2013年2月 のアーカイブ

204 シリコンバレー最新事情 (その6)

2013年2月23日 土曜日

私が米国に赴任した1998年には、1ドル140円、NYダウは約7000ドル、NASDAQは1,300であった。それが2年後の2000年には、NYダウは13,000ドル、NASDAQは5,100にまで急激な上昇を見せることとなった。これが、あのITバブル、ドットコム・バブルである。この時、シリコンバレーからサンフランシスコ・ベイ・エリアまでに住む人口100万人の中で、25万人が億万長者になったと言われた。この地域に住む人々は、「これがアメリカの底力だ」と自信を見せていたが、日本の不動産バブルを経験していた私には、「これがバブルでなくて何なのだ」と思っていた。そして、その通り、翌年の2001年には、このITバブルはまさに泡のように消え去った。25万人の億万長者が持っていた紙の上だけの資産は全て消え去った。

私が経営していた会社が事務所を借りていた大家までもが、私の会社にストック・オプションを要請してきた。「この会社は、日本の会社の100%子会社で米国では上場していないのでストック・オプションはない」と言うと、「そんな会社には事務所は貸せない」と脅しまがいに凄んでみせた。こんな理不尽な要求がまかりとおるなら、この国はいつかきっと亡びるに違いないと恨んでみたりしたこともあった。

優秀な社員も一人ずつ、毎日、会社を去って行った。「伊東さん、私は、この会社が嫌いなわけではないのだが、1億円のストック・オプションをオファーされたら、行かないわけにはいかないのだ。こんなチャンスは一生に二度とないだろうから」と言われた私は「それは是非行くべきだ。君みたいな優秀な社員に去られるのは辛いが、万が一、また戻ってくるつもりがあるのなら、我々はあなたを大歓迎して迎えるだろう」と言って見送った。

アメリカのスタートアップへ入社する際に与えられるストック・オプションは行使まで5年待たなければならないことが多い。私の会社を去った優秀な社員の多くが半年もしないうちに入社した会社が破産し、与えられたストック・オプションが紙くずになった。そのうちの何人かが、また私の会社に戻ってきた。アメリカで働く人たちの力強さは、元の会社に戻って来たときに、元の部下の配下につくことも全く厭わないことである。そして、周囲も会社を去った人が、また戻ってくることに何の抵抗力もなく受け入れ、むしろ、「自分たちの職場も捨てたものではない」と歓迎することにある。こうしたオープンな職場を持つ会社の文化がアメリカの底力だと私は確信した。

ITバブルが崩壊した、翌年の2001年にアメリカは9.11同時テロというアメリカ史上最大の不幸に見舞われた。この不幸が、これまでアメリカの経済発展を支えてきた異民族に対する「寛容さ」を失わせる。アメリカの大学に留学した新興国出身の学生は、卒業後、周囲の住民の厳しい目に耐えられなくなり、アメリカに残らず、故国に帰国するようになった。この時に会ったシスコのチェンバースCEOは、私に、「もうアメリカも終わりだ。このシリコンバレーを支えてきたのはアメリカ国籍を持った技術者ではない。こうした不寛容さが、きっとアメリカを滅ぼすことになる」と嘆いていた。

そして、2007年、シリコンバレーには、さらなる不幸が襲う。リーマンショックに端を発するアメリカ金融恐慌は、シリコンバレーに豊富な研究開発資金を供給してきたベンチャー・キャピタルへの資金の流入を断った。シリコンバレーで豊かな資金を持つのは、中国政府ファンドから資金を預かる、僅かな中国系ベンチャー・キャピタルだけとなった。私が、かつてアドバイザーを勤めていた香港系アメリカ人経営のベンチャー・キャピタルは「胡錦濤主席から10年間で1兆円相当の資金を任された」と豪語していたが、こうしたベンチャー・キャピタルはむしろ希少な存在でもあった。

そうしたシリコンバレーが、今、見事に蘇った。Google, Twitter, Facebookと世界を変えていく新たな挑戦者が次々と登場した。また、これら大成功したスタートアップ達に初期段階で投資し4千億円もの資産を作り上げたリンクト・インの創始者リード・ホフマンは、その資産を、今もシリコンバレーのスタート・アップを育てるための資金援助に使い続けている。PayPalマフィアとも言われる、このリード・ホフマンの生き方こそが、今のシリコンバレーの憧れの存在でもある。

今回、私が会ったサンフランシスコの、とあるスタートアップ・アクセラレータの経営者は、外観は、無精ひげを伸ばし、粗末な衣服を纏い、身なりにも全く構わない方だったが、このシリコンバレーを世界のイノベーションの中心にするのだという情熱だけは凄かった。そして、私が「このアクセラレータの資金はどこから出ているのか?」と尋ねると、「私がベンチャーの上場益で稼いだ1000億円を元手にしている」と言うのである。どう見ても1000億円を持っている大資産家には見えない風体だったのに。

かつて、アメリカの経営者は莫大な資産を持つと、中西部に広大な牧場を持ち、悠々自適の隠居生活を楽しむと言うのが一般的だった。しかし、今のシリコンバレーの億万長者にとって、お金は、それ自体が目的ではない。「次のスタートアップを育てるゲーム」の単なる元手にしか過ぎないのだ。確かに100億円を超えたら、もはや自分で使いきれる額を遥かに超える。その時、そのお金をどう使うかが人間の度量を決める。そういう度量を持っているからこそ100億円以上の巨額の資産を若くして手に入れられるのかも知れない。確かに、今のシリコンバレーは面白い。

203 シリコンバレー最新事情 (その5)

2013年2月4日 月曜日

シリコンバレーと一口に言っても、その範囲は必ずしも明確ではない。シリコンの名に相応しい世界一の半導体メーカーであるIntel社はSanta Claraにあり、ここの市外局番は408で、いわゆるサンノゼ(San Jose)地区になる。通信機器大手のCisco社もサンノゼで、今を時めくApple社は私が住んで居たCupertinoにあり、ここも市外局番は408で、やはり広義のサンノゼである。Apple社は近く、Palo Altoに建設中の新本社に移転すると言われている。そのPalo Altoの市外局番は650で、いわゆるパロアルト(Palo Alto)地区になる。

スタンフォード大学があるStanfordも市外局番が650であり、このパロアルト地区に属す。シリコンバレー発祥の企業と言われているHPもPalo Altoだし、Oracleに買収されたSunもPalo Altoに本社があった。そして、最近ではGoogleがあるMountain Viewも市外局番650のパロアルト地区である。FacebookもMenlo Parkで、やはりパロアルト地区である。最近は、特に、この市外局番650地区が最もホットであり、650イノベーションなどとも呼ばれている。ちなみに、このパロアルト地区はサンフランシスコ地区とサンノゼ地区に挟まれた中心にあり両地区の架け橋ともなっている。やはり、シリコンバレーの中心はスタンフォード大学なのだ。

一方、Innovation Capitalを目指すリー市長のサンフランシスコ市も負けてはいない。ちなみにサンフランシスコ市の市外局番は415である。ここには、Ellison率いる世界第二のソフトウエアベンダーであるOracle社がある。そして、今大きな成長を遂げているBenioff率いるSalesforce.com社もサンフランシスコである。さらに、今回、私が訪れたTwitter社もサンフランシスコ市のダウンタウンにある。今、サンフランシスコはリー市長の掛け声のもと、この広義のシリコンバレー地域で、スタートアップが最も高密度に結集している地区かも知れない。

さて、一般的に「シリコンバレー」と言った時には、このサンノゼ地区(市外局番408)、パロアルト地区(同650)、サンフランシスコ地区(同415)を合わせて指すことになっていると思われるし、私の、このカラムも、そのつもりで書いている。さて、なぜ、新興国も含む世界中が不況で元気がない時に、このシリコンバレーだけが沸騰しているような元気に溢れているのだろうか? その謎を探るために、私は、今回、シリコンバレーを訪問した。

アメリカだけを見ても、例えば2012年の2Qにおけるベンチャーキャピタルの総投資額$7.8Bの内、実に45%に相当する$3.3Bがシリコンバレーに投資されている。2位のニューイングランド地区は全米総投資額の11%に相当する$840Mしかない。つまり、このアメリカの中でも、圧倒的なシェアで新ビジネスを起こすためのベンチャーキャピタル投資がなされていることがわかる。間違いなく、シリコンバレー地区は2012年の1年間で$10B以上の投資がなされるはずだ。

米国東部の名門大学が、皆、シリコンバレーを目指してやってくるし、世界中の全ての自動車メーカー、世界中の名だたる金融機関、そして世界の通信キャリアも、こぞって、このシリコンバレーに集中して研究機関を設立している。サンフランシスコの、幾つかのスタートアップ アクセラレータを見学してわかったことは、世界の名だたる大企業が、こうしたスタートアップの初期段階から関わっていることである。リーマンショック以降の金融恐慌で、世界のお金の流れが大きく変化した。従来の独立系ベンチャーキャピタルには投資ファンドからのお金が回らなくなってきた。その代りに活発になってきたのが、大企業の中で、外部に新規投資先を探すコーポレートベンチャーキャピタルである。

その理由は、今、シリコンバレーで起きている大きな流れが「Disruptive Innovation(破壊的革新)」だからだ。これまでのシリコンバレーで起きていたInnovationはハイテクをベースにして、これまで存在しなかった新商品を作ると言ったものだったが、今、起きている新たなトレンドは既存ビジネスを破壊するInnovationだという。例えば、アップルのIOSとグーグルのAndroidはモトローラ、ノキア、RIMの$70Bの携帯電話ビジネスを破壊した。また、GoogleとFacebookは広告業界から既に$41B のビジネスを奪った。NETFLIXはレンタルビデオ産業から$4Bのビジネスを奪い、業界最大手のBlockbuster社を倒産に追い込んだ。さらにAirbnbはホテルチェーンから$3Bのビジネスを奪い、さらに躍進を続けている。

世界の中で売上高が$1B以上の上場企業4,000社の内で、5年連続で売上増5%以上を達成しているのは、僅か8%しかない。大企業は足が遅く、管理費用も多額で、新規参入者から見たら隙だらけである。成功率の低いハイテクを探求するより、こうした大企業のビジネスを壊すほうが遥かに楽なのだ。そして、大企業は判っていても自らのビジネスを自分で壊すことは一般的にはしない。しかし、こうした新興企業の動きを無視していれば、いずれは、その餌食になる。だから、それが判っている賢明な大企業の経営者は、スタートアップ アクセラレータに優秀な社員を送り、むしろスタートアップを背後からサポートする側に回る。自らが破壊される前に、破壊する側に賛同して味方につけるのである。

もう一つの動きは、ネット社会となって、業界を超えたコラボレーションが始まっていることである。金融サービスと通信サービスと自動車・交通などモビリティサービスが一体になって様々な付加価値ビジネスが生まれている。そうした世界中のさまざまな業界の一流企業が、このシリコンバレーに集結してきている。面白いものだ。ネット社会になれば、人々は一か所に集まる必要もなく、それぞれ遠隔地から議論が出来るのではなかったのか?

どうも、新たなDisruptive Innovation(破壊的イノベーション)とは、Intangible(触れられないもの)ではなくて、Tangible(触れられるもの)のようだ。現実のビジネスは頭の中だけで考える仮想のものではない。新たなサービスを始める際には、必ず、実物(もの)が要る。その試作品を目の前に置いて、実際に見て、触って議論する「場」が必要となる。毎朝、未だ暗いうちから、サンノゼ、パロアルト、サンフランシスコ間の凄まじい交通渋滞が始まるのは、そうした理由からである。

それにしても、未だ、その場が、なぜ世界の中で、たった一か所、シリコンバレーなのか説明がつかない。それを、Milestone GroupのFounderであるMark Zawackiが答えてくれた。シリコンバレーには異才を大事にする文化があるのだという。そういえば、スタンフォード大学のヘネシー学長も、100人の秀才より、一人の異才を大事に育てると言っていた。そして、その異才とは、Geek(オタク)、Misfit(不適応)などの特徴を持っている人のことを言う。そして典型的なMisfitとされるアスペルガー症候群と見られる人々がシリコンバレーには異常に多い。Facebookを創業したザッカーバーグも、そうだと言われているし、Appleを世界一の企業にまで育て上げた故スティーブ・ジョブスもそうではないかと言われている。

とかく日本では、「出る釘は打たれる」という諺がある。他人から目立ってはいけない、違うことをしてはいけないと小さいころから言われてきた。実際に、そうした行動をとれば、間違いなく「いじめ」の対象になった。生徒が先生より優秀であってはならないので、先生の言うことは絶対に正解だとされてきた。こうした閉塞的な社会で、Disruptive Innovationなど永久に起きることはない。

202 シリコンバレー最新事情 (その4)

2013年2月2日 土曜日

サンフランシスコのダウンタウンで、「ロングテール」と並ぶ新ビジネスモデルに関する2大著作と言われる「メッシュ」の著者であるリサ・ガンスキー女史が私たちを笑顔で迎えてくれた。そして会議室の机上には、私たち向けに署名した上で著者謹呈として渡す「メッシュ」の英語版と日本語版が数冊置かれていた。彼女は、屈託のない笑顔で楽しそうに話す、とてもチャーミングな女性だったが、どうやら、私が目の前に置いたミラーレス一眼カメラが、とても気になっているようだった。

別れ際に、一緒に写真撮影して欲しいという要望にも、快く答えてくれたが、「そのカメラをよく見せて、そんなに小さくても一眼レフなの?」と私のNikon 1がとても気に入ったようだった。私が、実際にレンズを外して一眼レフだという証拠を見せると、とても喜んで「ちょっと待ってて」と言い、自分の部屋に戻って彼女が持ってきたのは、デジタルカメラを模したケースを被せたiPhoneだった。「このケース、私が自分で作ったの。ほら、こうしてかまえると携帯電話には見えないでしょ」と自慢する。そう、リサは「カメラ女子」だったのだ。

こうした趣味のカメラを通じて、リサはデジタルカメラで撮った写真をシェアして楽しむしかけを提供する会社を創業した。その後、その会社をコダック社に売却したリサは、既に億万長者である。さらに、このたび著作「メッシュ」が世界的ベストセラーになったことで、さらに多くの富を手にしたことは間違いない。しかし、そういう振りは全く見せないで、雑居ビルの広い一室で、若いスタートアップの人たちを支援し、自らも、新たなソーシャルビジネスを始めようとしている。こんな有名人が、よくも私たちと気さくに話をしてくれるものだとまず感銘を受けた。

リサとの最初の話題は、互いの共通の友人である元デンマーク環境相、現在EU環境相でCOP15の議長を務めたコニー・ヘデゴー女史のことからだった。私が、コニーからCOP15の半年前に行われるビジネス環境サミットへの招待を受けたのは、代官山にあるデンマーク大使館の一室で行われたTV会議だった。この時に、私の、隣にお座りになってコニーと親しく話していたのは、防衛大臣も務められた元環境大臣の小池百合子さんだった。この時、初めてお会いした小池さんは、近くでお話をすると、とても可愛らしくチャーミングであった。そういえば、ダボス会議の準備会合で、たまたま、私の隣に座られた川口順子元外務大臣と話した時も可愛くてチャーミングな方だと感動した。リサも同様だが、仕事が出来る女性というのは、こうして個人的に話すときは可愛くてチャーミングな方々ばかりである。

「メッシュ」は、車など、従来は個人使用していたものを皆でシェアしようとすることを新たなビジネスとして発展することを書いた本である。ただ車を貸し出すだけならレンタカー会社として、既にビジネスモデルがあるわけで、部屋を貸し出すことだってホテルという立派なビジネスモデルは、古くからある。そこで、敢えて彼女が、シェアビジネスを「メッシュ」と呼び、これからはメッシュ社会となっていくと主張する背景を、私達に彼女は熱く語り始めた。もちろん、皆で限りある資源を共有するということは、地球温暖化問題を含めて環境問題に大きく貢献するのは間違いないが、リサが目指してるものは、それ以上にもっと高いところにある。

リサは、そうした「メッシュ」の考え方を私たちに一生懸命に語る。社会は、これからメッシュのように結ばれ自律分散系システムとして働くようになるのだと主張する。私が、「ヒトデ(Starfish)」の話をされているのですね」と言うと、リサは「そう、そうなの。私も読んだわ、あのヒトデの本。何という題名だったか、今思い出さないな。これからの社会は、そう、ヒトデになるの。私は、そう言いたかったの」と相槌を打った。残念ながら、私も、その時には本の題名と著者名は直ぐに思い出せなかったが、帰国して自分の本棚を調べてみたら、その本はオリブラフマン・ベックストローム著「ヒトデはクモよりなぜ強い:21世紀はリーダーなき組織が勝つ」であった。そうヒトデには司令塔となるべき脳に相当する組織が一切ない。ヒトデの各筋肉は自律分散系システムで制御されている。だから脳を持っていないヒトデは脳を持っているクモよりも遥かに強いというのである。

さて、脳のないヒトデの社会システムとは、一体、どういうものなのか? サンフランシスコで、実際にUBERタクシーを経験し、当社の従業員が参加しているレンタルルームシステムAirbnbの話を聞いてみたので、ここでご紹介したい。まず、私たちのチームは4人。サンフランシスコ市庁舎前からスマートホンを用いてUBERから車を呼んだ。まず乗車人数、自分たちが行きたい場所を送信する。当然、今いる場所はGPSをONにしているからUBERはわかる。すると利用可能な車が複数台表示されるので、到着するまでの所要時間や料金、好みの車種、ドライバーの評価などから、どの車を呼ぶかを決めて選択する。

タクシーは3分ほどでやってきた。黒塗りの高級ミニバンで、もちろんタクシーの看板などどこにもついていない。まさに、リムジンである。ドライバーも降りてドアサービスもするなど、礼儀や接客態度も一般のタクシーとは全く違う。目的地に到着すると、またドアサービスをしてくれるが、そこで金銭の授受は一切ない。降りると直ぐに、スマートホンに請求が来るので利用者は車とドライバーの評価を入力して決済をする。さらに、どの道を通ってきたかもスマートホン上に表示されるので不当にお金を取られる心配も全くない。

タクシーのドライバーは営業免許は持っているが、どの会社にも所属していない個人営業である。料金決済はPayPalで行われるので回収リスクは全くないし、顧客サービスをきちんとやれば評価もあがり、営業成績もあがるのでやりがいがある。UBERは、こうしたインフラだけを提供しているだけで、個々の取引に直接関わることはない。まさに自律分散システムである。こうすれば、利用者もドライバーも管理会社に収奪されるマージンを最小限で取引が出来る。こうしたシステムが定着すれば間違いなく既存のタクシー会社は、皆、倒産してしまう。

もう一つの宿泊サービス、当社現地社員がサンフランシスコでAirbnbを利用して個人宿泊サービスを行っていると言うので、いろいろ様子を聞いてみた。彼は、夫婦子供二人の4人家族だが、子供が未だ小さいので一部屋余っており、そこを綺麗にして宿泊に必要な家具を揃えて、Airbnbを通じて貸している。Airbnbは、今や、全世界190カ国にわたり1,000万室を用意して、売上高4千億円、世界最大のホテルチェーンとなった。話はわかるが、自分で、個人として、そうした部屋貸ビジネスが出来るかを考えると、いろいろ悩むこともある。

AirbnbのB and Bは、元来Bed & Breakfastの意味でベッドと朝食を提供する意味だったが、最近は朝食なしも普通になっている。泊まる利用者は、独立した部屋を提供されるので、プライバシーは守られるが、トイレや風呂は共有である、玄関も一緒だし、とうぜん廊下をすれ違うこともある。私は、その同僚に聞いてみた。「どんな人が泊まりに来るか不安じゃあないの?」と。すると、彼は即座に答えた「全く不安はない。アメリカ人の9割は個々にクレジットスコアを持っていて、泊まらせても心配ないかを判断するにはクレジットスコアを見れば良い」と答えた。

つまり、利用者側からも部屋を提供する側からも、お互いに、その個人のクレジットスコアをAirbnb社が独自に提供しているのだ。日本でクレジットスコアと言えばクレジットカードの利用者が支払いを延滞しているか、いないかという情報だけだが、アメリカでは、こうした情報に加えて、ネットでの売買を通じた信頼度や、ソーシャルネットにおける発言状況まで含めた、もっと詳細なクレジットスコアがあるのだという。資源をお互いに共有するには、利用する側にも提供する側にも一定以上のマナーが必要である。今のアメリカ社会は、もはやプライバシーがない社会、つまり壮大なムラ社会になっているからこそ、こうしたシェアビジネスが定着するのだろうと推定される。

ネットを通じて、個人のプライバシーが共有されるのが良い事かどうかは未だ多くの議論があると思うが、こうしたネット上で構築された信頼関係を通じて、今のアメリカでは、いろいろなシェアビジネスがどんどん拡大している。リサが書いた「メッシュ」によれば、あらゆるビジネスは、こうした自律分散型のシェアシステムに変化していくだろうと言うのである。日本だって、ポイントカードを通じて個人のプライバシー情報の共有は、どんどん進んでいるから、いずれアメリカのようになる時期はそう遠くないだろう。