アメリカの大学は入るのは易しいが、卒業するのは大変だというのは、今や、全く異なる事情になった。アメリカの大学は入るのが世界一難しいと言っても過言ではない。西海岸の名門私立大学スタンフォード大学から程近い高級住宅地にあるパロアルト高校からは、これまで毎年20人近くがスタンフォード大学に合格できたが、今では一人入るかどうかという状況になり、親の期待に応えられない受験生から毎年自殺者が出て続けている。
一体、なぜ、それほど難関になったのか? それは、アメリカの大学が世界で最も高い評価を受け、実際に教育機関としての実力があるために、世界中から応募者が殺到しているからである。特に人口が多い、中国やインドから優秀で、金銭的にもゆとりのある富裕層の子弟が、本気でアメリカの大学を目指してきたら、アメリカに生まれ育った普通の子供たちは、そう簡単に対抗するのは難しい。
噂では、MITはインドからの応募者に対してハンディを課していると聞いている。そうしないと、MITの入学者は全員インド人になってしまうというのも、まんざら噂だけでも無いかも知れない。ところで、アメリカの一流名門大学は、殆どが私立大学で公立は、その後塵を拝している。しかし、カルフォルニア州立大学、テキサス州立大学、ミシガン州立大学、ワシントン州立大学などは、公立でも、私立の名門校と肩を並べる水準と評価されている。
シリコンバレーに駐在している家庭の子供は、アメリカでも一流の公立大学であるカルフォルニア州立大学に安い授業料で入学できるから幸せである。州立大学が州外から入学すると私立大学並みの高い月謝を払わなければならないが、州内に住んでいる子弟は、その4分の一くらいで済むからだ。今、アメリカの大学の月謝は年額4万ドルから5万ドルにまで高騰しているから、学生ローンで破産するというのも決して珍しいことではない。
しかし、せっかくシリコンバレーに住んでいるのにカルフォルニア州立大学への入学は、ますます難しくなっているという。それは、カルフォルニア州の財政が逼迫しているため、大学は多額の月謝を納入してくれる、国外や州外の学生を意図的に増やしているからだと言われている。ただでさえ、シリコンバレーには、中国やインド、韓国から赴任して来た、優秀なエンジニアの子弟が多く、州内ですら、大変だというのに、国外や州外を優先されたら、合格するのは天文学的な難関となる。
それでも、アメリカには敗者復活戦があるのが素晴らしいところである。私の同僚の息子さんも、少しの所でカルフォルニア州立大学の受験には失敗したのだが、比較的誰でも入れる易しいサンノゼのコミュニティーカレッジに入って2年間猛勉強をした。その甲斐があり、カルフォルニア州立大学バークレー校(UCバークレー)の3年生に編入が出来た。アメリカでは、こういうルートが用意されている。コミュニティーカレッジは、元来、地域住民の生涯教育を目的としているので、門戸は広く、入学も易しく、月謝は大学に比べれば殆どタダに近い。
それで、最近は高騰した月謝が払えない苦学生は、優秀な生徒でも、最初からコミュニティーカレッジを狙う。そこで、優秀な成績を収めて、目指す大学の3年生に編入できれば、4年分の月謝が半分で済むからだ。16万ドルが8万ドルで済むのだから、それは豊かでない家庭の学生には朗報である。しかし、その分、コミュニティーカレッジに、以前では考えられないほど多くの学生が目指すようになった。
コミュニティーカレッジは、その設立の趣旨から言って、門戸は広く、入学の難易度も低いので、考えられない数の学生が入学してしまう。しかし、講座の人数には制限があるので、せっかく合格した学生は授業が取れないのだ。講座の空きを待っていると、卒業するまでには3年も4年もかかり、2年で卒業するのは、最近では、ほぼ不可能になっている。このように、現在、アメリカの高校生にとって、大学への道は八方塞がりで、極めて厳しくなっている。
世界の大学ランキングの上位を占めるアメリカの大学は、文字通り世界中から優秀な学生を集めている分、アメリカ人にとって高嶺の花となってしまった。それなら、いっそ日本の大学へどうぞというのは、とんでもない勘違いだ。アメリカから日本の大学に留学した学生は、「日本の大学は毎日がバカンスじゃないか」と驚くという。楽をして卒業した学生が、世界を相手に勝てるわけがない。入るのも簡単、卒業するのも簡単というバカンス天国となった日本の大学を卒業した学生が世界と伍して戦うには、よほど性根を鍛えないと難しいと思った方が良い。