今日は、大晦日。2013年に出張してきたアメリカ、EU、中国で見聞きしたことを振り返ってみて、今、世界はどのように変わりつつあるか?そして日本は、世界から、今、どのように見られているかを、私なりに総括してみたい。
まずは、2013年1月、今、世界でもっともホットな国アメリカ。そのアメリカの中で、もっともホットなシリコンバレーを訪問した。5月にはパリで日本とEUの官民合同会議に参加。同じく5月には、中国南部の広州、香港と世界最大のギャンブル都市となったマカオを訪問。11月には再度、中国。三中全会後の中国はどうなるかをヒアリングするため北京へ行った。この4度の海外出張で、今世界がどうなっているかを語るのは、誠に、おこがましいが、結果的に良い場所を選んで周ったものだと思っている。
まず、まず米国のシリコンバレー。本当にホットである。私がシリコンバレーに居た1998年から2000年までのITバブル、ドットコムバブルを偲ばせる勢いがあった。しかも、今度はバブルではなく実体を伴っている。サンフランシスコから、マウンテンビュー、サンノゼに至るシリコンバレー全域のフリーウエイは朝夕の通勤時は大渋滞である。スカイプに代表されるネットワーキングの時代に、なぜ2時間もかけて渋滞の中、オフィスまで行かねばならないのか? 実は、そこに大きなヒントがある。
私がシリコンバレーを訪問中、GoogleのCTOからYahoo!のCEOへ移ったマリッサ・メイヤーが在宅勤務を禁じたのは単なる偶然ではない。世の中を変える力強いイノベーションは、少数の意志のある人々が、同じ場所で膝を突き合わせて面談をすることによって生まれるのだということを世界に知らしめた。だからこそ、世界中の金融事業者が、世界中の自動車企業が、世界中のテレコムキャリアーが、今、シリコンバレーに集まっている。お互いに業際を乗り越えて、少人数で話し合うことにより、新たなビジネスの芽が生まれてくる。
そして、東部のアイビーリーグと呼ばれるアメリカの一流大学が、今、シリコンバレーに次々と新たな拠点を築いているのは何故だろうか? アメリカは、今、東部から西部へと大きな流れが起きている。少し前、アメリカを支えているのは東部の金融業だった。それが、今、ウオールストリートからメインストリートへと金融業から製造業、あるいは実態を伴ったサービス業へと転換が進んでいる。金融業は、本来の役目である産業の血流への役割に回帰し、もはや巨大なギャンブル業としての勢いはない。
Google、Facebook、Twitterなどシリコンバレーの新興企業の株価総額は170兆円を越し、東証の時価総額を大きく抜いている。全米の研究開発投資総額のほぼ半分を占めるシリコンバレーは、どうして、その地位を築いたのか? それは、まさにダイバーシティである。「アメリカは世界、そのもの」の象徴がシリコンバレーである。シリコンバレーを担う人々の多くはアメリカ生まれではない。また、Facebookのザッカ―・バーグやAppleのスティーブ・ジョブスは異才と呼ばれているが、一方では発達障害ではないかとも言われている。こうした型破りな人々が活躍できる社会こそが真のダイバーシティ社会である。
さて、欧州は本当に深刻である。欧州金融危機は、少しも改善してはいない。欧州でまともな銀行は英国のHSBC、ドイツのドイツ銀行、フランスのBNPパリバの3行しかない。あとは、日本やアメリカの基準で言えば、とっくに破たんした銀行である。しかし、EUには銀行を破綻させ、救済するというスキームが全くない。だから既に破綻している銀行がゾンビ銀行として生き続けている。たぶん、200年、300年かけて生き返ることを考えているのだろう。まさに、フランケンシュタインの世界である。
それでも、EU政府の最大の懸念は金融問題ではない。彼らが最も心配しているのは若年層の失業問題である。ただでさえ高い南欧の失業率に対して、若年層の失業率は倍近くある。スペインでは70%以上、イタリアでは60%、フランスでも50%近くある。しかも、さらに性質が悪いのは、大学卒の若者の失業率が大学を出ていない若者の倍近くあることだ。一般的に、雇用改善のための一番効果ある施策は教育である。教育を施せば、雇用機会は増えるというのが、これまでの常識であった。それが成り立たないというところに大きな問題がある。
どうして、こういうことが起きるのか? まさに求職と求人のミスマッチである。このことは、実はEUだけの問題ではない。北アフリカのジャスミン革命を起こした主体は職にありつけない高学歴者だと言われている。このことは、急激に高学歴化が進んだ中国でも起き始めているし、世界一の高学歴社会である韓国でも起きている。当然、日本でも、これから顕著になっていく。なぜ、高学歴者が求職で苦労するようになったのか? それは、本来、雇用を吸収するはずのサービス業がITの進展で従来ほど多くの雇用を必要としなくなったためである。世界一の先進国であるアメリカでさえ、サービス業は雇用を拡大してはいない。
次に、中国。今まで、中国を牽引してきた広州、深圳、香港において、これまでの勢いは全く感じられなかった。高速道路を通行するトラックの台数は、1年前の半分である。明らかに、中国のバブルは終焉を遂げた。やはり、かつての日本、スペイン、ドバイで感じたように、中国ですらも、あの勢いは典型的なバブルだったのだ。この中国のソフトランディングの影響は、中国だけに留まらない。中国の資源爆食が止まったことにより、一気にオーストラリア、ブラジル、南ア、ロシアの勢いが止まった。どういうわけか、割を食って、インドまでおかしくなってきた。さらに、ドイツを代表する企業であるシーメンスの業績までもが狂い始めている。過度の中国依存度が裏目に出た格好だ。
一方、マカオの勢いは凄い。総売上5兆円の内、1兆円がマカオ政庁の収入になるというのだからスケールが違う。しかも、ギャンブルビジネス規模は既にラスベガスの5倍を超えているのに、カジノの新規建設は一向に止まらない。これを見たら、日本にも東京湾上にカジノ特区を作りたいと思うのも無理はない。しかし、カジノでの様子をよく見ると、何か変だなと思わないだろうか? 賭博客は全て中国人で、賭けのレートはとんでもなく高い。チップの単価がラスベガスの10倍近いからだ。しかも、お客の顔にはギラギラしたところは全くない。多分、これは中国の超富裕層のマネーロンダリングのためのプラットフォームだと思った方がわかりやすい。この真似をして東京に特別な収入が入ると思ったら大きな誤算になるかも知れない。
最後は、三中全会後の北京である。日本のメディアでは、尖閣を巡る日中抗争だけが話題となっているが、中国へ来て、よく話を聞くと、習近平政権にとって尖閣問題など些細なことだと言うことが直ぐにわかる。胡錦濤、温家宝政権が10年間、不作為の罪を犯し、何もしてこなかったつけが全て習近平政権に圧し掛かっている。もちろん、習近平という人を私が知る由もない。しかし、今の中国は誰が政権をとっても地獄である。こういう状況の中で、尖閣問題を顕在化した日本を、習近平政権が、どのように見ているかは明らかである。「何で、こんなことで俺の足を引っ張るんだ」とでも言いたそうである。
それでも胡錦濤、温家宝が行った大きな過ちである4兆元の大規模景気刺激策のような愚行を二度と行わないと言う習近平政権の決意はたいしたものである。将来の若者に大きな借金を負わせることを無視して、支持率の拡大だけを目指した、日本の現政権の巨額の景気刺激策を見ると、選挙がなくて、ポピュリズムに毒されない国の政策を羨ましくなるのは私だけだろうか。権力者の腐敗と貧富の格差の問題さえ解決すれば、習近平政権のソフトランディング政策は、きっと成功するだろう。しかし、今回の三中全会の決定事項を見ると地方政府官僚、国営企業の経営者という既得権者の権益に正面から踏む見込むことが、未だに出来ないでいる。
2014年は、こうした世界の苦悩を、どう解決していくかである。そのためには、当然、一つの国、一つの経済ブロックだけで解決できる問題ではない。TPPは中国を排除するものではなく、中国を先進国のルールのなかで、仲間に迎え入れようとするアメリカの強い意志である。APEC全体がFTAAP(アジアパシフィックFTA)に入ることは既に決まっている。日本は、日中韓FTA経由でFTAAPに行くか、TPP経由でFTAAPに行くかの二通りしかない。日本が、どちらの選択をすべきかは明らかである。それでも中国を排除すると言う意味は全くない。今の世界経済状況からみて中国抜きでの経済連携など全く考えられないからである。
今年1年、米国、欧州、中国を回って、私が、一番懸念していることは、今の日本が世界中から疎まれる存在になっていることである。いわずもがな、これら3カ国は先の大戦の連合国であり、戦勝国である。彼らから見て、今の日本は、先の大戦の評価を見直そうとしているように見える。彼らは「戦勝国連合」を「国連」と訳し、本気で、いつか常任理事国になれると思っていて、「敗戦」を「終戦」と読み替えている日本は、先の大戦に負けたという事実を、もはや忘れてしまったのではないかと懸念している。