2011年3月 のアーカイブ

7. エネルギー政策の再構築

2011年3月23日 水曜日

「原発は恐ろしい、もういやだ。」という機運が蔓延している中で、これから日本国内に原子力発電所を新たに建設することは極めて困難になるだろう。しかしながら、私達は、これまで、その「原発」のお陰で毎日を何とか平穏に暮らすことが出来ていた。それをやめるには、生活レベルを今より相当落とす覚悟と、国民全体でかなり大きな負担をする新たな投資を覚悟しなくてはならない。

平成22年7月16日付けで経産省が出した、「2030年に向けたエネルギー政策」を見てみると、まず目標として、2030年までには、自主エネルギー比率(原発を含むエネルギーの自給率)を現在の38%から70%にする、そしてゼロ・エミッション電力(CO2を発生させないで作る電力)を現行の34%から70%にすると書かれている。つまり、この計画によって日本は国際社会に向けて先に鳩山政権が約束したCO2削減目標の責任を果たすとともに、資源ナショナリズムが台頭していくなかで、エネルギーの安全保障に対しても万全を期すということである。

ここで言う「自主エネルギー比率」というのは、原子力発電に使う核燃料は長期的に確保でき、かつプルサーマルのようにリサイクルも可能なので、「一応自給の範囲とみなしましょう」という意味だ。仮に、この原子力発電も核燃料は外部調達だから、「自給とは言えない」と定義を変えれば、日本のエネルギーの自給率は電力換算で、たったの4%になってしまう。食料の自給率が40%しかないことで、多くの日本国民が危機意識をもっているなかで、エネルギーの自給率が、たった4%しかないことが広く国民に流布すると、大きなパニックになることを恐れて、「自主エネルギー比率」という難解な言葉を導入していると思ったほうがよい。

この「自給」と「自主」の間を取り持ってきた「魔法のエネルギー」が原子力発電だ。だから、この「2030年に向けたエネルギー政策」では、2020年までに、原子力発電所を新たに9基建設し、日本の原子力発電所の設備稼働効率を85%にまで高めることを計画している。加えて、2030年までには、原子力発電所を新たに14基建設し、設備稼働効率を90%にまで高めると書かれている。このことによって、2030年には、CO2排出が真水で30%削減できると言っている。

つまり、日本のエネルギー政策は、その主体が原子力発電をベースに構築されていると言ってよい。CO2削減とエネルギーの安全保障は原子力発電があって初めて実現できる。一方、「原子力がなくても、太陽光や風力があるじゃないか」と言われるむきもあるに違いない。しかし風力は台風もカミナリもなく安定した強い風が絶えず吹く北欧でこそ有力な資源であり、日本では殆ど期待できないのだ。私が、コペンハーゲンで世界一の風力発電機メーカーであるデンマークのベスタス社のCEOと昼食をとったときに聞いた話では、「日本をくまなく調べて歩いた。日本で風力発電に適している地域は北海道と東北の一部だけだ。日本で風力発電のビジネスをすること非常に難しい。」という情けない話だった。

「それでも太陽光があるではないか!」と言われるむきもあるだろう。しかし、今の太陽光発電は、他の発電手段に比べて、とてつもなくコストが高い。そして太陽光よりも、より現実的と言われる太陽熱発電も、雨天、曇天が多い日本では日照時間の関係から決してうまくはいかない。つまり、太陽光も太陽熱も、少なくとも10年の間は、量的なレベルで原子力発電の代替になりえないということである。

じゃあ、どうするのか?ということだが、こうした窮状を救うには、日本は、とんでもないイノベーションを世界に先駆けて起こさなくてはならない。要は、今、世間で議論されている代替エネルギーのメニューではどうにもならないのである。例外は、日本に豊富にあり、日本が技術的にも世界一と言われている地熱発電が有力な候補である。保安林や国立公園などの関連法規の規制緩和が急がれる。また、地熱源は地中高深度なので温泉源とは競合しないことも理解して、温泉地の観光組合は、もう余計な邪魔はしないで欲しい。何しろ、日本の将来の存続が掛かっているのだから。

また、大いに発想を変えて、この際、世界中に豊富にある石炭火力に注目したい。石炭を焚いて出るCO2を、ノーベル化学賞に輝いた根岸博士が提案されているように光合成の原料に出来ないだろうか?など途轍もないアイデアはどんどん出てくる。困窮した状態こそが、次の時代に向けてのイノベーションを起こす。まだまだ、諦めてはいけない。どんなに困難な科学技術の探求であっても、資源を巡って他国と戦争をするよりは遥かに楽な戦いである。

6.カルフォルニア大停電 

2011年3月23日 水曜日

今朝も大きな余震が続いている。震源は福島県と茨城県の境のようなので、復旧作業中の福島原発への影響が懸念される。そして、もちろん今日も計画停電は継続される。思い出してみると、私は米国在任中に、あの有名なカルフォルニア大停電を経験している。2000年夏から、翌年中ごろまで、約1年近く続いていたものだ。

あの時の経験を少し思い出してみたい。個人的に一番困ったのは、単身赴任だったので、休日に1週間分作り貯めておいた、ご飯や餃子の冷凍が解けて食べられなくなったことだった。しかし、シリコンバレー全体にも及んだ、この大停電は、それほど大きな混乱をきたしていなかったように思える。シリコンバレーというくらいだから、インテルを始めとした半導体工場も多く、連続通電が必要なインフラばかりだった。私は、工場ではなくオフィス勤務だったので具体的にどうしていたのかはわからないが、インテルの人に聞いた話では、工場を持つ大口需要家は停電という形ではなく、休日稼動/平日休業という操業シフトで平準化を図っていたようである。細切れの停電では工場は稼動できないからだ。

そして、一般家庭では事前告知はなく、突然に停電という形だったような気がする。それは、私が外国人で、地域社会に溶け込んで居なかったので、私だけが知らなかっただけかも知れない。でも、もともと、アメリカでは突然の停電というのはよくあるもので、固定電話だって通じないことは決して珍しいことではない。大体、アメリカ市民はインフラが止るということには慣れている。銀行のATMが止ってもニュースにすらならない。たとえNYSEがシステムダウンしても、シカゴ市場で代替できるので全く問題ないという。そういう意味で、日本はインフラの故障に対して全く脆弱だと言わざるを得ない。

私が、それを一番感じたのは交通信号の遮断である。当然、停電だから信号は止る。それも予期せぬ時期に予期せぬ場所で止るのだから警察が人手で捌いてくれることなど全く期待できない。アメリカで信号が止ったときは、信号機の無い交差点で運用されている「Four Way Stop」というルールが適用される。そういえば、アメリカでの信号がない交差点では日本のように優先道路の指定もない。とにかく、一番先に交差点に入った車が直進であれ右折であれ左折であれ、最優先で車を動かすことが許されるのだ。

ところがである。3車線の道路の交差点を考えみて欲しい。総数12台の車の内、一番先に交差点に入った車から順番に行動を起こすのである。これが難しい。私は長らく行列を待って、ようやく、先頭の12台の内の一台になったときにパニックになった。自分は、一体、誰の次に動くのか、12台の待ち行列を覚えていないと自分の順番がわからないのだ。間違えて、先に行くとブーイングのクラクションを鳴らされるし、自分の順番が来たのにモタモタしていると、これまたブーイングだ。アメリカで車を運転するには、よほど記憶力がよくないと、停電時の交差点には入れない。

そして運転者全員のマナーが素晴らしい、整然と一台一台、時間は平常より大幅にかかるものの、誰も文句を言わないで進んでいく。アジアの新興国の運転マナーからはおよそ想像がつかない大人の運転である。こういうことが出来る国が、本当の意味での「先進国」というのだろう。

⒌ サプライチェーンの見直し

2011年3月22日 火曜日

東北関東大震災が起きた3月11日から、1週間もたっていない3月17日に経団連会館でDBJ(日本政策投資銀行)の加納常務から、日本が直面する今後の政策課題について伺った。DBJでは震災直後から、短期的な課題についての議論を始めたのだという。その結果、直ぐにも議論しなければならない課題を次の3つに纏めていた。第一は、もちろん「東北地方の復旧と再生」である。そして、2番目は「サプライチェーンの見直し」だというのだ。最後の、3番目は「エネルギー政策の再構築」である。

特に、この2番目の「サプライチェーンの見直し」については、私は、今回の大災害で大いに反省せざるを得ない。特に、地方の港湾整備と空港新設という、これまでの国土交通省のバラマキ政策については、私は大いに批判的であった。日本全国に分散化して空港、港湾を整備するよりも、アジアの他国に負けないハブとなる大空港、大港湾を作るべきだと主張してきたからだ。

ところが、どうだろう。私自身も今回、三沢空港があったから青森から翌々日に帰京することが出来た。そして、東北新幹線、東北自動車道という陸路が寸断されてしまった今、航空機と船舶がサプライチェーンの主役を担っている。効率を最優先にした集中システムは大災害に弱い。特に、地震、津波、火山噴火といった自然災害のリスクに晒されている日本では陸路以上に空路や海路に依存する可能性が非常に高い。正直言って、自分の考えが浅はかだったと認めざるを得ない。

そして、もう一つ気になる話は、キーコンポーネントの調達リスクである。北関東から東北地方には、一つ一つの部品の単価はそれ程大きくはないが、製品の完成には欠くことができないキーコンポーネントの製造工場が多数存在する。しかも、それらの部品はアジアを中心とする国際市場で必要とされているものが多い。国際的な調達市場において、日本は自然災害というカントリーリスクが高いと言うレッテルが貼られてしまうと、もう既に深刻化している製造業の日本からの離脱に一層加速がかかるかも知れない。これを防ぐためには、被災した製造設備の一日も早い復旧と、今後は、キーコンポーネントに関しては、全く同じものを日本の西と東で分担製造するようなリスク分散をも考えていかなければならないだろう。