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501  昭和101年を迎え、私たちは何をすべきか

2026年1月1日 木曜日

2026年の元旦。皆様、明けましておめでとうございます。今年の干支は60年ぶりの丙午。「丙午年生まれの女性は気性が激しく夫の命を縮める」という困った迷信は日本だけのものである。中国では北宋時代の末期から、丙午の年には火災が多いと信じられており、丙午を凶歳とする説が広まっていたが、女性に対する迷信は全くない。しかし、この凶歳説が日本にも広がり、江戸時代に下級の宗教学者の手により村々に広まる間に「丙午の女は夫を食い殺す」という俗説が生じたらしい。こんな馬鹿馬鹿しい話を現代でも信じるのか?と思われるが120年前の1906年には、出生率が前年より4%減少した。しかし、この迷信は昭和になっても根強く残り、60年前の1966年には前年に比べて25%も減少した。

私の知り合いにも今年還暦を迎える丙午生まれの女性が何人かいるが、皆、知性高く優しくて夫婦円満な家庭を築いている方達ばかりである。むしろ、同い年の同級生が少ないので、社会からも大事にされて他の年に生まれた方よりも恵まれた人生を過ごされたのではないだろうか。しかし、今の日本は、ただでさえ出生率が低下しており、これ以上の減少は国家存亡の危機となる。世界銀行の調査では、2025年6月時点では丙午の出産を避けようという動きは把握されておらず、丙午出産の回避は、もはや継続しないと推定されている。ぜひ、メディアの方々も、今回の丙午のことは、センセーショナルな話題にして頂きたくないと私は心より願っている。

さらに、1926年が昭和元年なので、今年2026年は昭和101年となる。明治維新後の「明治、大正、昭和」と3つの元号は日本が大きく変わっていった時代を表しているが、その中でも「大正15年12月25日から昭和64年1月7日までの「昭和」という元号で呼ばれた62年間は日本が一番大きな転換を迫られた時代だったと思う。私は子供の時から「明治は67を加え」、「大正は11を加え」、「昭和は25を加え」という足し算を行なって、「和暦」を瞬間的に「西暦」に直すことが得意だった。そんな、私が今では「平成」や「令和」で年号を言われると西暦には全く変換できなくなってしまった。だから、私には、2026年は、まさに昭和101年なのだ。一体、私は、いつから、どうして、そうなってしまったのだろうか?

現在、世界でキリスト生誕を元年とする西暦以外の独自暦を使っているのは日本だけである。アラブ諸国でさえも、ムハンマドのメッカからメディナへの移住を紀元としたイスラム暦を公式暦として使っている国はもはやない。どうして、そうなったのか考えてみると、多分、あらゆる生活習慣の中でITの導入が進展し世界中の年号管理が西暦ベースで統一されているからなのだろう。1998年から2000年までアメリカに駐在している私は、この「2000年問題」の影響を大きく受けた。そして、この「2000年問題」とは、全く愚かなことに世界中でコンピュータ世界では、年号管理を下二桁で行っていたことに起因している。つまり2000年になって年号管理番号が「99」から「00」に変わった途端、コンピュータの世界では100年前に戻ってしまうことになる。

このことに気がついたアメリカでは、私が赴任した1998年から「2000年問題」は国中を挙げて大問題として騒がれており、年号に関するシステム改修に全力を注いでいた。この時期から、米国では、プログラム技術者が圧倒的に足りなくなりインドに大規模なシステム改修のアウトソーシングを開始した。特に、金融機関では「2000年問題」によるシステムが破壊することに大きな懸念が持たれていて、アメリカの財務省は1999年末に各金融機関に現金の保有を平常時の数倍まで高めておくよう指示を出していた。この結果、アメリカの各銀行は、回収が困難だと見なされる不良債権の返還を急いでいた。そして、私がアメリカに出向した理由は大きな赤字を出す現地子会社の再建であり、その会社では在米の日系金融機関から巨額の資金を借りていた。

そして、まさに一番恐れていたことが起きた。現地の在米銀行から「貸したお金を即刻返金して欲しい」という要請が来たのである。こうした借金は全て親会社の富士通が返済に対して裏書補償をしており、実際に不良債権になる恐れは全くないのだが、在米の銀行の担当者は、「アメリカの金融当局は富士通がどれほど大きな会社かを知らない」と言うのである。しかし、100億円近い大金をすぐさま日本からアメリカへ移転するのは、決して容易ではなく、一体、どうしたら良いか全く算段が付かなかった。さらに本社の財務担当トップは「その問題は、アメリカで解決しろ」と突き放したのだ。結論から言えば、その銀行のサンフランシスコ支店に毎月定期的に通い詰めて、シリコンバレーの最新情報を逐次報告することで即時一括返済を免除して頂くことに何とか了解を得た。

平成元年は1989年だから「88を足す」と言う計算で簡単に変換できるわけだが、当時の私には、そういう換算式すら全く頭から消えた。この「2000年問題」で、もう和暦のことなど考えたくもないと言う、ある種の拒絶反応だったのかも知れない。それ以来、私は自身では全ての年号管理を西暦だけで行うことにした。富士通も、この「2000年問題」を契機に、ようやく社内文書の年号を全て西暦に統一した。その後、ある会社の取締役会で社外取締役として、グローバル企業を目指すなら、まず社内文書は西暦に統一すべきだと提案した。この時、富士通の例を話したら、同席していたソニー出身の社外取締役から「ソニーは創業時から社内文書は全て西暦表示に統一されていました」との話が出た。その話を聞いて、さすが「世界のソニー」だなと深く感銘を受けた。

アメリカで生活していると、日本がいかにグローバルを無視しているかを知ることになる。アメリカでは移動の際に、レンタカーを使うことが頻繁にある。車を借りる際に、運転免許証の提示を求められるのだが、日本の警察が発行する国際運転免許証を提示しても「こんな紙切れの書類は、いくらでも偽造できる。だから貴方の日本の運転免許証を出してくれ」と必ず言われる。いつも、そう言われるので、日本の運転免許証を見せると、担当者は一応に困った顔をする。有効期限が和暦で記載されているので彼らには免許証が有効かどうかわからないのだ。少し、迷った後に「わかった。OKだ」と諦め顔で車を貸してくれる。私は、日本に帰国してから、このことを何度もいろいろな場所で言ってきた。そのお陰か、現在の日本の運転免許証は有効期限に和暦と西暦が併記されるようになった。実際には、運転免許証は西暦だけで十分なのだが。

暦号に限らず、日本では、今でも世界中で日本だけというビジネス習慣がたくさんある。最近、グローバルに活躍する企業が増えてきた中で、人事や経理の分野での社内ルールにおいて「世界標準」を採用する企業が増えつつあるのは当然とも言える。これだけ人手不足が騒がれて、「人手不足倒産」が極めて現実的になった社会では国内人材だけで会社を回すことは、もはや不可能である。採用や評価など人事の基準も世界標準でなければ国際人材の採用もできない。いや、海外人材だけでなく国内人材の採用や評価においても、従来の終身雇用・年功序列という従来の日本基準では若い人だけでなく中高年齢者の社員においても優秀な人材を引き留めておくことができなくなった。

一方、企業の方も「AIの力」を使わないで競争力を維持することは不可能な時代となり、「AIを使いこなせる社員」と「AIを使いこなせない社員」を同列に評価することは難しくなってきた。丁度、日本の企業経営が、藤井聡太さんと同じように「AI将棋」で訓練を積まないと生き残れなくなった日本の将棋界と同じ景色になったと思えば良い。さらに、深刻な事態は、「AIを活かせる企業」になるためには「AIを使いこなす力」だけを磨けば良いというものではないことなのだ。それは、日本がデジタル応用で世界に遅れたのは、どうしてなのか?という真の理由を考える必要がある。1990年代から約30年間、日本が永年停滞したのは、戦後50年間日本を飛躍的に発展させた基礎だと信じられていた世界標準とは異なる日本独自の文化である「終身雇用」、「年功序列」が原因だった。

世界の多くの優れた企業においては、人事や経理あるいは購買や販売など会社の基礎的な運営において殆ど類似した共通のルールを持っている。従って、どこの会社でも使われている標準パッケージソフトを使い最先端のデジタルシステムを容易に構築することができる。こうしたグローバル企業が、自社だけの独自のルールを排除してきたのは、頻繁に従業員が交代する「転職する文化」に対応可能とするためだ。多くの欧米の企業では、長い人でも数年でより高い給与や地位を求めて働く会社を変える。こうした事態に対して、仕事のルールを共通にしておけば、誰を採用しても優秀な人なら仕事の引き継ぎは簡単にできる。また、課題のある事業の分割や売却、あるいは他社の事業を買収してもルールが同じなら連結決算も容易に実現できる。つまり、社内のルールを他社と共通にすることは、経営のダイナミズムを活性化することを容易にする。

一方で、自社だけの独自の仕事のやり方が「競争力」だと勘違いしている経営者は、最先端のデジタル化に遅れるばかりか、キーマンが退社してボロボロになったチームの再建にいつも苦しむことになる。あの人が居ないと会社が成り立たないという組織では会社は成長できない。こうした企業は早く、全てをグローバルに標準とされているルールに置き換えないと、もう今後は生き残れない。今は、独自のルールを個別のプログラムで実現したデジタルシステムで何とか生き残っているが、今後、世界に蓄積された優れたルールをベースとして実現する「AIエージェント」によって、ソフトウエアで実現されてきたデジタルシステムを置き換えようという動きが世界中で動き出しているからだ。

こうした「AIエージェント」への動きが、今、世界で叫ばれているAIバブルをもたらしている。なぜ、これだけ狂気としか思えない巨額の投資を行っているかと言えば。もし、世界中で多くの企業が「AIエージェント」を導入していったら、従来のソフトウエアベースで動いている多くの「従来のクラウドシステム」が用をなさなくなるからだ。果たして、本当に「AIエージェント」が世界中で導入されていくか、まだわからない。しかし、もし、そうなったとしても、現在の巨大クラウドシステムを提供するAmazon、Microsoft、Googleは巨額の軍資金を持っていて、次の「AIエージェント」への準備をしっかり行なっているので何とか持ち堪えられるだろう。しかし、私が危惧するのは、年号基準で西暦も採用できないような日本ローカルルールを大事にする企業が、この新たな「AIエージェント」時代にきちんと生き残れるのだろうか?という懸念である。

500  500回目の投稿

2025年12月1日 月曜日

2025年12月1日付の今回の投稿は通算500回目となる。この投稿を始めたキッカケは2011年3月11日の起きた東日本大震災だった。1000年に一度と言われる、この大災害は私にとっても極めて大きなショックだった。この当日のまさに地震が起きた午後2時46分、私は青森で講演の最中だった。異常な揺れに気がついたので、握っているマイクで聴衆に向かって「皆さま、すぐさまビルの外に出て避難してください!」と大声で叫んだ。この地震が起きる2−3日前から、東北地方北部の太平洋岸で何度か地震が起きていた。それにしても、こんなに大きな地震が起きるとは夢にも思わなかった。この日は、講演が終わった後、関係者の皆と浅虫温泉で慰労会を開く予定だったが、この大地震のため温泉旅館から、その日の宴会も宿泊も断られた。

それでも富士通の青森支店長の配慮で、代わりのビジネスホテルを手配してもらい二日間宿泊することができた。また、東北新幹線が運行中止となったため、地震発生直後から青森空港から羽田行きの便は、暫くの期間は全て予約済みとなった。しかし、青森市内から三沢空港まではかなりの距離もあり、地震直後からガソリンスタンドが長い列となり、どの車も長距離運行が厳しくなったので青森から三沢空港までのタクシーの手配が困難となった。その結果として、私は三沢空港から東京行きの便が取れたのだ。当日、青森支店長車を手配してもらって、そのお陰で何とか私は三沢空港まで行くことができた。

当時、私はJALの役員の方に知り合いが居て、何とか青森空港からの羽田便を取ってもらおうとしたのだが、その方が言うには、三沢空港は米軍が管理しているので、こうした非常時には三沢空港の方が青森空港より安全度が高いと言う。さらに、この方の言によれば、今後、アメリカからの支援部隊は全て三沢空港経由で日本に派遣されるだろうとのことだった。三沢空港に着くと、近隣各地から避難してきた人々が大勢集まっていた。待合室で聞いた話の中で、大阪から八戸に出張中で空港まで避難してきた方々が「レンタカーを返さないで、そのまま避難したので何とか命が助かった」、「もしレンタカーをお店まで返していたら、私たちは津波に呑まれていたかも知れなかった」と言うのである。

これだけの大災害が起きた日本では、この後、本当に「天変地異の事態」が次々と起こることになる。こうした未曾有の経験の中で、私のような者でも、いろいろ考えた事を後世に少しでも残しておく価値が何かあるだろうと考えて、このブログ「千秋日記」を立ち上げた。震度6の青森で、この大震災を自身で体験したと言うことと、関東大震災の翌年に東京で生まれた私の母の生誕戸籍が、宮城県石巻市にあることが、東北各地の被災地を自分の目で見て回りたいと思う直接のきっかけとなった。そして最初に訪れたのは、新幹線が復旧した5月の連休明けに行った会津若松だった。会津には、全国で唯一の公立のIT専門大学である会津大学がある。その会津大学から復興支援センターのアドバイザリーボードになって欲しいという依頼があり躊躇なくすぐに引き受けた。それ以来、今も13年間にわたって会津大学主催の復興支援活動に関わらせてもらっている。

この会津大学を訪問する前日に宿泊したのが会津東山温泉にある「新滝」であった。この旅館は会津藩主だった松平家の別荘で、竹久夢二が逗留し宿泊代の代わりの書いて行った絵が数多く展示されている有名な旅館である。しかし、当日、この宿に宿泊していたのは私を含む少数の客だけだった。あの大震災の直後であったせいもあるだろう。しかし、風呂から上がった直後に気がついたのは、ひっそりと宿泊している多数のお客が泊まっているらしいことだった。翌日の朝食時に、多数の方々にお会いしてから分かったのは、福島第一原発から至近距離にある大熊町の方々が避難宿として、この「新滝」を利用されていると言う。この「新滝」は何と素晴らしいことをしているのだろうと私は感動した。会津地域は原発のある浜通りから離れているので放射能汚染からは安全である。この新滝でお世話になった大熊町の人々が、恩返しとして、今でも家族揃って「新滝」に泊まりに来るのだという。

その後、東北の太平洋沿岸地域、石巻、気仙沼、陸前高田、大船渡、釜石、宮古など津波の被災地域を何度も定期的に見て回った。特に宮古市の田老地区で、かつて頑丈だと思われていた巨大な防波堤が、無惨にも粉々に壊れているのを見て、津波の攻撃に対しては、防波堤ですら、こんなにも脆弱だったのだと大きなショックを受けた。一方で、津波の被害を直接受けていない福島浜通りの放射能汚染地域は、見かけ上の被害は深刻ではないが、その被害は見た目よりも深刻度は高い。その後、東大農学部が行った放射線汚染被害調査では、「土に生えている農作物は土から根を介して放射線物質の除去を行なっている」と言う話に私は少しだけ救いを覚えた。しかし、同じ農作物を水性栽培したらダメだし、菌類(キノコ)は一般農作物とは逆で放射線物質を集約するというのだから怖い。

富士通の親会社は富士電機で、富士電機はシーメンスと古河電工のジョイントベンチャーである。そんな関係から富士通はシーメンスのコンピューター部門を買収した。その関係で私は、何度もシーメンス本社があるミュンヘンを訪問した。そのミュンヘンで、チェルノブイリ原発事故により欧州地域で最大規模の放射能汚染を被った知見を数多く聞いたことがある。「ミュンヘンでは、キノコとイノシシだけは食べるな!それ以外は何でも安心して食べられる!」と言う話が、今だに多くの市民に伝えられている。特に、イノシシはミミズなどがいる土をそのまま食べるので、体内の放射性物質濃度が高いから危険だと言うのである。このミュンヘン市民が言うことは極めて分かりやすく、また理にかなった言葉でもある。

「津波に耐えた一本松」で有名な陸前高田市の市街地は、津波でほぼ完全に消滅してしまった。その市街地全体を底上げしようと計画された巨大なスケールの土木工事は、周辺の山を崩した土砂を巨大なベルトコンベアで運び新たな市街地を造成中だった。私は、これほど巨大な土木工事をこれまで見たことがない。しかし、その結果、嵩上げされた広大なかつての市街地は、今も多くの部分が空き地のままである。他の太平洋沿岸の市街地に多く建てられた公営の賃貸住宅の入居者は、当然のことながら殆どが住処を失った高齢者である。被災者の救済事業としては大変意義深いが、一方で、街の復興支援に対しては殆ど無力のようにも見える。大震災以前から徐々に衰退が進んでいた街を震災復興事業で成長に転換すると言う施作は本当に難しい。

こうした東北地方の震災復興計画を見ていると、その苦労している様子が、日本全体の将来を象徴しているようにも見える。人口が減り、緩い速度で衰退している街を、元の元気な姿に戻すことは巨額の資金を投じて土木工事や建設工事を行なってもそう簡単には実現できない。どうして地方では、人口が減り、人々が都会に向けて去っていくのか? その根本原因を見直していかないとダメだろう。唯一の救いは、今後、AIが発展する時代には、大都会にホワイトカラーが集結して大きな富を作り出す仕掛けが、もはや通用しないことを暗に予測できることだ。一方で、今後、世界中が、気候変動の影響で、農作物や水産物の獲得に苦労し、餓えに苦しむ時代が確実に来るだろう。

私たちは、終戦直後の日本を思い起こしてみるべきだろう。餓えの時代に最も大事な職業は何だろうか?食料安全保障の論理から言えば、近い将来、こうした食料を海外から簡単に輸入できる時代ではなくなるだろう。従って、仮に経済優位な都会に居ても、食の危機から逃れる道を探すことは難しい。こうした時に、気候変動の影響を凌ぎやすい、例えば、北海道から東北に至る、北日本の農地に暮らす人々が豊かな暮らしを満喫できる時代が来るかも知れない。あの悲惨な東日本大震災によって大きな苦痛を受けた東北地域では、もっと長い視点で将来の復興を期して欲しい。今後、500回を過ぎた投稿において、そうした地域の応援が少しでも出来れば良いと考えている。

499  AIが若者の職業選択に及ぼす影響

2025年11月1日 土曜日

毎日、新聞の経済欄にAIの話が掲載されていない日はない。特に株価や投資の話はAIが中心となって展開されている。元々、「マグニフィセント・セブンと」呼ばれているAmazon、アルファベット、Microsoft、メタ、Apple、エヌヴィデア、テスラの7社がアメリカの株式市場を牽引してきたのだが、最近はイーロン・マスク率いるテスラを除く6社がAIを中心に巨額の投資を行っている。さらにイーロンは新たに「xAI社」を起こして旧Twitter社である「X社」を吸収した。この「xAI」社がテスラの代わりに新たなマグニフィセント・セブンに加わることになるかも知れない。今後、「xAI」社は、テスラの自動運転を担う役割を負うなどAIビジネスで重要な位置付けになるからだ。

最近はあまり話題に登っていなかったオラクルまでもが、今では「AIデータセンター」に巨額の投資を行い株価を急激に上昇させ、オラクルの40%の株価を所有しているエリソンが久しぶりに世界一の資産家として再び脚光を浴びている。ビジネスクラウド事業で世界を制覇したAmazon、Microsoft、アルファベットの3社も、従来の設備に加えて「AIデータセンター」に巨額の投資を行う計画を発表している。その結果、AI半導体の主役であるエヌヴィデア社は瞬く間に、世界一の時価総額を誇る巨大企業になった。それだけでなく、「AIデータセンター」に電力を供給する電力会社や、送電機器関連企業までもが脚光を浴びている。

さらに、今後の「AIエージェント」を担う、新たな「AIデータセンター」の成長予測はとんでもなく大きなものが期待されている。一体、どうして、そこまで「AIエージェント」は成長できるのだろうか? 今後、世の中で行われている「仕事の総量」は、それほど増えるわけではないとすると、現在人間が行っている「仕事の総量」を「AIエージェント」が奪うことになるのかも知れない。つい最近、こうした危惧を表したデータを米国の労働統計データの中に見つけた。それは、大学卒以上の25~27歳の失業率だ。大学を卒業して間もない若い人たちの失業率が、この1年の間に4.5%から6%に急伸している。全米の全労働者の平均失業率が、この1年間で3.5%から4%へと若干増えているのと比べると極めて深刻なデータである。

その理由の一つとして、大学卒の若年労働者の失業率が一般労働者の失業率よりも高いということを示している。つまり、高学歴の大学卒が、ホワイトカラーに就業することが極めて難しい世の中になっているということなのだ。「AIエージェント」が高学歴労働者の職を奪うということが、米国では、この2−3年、将来のことではなくて既に現実化しつつある。トランプ政権になってから、米国が変質していることを多くの人々が感じている。どのような変質かと言えば、「アメリカが、なんだか危なくなっている」感じがするということだろう。こうした米国の変質は、決してトランプ一人のリーダーシップによるものだけではないと思われる。さらに、こうした傾向は単にアメリカだけで起きているわけではない。世界的に若年層の失業率増加が大きな問題となりつつある。

大学新卒者の高い失業率は、アメリカだけではなくて、中国や韓国でも起きている。中国では、2025年大学卒業生は過去最大の1,222万人に達し2025年8月の失業率は18.9%に達している。韓国では、大学新卒の就職率は日本の98%に比べて、67%と極めて低くなっており、さらに20代で新卒入社した企業を1年以内に辞める人が4割以上、3年以内に辞める人が82.4%と非常に高く、こうした若年層の離職率・失業率が社会的に大きな問題となっている。それでも、韓国の公表失業率が世界的に見て決して高くないのは、退職した後に自営業に就く人たち、勉強のため次の機会を待機している人たちが失業者にカウントされていないからだという。正規な就業に就けなくて苦しんでいる若者は、決してアメリカだけではない。近隣の東アジア諸国でも非常に深刻な状況になっている。

しかし、日本にいると、大企業も中小企業も含めて、とにかく人手不足で各企業が大学新卒の学生を一人でも多く採用するのに躍起となっている。こうした恵まれた状況は日本だけなのだろうか? 確かに、日本は少子高齢化で絶対的に若い人が足りないのはよく分かる。それでも、韓国の少子化は、日本を超えるほど深刻な状況なのに、韓国は大学新卒市場で見る限り決して人手不足という状況ではない。韓国もエッセンシャルワーカーの人手不足は日本以上に深刻でアジア諸国からの移民導入はだいぶ前から積極的であった。しかし、韓国はアジア諸国の中でも最も教育熱心で大学進学率は70~80%とOECD諸国の中では極めて高い。もしかすると、韓国社会は実需以上に高学歴者を生み出しているのかも知れない。

しかし、中国や韓国では、未だアメリカほど「AIエージェント」の導入が進んでいるわけではない。そうした状況を考えると、例えば中国や韓国がアメリカと競って「AIエージェント」の導入を積極的に進めるとすれば、今よりもっと高学歴大卒者の雇用状況はさらに悪化するかも知れない。私は、昔から、「今、アメリカで起きていることは3〜5年後には日本で必ず起きる」と言い続けてきた。だから「日本は、今後どういう時代になっていくのか?」という問題を予測して真剣に考える必要ないと言っている。既に、日本も世界情勢の中に組み込まれており、しかも世界をリードしているわけでもないので、日本だけの独自な発展など遂げられるわけがないからだ。

だとすれば、「AIエージェント」が飛躍的に発展する時代に確固たる職業を手にするために必要な「教育制度」を、今から早速、抜本的に変えていかなければならない。一流と言われている大学において、これまで社会や企業のリーダとして活躍している人たちを輩出してきた文系エリート学部でいくら学んでも社会の期待には応えられない。オフィスで紙をベースにして仕事をする職業が、殆ど消え失せてしまうからだ。これからの日本で最も必要とされる人々は現場のニーズに応えられる、例えば「高専」で学ぶ人々だ。実際、現在、日本の有名な高専を優秀な成績で卒業する学生達の多くが、日本で一流と言われている大学の理学部、工学部の3年生に編入している。こうした「高専」経由で入学してきた生徒達は、現場で必要とされるテクノロジーが何かを心得ているので、同じ大学の1~2年で一般教養を学んできた他の学生に比べて大学入学後の成長も早いと思われる。

「AIエージェント」時代になって、オフィスで働くホワイトカラーが必要なくなる時代が到来しても、これからの日本社会で益々重要な役割を果たす職業が「エッセンシャル・ワーカー」と呼ばれている手や足を使って働く労働者達である。例えば、農林水産業に従事する人々は、今後益々重要となる。世界中が気候変動による変化に苦しんでいる。そんな中で食料自給率の低い日本は、今のままでは深刻な飢餓に直面するのかも知れない。それでも「エッセンシャル・ワーカー」に従事することを希望する人々が少ないのは、それが「きつい仕事」で「給与の安い仕事」だからだ。今の「円安」のままなら、アジアの人々も「低賃金の日本」にわざわざ働きに来ることもないだろう。

だからこそ、こうした「エッセンシャル・ワーカー」として働く分野に「人型ロボット」や「AIエージェント」を導入し生産性を上げて、その分だけ彼らの給与を上げる努力をしなくてはならない。そんなことは夢のような話に聞こえるかも知れないが、オランダは既にそれを行なっている。オランダが、アメリカに次いで世界第2位の食糧輸出国になったのは、オランダ製の農業向けに開発された各種自動機がある。北海道の牧場でオランダ製の全自動搾乳機を見た時に、ここまで進んでいるのかと私は本当に驚いた。365日、1日も搾乳を休めない「ブラック職場」であった酪農牧場で、こうした全自動搾乳装置は人々の苦労を救う理想の機械である。

一方で、単なる「大学卒」が高学歴エリートとして必要な資格とはならなくなってきたアメリカの若者達の最近の進学選択を見てみると、電気工、配管工、空調、医療関連の職業訓練校へ進学する比率が昨年に比べて30%近く急増している。「AIエージェント時代」を迎えたアメリカの若者達は、既に、トランプ以上に自分たちの将来を考えている。