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294   自爆する若者たち

2015年2月5日 木曜日

「イスラム国」による後藤健二さん殺害は、本当にショックである。心よりご冥福をお祈りしたい。日本の大手メディアの「イスラム国」に関する報道を一手に引き受けていた後藤さんが亡くなってしまい、我々は、もはや、「イスラム国」で、今、何が起きているかについて、正しい報道に接することが出来なくなってしまった。後藤さんは「イスラム国」にとって決して敵ではなく、むしろ、ひょっとしたら理解者になったかも知れないのに、その大事な人を殺してしまうというのは「イスラムの大義とは何か?」と疑問を抱かざるを得ない。

「イスラム国」は国ではなく、単なるテロ集団だと決めつけるアメリカや日本政府の言い分も、必ずしも正しいとは言えない。「イスラム国」が支配する地域は、アサド政権が統治を放棄した東シリアと、同じくマリキ政権が統治を放棄した北部イラクで、そこの住民は、どこの政府からも守られない棄民であった。そして「イスラム国」を実際に統治する主体はサダム・フセイン政権時代にイラクを永年統治してきた、経験豊かな官僚と軍人というプロフェッショナル集団であるので、私は、まさか後藤さんを、こんなに性急に殺害するとは思わなかった。彼らにとって、得なことは一つもないからである。

それにしても、世界に12億人もいるイスラム教徒の殆どの方々は、穏健な暮らしをしているのに、どうして、この一部のイスラム教徒だけが、このような残虐非道な暴走をするのだろうか? この原因は、一体、どこにあるのか? その本質を理解できないと、かけ声ばかりで勇ましく「テロ撲滅」などと叫んだところで問題の解決にはならないばかりか、憎悪と復讐の連鎖で、事態は一層悪化するばかりとなるだろう。

こうした疑問に応えてくれる本があった。グナル・ハインゾーン著「自爆する若者たち」である。著者はポーランド生まれで、現在ドイツのブレーメン大学でジェノサイト研究所長を務めている。著者は、自爆する若者の暴走は、15才以下の若年層人口が国の人口全体の30%を超える時(これを過剰な若者:ユース・バルジと呼ぶ)に起きるというのである。つまり、ハインゾーン教授は、「先進国以外の第三世界で生まれた15才以下の男の子9億人のうち3億人は、今後15年後に、自分の生まれ故郷の外で、自分の居場所を求めて戦わなくてはならないだろう」と言う。

世界で、こうした「過剰の若者:ユースバルジ」を抱えている国7カ国の内、5カ国がイスラム教の国だという。アフガニスタン、パレスチナ、イラク、イエメン、ナイジェリアで、いずれもイスラム過激派が活躍している地域である。つまり、多くの自爆する若者達が発生するのはイスラムの教義のせいではなくて、生まれ育った社会から何も求められない、何も期待されない過剰の若者が起こす自暴自棄の行動だと分析している。

このことを、私たち日本になぞらえて考えてみると次のようになる。例えば、私は1947年生まれのベビーブームの初年度にあたる。1年で250万人の赤ん坊が生まれている。私たちの一つ上の学年が120万人だから、いかに、戦後の日本で人口爆発をしたかが、よくわかる。私の妻は、一つ下の1948年生まれで、この学年は260万人生まれている。たった、2学年だけで510万人で、これは直前の太平洋戦争で亡くなった兵士や民間人、400万人を遥かに上回っている。あれだけの大きな犠牲を払った戦争で失われた膨大な数の命を、たった2年で補っている。

同じことがパレスチナで起きている。この50年間、イスラエルとの紛争で、パレスチナは人口を7倍に増やしている。イスラエルの度重なる爆撃で破壊された瓦礫の中で、パレスチナの母親は命がけで多くの子供を産んでいる。パレスチナの15才以下の人口は50%にも上る。これを日本にあてはめて考えてみると、現在の日本の人口は5億7千万人にもなる。この狭い日本列島に、6億人近くがいて、15才から30才までの若者が2億人もいたらどうなるだろう。職に就けないで、何をしたらよいか分からない絶望の淵にある若者が2億人近く、一日中町中を歩いていたら社会はどうなるか考えてみればすぐにわかる。

実は、これと同じことが16世紀の西欧でも起きていた。教会の堕胎禁止令による人口爆発である。しかし、西欧は、17世紀から18世紀に向けて、この過剰な若者:ユースバルジを全世界制覇に向けての兵士や商人として活用した。その結果、西欧各国は地球上の土地の90%を自己の所有物としたが、21世紀のイスラム諸国におけるユースバルジは、一体、どこに向けて出て行くのか? その出口が見つけられないでいる。結果として、「イスラム国」が、その出口の一つになっている。アメリカは、空爆によって「イスラム国」を殲滅すると言っているが、いかに膨大な数の兵士を殺戮しても、その補給は、次々と、国外のイスラム世界から供給されるので、この戦いには終わりがない。

日本でも、幕末に発生したユースバルジが明治維新を引き起こしたとも言われている。ユースバルジは、自爆し、暴発するだけとは限らない。そのエネルギーを良い方へ使いこなすことが出来れば、未来への希望が開かれる。抑圧と暴力だけがテロを防ぐ手だてではない。イスラム世界のユースバルジを、今後、どうやって活かして行くかという議論が望まれる。