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491   どうして、こんな世の中に!

2025年3月3日 月曜日

2025年2月28日金曜日に行われたトランプ大統領とゼレンスキー大統領で行われる予定だった首脳会談は、事前の記者会見における言葉のやり取りで破談となった。最初は順調に進んでいた会談が、突然おかしくなったきっかけはバンス副大統領からゼレンスキー大統領に投げかけられた「失礼だ!」と言うクレームだった。いよいよ停戦に向けて何かが動き出すのではないかと言う世界中の人々の期待は、このバンス副大統領の発言で脆くも飛び散った。就任以来、次々と世界を驚かす大統領令を発し続けるトランプ大統領の政策は、世界を落胆させると言うよりも恐怖に陥れている。

アメリカの人々は、「どうして、この人を大統領に選んだのか?」と全く不思議に思わざるを得ない。前任のバイデン氏は、アメリカの危機に対して殆ど何もしなかったとは言え、これだけ奇異な政策を実行するトランプ氏は、本当に「アメリカを再び偉大にできる」のだろうか?トランプ氏が選挙期間中に訴えてきたアメリカの問題点は、大きく分類すれば、次の2つだった。一つ目はアメリカにおける製造業の衰退。二つ目が薬物障害に侵される人々の増大だ。トランプ氏に投票した人々は、こうした深刻な問題を解決するには、少々乱暴でも従来とは異なる革命的な手段を使わないと実現出来ないと思ったからに違いない。

何と言っても、現在のアメリカが抱える一番深刻な問題は「アメリカ製造業の衰退」だろう。第二次世界大戦後、アメリカ以外の世界中の全ての工場が爆撃で破壊された。そのため世界中の旺盛な需要を「アメリカの製造業」が支え、前代未聞の繁栄を築くことになった。その後、「アメリカの製造業」の象徴であった自動車産業がおかしくなり始めた。GMやフォードも、もはや在りし日の面影はない。今から25年ほど前、当時アメリカに住んでいた私は、毎朝の通勤時に道路脇に故障が原因で止まっているアメリカ車が、まだ買ったばかりのピカピカの新車であることに驚いた。職場でも、アメリカ車を買った仲間を、周囲の同僚は「あいつ最近、お金に困っているな!」と言う雰囲気で見ていた。品質の高いドイツ車や日本車がアメリカ市場を席巻して行ったのは当然の成り行きと言えた。

その後、世界中が製造業の見本と憧れていた「GE」が突然おかしくなった。リーマンショックが起きた2008年には、すでに金融業に転身していた「GE」は「製造業銘柄」としての存在価値すら無くなり「ダウ指定銘柄」から外された。そして、今や、かつて、アメリカがほぼ独占していた航空機製造業の盟主であった「ボーイング」がおかしくなっている。ボーイングは既に機体の多くの部分を日本メーカーに外注して航空機を製造していたが、昨今の相次ぐ品質問題で先行きが懸念されている。さらにボーイングは、将来を見越して新たに進出した宇宙産業でも相次ぐ失敗で「スペースX」に追いつく様子は全く見えない。日本の防衛省は、次期戦闘機の開発を英国、イタリアと3カ国で開発するプロジェクトを進めているが、既にアメリカの航空機産業を見切ったということなのだろうか。

さらに、最近ショックだった事は、あの世界一優秀な半導体製造業者であった「インテル」が巨額の赤字で、その存続さえも危ぶまれていることだ。インテルの最大の強さは、高い歩留率を誇る高度な製造技術にあった。インテルの驚くべき戦略は、常に「最新の製造装置」を使わないことだった。最大の強豪であるAMDが「最新の製造装置」で作った微細半導体に匹敵する性能を持つ最新製品を「AMDより一世代古い安定した製造装置」で製造する巧みな技術をインテルは持っていたからだ。このため、インテルの歩留まりはAMDより遥かに高く、同じ価格で販売すれば得られる利益で圧倒的な強みを発揮できた。しかし、AMDが自社製造を断念し、最新微細技術を巧みに使いこなす台湾のTSMCに製造を外注した結果、インテルはAMDに勝てなくなった。インテルとTSMCの製造技術の違いは、アメリカ国内の競争とは全く異なる次元の戦いを迫るものだった。

製造業は多くの熟練した労働者を必要とするので、彼らに安定した報酬をもたらす産業として、これまでアメリカの中間層を支えてきた重要な位置付けにあった。こうしたアメリカの製造業が次々と競争力を失った結果、アップルのように開発と設計はアメリカの技術者で行うが製造は中国で行った方がコストも品質も良くなると言う「ファブレス方式」がアメリカの製造業で主流となってきた。その結果、いわゆるラストベルトと言われる、これまでアメリカの製造業を支えてきた地帯が衰退し、多くの工場労働者が職を失った。さらに、失業した工場労働者の多くが男性で、彼らは収入を絶たれたことで、妻からは離婚され独り身となって薬物に身を投じる浮浪者となって街を彷徨っている。彼らが常用しているフェンタニルと言う薬物は、従来の覚醒剤より遥かに安価で毒性の強い物質である。

トランプ大統領は、このフェンタニルを製造しているのが中国で、カナダやメキシコ経由でアメリカに持ち込まれていると主張しているが、多分、大きくは間違っていないかも知れない。さらにトランプ大統領は、この薬物障害の問題とアメリカの製造業衰退とはリンクしていると主張している。それも概ね正しいだろう。そして関税政策でアメリカへの輸入を制限すればアメリカの製造業は必ず再生するとトランプ大統領は真剣に考えている。しかし、TSMCにアメリカ本土に最先端の工場を建設させて、アメリカの半導体製造業は本当に復活するのだろうか?日本の熊本にTSMCが建設中の半導体製造工場は、順調に調整が進んでいるようで、近日中に本番稼働を実現するだろう。一方でTSMCがアリゾナ州に建設中の半導体製造工場は想定以上に難航しているとの噂がある。

元来、製造業は資本と設備だけを持ち込めば工場を移管できるものではない。そこで働く人たちの存在が最も重要である。これだけ製造業が衰退したアメリカに最も欠けていたものは、実は工場で地道に働く人材に対する尊厳ではなかっただろうか?現在のアメリカで最も尊敬を受けているビジネスは、金融業とIT業である。この二つの主要産業でアメリカは世界を支配し、現在の繁栄を築き上げた。しかし、アメリカを支えてきた、この二つの産業は巨額の利益を生み出している一方で、多くの労働者を必要としていない。今後、ますますAIが進展する時代になれば、今以上に、ほんの僅かな優秀な人材だけで、この二つの産業は支えられるようになるだろう。しかし、金融業とIT業だけで人々は暮らしてはいけない。食糧を担う農林水産業と、ものづくりを支える製造業は絶対に欠かせないのだ。

こうした矛盾を解決するために、これまで多国間でお互いに得意な分野で協力し合うようお互いに知恵を絞って自由貿易を推進してきたはずだ。しかし、トランプ大統領が主張するように、アメリカの製造業を再生するためには、多額の関税を掛けて鎖国状態にしか策がないとすれば、アメリカの国民は、今後何十年も、毎日、普通に生活するのに従来以上に高額の支払いが必要となるだろう。つまり、昨年の大統領選挙で、アメリカ国民が、本当に正しい選択をしたのかどうかがわかるまで、もはや、それほど長い時間は必要ないだろう。

490 スプートニク・ショック

2025年2月1日 土曜日

1957年10月4日、ソビエト連邦は人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功した。それまで、宇宙開発のリーダーを自認し、大陸間弾道ミサイルでも敵国ソ連に先行していたと自認していたアメリカは大きなショックを受けた。1958年、アメリカはソ連との宇宙開発競争に打ち勝つため、アメリカ航空宇宙局(NASA)を設立し、1960年の大統領選挙でジョン・F・ケネディは、米ソのミサイルギャップを埋めるために人間を月に送ると声明し、アポロ計画の目標を月面着陸に変更した。こうしたスプートニク・ショックは全世界にも波及し、毛沢東は「東風が西風を制した」と宣言するなど、アメリカに大きなショックを与え、それ以来アメリカ国民の科学に対する興味や関心が高まっていった。

2025年1月20日、中国の新興企業「DeepSeek」が発表した生成AIモデル「DeepSeek R1」をリリースした。この最新モデルが「Open AI」社が開発した最新モデル「ChatGPT-4o」に匹敵する性能を発揮し、iPhoneのアプリ・インストールランキングで「ChatGPT」を抜いて第一位となったことで、IT業界だけでなくアメリカ政府までもが、かつての「スプートニク・ショック」を思い起こさせる大きな衝撃を受けている。それは、「DeepSeek」が従来の「AI業界の常識」を塗り替えるかも知れない可能性を提起したからだ。

その「AI業界の常識」とは一体何だっただろうか? まず、第一は「膨大な開発費」である。つい先日もソフトバンクの孫さんがトランプ大統領、Open AIのアルトマン氏、オラクルのエリソン氏と共に、米国AI業界に80兆円近く投資すると表明したばかりである。第二は、AIを支えるデータセンターに必要な「大量の電力消費」である。そして第三には、高速AI処理に必要な最新鋭の「高速な半導体」である。

今回の「DeepSeek」は、その全てに疑問を投げかけた。例えば、「ChatGPT」が最初のリリースまでに1,000億円近い開発費を必要としたとされていたのに、「DeepSeek」は、たった数ヶ月の時間で10億円にも満たない開発費でリリース出来ている。さらにアメリカは中国のAI開発を遅らせようと最新半導体の輸出だけでなく、製造に必要な開発設備も禁輸措置をとっているが、「DeepSeek」は全くそうした最新半導体なしで動いている。そのため、AI処理に必要とする消費電力もそれほど多くないのではと推測されている。

さて、2012年にトロント大学のヒントン教授が人間の脳内処理に相当する深層学習(ディープラーニング)手法を開発してからAIのビッグバンが始まったわけだが、そもそも人間の脳内では限られたエネルギーで静かに処理されていて、多くを考え抜いたから汗が出たり高熱を発したりするわけではない。AIエンジンが本当に人間の脳内処理に対抗するためには、今のように大量の高速半導体とエネルギー(電力)を使って力ずくで勝とうと思うには自ずから限界がある。そういう意味で、今回の「DeepSeek」の開発物語は人類の未来にとっては極めて朗報である。

しかし、早くも米国では「DeepSeek」が「蒸留」と呼ばれる手法で「ChatGPT」から学習データを盗んだのではないか?との疑いが起きている。このことについて、今の所、私は何とも言えない。ただ、プログラムについては、「ChatGPT」が非公開にしているのに対して「DeepSeek」はオープンソースとして公開しているので、これは彼らが独自開発したと認められて然るべきである。ただ、「DeepSeek」が公開されたAPIを使って「ChatGPT」に質問を入力し、その答えを学習データとしたとするやり方が「違法」と言えるのか、私には何とも答えられない。

いずれにしても、「DeepSeek」が「蒸留」された密度の濃いAIデータベースで従来のやり方より安価で軽い設備で処理できるとすれば、これは人類の未来に大きな光明をもたらすことになるだろう。欧米諸国や日本の技術者は「DeepSeek」が公開しているオープンソースをいち早く解析するべきだ。しかし、生成AIで一番重要なことは、学習データの作り方である。その点で、私は「ChatGPT」については、他社の生成AIよりも一番敬意を表している。何しろ、「ChatGPT」の回答には「人格」を感じるからだ。まず、極端な意見を言わない。さらに、極右とか極左とか偏ったイデオロギーに満ちた意見を言うことは全くないし、特定の人物を非難したり中傷したりすることもない。

これは「Open AI」は、2022年に「ChatGPT」を公開する4年以上前の2018年から、長い時間と多くの人手をかけて「LLM(大規模言語モデル)データ」を丁寧に作っているからだ。このデータ蓄積の間にも、「Open AI」は多くの人手をかけて不都合なデータを削除し、その後、AI処理で自動的に削除するソフトウエアも開発したと言われている。その「ChatGPT」を私は日常的に使っていて、多いに助けられている。一番役に立ったのは、体調がおかしくなった時に、どこの医者に行くべきかを知りたい時だった。

昨年の8月、左足の付け根に痛みを感じ、2日ほどしたら痛みは下腹部へ、また2日後には横隔膜まで上昇し、その2日後には心臓付近の左胸に痛みが移動した。早速、かかりつけの医師に診てもらい血液検査やレントゲンなど診断してもらったが、医師は「わからない」と言う。それで、これまでの症状を丁寧に「ChatGPT」に質問したら、すぐさま「帯状疱疹の疑いがあります」と回答してきた。しかし、私の身体には全く発疹がなく「これが、あの有名なハルシネーション(幻覚)か?」と思った。しかし、翌朝、私は左足の付け根から足首まで発疹で埋め尽くされた。早速、皮膚科に行って検査してもらったら「立派な帯状疱疹です」と診断されて投薬された。1週間の服薬で発疹は全て消えたが、眠られないほどの痛みが4週間続いた。この件以降、私は「ChatGPT」の能力に惚れ込んだ。

「DeepSeek」は「TikTok」のように、今後、アメリカだけでなく世界中で人気のアプリになるかも知れない。しかし、「TikTok」の凄さは、視聴者が好む動画を認識して、すぐにも閲覧できるように表示する動画解析AIの能力にある。一方で、今後「DeepSeek」に求められてくるのは動画ではなくて文章を主体とする知識(言語)の世界である。ご存知のように、現在の中国は、全ての議論がオープンに出来る社会ではない。従って、中国国家が承認している「DeepSeek」の中では議論できないテーマがいくつもあるはずだ。生成AIの世界は、単にプログラムが優れているかどうかだけではないものが求められている。

 

 

 

489 2025年はどんな年に?

2025年1月1日 水曜日

今年は21世紀になってから四半世紀が経ち2025年となる。そして2025年は昭和100年にあたる。日本が1945年(昭和20年)に広島、長崎に原子爆弾を投下され降伏してから丁度80年目になる。ノルウエーのノーベル平和賞委員会は、今年が被爆80年目になることを意識して、日本の被団協にノーベル平和賞を送ること決めた。折しも、今年2025年は、ロシアvsウクライナ、イスラエルvsイラン(ガザ、レバノン、シリア)との間で起きている戦争において核使用の可能性が現実味を帯びて語られている。人類は、これだけ大きな悲劇を経験しているのに何も学ばなかったのか?と全く無念でならない。

昨年の元旦に起きた能登地震の復興が一向に進んでいないが、1995年に阪神淡路大震災が起きてから2025年の今年は30年目にあたる。昔、学生時代に関西地区から東京に出てきた同級生たちが、「東京はどうしてこんなに地震が起きるの?東京は危ない!それに比べたら関西は地震など全く起きなくて安全だ」と言っていたのが嘘のように、大きな地震が関西の真ん中で起き、多くの犠牲者が出た。医師だった末弟は、地震発生直後から2週間、神戸に派遣され被災者の救助にあたった。神戸から帰ってきた弟は「俺は初めて地獄を見た」と身も心も大きく傷ついて帰ってきた。私たちも、朝からテレビに映っている神戸市上空から見た多くの炎を見て恐怖に慄いていた。

同じく、30年前の1995年に、阪神淡路大震災の2ヶ月後に起きた「地下鉄サリン事件」に私たちは慄いた。中央官庁に勤めていた次弟が地下鉄の霞ヶ関駅近くでほんの僅かの時間差で災害を免れた。医師や科学者など、世の中ではエリートと言われていた人々が、カルトの影響を受けて、どうして、こんな企てに自らす進んで参加するのだと恐ろしくも思った。そんな無差別テロから未だ30年しか経っていないのだ。その3年後の1998年に、私はアメリカに渡った。激動とも言える3年間のシリコンバレー生活を送り、2000年10月に日本に何とか無事に帰国した。その翌年の2001年9月11日に、ニューヨークで2機の民間航空機が世界貿易センタービルに衝突するアメリカ同時多発テロという前代未聞の事件が起きた。

この2025年に入る1年前の2024年には世界各地で政権交代が起きた。未だ政権交代が起きていないのはロシアと中国と北朝鮮くらいだろうか?日本も例外なく自民公明の連立政権が過半数を割った。アメリカも4年ぶりにトランプ氏が大統領に復活するので立派な政権交代だ。さて、一体、どうして世界中で政権交代が起きているのだろうか? よく、言われるのが、格差や孤独の問題が指摘されているが、私は、日本でも起きている「物価高騰、特に食料品の高騰」が大きな要因だと思っている。リタイアした後、私の大きな役目は食料品の買い物である。一昨年までは、一回8,000円くらいだった食料品の買い物は、最近は1万円を超えることが「当たり前」となった。

日本は、今や、何十年ぶりの賃上げに沸いているが、それを遥かに超える食料品インフレが賃上げを相殺するどころか、収入が多くない家庭では従来高かったエンゲル係数が一層高くなっている。日本と同じような食料品インフレが欧州でもアメリカでも起きている。食料自給率が低い日本は多くの食料を輸入に頼っていることで円安が食料インフレに寄与していることは明らかだが、世界中であらゆる食料品が高騰している要因は気候変動によるものだと考えるのが自然だろう。熱波や旱魃、洪水や暴風雨といった災害によって世界中で食糧生産が減っている。私が、毎年、お世話になった方にお送りしている、妻の故郷である山形産の「さくらんぼ」や「リンゴ」、私の故郷産の「湘南みかん」など、全てが例年にない凶作で悲鳴をあげている。

さらに、食糧危機は農業だけでなく、漁業従事者も、いつも沢山採れている魚が漁場に全く居ないと嘆いている。海水温の上昇で海の生態系が壊れてしまっているからだ。気候変動の問題は、政治家だけの失態とは言い難いが、こうした庶民の苦しみを身に持って感じているかどうか?が問われている。トランプ氏が2020年の選挙に敗れたのは「白人」対「有色人種」の対立問題だったと言われているが、今回の選挙で大勝利したのはトランプ氏が「大卒中間層」対「非大卒労働者」の対立問題に焦点を当てたからだ。今回の大統領選挙では、食料品の物価高に苦しむ「非大卒の黒人やヒスパニック」に属する多くの有権者がトランプ氏に投票した。

2025年以降、トランプ氏の関税政策によって、これまで世界を支えてきた自由貿易が大きく後退すると、最初に食料自給問題がクローズアップしてくるだろう。人類が抱える課題の中で、「飢餓」が一番深刻な問題だからだ。多くの高齢者が支えている日本の農業を将来どうするべきかについて、現在、誰が真剣に考えているのだろうか?まず、お米、そして大豆や野菜・果物など日常普通に食べている食材を、地球規模で起きた気候変動に対して、日本国内で必要数量確保できるのか? 2040年には1,100万人の労働者が不足するという日本で、一体、これから誰が、どのように農業に従事するのかと言う課題をいち早く議論しなければならない時期にきている。

さて、世の中ではアメリカのトランプ大統領の登場を一番大きな懸念と考えているようだが、私は、この2025年から本格的に始まる「中国経済の大不況」を最大の懸念と考えている。中国は世界最大の輸出国であると同時に、世界最大規模の人口を抱える巨大な需要国でもある。これまで多くの日本企業が売上のかなりの部分を中国市場で計上してきた。今や、中国市場での売上が激減した日産自動車や資生堂など多くの企業が不振に喘いでいる。中国は、その巨大な経済力で、アメリカ発のリーマンショック不況が世界不況となるのを防ぐ役割を果たした。もし、この中国の強引な経済振興策がなかったら、世界は今もリーマンショックから抜け出せていなかったかも知れない。中国はある面で破壊者であると同時に、アメリカ発世界不況の再建請負人でもあったのだ。

中国が、有り余る余剰資金で世界中の新興国に巨額の債務を負わせた「債務の罠」にはアメリカを始めとして世界の国々が非難を浴びせているが、もう、今後はその心配も必要ない。今の中国、今後の中国には、もはや、そうした経済的余力がないからだ。今、中国で起きている経済事象を見ていると、私は「中国の日本化」が起きているのだと思っている。1990年に炸裂した「日本のバブル」は30年後の今でも、その傷は癒えていない。日本の経済停滞の最大の原因は「人口減少」で、特に子供と高齢者を差し引いた「生産年齢の減少」である。

つい最近、一人当たりのGDPで日本は韓国に抜かれた。これは現在の日本の人口構成が韓国よりも高齢者比率が高いからだ。つまり、今の日本は働いていない高齢者人口が多いので、人口全体を分母としてGDPを割った「一人当たりのGDP」で韓国より少なくなる。現在、世界最低の出生率で悩む超少子化国家である韓国も、それほど遠くない時期に生産年齢人口が減り、国民全体の人口で割った「一人当たりのGDP」比較で、また日本に劣後することは目に見えている。この日本や韓国を襲っている少子化、高齢化現象による生産停滞が、今後は中国全土を襲う。しかし、この人口問題は、これまでの人口統計を見れば何年後にどうなるかは昔から見えていた。しかし、強大な権力を持つ為政者でさえ国民の私生活にまで影響を及ぼすことは難しかった。

これまでのヨーロッパやアメリカは、こうした少子高齢化という人口問題を「移民」で解決してきた。しかし、今やヨーロッパやアメリカの政権交代の大きな要因として、この「移民」問題が大きな影を投げかけている。フランスでの留学経験を持つ、私の友人が何十年ぶりにフランスを訪れて驚いたのは「パリでも南フランスの田舎でも、どこを歩いても、もはや、私が思い描いていた『昔の良きフランス』はない」と言った。フランスは、つい最近までアルジェリアを植民地として抱えており、自国であった北アフリカの領土からフランス本土へ移住することを妨げること自体が無理だった。

英国も、既に旧大英帝国傘下の植民地からの移民問題を抱え、もうこれ以上さらなる移民を受け入れられないと移民問題を理由としてEUから離脱した。ドイツのショルツ政権も中東からの移民を排撃する右派の台頭で連立政権の維持が難しくなっている。2025年に世界中で起きるだろうと予測されることとしては、世界共通の課題として「食料問題」と「移民問題」がある。この二つの問題は、今後、日本が抱える深刻な問題そのものだ。だから、私たちは「我々は、この二つの問題に対してどうするべきか?」世界中の人達と一緒に悩み、解決策を考え抜いていく必要がある。