のドラマと、そうでないものの差は大きい。これが、広告主が居る民放では、プロデューサーや、脚本家の死活問題となる。
ネットフリックスは、こうした当たる、当たらないという問題に対してデータで対応しようというのである。ネットフリックスの、こうした手法に学んで多くのネットビジネス業者たちが、視聴者の反応が見やすい動画の導入を始めている。さらに動画ではないが、ネットでニュースを配信する業者が、これまた凄い手法を編み出しつつある。ここでは、いよいよ、人工知能の手助けまで借り出している。
普通はネット配信でニュースを流す場合には、一番出来が良いと思われる写真に一番最適な記事を添えて配信するのだが、全く違う新たな手法を使いだした、あるネット配信ニュース企業は、複数の写真と複数の記事を組み合わせて、ニュースを多角的に表現して同時に何通りも配信する。受け手の視聴者は、どのニュースを見れるかを選択出来ない。配信している内に、反応が良い記事と鈍い記事の差が出てくると、人気がある少数の記事だけに配信を絞って行く。そして、最後には、反応の良い表現部分だけマージして新たな記事を自動作成し、それだけを配信するように変更する。そんなことまで自動的に人工知能で出来るようになった。
ネットビジネスは誰にでも簡単に出来そうだかが、一方、結構大変なことも沢山ありそうだ。例えば、女性の衣料品のネットショップでは、平均返品率が50%を越えるという。多くの顧客が、購入して家で試着してみて、気に入らないとか似合わないとかとの理由で返品してくるのだ。ところが、返品率が10%を切るベンダーがある。このベンダーは、顧客対応に人工知能を使っている。よく、世間では商売は顧客至上主義と言われるが、実際に、顧客は自分の好みを理解していないのである。例えば、顧客が好きな服が似合うとは限らない。顧客は好きな服を買ってみるが、やはり似合わないことがわかり返品をする。その繰り返しなのだ。そこを冷静に人工知能が判断して、顧客が返品してくるような商品を顧客に見せないようにアルゴリズムを仕組む。
ネットフリックスがしているように、顧客の行動を徹底的に調べ上げて、そのデータに対して冷徹に行動したら絶対に勝てる。こうしたことが出来るのは、もはや人間業ではない。ビジネスに勝つのは、もはや気合いや精神力ではなくて、冷静沈着なコンピューターの力なのだ。人工知能は、もはや、そこまで来ている。