2012年3月 のアーカイブ

129 大震災後の規制制度改革

2012年3月29日 木曜日

本日の13時30分から記者会見を行うということで、公表のお許し が出たので、私が一昨年から参加した規制制度改革分科会エネル ギーWGの様子について、このカラムでお話をしてみたい。

一昨年より、内閣府・行政刷新会議の配下にある規制制度改革に 関する分科会でエネルギー分野を中心に担当させて頂いてきた。 一昨年初めて、この分科会に参加して時は、正直言って『なぜ世間で は当たり前と思えることが、こんなにも七面倒くさい理屈をつけ て簡単には出来ないように規制しているのか?』と疑問に思ったもの である。多分、過去に、こうした規制の網を潜り抜けて悪事を働 いた者が沢山居たので、二度とこうした悪事を起こせないように 法律で雁字搦めにしたのではないかと想像する。

日本は、既に1000兆円の借金があり、今後は、国のお金を投資し て産業を振興させるという手段が、もはや思うようには取れない 状態にある。さすれば、お金のかからない方法、即ち、民間の創 意工夫ややる気を喚起させるための規制緩和しか、この日本の国 を再生させる道はない。ああ、しかし、官僚と言う人たちは、な ぜ、こうも一度決めた法律を変えることに消極的なのだろ うか? いかに、現行法を変えないで済むか、規制緩和の要求を 退けるかと言うことに、ありったけの知恵を絞って抵抗する。

委員の方々の多くは大学の先生たちで、こうした官僚とのやりと りには慣れておられて忍耐強く攻めていく。私のように、直ぐに 激情に任せて逆上するようなことは滅多になされないのである。 『こうした作業は、もう私には向かない』と思っていたら、昨年 の後半になって、また、この規制制度改革分科会のエネルギーW Gに参加させて頂くことになった。一昨年と昨年との大きな違い は、あの3.11大震災と福島第一原発事故である。これは、自 分が、もはや、こうした作業に向くとか向かないとか言っている 場合でないことを強烈に自覚した。やるしかないと思ったわけで ある。

私は、経団連の産業政策部会を取りまとめさせて頂いているが、 元々、日本企業は5重苦(為替、税金、環境(CO2)、労働規制、 貿易自由化)を抱える母国日本で製造していたのでは激しいグロ ーバル競争には勝てないので、日本脱出を加速していたわけだ。 そして、この大震災・福島原発事故を経て電力の安定供給、及び 電力価格という2つの大きな課題を加えて7重苦となった。 これまで、何とか日本に生産拠点を残そうと考えていた多くの 企業ですら、この電力問題で一気に海外移転に踏み切っている。 いや、むしろ、この電力問題は、既にあった5重苦以上の大きな 問題として捉えている企業が極めて多いことが大問題である。

今回の規制制度改革分科会エネルギーWGでの作業の中心は、 将来原子力発電に替わるべく期待をされている再生可能エネルギー 事業を促進することを妨げる規制について見直しを迫るもので あった。もちろん、今すぐに規制を緩和しても明日から再生可能 エネルギー発電が動き出すものではないが、今、決めないと永遠 に日本は電力の安定供給に関する解を見いだせないことになる。

ああ、それなのにである。確かに、各省庁とも一昨年とは異なり 、何とかしなくてはという心情は読み取れる。しかし、議論の結 果は依然として頑なである。『小水力は河川に流れている水を取 水するわけじゃあないのだから水利権とは関係ないでしょ!許認 可じゃあなくて届け出だけにしてください。』と言っても一向に 首を縦に振らない。

まあ、それだけ、過去に水を巡る争いは、血を流すくらい大変だ ったのだろう。白洲次郎が東北電力の会長になっても東京電力か ら猪苗代湖の水利権を取り戻すことは出来なかったのだから。 それにつけても、あの日本より平坦で、殆ど水が流れない、あの ドイツでも小水力発電所は5000箇所もある。これから、ドイ ツを何度も引き合いに出すが、ドイツは再生エネルギーに関して は世界で一番の先進国である。

次に、地熱発電である。日本は世界で有数の地熱発電資源大国で ある。しかも、世界の大型の地熱発電所の殆どは日本製である。 ああ、それなのに、肝心の日本国内では、国立公園法と温泉法の 縛りで、地熱発電所は殆ど開発されていない。なぜなら、日本の 地熱発電所の立地適地は、殆ど国立公園内にあるからだ。そして、 この未曽有の国難に際しても、環境省の自然公園課の態度は立派 である。『尾瀬沼を開発から守ったのは日本の厳格な環境行政だ。 何としても国立公園内に地熱発電所は作らせない。』と職務に 忠実な方で、全く話にならない。

最後に取り上げたいのが、木質バイオマス発電に使う屑となった 木質バイオチップの産業廃棄物からの適用除外である。どうも、 有価で購入されないものは、廃棄物という定義になって、簡単に 処理や移動ができない代物となる。じゃあ、1トン1円でどうだ !仮に値段をつけても、運賃よりも購入価格が安いものは逆有償 と言って有価とは認められないらしい。従って運賃以上の値段で 買ってもらわないと発電資源として利用できないわけだが、そん な高い値段で木くずを買っていたら誰も発電事業をする人はいな い。

また、ドイツの例を引き合いに出すが、ドイツでは冬の暖房の半分 まで木質バイオチップで賄っている。しかも、その熱で発電まで しているのだ。いわゆるコジェネである。木質バイオチップは再生 可能なので幾ら燃やしてもCO2排出にはカウントされない。そんな CO2削減の便利な仕組みをドイツの人たちは有効に使っているの である。(もちろん木質バイオを燃やせば実際にCO2は出る)

ところが、環境省の言い分は、現在、木質バイオマス発電をやっ ている人たちからは、そんなクレームは出ていないと言う。それ は、そうだろう。規制緩和の要求を出している人たち、つまり困 っている人たちは、今、やっていない人たちである。今、やって いる人たちからヒアリングしたって全く無意味である。

まあ、そんな感じで、日本の官僚は与えられた職務には極めて忠 実で厳格な仕事をする。その職務さえ全う出来れば、日本の美しい 自然を守ることが出来れば、日本が潰れたって、失業者がいくら 出ようと関係ない。少なくとも私にはそう思えた。そうした官僚 のセクショナリズムを覆すことが出来るのが『政治主導』である。

今回は、それが最後で働いた。岡田副総理、中塚副大臣の強い 意志で、103項目の多岐に関わるエネルギーに関する規制緩和 が出来上がった。もちろん、その裏では、先ほどから非難してき た霞が関の官僚の方々が、最後には『これじゃあ、日本は潰れて しまう』と『職務には不忠実』になることを覚悟されたからに違 いない。今回、最終フェーズにおいて力を発揮された、岡田、中 塚両大臣と、その要請に応じられ決断された主管官庁の方々に 心から感謝をしたい。

そして、最後に日本の産業界を代弁して、さらに二つの点を要望 したい。一つは、今回の規制緩和で再生可能エネルギーの開発に は大きく拍車がかかることだろう。それで、将来の電力の供給 不安はだいぶ解消される期待が出てきた。しかし、産業界の電力 に対する懸念は、供給の安定性と、もう一つ、電力価格である。 日本には電力を大きなコスト要因とする産業が多岐にわたっている。

今の日本の電力コストは韓国の3倍である。それが、今回の原発 事故で、さらに値上げされると聞いている。これでは、日本の製 造業の日本脱出は止まらない。日本の電力を高止まりさせている 各種規制の見直しが必要である。例えば、日本の光ファイバーを 中心とするブロードバンド固定網における通信コストは世界一安 い。これは、まさに競争政策の結果である。同じことが電力に関 して出来ないのか?それが出来なければ、日本の製造業、雇用は 大きく破たんする。

もう一つは、霞が関の官僚が清水の舞台から飛び降りる覚悟で 一大決心をした規制制度改革も、最終決定権を持つ地方自治体の 首長がOKを出さない限り、全くの徒労に終わってしまうことで ある。これまでも、そんな例を幾つも聞いている。本当の意味で 保守的なのは、霞が関の中央官僚ではなくて、地方の首長や官吏 である。ここで、地方が積極的に腹を括ってリスクを取らない限 り、日本の再生可能エネルギーの推進、ひいては地域の産業や、 雇用の拡大は一歩も先には進まない。

128 『長寿と性格』を読んで

2012年3月27日 火曜日

ハワード・フリードマンとレスリー・マーティンの共著による この本は全米で長寿と健康に関するこれまでの常識を覆した と言う意味でベストセラー本の仲間入りをした。

この二人は、今から90年ほど前から、この長寿と性格の関係を 調べ始めたスタンフォード大学のルイス・ターマン教授の研究 を引き継ぎ、1,500人の生涯を、ほぼ100年間に渡って追跡した 研究として高い評価を得ている。

この研究は、これまで長寿に結びつくと言われていた性格が、 必ずしも正しくないということを多くの事実から証明しており 、全米の健康医療に携わる人々に大きなショックを与えた。

健康に関する医学の常識は、その日進月歩の進歩によって大き く変わるのは当然のことであるが、医学界や製薬業界における ビジネスの継続性を担保するためか、必ずしもタイムリーにき ちんと報道されない危険性も持っている。

例えば、最近議論になっている早期糖尿病の新たな治療法とし て注目を浴びている糖質制限療法などが良い例である。 この糖質制限療法は、妻の同級生で大学の学長の方が試行され、 減量と血糖値低下に良い効果を得られたと言うので、我々夫婦 でも、3か月ほど前から始めたが大変良い結果が得られている。

アメリカ人はあれだけ肥満が多いのにも関わらず、糖尿病患者 が殆ど居ないのは、肉食中心で、デンプンを含む糖質を摂取し ていないからだと言われている。戦後、日本人の平均寿命が 大幅に伸びたのは、米中心の食事から肉を取り入れた欧米流 の食事に転換したからだという説がある。これは、いわゆる 巷で言われている常識とは全く逆である。糖尿病は、デンプン を主食とし糖質を多く取っているからなるものだと思った方が 良い。

私も糖質摂取を制限した結果、まだかなりの肥満体ではありな がら、中性脂肪は殆ど下限値までに下がった。血圧、血糖値も 良好な値に下がってきた。この療法が簡単なのは、とにかく主食 (米、パン、うどん、そば、パスタ)を食べなければ良いだけ である。後は、今までどおり、常識的に好きなだけ食べて良い と言うのだから非常に楽である。肉と油を出来るだけ避けた 菜食主義が最も健康に良いと言うのは大きな誤りであった。

さて、この本には、どのような驚きの事実が書かれているのだろう。 その一部を、ここで、ご紹介したい。それぞれ、言われてみれ ば、なるほどと納得することばかりである。それなのに、なぜ、 そういう議論がまともに為されてこなかったという疑問がむし ろ残る。

1.勤勉性の高い人は長寿

○勤勉な人は喫煙や過度の飲酒などの危険を避ける

○勤勉な生活をするには健康が必要条件

○人生全般で健康的な生活習慣を選択する傾向にある

2.社交性と長寿は無関係

○過度の飲酒や喫煙を伴うお付き合いが悪影響

3.陽気で明るい性格は短命

○お祭り騒ぎは不健康

○根拠のない楽天主義がリスクを招く

○むしろ心配性の方が健康の助けになる

4.悲観主義も短命

○衝動的に危険な行動を選ぶ傾向にある

5.体育会系と寿命は無関係

○ジョギングは長寿に効果なし、むしろ逆効果

6.結婚と長寿は無関係

○独身でも長寿は可能

しかし、離婚に関する以下の事実は不思議。

○離婚男性は短命

○離婚女性は長寿

7.社交ネットの大きさは長寿につながる

○善人は長生きをする

8.キャリアへの高い意欲は長寿に効果あり

○生産性の高い高齢者は長寿

○適度なストレスは長寿につながる

最後に、この著者達が力説しているのは、現代医療の 狭量な健康感を見直す時期に来ているということと、 薬に頼らない健康的な生活を目指すということで、 まさに私達夫婦が始めた糖質制限療法が良い例だと 諸手を上げて賛成してしまった。

127 『動物が幸せを感じるとき』を読んで

2012年3月27日 火曜日

私がこの本を読んでみようという気になったのは、この本の原題が 一瞬ドキッとする『 Animals Make Us Human 』だったからだ。 アメリカを代表する動物学者である著者テンプル・グランディン氏 は、現在、精肉業を経営している。グランディン氏は、牛や豚、 鶏たちが、恐怖に慄くことなく処分場に向かえるよう、いろいろな 工夫をしている。

つまり、この本の原題は、動物たちが、ある時はペットとして人間 の心を癒し、ある時は食肉として人間の体を作ってくれるという点 で、人間に必要欠くべからざる存在であると主張している。だから こそ、動物たちの立場に立って、彼らが幸せだと思うことは何か、 そして彼らが最も嫌がることは何かを人間はもっと知らないといけ ないと言うわけである。

そして、それは動物愛護団体の人々が言うほどに現実世界はそう簡 単ではない。例えば、アメリカでは動物愛護団体が馬の処分場を全 て閉鎖してしまったため、役務を終えた馬はメキシコに輸出されて、 さらに厳しい労働を与えられ、栄養失調で死ぬまで働かされて死ん でいくことになった。

フランスでは、非競走馬についての調査で、毎年、馬の60%以上 が2歳から7歳で死んでいくことがわかった。馬の平均寿命は20歳以 上あるので、殆どが問題行動のために処分されている。この原因が 、幼い時の恐怖の調教のせいで人間になつかなくなり、乗馬に適し ない馬にさせられたからだと言う。馬は、極めて繊細な神経の持ち 主で、恐怖の調教でPTSDに罹る可能性が極めて高いのだと言う。 だから乗馬はオートバイに乗るより遥かに危険なのだそうだ。

さて、私が最も関心があったのは犬である。よく、犬と猫の違い を言われるが、人間と犬の歴史は10万年以上、一方猫と人間は、 たかだか数千年だから違うのはあたりまえだそうだ。猫はネズミ を取るために、飼うというより、人間が側面から支援するという ことから始まった。だから猫は犬よりも自立性が高いのだという。

犬の祖先はオオカミであるが、多くの人たちが、これまでオオカミ の生活習慣を誤解してきた。一般的にオオカミは群れを作らないし、 もちろん群れのリーダーなど居ない。肉食のオオカミは、群れを 養うほど豊富なエサに恵まれていなかったからだ。オオカミの群れ と思われていたのは血縁で結ばれた家族であった。オオカミは、そ の長い歴史の中で近親交配をしない習慣が確立していて、それは 犬にも引き継がれている。従って、血縁関係にない犬を複数飼うの は犬にしてみれば苦痛であり。特に3匹以上一緒に飼うのは絶対に やめた方が良いと言うのである。

犬が、人間と暮らすようになって一番変わったのは、野生動物と して必要な能力を磨くための成長が途中で止まってしまったこと だという。つまり、犬は死ぬまで『オオカミの幼児』であり続け るのだ。だから可愛いし、人間の保護なくしては生きられなくな った。性的には8か月で成熟するが、18か月から24か月までは、 心は幼児のままだと思った方が良い。落ち着きがなく、何にでも 好奇心を持つ子供のような行動をとるのは、そのためだ。

そして、犬種によってオオカミとの近さが異なるが、その近さと は顔つきがオオカミと似ているかどうかで測ることが出来る。 似ている指数で言えば、シベリアンハスキーが15で一位。ゴー ルデンレトリバーが12、ジャーマンシェパードが11と続く。 一方似ていない方は、キャバリアスパニエルが2、ノーフォーク テリアが3、フレンチブルドッグが4となる。この指数が小さい 犬種は、野生で暮らす能力は全くないと言えるだろう。

さて、動物が幸せかどうかは、その行動でわかるという。例えば 、動物園のライオンが檻の中をいったりきたり同じところをグル グル回って歩いている。これを常同行動と言い、この動作を取る動物が 最もイライラしている。一方、幸せな行動は探索行動である。 我が家の犬も全く同じであるが、三度の食事より散歩が好きであ る。朝から晩まで同じ場所に居続けられさせることが動物にとって 一番不幸なのだそうだ。いくらエアコン完備で快適な空調が整って いても、一日中誰も相手にしてくれない犬は気が狂いそうになって いる。

本当に、この本は面白い。これまで聞いたことのない独創的な発 想で動物を徹底的に観察した結果から書かれている。実は、この 本の著者は重度の自閉症患者である。ここが凄い。自らの体験も 活かして、この著者は動物の『精神的な幸せ』を4つの情動システム (探索・怒り・恐怖・パニック)で判りやすく解説しているのだ。

著者は私と同じ1947年生まれ。コロラド州立大学教授で精肉業の 会社を経営している。自閉症の啓蒙活動と家畜の権利保護について 世界的な影響力を持つ学者である。著者自ら語っているように、 アメリカの教育システムが自閉症患者の不得意なところは免除して 得意なところを伸ばす内容だったからこそ、自分は博士号も取る ことができ、世界で認められる学者になったと言う。『自分も、アインシ ュタイン博士も、常識的な教育システムでは、その才能を開花で きなかっただろう』と述べている。

自閉症のお子様をお持ちの私の友人が、アメリカ転勤で、優れた 自閉症の教育システムを知った。奥様は、わが子のために、日本 に帰国することを断念された。アメリカの活力の源泉がここにあ る。アメリカの多様性を認める社会が優れた才能を育む。『何で 他の子と同じことが出来ないの?』と叱る日本の母親。一方、 アメリカの母親は『どうして他の子と同じことしか出来ないの?』 と叱る。これは、大人になった時に大きな差になって現れてくる。