375 スマート農業について (2)

2017年10月7日

善祥園の平田社長と一緒に、十勝加藤牧場に着いた時、加藤社長は外出されていて留守だった。平田社長が加藤社長に電話をすると、「留守していて申し訳ないが、どうぞ、勝手に好きなだけ見て行ってください。」ということだったらしい。何度も、この牧場に通っている平田社長は、この加藤牧場の設備を全て熟知しているので、加藤社長が留守でも私たちに十分説明できるということだったのだろう。あとで、気がついたのだが、この牧場は無人でもきちんと業務が進行していることだった。

まず驚かされるのが大きくて立派な牛舎である。四方の壁が木製の断熱材で覆われており、壁の上部3分の一は換気用の窓になっている。窓にはガラスの代わりに空気を内包した半透明のジャバラが上下できるようになっている。半透明なので外光を柔らかく牛舎内に取り込んでいる。このジャバラは、牛舎内の温度、湿度と外気温の関係を見てコンピュータ制御で自動的に開閉する仕掛けになっている。この結果、猛暑の夏でも涼しく、真冬に外気が氷点下20度になっても牛舎内は10度程度に保たれるという。

この近代的な牛舎に入るに際して、私たちは青のビニールカバーで靴を全面覆い、石灰石で消毒してからようやく牛舎に入ることを許された。その最初に見た光景がオランダ製の全自動搾乳ロボットであった。何と、1台2,500万円である。私たちが、突然牛舎に入ったことで、一頭のホルスタインは緊張のあまり搾乳ロボットに入ることを躊躇して固まっていた。この全自動搾乳ロボットは、餌によって牛を誘導する。牛は、あらかじめ十分な餌を与えれておらず、空腹のあまり、自らの意思で追加の餌を食べるために搾乳ロボットへと向かう。

各々の牛は、こぶし大のID装置を首からぶら下げている。このID装置はメモリと無線発信機を有しており、乳房炎であるかないかという健康情報と、1日の搾乳量を記憶している。牛は、追加の餌を接収するため搾乳ロボットに入るが、そこで、搾乳ロボットは規定以上の乳を搾乳することはない。さらに、牛の4つの乳房の、どこからどれだけの乳を搾ったかまで記憶している。もちろん、搾乳する前に乳の品質を検査し、乳房炎を発症していれば搾乳したミルクは、タンクに送らず、全て自動的に廃棄する。一般的に乳房炎の発症比率は5%くらいらしいが、この加藤牧場では、ほぼゼロであるという。

ところが、私達が注視する中で、搾乳ロボットの前で佇んでいるホルスタインが、緊張のため、いつ搾乳ロボットと合体するのか全く見えなかった。私が、「早く、前に進んで」と促しても全く動じない。彼女は、見知らぬ訪問客を警戒しているのだ。「困ったな」と思っていたら、助っ人が現れた。ホスルタインと一緒に飼われているジャージー牛が後からやってきて、鼻で前にいるホルスタインをつついている。「お前、一体何をやっているんだ。早くしろよ。俺は腹が空いてんだ。」と言わんばかりにホルスタインを背後から促した。

やった。とうとうホルスタインが搾乳ロボットの前にある餌箱に首を突っ込んだ。すると、搾乳ロボットは作動を開始し、レーザー光線で牛の乳房をチェックし、4本の乳房の洗浄を始めた。洗浄が済むと、4本の乳房の一本、一本にレーザー光線からの情報を認識して、狙いをつけて搾乳器をアタッチし、搾乳を始める。もちろん、この搾乳ロボットは、既に、今日、この牛からどれだけの乳量を得ているかを知っており、過剰な搾乳をすることはない。搾乳が終わると、このロボットは乳房の消毒を開始する。搾乳前の洗浄と搾乳後の消毒は全く違う。牛乳に薬品を一切混入させないためである。

このホルスタインの搾乳を終えると、次に控えているのは、先ほどホルスタインを促したジャージー牛の番である。加藤牧場では、全体の三分の一はジャージー牛を飼育している。ジャージー牛は、ホルスタインより体も小さく搾乳量も少ないが乳脂肪が濃く、独特の美味しさで人気がある。つまり、ホルスタインより付加価値が高いのだ。しかし、搾乳ロボットは一台2,500万円もする高価なものであり、加藤牧場では牛舎140頭を2台の搾乳ロボットで賄っている。つまり、この搾乳ロボットは、次に来る牛がホルスタインかジャージーかを判別し、搾乳物を別なタンクに弁別して送っているのである。

この搾乳ロボットの見学を終えて、私たちは、牛舎の中に入った。ここは、実に牛たちの楽園である。ゆったりとしたスペースの中で、牛たちはゆっくりと歩き回り、お腹が空いたら搾乳ロボットへ行けば、追加の餌がもらえるし、何度も搾乳ロボットを訪れても、1日の限界以上に搾乳されることはない。広大な牛舎は中心部が柵で囲われており、牛たちは柵から頭を出して牧草を食う。牛は、この牧草を食べると、もっと遠くにある牧草を欲しがるのだが、この餌寄せという作業を巨大なルンバロボットが掃除ではなくて餌寄せを自動的に行うのだ。すごい。カメラとAI(人工知能)の組み合わせで、こうした作業をいとも簡単に行ってしまう。

柵の中央には、牛たちがフンや尿をするトイレがある。このし尿や糞は、定期的にスイープされて、1箇所に集められて、牛糞を原料としたバイオガス発電装置に送られていく。こうした定期的な清掃が行われているため牛舎全体が臭くない。この「臭くない」ということは極めて重要である。ここで働く人々の負担も軽くするだろうし、多分、私の想像だが、牛も気分が良いのではないか。牛も気分良く毎日幸せなら乳量も増えるだろうし、病気にも罹りにくいだろう。

もう一つ驚いたのが、牛舎の中央に2箇所、大きなブラシが回っている。牛たちは、そのブラシに体を擦り付けて体を掻いてもらっている。これも、牛が順番に行儀よく掻いてもらうのを待っているのだ。牛は、私たちが想像する以上に、知能指数が高い。毎日、幸せに暮らす牛から搾乳される乳は、きっと栄養価が高いに違いない。そして、そこで働く従業員もきっと幸せに違いない。ここで、ハッと私は我に返った。この牛舎では、酪農作業の本質的なことが全く無人で行われている。しかも、牛たちが極めて幸せな形である。

搾乳という非人道的な作業が、ここまで無人で自動的に行われるならば、酪農とはなんと楽な仕事になるのだろうと思われたら、それは大きな間違いだ。搾乳は、酪農において最も過酷な仕事であることには間違いないが、酪農の本質的な作業は搾乳ではない。人間も牛も、産後に、お乳を出すが子供が大きくなるとお乳の量は減少する。乳牛も全く同じである。常に、乳牛に十分なお乳を出させるためには、常に妊娠させていなくてはならないのだ。しかも、ホルスタインに和牛を産ませるには、体外受精という極めてトリッキーな作業を行わなくてはならない。

人間もそうかもしれないが、牛も冷凍保存された受精卵の着床率は50%ほどまで低下する。黒毛和牛の雌から、最も適切なタイミングで卵子を採集し、受精させた卵子をホルスタインの最も適切な時期に着床させることは、奇跡に近いタイミング合わせが必要である。毎日、過酷で苦しい搾乳という仕事から解放された酪農従事者は、生命の受け渡しという、非常に難しい仕事に取り組まなくてはならない。しかし、この仕事は、難度が高く、キャリアパスの醸成として、生きがいのある仕事である。毎日の単純で過酷な仕事は、IoTやAI(人工知能)に任せ、本当に難度が高い難しい仕事を人間が請け負う。スマート農業が目指す、本当のゴールが、ここにあるのかも知れない。

真の「働き方改革」とは毎日の辛いルーチンワークから、難度が高い、キャリアパスとしても意義がある、生きがいのある仕事へと変えていくことであろう。

374 スマート農業について (1)

2017年10月7日

今年5月、シリコンバレーのマウンテンビューにあるコンピューターミュージアムで開催されたAG-Techに参加した。AG-Techは、ITを用いて農業の近代化を目指す集まりで、シリコンバレー各地から多くのスタートアップが農業に対する熱い思いを伝えていた。私は、このAG-Techに参加する前日、この団体のCEOであるRoger Royse氏にインタビューをした。Royse氏が語る、アメリカ農業の最大の課題は、気候変動対応や収量拡大でもなく、なんと「人手不足」だった。

現在のアメリカの農業の主たる担い手は「不法移民」である。仮に、トランプ政権が不法移民を一掃したとするとアメリカ人は明日からイチゴやレタスが食べられなくなる。さらに、アメリカは世界最大の農産品輸出国であるが、一方で、アメリカ人が消費する食料の40%は外国からの輸入に依存している。その輸入元が殆どメキシコからというのも皮肉なものだ。メキシコからの自動車輸入を規制するためにNAFTAを解消すれば、結果としてアメリカ人は食料の値上がりで苦労することになる。だから、メキシコの大統領はNAFTA交渉で簡単にトランプ大統領には屈しない。

世界最大の農産物輸出国のアメリカでも、農業問題では大変苦労している。ラストベルトと呼ばれる白人貧困地帯も、昔は農業や製造業で賑わっていた。ラストベルトを支えていた製造業は既に海外に移転し、綿花や穀類を中心とした農業は機械化で人手が要らなくなり、その他の品種を扱う農業では人件費の高い白人は追い出されて不法移民が中心となって働いている。トランプ大統領の支持母体であるラストベルトの基盤はこうして形成された。この構造的な問題を解決するのではないかと期待されているのがIoTやAI技術を使いこなしたスマート農業である。

この度、私は社外取締役を務めているゼンショーホールディングス傘下の畜産・酪農会社「善祥園」の見学をさせてもらった。現在、善祥園は北海道十勝帯広地方に4箇所の牧場を有している。総面積650ヘクタールに、黒毛和牛を中心とする肉牛1,200頭、乳牛300頭を飼育している。2ヶ所は肥育を目的とした肉牛牧場で、後の2ヶ所はホルスタインによる乳業牧場である。本来は、肉牛牧場と乳牛牧場は、経営の仕方が全く異なり、共存させてもシナジー効果は殆どない。

「すき家」や「なか卯」といった牛丼を提供する外食チェーンを保有するゼンショーの本来の目的は、黒毛和牛の肥育牧場である。それが、なぜ、乳牛牧場を経営しているかは、実は深い意味がある。黒毛和牛の子供は高価で、外部から購入していたのでは殆ど採算が合わないからだ。善祥園では、この黒毛和牛の子牛を生産するのに、体外受精をした黒毛和牛の卵子を乳牛の子宮に着床させ、ホルスタインの借り腹で黒毛和牛の子牛を効率的に生産することでコストダウンを行っている。

自分で黒毛和牛の子牛を生産するコストは購入コストの約10分の一である。それ以外の理由として、黒毛和牛の子牛は脆弱で下痢や肺炎で死亡するケースが高い。母牛の健康状態や妊娠中のケア、また出産直後の子牛のケアが、生まれた子牛の、その後の肥育に大きく影響する。そのため、自身で、子牛を生産する意義は計り知れない。日本でも1,000頭以上を飼育するギガファームでは、殆ど、この方式をとっている。そうは言っても、乳牛を飼育する酪農牧場の苦労は並大抵のものではない。

1975年から2015年までの40年間の日本の酪農事業の推移を見てみると、まず酪農家の数としては、個人、法人を合わせて13万戸から1万8千戸へと約10分の一に減っている。しかし、酪農の大規模化で飼育する乳牛頭数では2割しか減っていない。さらに、生乳の生産量では全く減っていないばかりかむしろ増えている。1頭あたりの年間搾乳量が6,000リットルから8,000リットルへと大幅に向上したからである。特に300頭以上を飼育するメガファームは141社で、全酪農家の0.75%で、その7割は北海道に偏在している。今後も、40頭以下の零細酪農は、どんどん減り、大規模化の流れが止まることはないだろう。

酪農という仕事は極めて過酷である。乳牛は一日3度搾乳をしなくてはならない。一日、ほぼ30リットル。1回10リットルである。1回でも搾乳をサボると牛の乳房には10リットルの乳が残り、乳房炎を発症する。一度、乳房炎になった牛の乳は1週間搾乳しても廃棄するしかなく、大損害である。100頭飼育していれば、1回の搾乳時間は3時間、1日9時間である。それが、365日休みなく続く。こんなことは、家族経営の乳牛牧場でしかできない。企業でこれをやったら、まさにブラック経営だと非難される。

善祥園は、会社組織なので、社員は交代勤務で週休二日、毎日最大でも9時間勤務、牛の出産時以外の夜勤は全くない。その出産についても、出産間際の牛に、各種センサーをつけて、24時間以内に出産する牛が出てきた場合だけ夜勤を行うことにしている。しかし、そうした会社組織での働き方は家族経営に比べて大幅な人件費コストの高騰につながるので、あらゆる分野で、徹底的なコスト削減の方策を見出さなくてはならない。

現在、善祥園が取り組んでいるのは、あらゆるプロセスの数値化である。牛の健康管理、乳牛であれば搾乳量、肥育牛であれば体重増加率など、餌の配合との関連を全て数値化して管理している。さらに、今後のコストダウンについては、AIやIoTを駆使した徹底的なロボット化を目指している。設備投資には大金を使うが、安定した事業継続は、もはや作業の人依存性を減らすことしかない。日本国内の各所で研修生として活用している外国人材の利用も、早晩、継続が難しくなると思われるからだ。

この善祥園が将来のあるべき姿として模範としているのが、これから紹介する同じ十勝帯広地区にある加藤牧場である。善祥園の平田社長は、加藤牧場の加藤社長の薫陶を受け、自らオランダ、カナダ、アメリカ、オーストラリアに出張して現地見聞しながら加藤社長の教えを実際に現地で自分の目で見て確認している。平田社長が私たち社外取締役を招いてくれ案内してくれた本当の理由は、加藤牧場のような先進的な設備投資を積極的に行い、将来に渡って経営を持続可能なものにすることへの理解を深めることにあった。

日本で最大の牧場は茨城県のみずほ牧場で飼育頭数は4,000頭である。善祥園の平田社長がアメリカのウイスコンシン州で見た大規模酪農牧場は1箇所で10,000頭を飼育しており、その経営の仕方を見たときのショックは大変なものだったという。今後、日本政府が、真剣にTPP対策としての酪農業の助成策を考えるのであれば、零細酪農家の赤字補填ではなくて、やる気のある酪農家への設備投資支援ではないかと思われる。さて、加藤牧場の加藤社長は、どうして競争相手である善祥園の平田社長に、自身が苦労して磨き上げた設備の全てを見せて親切に指導をしているのだろうか? 

それには酪農業界の特殊な事情がある。生乳は輸送中に揺らされるとバターになってしまうので遠方まで移送できない。近くの加工場所で加工乳かチーズかバターにする必要がある。その製造設備は採算上、一定以上の規模が必要である。十勝帯広地区では個人、法人合わせて、約80軒の酪農家がいて、その全てが雪印メグミルク大樹町工場に出荷している。つまり、酪農家は一人だけ抜けがけで成功することが許されていない。加藤社長は、十勝帯広地区の模範農場として地域全体の活性化を望んでいる。さて、この加藤牧場で私は驚きの光景を見ることになる。ぜひ、次の機会でこの興奮を伝えたい。

373 バイオガス発電所の見学

2017年9月18日

先週、私が社外取締役を務める日立造船が、秋田市の支援を受けて、本年8月から運用を開始したバイオガス発電所を見学に行った。ちなみに日立造船は、もはや造船事業から撤退しており、主力ビジネスであるゴミ焼却発電炉では世界一のシェアを有している。もともと、ゴミを焼却するという考え方は、土地が狭い日本と欧州にしかなく、米国を始めとして、世界のほとんどの国では、有り余った遊休地にゴミを埋設するという考え方が主流であった。

しかし、中国やインドをはじめとした、多くの人口を抱える新興国の生活水準が向上すると発生するゴミの量は飛躍的に増大し、しかも、人口は都市に集中するので、近隣に捨てられた膨大な量のゴミは深刻な環境問題を引き起こしている。ゴミ焼却発電炉は、新興国の環境問題を解決するだけでなく、ベース電源として安定した電力エネルギーを供給するので、まさに一石二鳥である。日立造船では、現在、中国やインド以外にも東南アジア、ロシア、中東、中南米からも多くの引き合いが来ている。

欧州は、環境先進国としてゴミ焼却発電という考え方を生み出したが、今や、その次のステップへと歩もうとしている。つまり、紙やプラスティック、金属などはリサイクルし、食品残渣の生ゴミだけを弁別収集して、それをメタン菌により発酵させたメタンガスを用いて、発電や熱源に役立てる考え方である。今回、見学した秋田のバイオガス発電所では、食品製造業や食品加工業から出る野菜クズ、加工残渣、不良品、消費期限切れ食品などの産業廃棄物や、ホテル、飲食店、スーパー、介護施設、病院などから排出される食品残渣などの事業系一般廃棄物を対象としている。1日の処理能力は50トン、発電能力は最大730KWhとなっている。

メタン菌を用いたバイオガス発電の仕組みは、次のようなものである。最初に、収集車から受け入れホッパに入れられた生ゴミから、選別装置により包装ビニールなど発酵不適物を除外する。その選別生ゴミは、巨大な発酵槽で役目を終えて返送された発酵液と混ぜられて混合液となる。この混合液を蒸気によって加熱・撹拌して発酵しやすい柔らかな可溶化液に変換させる。ここで、注目しないといけないのは、選別生ゴミを可溶化する際には、外部から水の供給なしに、リサイクルされた発酵液を用いていることである。メタン菌は35度から40度の環境で繁殖するが、この温度設定のための蒸気もガス発電機の排熱ガスによって作られた蒸気ボイラーから供給されている。つまり、このバイオガス発電設備は、正常に運転されているかぎり、生ゴミ以外の外部資源を一切使用しない。水も電気も蒸気も全て自身で生み出したものを利用している。

このドロドロにまで柔らかくなった可溶化液は、2棟の巨大なメタン発酵槽に入れられる。発酵槽に注入された可溶化液はメタン菌によって発酵・分解されメタンガスを発生させて18日間で役目を終えて発酵槽から排出される。そもそもメタン菌は嫌気性細菌で、空気に触れては役目を果たせないので、発酵槽は水で満たされている。そして、この秋田のバイオガス発電所の種となるメタン菌は、すぐ近くにある、秋田市の下水処理場で汚泥処理に使われていたものを転用している。メタン菌は弱い菌なので、遠距離を運搬することは好ましくなく、万が一の時にも近くから供給されることを期待している。

この発酵槽から最終的に出てくるのは、バイオガスと発酵液と汚泥である。まず、このバイオガスにはメタンガスだけでなく硫化水素も含まれているので、脱硫し、純粋なメタンガスだけを発電機に送る。発酵液の一部は混合槽・可溶化槽に戻されるが、その他は、膜分離によって浄化し、綺麗な水にして下水に放流している。残りの汚泥は乾燥させて堆肥とし、秋田名物じゅん菜農家に供給している。つまり、このバイオガス発電所では全く二次廃棄物を出さないエコシステムを形成している。

また、この発電所は巨大な球状のガスホルダにメタンガスを蓄積しているので、常に一定出力の電力を供給できるベース電源となっている。一般的に、ガス発電機は電力を発生するだけでなく、高温の蒸気を出力する。電力は電力線によって遠隔地に送電できるが、問題なのは熱源の利用方法である。その点、このバイオガス発電所は、この熱源を、メタン発酵を活性化させるための加熱処理に使い、発酵液から乾燥汚泥を作るための熱源にも利用し、自身で使い切ることができるメリットがある。

このバイオガス発電所の建設と運営は、日立造船が行なっているが、このエコシステム全体は、秋田市、秋田市の産廃業者、秋田市の食品加工業の密接な連携によって稼働している。発電所の立地も、秋田市の金属加工団地という周囲に住民が住んでいない地域で環境アセスメントの必要もなく順調に建設が進んだという恵まれた条件も整っていた。この金属加工団地から砂防林を10分ほど車で走ると、雄物川風力発電地域があり、多くの風力発電機が唸りを上げて回っている。日立造船も、この雄物川では、現在2基の風力発電機を建設、運営している。

それにしても、秋田市、秋田県は、日本でも秀でて環境問題に関心が高い地域である。何が、その要因なのか?私なりに考えてみた。そういえば、かつて秋田は日本で数少ない油田地帯だった。大学に鉱山学科があるのも秋田大学だけである。そうしたこともあり、秋田県民はエネルギー資源には関心が高いのだろう。もう一つは、秋田県にある小坂銅山を引き継いだDOWAホールディングスは日本屈指の金属リサイクル企業で「都市鉱山」の主要な担い手でもある。風力発電やバイオガス発電など、再生可能エネルギーに熱心な秋田県民の心意気に心から敬意を評したい。