2013年9月 のアーカイブ

241  祝 2020年東京五輪招致成功

2013年9月8日 日曜日

今朝、ブエノスアイレスで開催されたIOC総会で2020年のオリンピックが東京で開催されることが決まった。うまくいけば、一生の内に2回も祖国でオリンピックが開催されるという幸運に巡り合えたことを素直に喜びたい。日韓共同開催だったサッカーのワールドカップ決勝戦を地元横浜で観戦できたことを思い出し、また、あの興奮に浸れるかもしれないと思うと、まさに待ち遠しい思いである。

しかし、今朝の開催決定まで、本当に東京に決まるのか、私は大きな不安に包まれていた。第一の理由は、今回も記者会見で多くのメディアから質問を受けた福島第一原発の問題である。猪瀬知事の「東京は大丈夫」という発言は、福島県の被災地の人々からの顰蹙を買ったが、それは世界の人々も同じ思いであった。東京-福島間の距離250㎞は、決して安全と言うほど十分に離れた距離ではない。特に欧州の人々にはチェルノブイリのトラウマがある。

チェルノブイリ事故の汚染範囲は、欧州全域に渡っていたが、特に、南ドイツバイエルン州と英国北部スコットランドは深刻であった。スコットランドの羊は、一昨年まで食用に供することを禁じられていたし、バイエルン州の州都ミュンヘンでは、今でも、キノコとイノシシは誰も食べない。チェルノブイリ-ミュンヘン間は2,000㎞以上、スコットランドとは10,000㎞以上も離れているのだから、東京-福島間の250㎞は十分離れていることにはならないのである。大震災以降、今でも欧州の交響楽団、歌劇団がさっぱり東京に来ないことを、日本の人々は誰も不思議には思っていないのだろうか?

もう一つの懸念された理由は、今こそ、日本が世界中から疎まれたり嫌われたりしている時期はないということである。その理由は急速に高まっている日本のナショナリズムの高揚である。ナショナリズムを高揚することは自国の国民にとっては大変気分の良いものではあるが、他国の人々にとっては大変鬱陶しいか、腹立たしいことになる。最近、日本を疎ましいと思っている国々は、隣国、中韓だけではない。先の大戦で日本と戦った欧州や米国の首脳達も、日本が戦争を肯定的に捉えることは、それだけで許しがたいことである。

そうした、大きなハンディーキャップを抱えた日本が、今回の五輪招致合戦でマドリードやイスタンブールに圧倒的に勝利した理由は一体何だろうかと考えてみる。それは、まさに「逆境を乗り越える」というスポーツマンシップで自らを鍛えぬいたIOC委員の人々が東日本大震災を経験した日本を応援しようと思った心意気ではなかったのかと思う。今、TVで放映されている五輪招致成功のニュースと同時に放映されている米国のシリア攻撃に関するニュースに登場しているEUのアシュトン防衛委員長も、先日、来日された際、東京で日本の防衛相との会談後、直ぐに三陸の被災地を訪問された。彼女は、あまりに悲惨な被災状況を目の当たりにして「私達には何が出来るのか?」と思わず呟いたという。確かに、招致関係者のご努力も、今回の成功に大きな影響を与えたものだと思うが、私は、世界の人々の「東日本大震災」に対して「何とか日本を応援したい」という思いこそが、東京五輪開催招致成功に導いたものだと信じている。

そして東京都は、こうした世界の人々の思いを受けるに相応しい貢献を東日本大震災に対して行っている。人々の記憶に残っている東京都の一番の功績は、命がけで行われた東京消防庁の福島第一原子力発電所の原子炉冷却作業だと思われるが、東京都の災害復旧活動はそれだけではない。津波で徹底的に破壊された仙台湾の海岸地域で、ガレキを片づける数百台ものダンプが土煙を上げて疾走するなかで、停電で途絶えた信号の代わりに交通整理をする多数の警察官の姿があった。傍らには「警視庁」のロゴが印刷されたパトカーが何十台も居て、こんなに沢山のパトカーが東北に来てしまって東京は大丈夫かと思うほどであった。

それだけではなく、東京都は宮城県に対して100人近い教職員を送り出している。この大震災では、日本中の県や市町村が東北各地の被災地へ職員を派遣していると思うが、さすが東京都は、その規模やスケールが全然違った。そうした日本の首都としてリーダーシップマインドを持つ東京都が、このたび五輪招致で巻き起こす、いろいろな経済効果を東日本大震災の復興にも、ぜひ波及させて頂くことを願うばかりである。

240 マイクロソフトのノキア携帯電話事業買収

2013年9月5日 木曜日

マイクロソフトがノキアの携帯電話事業を7000億円で買収した記事が、本日の新聞を賑わしている。「いよいよ」かとも思え、「とうとう」かとも思える不思議な感慨である。今から、20年ほど前に富士通の英国子会社ICLがノキアのパソコン事業を買収した。コングロマリット、ノキアが次々と事業売却を進めて、いよいよ通信インフラと携帯電話機事業へ注力することを決めた瞬間だった。まだ、携帯電話機が大きなビジネスになりそうだなど、誰も思わなかった時期である。

ICLは、元々英国の国営企業でコンピューター関連事業では英国ではダントツのNo1企業だったので、富士通の子会社になったという意識は極めて希薄だった。このノキアのパソコン部門買収も、富士通本社の経営幹部には殆ど知らされずに突然行われたように聞いている。当時の日本のパソコン市場はNECのPC98が独占状態で、富士通のパソコンなど全く出る幕もなかった。そこで、富士通は、NECのPC98と同様の独自仕様の製品を断念して、世界標準であるIBM互換機路線へと転換した。

英国ICLのパソコン事業は、当然、IBM互換機であり、富士通は、このICLからパソコンの開発・製造手法を学ぶことになった。その矢先のノキア買収である。一体、ICLは何のメリットがあって、ノキアのパソコン事業を買収したのだろうか? 私は、当時の山本卓眞会長から、「フィンランドへ行って調べてこい」と命令されて、仲間とヘルシンキへと渡った。同じくロンドンからヘルシンキへ来ていたICLの幹部と共に、ノキアのパソコン事業の開発部隊や工場を見て回ることになった。

ICL幹部が語るノキア買収の話は、ある意味で明快であった。当時、ICLだけでなく欧州のパソコンメーカーは、どこもマザーボードを全て台湾から輸入していたのだが、未だEECと称していた欧州経済連合体は、この台湾製品に30%近い関税をかけていた。しかし、フィンランドはEECには加盟していなかったので、台湾からのマザーボードは関税ゼロで輸入できた。そして、近くEECに加盟が予定されていたフィンランドには、既にEECに対して関税撤廃が行われていた。つまり、台湾製のマザーボードをフィンランドで輸入し、パソコンに組み立てて欧州(EEC)市場で販売すれば、大いなるコストダウンになるのである。

しかし、いずれ近い将来、フィンランドはEECに加盟することになる。「その時は、どうするのだ?」と聞けば、ICL幹部は、「その時は、また考えれば良い」と言う。何といい加減な話だろうかと憤慨していると、ノキアのパソコン事業の責任者は、「とにかく工場を見てくれ」と言う。非常に効率的な製造方法で、他のメーカに対して極めて優位性があるという。それで、工場見学をしたのだが、とにかく驚いた!今まで日本では見たこともない工場であった。まず、製造ラインがない。次に、製造マシンがない。部品倉庫や棚もない。こんな工場があるのだろうか?

ノキアの工場は、部品は全て台湾で製造して、フィンランドでは組み立てるだけである。ラインの代わりにセルがあって、そこにはとっくに子育てを終えた老婦人が座っていて、一日8台のパソコンを一人で全て組み立てて試験もする。組み立て終わったら、自分のサインをして、その製品に対して全の責任を負う仕組みである。ノキアの幹部は、これは作業員の能力に応じて仕事をすれば良いので、一人の作業が滞っても全体に影響がない、極端な言い方をすれば、作業員が体調を壊して会社に来なくても影響が出ないというわけだ。

まさに、その後、組み立て製造業の革命ともなった「セル方式」をノキアは10年以上も前に行っていたことになる。やはり、北欧の小国フィンランドの企業であるノキアは、たまたま運が良くて携帯電話事業の巨人になったわけではない。元来、北欧の人は、1年の3分の一を暗い闇のなかで生活しているせいか深く思索するタイプが多い。

ノキアのパソコン事業を買収して、さらに驚いたことがある。富士通も含めて、アメリカ以外の世界のパソコン事業者はマイクロソフトの本社があるシアトルに駐在員を派遣している。富士通も、最大50人もの駐在員を派遣していることがあった。ところが、ノキアは300人近くの大量の開発人員をシアトルに駐在させていた。もちろん、この人数は世界のパソコン企業の中で最多であった。一体、なぜ、ノキアは、そんなに多くの人員をシアトルに送り込んでいたのだろうか?

ここからは、私の独断の推論である。シアトルという街は、地下を掘り起こすと幾層にも古い町が出てくると言うほど、歴史的に古い街である。現在、私が社外取締役を務めている日立造船がシアトルの地下鉄工事用に提供している世界最大の直径17mのシールド掘削機は、泥や岩だけでなく、人工物の煉瓦まで掘削しており、これまで経験したことのないほどの難事業に挑戦している。このシアトルの地下の構造物は一体何なのであろうか?

一説によると、ヨーロッパ人としてアメリカ大陸を最初に発見したのはコロンブスではなくて、それよりも何百年も前に北欧のバイキングがアメリカ大陸を発見していて、その子孫たちが北欧と同じ西岸海洋性気候のシアトルやバンクーバー付近に住みついたというのである。魚業資源が豊かで、誰も手が付いて居ない未開の大地が故郷と同じ気候であったら、誰しも住んでみたいと思うであろう。確かにシアトルの街を歩いてみるとアメリカの中では圧倒的に北欧系とおぼしき人達が多い。最近は、その次に多いのがアジア系である。それに、シアトルは、1年の内、200日以上が雨と言われるほどの雨天気で、およそアウトドアが好きな体育系の人には耐えられない街だ。だからシアトル向けのゴルフシューズも雨長靴もどきだという。こういう気候の中では、室内でじっくりコンピューターのソフトウエア開発をするには向いている。しかし、元々、1年の3分の一が暗闇である北欧の人達にとっては「雨ぐらい、それがどうした!」ということなのかも知れない。

一般的に企業買収というのは、買収される側が買収する側の企業に対して好感を持たない場合には殆ど成功しないと言われている。会社を買っても、優秀な従業員が、皆、逃げ出しては、何のために大金をはたいて会社を買ったのかわからない。しかし、今回のマイクロソフトのノキアの携帯電話事業買収に関しては、ノキアの人達はマイクロソフトが好きなのだと思った方が良い。いや、マイクロソフトだけでなく、その本社があるシアトルという街に好感を持っているのだろう。さらに、これも想像ではあるが、マイクロソフトには北欧に祖先を持つ人々が多く居るに違いない。だから、私は、この企業連合は、きっとうまくいくだろうと楽観して見ている。