毎日、新聞の経済欄にAIの話が掲載されていない日はない。特に株価や投資の話はAIが中心となって展開されている。元々、「マグニフィセント・セブンと」呼ばれているAmazon、アルファベット、Microsoft、メタ、Apple、エヌヴィデア、テスラの7社がアメリカの株式市場を牽引してきたのだが、最近はイーロン・マスク率いるテスラを除く6社がAIを中心に巨額の投資を行っている。さらにイーロンは新たに「xAI社」を起こして旧Twitter社である「X社」を吸収した。この「xAI」社がテスラの代わりに新たなマグニフィセント・セブンに加わることになるかも知れない。今後、「xAI」社は、テスラの自動運転を担う役割を負うなどAIビジネスで重要な位置付けになるからだ。
最近はあまり話題に登っていなかったオラクルまでもが、今では「AIデータセンター」に巨額の投資を行い株価を急激に上昇させ、オラクルの40%の株価を所有しているエリソンが久しぶりに世界一の資産家として再び脚光を浴びている。ビジネスクラウド事業で世界を制覇したAmazon、Microsoft、アルファベットの3社も、従来の設備に加えて「AIデータセンター」に巨額の投資を行う計画を発表している。その結果、AI半導体の主役であるエヌヴィデア社は瞬く間に、世界一の時価総額を誇る巨大企業になった。それだけでなく、「AIデータセンター」に電力を供給する電力会社や、送電機器関連企業までもが脚光を浴びている。
さらに、今後の「AIエージェント」を担う、新たな「AIデータセンター」の成長予測はとんでもなく大きなものが期待されている。一体、どうして、そこまで「AIエージェント」は成長できるのだろうか? 今後、世の中で行われている「仕事の総量」は、それほど増えるわけではないとすると、現在人間が行っている「仕事の総量」を「AIエージェント」が奪うことになるのかも知れない。つい最近、こうした危惧を表したデータを米国の労働統計データの中に見つけた。それは、大学卒以上の25~27歳の失業率だ。大学を卒業して間もない若い人たちの失業率が、この1年の間に4.5%から6%に急伸している。全米の全労働者の平均失業率が、この1年間で3.5%から4%へと若干増えているのと比べると極めて深刻なデータである。
その理由の一つとして、大学卒の若年労働者の失業率が一般労働者の失業率よりも高いということを示している。つまり、高学歴の大学卒が、ホワイトカラーに就業することが極めて難しい世の中になっているということなのだ。「AIエージェント」が高学歴労働者の職を奪うということが、米国では、この2−3年、将来のことではなくて既に現実化しつつある。トランプ政権になってから、米国が変質していることを多くの人々が感じている。どのような変質かと言えば、「アメリカが、なんだか危なくなっている」感じがするということだろう。こうした米国の変質は、決してトランプ一人のリーダーシップによるものだけではないと思われる。さらに、こうした傾向は単にアメリカだけで起きているわけではない。世界的に若年層の失業率増加が大きな問題となりつつある。
大学新卒者の高い失業率は、アメリカだけではなくて、中国や韓国でも起きている。中国では、2025年大学卒業生は過去最大の1,222万人に達し2025年8月の失業率は18.9%に達している。韓国では、大学新卒の就職率は日本の98%に比べて、67%と極めて低くなっており、さらに20代で新卒入社した企業を1年以内に辞める人が4割以上、3年以内に辞める人が82.4%と非常に高く、こうした若年層の離職率・失業率が社会的に大きな問題となっている。それでも、韓国の公表失業率が世界的に見て決して高くないのは、退職した後に自営業に就く人たち、勉強のため次の機会を待機している人たちが失業者にカウントされていないからだという。正規な就業に就けなくて苦しんでいる若者は、決してアメリカだけではない。近隣の東アジア諸国でも非常に深刻な状況になっている。
しかし、日本にいると、大企業も中小企業も含めて、とにかく人手不足で各企業が大学新卒の学生を一人でも多く採用するのに躍起となっている。こうした恵まれた状況は日本だけなのだろうか? 確かに、日本は少子高齢化で絶対的に若い人が足りないのはよく分かる。それでも、韓国の少子化は、日本を超えるほど深刻な状況なのに、韓国は大学新卒市場で見る限り決して人手不足という状況ではない。韓国もエッセンシャルワーカーの人手不足は日本以上に深刻でアジア諸国からの移民導入はだいぶ前から積極的であった。しかし、韓国はアジア諸国の中でも最も教育熱心で大学進学率は70~80%とOECD諸国の中では極めて高い。もしかすると、韓国社会は実需以上に高学歴者を生み出しているのかも知れない。
しかし、中国や韓国では、未だアメリカほど「AIエージェント」の導入が進んでいるわけではない。そうした状況を考えると、例えば中国や韓国がアメリカと競って「AIエージェント」の導入を積極的に進めるとすれば、今よりもっと高学歴大卒者の雇用状況はさらに悪化するかも知れない。私は、昔から、「今、アメリカで起きていることは3〜5年後には日本で必ず起きる」と言い続けてきた。だから「日本は、今後どういう時代になっていくのか?」という問題を予測して真剣に考える必要ないと言っている。既に、日本も世界情勢の中に組み込まれており、しかも世界をリードしているわけでもないので、日本だけの独自な発展など遂げられるわけがないからだ。
だとすれば、「AIエージェント」が飛躍的に発展する時代に確固たる職業を手にするために必要な「教育制度」を、今から早速、抜本的に変えていかなければならない。一流と言われている大学において、これまで社会や企業のリーダとして活躍している人たちを輩出してきた文系エリート学部でいくら学んでも社会の期待には応えられない。オフィスで紙をベースにして仕事をする職業が、殆ど消え失せてしまうからだ。これからの日本で最も必要とされる人々は現場のニーズに応えられる、例えば「高専」で学ぶ人々だ。実際、現在、日本の有名な高専を優秀な成績で卒業する学生達の多くが、日本で一流と言われている大学の理学部、工学部の3年生に編入している。こうした「高専」経由で入学してきた生徒達は、現場で必要とされるテクノロジーが何かを心得ているので、同じ大学の1~2年で一般教養を学んできた他の学生に比べて大学入学後の成長も早いと思われる。
「AIエージェント」時代になって、オフィスで働くホワイトカラーが必要なくなる時代が到来しても、これからの日本社会で益々重要な役割を果たす職業が「エッセンシャル・ワーカー」と呼ばれている手や足を使って働く労働者達である。例えば、農林水産業に従事する人々は、今後益々重要となる。世界中が気候変動による変化に苦しんでいる。そんな中で食料自給率の低い日本は、今のままでは深刻な飢餓に直面するのかも知れない。それでも「エッセンシャル・ワーカー」に従事することを希望する人々が少ないのは、それが「きつい仕事」で「給与の安い仕事」だからだ。今の「円安」のままなら、アジアの人々も「低賃金の日本」にわざわざ働きに来ることもないだろう。
だからこそ、こうした「エッセンシャル・ワーカー」として働く分野に「人型ロボット」や「AIエージェント」を導入し生産性を上げて、その分だけ彼らの給与を上げる努力をしなくてはならない。そんなことは夢のような話に聞こえるかも知れないが、オランダは既にそれを行なっている。オランダが、アメリカに次いで世界第2位の食糧輸出国になったのは、オランダ製の農業向けに開発された各種自動機がある。北海道の牧場でオランダ製の全自動搾乳機を見た時に、ここまで進んでいるのかと私は本当に驚いた。365日、1日も搾乳を休めない「ブラック職場」であった酪農牧場で、こうした全自動搾乳装置は人々の苦労を救う理想の機械である。
一方で、単なる「大学卒」が高学歴エリートとして必要な資格とはならなくなってきたアメリカの若者達の最近の進学選択を見てみると、電気工、配管工、空調、医療関連の職業訓練校へ進学する比率が昨年に比べて30%近く急増している。「AIエージェント時代」を迎えたアメリカの若者達は、既に、トランプ以上に自分たちの将来を考えている。