478   中国経済が日本市場に及ぼす影響とは

2024年2月6日

リーマンショック後に窮地に陥った世界経済を救った中国経済が深刻な状況に陥っている。しかし、そのきっかけが何かを単純に一つの要因として追い求めることは難しい。歴史上初めて減少に転換した中国の人口問題や、長年にわたり中国経済を率いてきた不動産ビジネスの深刻な不況、トランプ前大統領が始めた中国からの輸入規制や、現政権による国有企業優先政策など多くの要因が重なっている。

「アメリカを抜くのはいつか?」と言われてきた中国経済が、深刻な衰退を見せ始めた過程を見ると、1990年以降、日本がバブル最盛期から少しずつ衰え始めた過程とよく似ていることがわかる。物価指数もコロナ禍前の2019年には5%台だったものが2021年のコロナ禍ではマイナスに、その後2022年から2023年は2%まで回復するが、2024年に入って、コロナ禍最中に起きたマイナス指数に戻っている。まさに、日本で起きたデフレ経済が中国で起き始めている。

14億人の中国の人口を支えるためには毎年約2,000万人の出生数が必要となる。1964年には3,000万人を超えていた出生数が2020年には2,000万人まで減少し、2023年には1,000万人を切って850万人にまで減少しており、適齢期を迎えた中国の多くの若者たちが結婚を望んでいないことを考えると出生数はさらに減るだろう。現在、中国政府は三人以上の子供を奨励する施策を考えているが、うまくいきそうな気配は全くない。まさに、中国は近年で初めての人口減少に陥っている。これも現在の日本の状況と全く同じで良い政策は簡単には見つからない。

結婚適齢期を迎えた中国の女性は二人だけで一緒に住む家を持つ男性を強く望んでおり、結婚を望む男性は、プロポーズする前に、まず家を購入する準備をしなければならない。こうした若者の動向を踏まえて、中国の不動産業は巨額の投資をして膨大な数のマンションを建設してきた。旺盛な住宅需要を踏まえて、中国では建設が完了する前に支払いを済ませておく必要がある。今回の不動産不況が生じる前の2023年には1.5億人分の住宅が建設仕掛かり中であり、それらが全て建設完工するには62.7ヶ月が必要と言われていた。しかし、深刻な不動産不況に陥った中国では、2019年のコロナ禍前に着工した住宅の15,000万㎡から2023年の着工予定は5,000万㎡と3分の1まで減少している。

そして、これまで中国の繁栄を一番支えてきたのは、安価な人件費に支えられた中国の製造業だった。中国経済は日用品のアメリカへの大量輸出によって大きな成長を遂げてきた。こうした状況を大きく変えたのがトランプ前大統領で中国からの輸入品に大きな関税をかけて制限をしたことだろうか。中国企業はこのトランプ政策を回避するために製造事業所を次々とメキシコに移転した。この結果、米国の輸入依存度は、2016年には中国が22%、メキシコ13%、カナダ12%、東南アジア7%だったのが、2023年にはメキシコが中国を逆転して16%、中国が14%、カナダ12%、東南アジア9%と中国が減少した分がメキシコと東南アジアが増やしている。こうした動向はトランプ前大統領の対中敵視施策がなくても、中国の人件費が高騰したことを回避するために中国企業が自らメキシコや東南アジアへ製造移転したことも影響しているのかも知れない。

こうした輸出力の低下は中国企業の時価総額にも大きく影響している。2015年に世界の企業の時価総額でアメリカ企業のシェアが37%対して中国企業のシェアが20%とアメリカの半分強。従来は、これがいつアメリカに近づくかという議論があったが、2024年には、アメリカ企業のシェアが46%と大きく増加するのに対して中国企業は10%と半減する。この結果、米中企業の時価総額の差は過去最大となったと言われている。世界の企業時価総額ランキング10位の中に、2020年にはテンセントが7位、アリババが9位にランキングしていたが、2024年には世界10位の中に中国企業は1社もいない。

時価総額世界ランキング500社を見てみると、2020年にはアメリカが206社、中国が80社入っていたのが2024年にはアメリカが236社と大幅な増加に対して、中国は35社と半分以下になった。アメリカが30社増えるのに対して中国が45社も減った。アメリカのNYダウやNASDAQが連日高値を更新しているのに対して、上海や香港の株価指数は連日下がり続けている。こうした動向に中国の富裕層もついに痺れを切らして、上海証券市場で日本のETF株が連日ストップ高となり当局により売買制限がかけれることになった。現在、東京証券取引所の株価が連日高騰しているのも、中国や香港、シンガポール、マレーシアに在住する中国系富裕層が買い支えているものと私は思っている。彼らは、従来は中国企業に注いできた投資を日本株に振り替えているのだ。

こうした中国企業の苦しみは、人材採用面でも影を落としている。中国の若年層失業率はコロナ禍前の2019年には11%だったのが、コロナ禍最中の2020年には15%まで上昇した。しかし、コロナ禍が終息したはずの2023年に中国の若年層失業率は20%にまで上昇している。この若年層失業率は大学卒のエリート層にも影響を及ぼしており、大学を卒業したけれども何もせず自宅で待機するいわゆる「ニート率」は、コロナ禍前の2019年には11%だったのが、コロナ禍の最中だった2020年には15%に上昇して、コロナ禍が収束した2023年には20%にまで上昇している。

こうした中国経済の困窮状況を踏まえて、優秀な中国人が米国や日本へ留学する人数は、以前より増加傾向にある。米国への留学生に関しては、従来から減っていないという表現の方が正しいと思われるが、中国から日本への留学生は明らかに増えている。私は、カリフォルニアに住んでいた時に、中国からアメリカに移住してきた人々の子供への教育に関しての熱量が日本人家庭の何倍も高いことをずっと見てきた。その意味で、最近、中国から子供連れで教育のために日本に移住してくる家族の教育に対する熱意も大変なものだと言われても全く驚かない。まず、日本語が話せる小学生を持つ中国人家庭は、SAPIXなど中高一貫校を受験するための人気の塾に入ってトップクラスの成績を狙うのだそうだ。彼らは日本の一流大学の合格を目指している。

しかし、よく考えてみれば小学生から日本語を堪能に話せる中国人家庭の数は極めて限られている。そうした中国の富裕層のご家庭が、日本で子育てをするにはどうしたら良いか?である。答えは、「欧米の名門校が日本で経営するインターナショナル校」である。しかも、日本のインターナショナル校の学費はニューヨークの4分の1で済むという。この日本のインターナショナル校で学べば、ニューヨーク校より安価に、そして安全で安心な学校生活を送ることができる。しかも、ここで一生懸命勉強すれば、日本を超えて世界中の名門大学を受験できることになる。こうした日本へ子供の留学させる傾向は、中国政府が格差を生じるという懸念から中国の学習塾企業の一斉閉鎖を求めたことから一層強まっているという。

そして、お金には全く心配しなくて良い中国の富裕層は、近い将来子供の教育に資するために東京都心の高級マンションを買い漁っている。東証の株価が高騰しているのと同様に東京都内の高級マンションの価格が1億円を超えたというのも中国人の購入が関係していると考えても全く不思議ではない。高額で売れている高級マンションの場所はいわゆる住宅地ではなく、インターナショナル校に通いやすい都心に位置している。中国人の行動は、日本人より遥かにグローバルである。常に、世界中を見て、一番有効な投資の仕方を考えている。その中国人から選ばれて、購入されるとすれば、日本の株式市場も日本のマンション市場も大変誇らしいことだ。それがいつまで続くのか、日本企業の経営姿勢や、日本の社会政策が中国の富裕層から問われている正念場だと思った方が良い。

477 2024年の経済動向は?

2024年1月1日

正月を明けても、ウクライナやガザで悲惨な戦いが続いている。一方で、アメリカでは新たなコロナ変異株”JN.1”が大流行していて入院患者が一日6万人にも及んでいる。この”JN.1”株は、症状はそれほど深刻ではないものの中国やインドも含めて世界中で確認されており、従来のインフルエンザやこれまでのコロナ変異株に比べて感染能力が非常に大きいと言われているので、なんだか気味が悪い。一体、いつになったら私たちはコロナ禍から解放されるのだろうか?2020年より世界中の国々はコロナ禍で翻弄されてきた。それから3年経った2023年になって、このコロナ禍がいくらか癒えても世界はコロナ禍以前より大きく変わり、その多くが元に戻らないでいる。コロナ禍が終息しても、むしろ一層大きく変化しつつあるとも言えるだろう。そして、新しい年である2024年は、どのような年になるのだろうか?

まず、アメリカだ。アメリカはFRBの利上げの効果でインフレも安定化し、株価も史上最高値を更新しつつある。それでは来年のアメリカの経済は、これから一層良くなるのか?と言えば、そう簡単ではない。実は、アメリカの株価上昇は7大テック(アップル、アルファベット、アマゾン、メタ、マイクロソフト、テスラ、エヌビディア)の影響を大きく受けており、S&P500(日本の東証プライム以上の一流企業)の株価から、この7社を除いたS&P493の株価は殆ど上がっていない。つまり、アメリカの株価上昇は、この7大テックによるものだと言える。

しかし、アマゾンを除く、残りのビッグテック6社の従業員は極めて少なく、この7大テックが好況で従業員に高給を支払ったとしても、アメリカの労働者全体に占める割合は極めて低い。加えて、この7大テックの動向がコロナ禍以前とは全く異なってきた。その一つは従業員を大量解雇していることと、有力なスタートアップを買収する投資を殆ど行っていないということだ。コロナ禍が開けても、一向に7大テックは静観したままである。私は、こうした7大テックの動向はコロナ禍とは関係なく、新たな展開に備えているような気がする。つまり、オープンAIが提供するChatGPTに代表される生成AIの出現が影響しているのだ。

つまり、7大テックは、彼らを取り巻くビジネス環境が生成AIの出現によって大きく変わると考えているようだ。これまでの研究開発の方向が大きく変わるため、各社が抱えている開発者を入れ替えることを考えているように見える。今は、大きな投資をしないで市場の様子を静かに見ようと思っているのではないか? そうだとすると、2024年に7大テックにはたいした動きがなく、アメリカ主導の景気高揚に大きな期待ができない。

次に世界景気に大きな影響を与えるのは中国だ。2008年にアメリカで起きた金融大恐慌を救ったのも中国が行った4兆元にも及ぶ巨額の政府投資だった。しかし、今や、その中国が未曾有の不況に喘いでいる。恒大集団や碧桂園が苦しんでいる不動産大手の経営危機も不況の要素の一つではあるが、20%から30%に及ぶ中国の若者の失業率は不動産不況だけでは説明できない。ほんの数年前、アメリカの販売店で売られている日用品の殆どが「Made in China」だった。アメリカの輸入先は中国が圧倒的一位だったのだ。それが、今年、アメリカの輸入先はメキシコが一位で、2位がカナダ、中国は3位にまで下がってしまった。金額も前年比で30%近く減少している。

もちろん、この最大の要因はトランプ前大統領の対中関税の大幅な増加によるものだが、いきなりメキシコが中国の代役を務められるわけがない。つまり、これまで、アメリカに輸出していた中国企業がメキシコに巨大な投資をしてメキシコの工場からアメリカに輸出しているからだと考えた方が良い。こうした措置で、トランプが提唱した対中制裁は、結果的に、中国の企業やアメリカの消費者には殆ど影響を及ぼさなかった。しかし、中国の労働者は仕事をメキシコの労働者に奪われてしまったということになる。中国企業にとっても、給与水準が安いメキシコへ生産移転することで、利益率は高くなるのかも知れない。しかし、その結果、中国では大量の失業者が増えた。

本来中国の人々が古来より持っていたバイタリティーがあれば、こうした厳しい環境も難なく乗り越えられたはずである。しかし、今の中国の政権は、こうした民衆の力を悉く削いでいる。いや、削いでいるだけでなく、のし上がってきた民間企業を容赦なく叩いている。今の中国では、自分たちの力で特別頑張ってはいけない。大人しくして政府が言っていることを素直に聞いていることをすれば叩かれることもない。だから、“住宅を買わない”、“車を買わない”、“恋愛しない”、“結婚しない”、“子供を作らない”、“消費は低水準に徹する”という「寝そべり族」と呼ばれる多くの若者たちが親の脛を齧って生きている。この難局を乗り切るにはあまりにも元気が出ない社会の仕組みの中でこの「寝そべり族」は一種の社会抗議運動という側面も持つとも言われている。

こうした中国経済の悪化で最も大きな影響を受けているのが欧州、特にドイツだ。10年ほど前に、中国企業の工場を訪れて工場設備の殆どがドイツ製であることに驚かされた。ドイツは中国製造業の発展に大きく貢献してきた。ドイツの前首相であるメルケル女史が、頻繁に中国を訪問していたのも私たちの記憶に残っている。この度、ドイツのGDPが日本を抜いたと言われているが、このドイツの目覚ましい発展に中国経済がどれだけ貢献したのかは私たちの想像を遥かに超えるだろう。従って、現在の中国の不況は、今後、ドイツ経済に大きな影響を及ぼすことになる。ということは、EUの盟主であるドイツが大きな不況になるということが、EU全体の不況にも繋がっていくのかも知れない。

こうしてアメリカ、中国、欧州と世界中で景気動向が悪い方向に向かうことで、一番恐れる話は、それぞれの国で激化している右傾化である。いっとき、グローバル化による景気高揚で世界中の多くの人々が、その恩恵を受けた時代が懐かしく思えるほど、今や、世界中で移民や難民も排する自国優先主義を尊ぶ人々が増えている。アメリカのトランプ政権の復活を恐れる中で、欧州でも、南米でもアジアでも自国優先主義の政党が民衆の支持を高めつつある。それで、世界の不況が収まり景気高揚に繋がるのなら良いかも知れないが、おそらくは、その逆だろう。

こうして考えると、2024年は、どう考えても、世界中の人々が好景気に酔いしれる時代にはならない確率が高い。今後はインフレで貯金が目減りするから投資で増やさなくてはならない。そのために有難い施策を沢山込めた制度(新NISA)を作り出すことで支持率を上げたいという日本の政権。そうした誘いに乗って、これから株を買って果たして本当に利益が出るのだろうか? 良い結果を期待するには、少し、長い目で見る必要があるだろう。

476  金婚記念日を迎えて

2023年12月3日

今月2日に、結婚して50年目となる金婚記念日を迎えた。生まれた時から、それほど丈夫ではなかった私が、金婚を迎えることが出来るなど想像もできなかったが、それだけ長生きできたことを本当に「めでたいことだ」と喜んでいる。同時に、半世紀の長きにわたって一緒に苦労を共にして付き合ってくれた妻に心から感謝している。改めて振り返ってみると結婚してすぐから今日まで、私たちの夫婦は本当に苦労が多い50年間を送ってきた。

就職してから3年目、貯めたお金は好きなスキーに全て使い果たし、一銭の貯金もなく結婚する気など全くなかった私に、突然迷い込んだ見合い話に乗った。そこで直感的に「私は、この人と結婚するしかない!」と感じて、今の妻と結婚した。それから30年間ほど、子供たちが大学を卒業するまでの間、妻は、ずっとお金に苦労していたように思う。私は戦後の高度成長時代の典型的な猛烈サラリーマンとして家に帰らぬこともしばしばだったので、二人の男の子を抱え、一人で何もかもこなす大変な激務だったと思う。

特に、私がアメリカに単身赴任した3年間、妻は世帯主として全ての責任を負い、一人で家を守った。だから、リタイアして家にいることが増えた現在、妻がいわゆる家事以外の仕事を、なんでも上手にこなしているのに驚いている。妻の行動を見ていると、家の設備や備品に何か不具合が起きた時に、どこからか工具と部品を取り出して来てあっという間に修理してしまう。これまで長い間、私に言っても、いつまでも何もしてくれないので、一人で対処するしかないと思い、対処方法を試行錯誤で学んできたのだろう。

私自身の健康問題は、世界中を飛び回っていた50代から60代までに大きな試練が何度も訪れた。アメリカでゴルフをしている最中にクリークを飛び損ねて足の踵を骨折した時は、アメリカの医師からは直ぐに手術すべきだと言われた。しかし、アメリカで手術するのは費用面を考えてもリスクが大きいと日本に一時帰国した。この時も、妻は私を車椅子に乗せて通院を手伝ってくれた。日本の医師は踵の複雑骨折は手術してもうまくいかないので、そのまま自然に治るまで大事にするしかないと言われた。その通り、自然治癒の方法をとった結果、今は右足と左足で少し高さが異なるが何とか普通に歩けている。

その後は、日本に帰国してからは前立腺癌にもかかり、いろいろな治療法を検討したが、最終的には放射線治療を選んで、寛解し、その後10年以上も再発は起きていない。それ以外にも、睡眠時無呼吸症候群など、いろいろな不具合が見つかっている。それらの根本原因は基本的には老化であり、完治は難しいと思っており、今後は穏やかに治療を続けるしかないと思っている。妻も最近は、老化に起因するいろいろな病にかかっており、いくつかの病院に通院している。私は昨年から、妻は今年から、後期高齢者向けの健康保険証も発行してもらい、今後は、お互いに助け合いながら緩い人生を送っていくつもりである。

私も妻も、後期高齢者になってから、一番恐怖に思っていたのが、運転免許証更新時の認知機能検査であった。二人とも、車の運転が出来なくなると日常生活で大きなダメージを受ける。暫くは、運転免許証を返還するつもりは全くない。車には高齢者向けのサポート機能をつけたし、運転も従来以上に安全運転に徹するつもりだが、運転免許証の更新ができないと何もできない。後期高齢者検定で実施する一番の難関である認知機能検査は、70歳以上から行われる高齢者講習で予告される。この中で一番難しいと思ったのが兵器、楽器、人体、家電製品など16カテゴリに属する絵を記憶する検査だ。

最初に見た時から「これは難しいな」と思った。16枚の絵を数分見せられてから、数字のテストなど、いくつかのテストを終えて、先ほど見た絵が何かを答えるのだ。こんな検査は、若い人でも簡単には出来ないのではないか?と私には思われた。それで、妻と一緒に予備テスト教材を買い揃えて認知機能検査向けの受験対策を考えた。どうも、16カテゴリーのテストは4パターンあるらしい。16x4で64枚の絵をA,B,C,Dと4カテゴリーに分けて、事前にしっかり覚えれば大丈夫だと確信した。これも妻は直ぐに覚えてしまい、私は、少し焦ったが、私も本試験の前には何とか覚えることができ、その結果、先々月無事に運転免許の更新が出来た。

金婚を迎えるというのは、単に「長生きしてめでたい」というよりも、その日から先は、お互いに助け合って、この先も実りある老後を過ごす始まりの日と思うべきだろう。日本では、平均寿命は女性の方が少し長いが、健康寿命は男女とも大きく変わりがない。つまり、女性は健康を害して寝たきりにならざるを得ない日々が長いということだ。私は、今現在は月に3日ほど会社に出勤し、2日ほど講演を行い、5日ほど自身と妻の通院に付き添う日々である。こういう日々がいつまで続くかわからないが、いくべき場所が、幾つかあるだけでも良いと考えている。

最近は、特に生成AIについて、会社の若い人たちと議論したり、大学での講演の際に、大学院生の意見を聞いたりするのが、とても楽しい。今の若い人達は、我々よりも将来に大きな不安を持っており、AIについても、いろいろな勉強をしているのが凄いと思う。今から50年ほど前にAIの研究者として入社、20年間ほど苦しんで諦めたAIだが、その時の経験は今、明らかに活きている。今の若い人達が、あの時の私たちと最も異なるのは、就職した会社が大きく変化する世の中で、何年持続できるのかわからない時代になったということだ。

今の時代は、勤続年数で評価されるとか、上司の言うことを真面目にやっていれば高い評価を得られる時代ではなくなった。生成AIは、これまで学んだスキルが役に立たなくなる可能性も生むだろう。その上、これまで企業において最も重要と言われてきたコミュニケーション・スキルだけで人脈を形成すれば昇進できる時代ではなくなってきている。若い人達は、今、Chat GPTを使いながら、これから起きる社会の大きな変化を少しずつ感じ始めている。そうした若い人たちとほぼ同じレベルで話し合えることが、今の私にとっては大きな幸せだと感じる。AI研究者として苦労した20年間が、今になって報われたと感じる日々である。

さて、これから、その生成AIが汎用AI(AGI)へと発展していく中で、私たち夫婦はこれからさらに少しずつ老いていく。後期高齢者になったと言うことは、これから終活をする時代だと言うことだろう。命が尽きた後に、子供達に迷惑になりそうなものは早く処分しなくてはならない。それが、実に沢山あるのだ。例えば、書籍もその一つだ。会社の役員室にあった大きな本棚に入れるためにと私費で沢山の本を買い、リタイアしてからもさらに買い増し、その本の数が、あまりにも多いので、今は倉庫会社に預けてある。全てを捨てるのは勿体ないので、どこか引き取ってもらえそうなところはないかと探している。この金婚の日を迎えて、その終活処理のスピードをもっと上げなくてはと思う毎日である。