2015年3月 のアーカイブ

298  人間ドック

2015年3月6日 金曜日

私は、今、赤坂の病院で人間ドックを受けている。ここで人間ドックを受けるのは、今年で10年目になるが、毎年、大変緻密なチェックをして頂き、発見が遅れれば命取りになったかも知れない重大な疾患の芽を幾つも摘んで頂き、心から感謝している。幸い、今年は、重大な疾患は発見されず、ほっと胸をなで下ろしている。それでも肥満による脂肪肝については、相変わらず警告を受けているので、改善すべき課題は、今年も、しっかりと頂いた。

そもそも、富士通が、役員の人間ドックに、これだけ力を入れているのは、過去に社長候補と言われるほど優秀な役員が在任中に何人も亡くなったことの反省からである。そして、その原因は、役員になってからの激務と言うこともあるだろうが、優秀であるがゆえに、若い頃から、人一倍多くの仕事を引き受けてきたことに起因していたのかも知れない。

何しろ、私が入社した45年前、富士通は、売上げが1,500億円ほどしかない中堅企業であった。それが、30年間で、30倍の5兆円近くまで伸びたのだから、その間の、社員たちのモーレツな働きぶりは半端なものではなかった。私は、長時間、集中力を維持するのが得意な方ではないので、残業は沢山したほうではない。それでも、一番働いた時は月に150時間残業という日々が暫く続いたことがある。日本の高度成長は、そうした無茶な働き方が支えた面もあるだろう。今でも、シリコンバレーでは、ベンチャー企業への投資判断は、休日の駐車場にある従業員の車の台数で決めるべきだと言われている。

幸いなことに、富士通では、人間ドックを充実させて以降、在任中に病気で亡くなる役員はこれまで一人も出ていないので、十分に成果があったと言える。そのかわり、私のように、人間ドックで、癌を早期発見し、治療をしながら仕事を続ける役員の数は増えている。それは大変な事ではあるが、一方で、良いこともある。つまり、これまでの順風満帆な人生から一変し、突然降って湧いた大きな試練を経験すると、部下に対しても優しくなれるからだ。「人生、時には、うまくいかないこともあるさ」と自然な形で口に出して言えるようになる。

さて、この10年間、東京の中心地にある、この赤坂の病院での人間ドックを観察していると、景色が少しずつ変わっている。以前は、土地柄からか、外国人の受診者を多く見かけたものだった。外国人と言っても、永く東京に住んでいると思われる流暢な日本語を話す、富裕な韓国人や中国人の方々である。しかし、最近は、待合室には、多くの若い人たちが座っている。女性の割合も、ほぼ半数となった。そして、ご夫婦で受診されている方も少なくない。やはり、最近の若い方々は、人間ドックを健康な生活に対する必要な投資として考えておられるのではないか。それでは、一体、以前来られていた外国人の方々は、どこへ行かれたのだろうか?

3年ほど前、韓国の仁川空港へ行った時に、空港内に多くの日本語による医療相談コーナーが設けられているのには驚いた。聞けば、日本から韓国へ医療ツーリズムとして来られる方々が年間に何十万人もいるのだという。その第1位が人間ドックで、第2位が美容整形で、第3位が出産だということだった。いずれも、健康保険が効かない医療である。特に、出産では高級ホテルのような立派な個室に妊婦と母親が産まれるまで二人で泊まっても、日本で産むより遥かに安いのだと言う。この話から想像すれば、韓国の病院での人間ドックは、どれほど安価で盛り沢山なメニューなのかと思われる。

現在の人間ドックは、血液検査や内視鏡検査、そしてX線、超音波、CT、MRIを駆使した透視技法などの検査技術の進歩で、医師の技量を超えた客観的なデーターをベースに診断出来る。今後、深刻な重大疾病を発病する前に、食事を含む生活習慣を変えることによって、今以上に確実に、未然に防ぐことができるようになるだろう。

今後、高齢化が進むと確実に増大する日本の医療費。しかし、その中身は有効に使われているとは思えない。高齢者の体調不良は、殆ど老化からきているもので病気ではないと言われているからだ。原因が老化ならば、投薬による医療では治せない。毎日、生きがいを持って、適度な運動をしながら、少しずつ老いて、ある日、寿命が尽きて、突然死ぬ。そんな人生でありたいと願う。