415   Disrupt SF 2019に参加して

2019年10月9日

今月1日からサンフランシスコで開催されているDisrupt SF 2019に、昨年に引き続き今年も参加した。このTechCrunchは、IBM、Dell、Lenovo、UA、Microsoft、Boeing、Deloitte、JETROなどがスポンサーとなり、シリコンバレーのスタートアップが数百社参加する一大コンベンションである。参加料は1,300ドルもするのに、朝早くから大勢の若者がセキュリティーチェックの長い列に並んでいる。今年、72歳となる爺さんが、この若者たちと同じ行列に並んでいるのが何とも嬉しくてならない。

今、日本では、デジタルトランスフォーメーション(DX)が大きな話題になっているが、シリコンバレーではDXが大きな話題になることはなく、Disrupt(破壊)の一色である。つまり、Transformation(変革)というよりDisruption(破壊)なのだ。さらに、経済産業省が取り上げている2025年の壁、IT技術者の不足によりレガシーシステムからオープンシステムへの変換が進まないという危機感は、このアメリカでは全くない。既に、アメリカでは、2000年問題に対する危機回避として20世紀中にレガシーシステムからオープンシステムへの変革は終わっているからだ。

そうした難しい話はともかく、朝一番、定宿のマリオットサンタクララからサンフランシスコに向けて101号線をチャーターしたミニバンで走っていくと、サンフランシスコ側からサンノゼ方面に向けて真新しい何百台もの大型バスが優先レーンを走っていく。聞けば、すべてGoogleが社員用にチャーターしたバスだという。Googleは、こうした1,000台にも及ぶ社員用バスの駐車場のためにNASAの空軍基地の跡地を購入した。自分で運転していけば、軽く1時間半はかかる通勤時間をバスに乗れば、その時間を仕事に当てられるというわけである。ここで、私には、以下の疑問が湧いてくる。

まず、第一の疑問は、Googleの社員は、なぜ、シリコンバレーの渋滞する道路を、わざわざ自分で運転して会社に行かねばならないのか? テレワークすれば会社まで行かなくても済むではないか?ということである。実は、シリコンバレーの道路が大渋滞するのは、ここでは殆どの会社がテレワークを使っていないということがある。イノベーションを生むための仕事は、テレワークでは出来ない。共創を行う仕事のやり方は、膝を突き合わせてお互いの表情を読み、息遣いを感じなければできないというのである。デジタルトランスフォーメーション(DX)の真逆で、まさにアナログ的な考え方である。

もう一つは、多くのGoogleの社員は、なぜ、その本社があるマウンテンビュー市から遠く離れたサンフランシスコ市に住みたいのか?である。今や、サンフランシスコは、シリコンバレーのイノベーションセンターとなり、地価が高騰し、ワンルームマンションですら月額7,000ドルの家賃だという。それでも、若者はサンフランシスコに住みたいのだ。だから、高給とりのFacebookの社員でも、ホームレス用のシェルターから毎日通勤している人もいるという話もある。今、GoogleやFacebookで職を得ているからと言っても安泰ということは決してない。次の職を得るための人脈や最新情報を得るためにサンフランシスコに住むことは彼らにとって必要条件なのだ。

そうしたトレンディーな都会であるサンフランシスコで開催されるDisrupt SF 2019を覗いて見ると、今後、何が最新のテーマなのかが見えてくる。従来から注目されているFin Tech(金融)、Ed Tech(教育)、Agri Tech(農業)以外にSpace Tech(宇宙)やAqua Tech(水産業)というテーマが本格的に登場している。もはや「自動運転」などという成熟したテーマは、既視感をDisrupt(破壊)する役割を担うスタートアップには相応しくないということだろう。

さらに驚くのは、このDisrupt SFの会場では、大麻由来の嗜好品であるCBD(カンナビジオール)を使った粉末製品の展示即売会が開かれている。大麻の主成分にはCBD(カンナビジオール)とTHC(テトラヒドロカンナビノール)があり、CBDは無害であるが、THCは、一般的に問題となっている精神活性作用(多幸感)、常習性がある。日本でも、このCBDは合法である。オピオイドなど鎮痛剤系薬物障害で苦しんでいるアメリカでは、CBDの販売を拡げて、違法薬物だけでなく、健康に有害なタバコやアルコールなどの代替にしようという動きがあるようだ。確かに、これも従来の常識を超えたDisruptかも知れない。

このDisrupt SFに参加して、私が興味を持ったテーマは以下の二つである。一つは空飛ぶ車。この電動VTOLの開発者は、とにかく都会で使うには騒音を出してはいけないのだと言う。主翼に4つ。機首に二つのプロペラは電動で動きVTOLの機能を持つ。駐機場から静かに垂直に飛び立ち、音もなく水平飛行へ移っていく。もう一つはOpen AIだ。AIのツールや開発環境を無償で提供する企業である。司会者は、盛んに、この会社は、どのようにして利益を出していくのだとの質問ばかりだったが、創業者のCEOは、今はMicrosoftから10億ドルの資金援助があるので、当面は利益を考える時ではないと主張する。これから、この会社が、どうなっていくのかよくわからないが、AI技術は、囲い込みして隠匿するより、多くの分野で利用する方が人類のためになりそうだという気はする。

そして、このDisrupt SFとは直接関係ないが、今回は、またシリコンバレーで素晴らしいスタートアップに巡り合った。ノールウエイのファンドが設立した魚の餌を製造する企業である。原料は、なんとCO2で、近くのセメント工場の排ガスから抽出するという。現在、試作品の粉末が出来上がっており、ノールウエイの鮭の養殖場で試食させているのだという。このプロジェクトは、いくつかの点で感銘を受けた。一つは、CO2を減らすというのではなくて、利用するという逆転の発想。もう一つは、ノールウエイのファンドが、ノールウエイの鮭養殖のために使う餌を開発するために、わざわざシリコンバレーにまで拠点を作っているということである。

Disrupt(破壊)という言葉は大変物騒ではあるが、新たな改革を行うには、既視感を破壊するしかない。例えば、CBDのように、これまでの善と悪が逆転する発想も必要だろう。いつも、シリコンバレーに来て感銘を受けるのは、どうして、このような技術を完成させたのかというよりも、どうして、この分野に挑戦をしてみようと思ったのか?ということだ。改善や改良も大事なことだが、誰も考えなかったようなことに挑戦するマインドを生み出すシリコンバレーに、できることなら来年も、また来たいと思う。

414    香港の行方

2019年9月24日

香港のデモが一向に収まる気配を見せていない。1997年、鄧小平政権により一国二制度という巧妙な施策により中国の独立行政区として発展してきた香港。当時の香港の人々は「今すぐ巨大な中国をいきなり民主化することは無理だとしても、50年もたてば中国が『普通の国』になって、めでたく一緒になれる」と夢を描いていたのだろう。その中国が、今、米国ペンス副大統領の演説で述べられたような『異様な国家』に変貌を遂げつつある。

逃亡犯条例は今回のデモの単なるきっかけに過ぎない。香港の富裕層や多くの知識人は、既に、香港を脱出してカナダやオーストラリアへの移住を完了している。また、香港最大の財閥である長江実業の創立者で、大富豪の李嘉誠氏は既に資産の大半を香港から欧州へ移転を完了した。この流れは、今回のデモでさらに加速し、ギリシャや東欧のように香港でも中間層は殆ど居なくなるかもしれない。だからこそ取り残された学生や一般庶民の怒りは収まらない。

今回の香港騒動では、中国はアメリカの金融制裁を恐れて、軍事介入しないだろうと言われている。その代わりに、中国政府は政権支持派の多数の民衆を香港に移住させている。それは極めて巧妙な政策である。自由を求める富裕層、知識層、中間層が居なくなった香港に大量の現政権支持の中国人が置き換われば、香港の世論は自然に逆転する。その結果、香港は以前とは全く違う街になる。

中国政府も「大きく発展した深圳があるから香港は要らない」と考えているわけではない。香港が持つグローバル金融の集積地であるという役割を上海や深圳が担えないことは良く知っているからだ。そもそも金融業は国家権力の支配を極端に嫌う。金融都市である香港にとって鄧小平が編み出した一国二制度という矛盾し、曖昧な制度設計は実に巧妙な役割を果たしていた。中国であって、中国でない。その両方のメリットを使い分けていたのだ。習近平は、その潔癖症から一国二制度という曖昧な矛盾の存在を許せなかったのかも知れない。

今回の香港騒動を受けて、欧州最大の銀行であるHSBCは、この度の英国のBrexitによって本社をロンドンから香港に移転すると言われてきたが、それもキャンセルになるに違いない。ロンドン、ニューヨーク、フランクフルトと並んで世界の金融センターを担っていた香港の代わりをどこが担うのか? まさか、シンガポールとは思えない。上海と同様、シンガポールは国家権力からフリーハンドを持ち得ないからだ。一方、東京にとっては千載一遇のチャンスかも知れないが、東京は、その後背地に中国のような巨大な市場を持つわけではない。

そして香港は、世界の金融センターというだけではなく、学術都市でもあった。アジア大学ランキング2019のベスト10には香港科技大学が3位、香港大学が4位、香港中文大学が7位にランクイン。ちなみに日本では東京大学が8位に入っているだけである。私は数年前に香港中文大学の大学院で講演を行なった。聴講する学生にはアジアや欧米各国の出身者、そして多くの日本からの留学生が居るのに驚いた。特に日本人留学生は、ゆうちょ銀行やメガバンクから企業派遣で留学してきた人たちである。各金融機関とも、この世界の金融センターで学ぶことに大きな意義を見出しているのだろう。

その香港が、深圳に近い、単なる中国の1都市に没落してしまうのは、あまりに勿体無い。それは、世界の金融業にとっても、さらに中国にとっても痛い話である。中国人民元の国際化は、今も全く進展していないし、今回の香港騒動でさらに国際化は遅れることだろう。その結果、相変わらず続くドル一強の世界の中で、中国は、いつまでもアメリカの金融支配から逃れられなくなる。そして、習近平政権にとって、今回の香港騒動による一番の痛手は「一国二制度」という巧妙なスキームを台湾に対して提案できなくなったということかも知れない。

 

413  日韓関係について考える

2019年8月12日

2018年、日本は外国からの観光客が、ついに念願の3,000万人を突破した。そして、その中身は、中国からが800万人、韓国からが750万人と中韓合わせて半数以上になっている。首都圏の鉄道のほぼ全ての駅で、日本語以外に、英語、中国語、韓国語が併記されるようになったのも十分納得できる。国家同士では、決して蜜月関係とは言えない中国や韓国から、これだけ多くの人々が日本に好感を持って訪れている現実には改めて注目せざるを得ない。そして、多くの日本人も韓国を訪れている。

日韓両国の多くの民間人が、お互いに好感を持って相互に交流しているのにも関わらず、昨今の日韓関係は暗澹たる状況にある。前政権を非難して、自己を主張するスタイルは、どこの国でも政治家の常套手段であり、文在寅政権が、朴槿恵政権が行った対日政策を全て否定したがるのも感情的にはわからないでもない。そうは言っても、文在寅政権の政策が、韓国の将来にとって、本当に得なのかどうかと私は疑問に思わざるを得ない。しかし、我々は、朝鮮半島における南北政権が置かれた状況を、彼らの立場に立って、もっと深く考えてみる必要があるのかも知れない。

そもそも、韓国は、地下資源に恵まれない日本と同様、貿易立国を国の中心政策に置かざるを得ない。そして、韓国が最大の貿易黒字国としているのは中国であり、最大の貿易赤字国は日本である。この意味で、韓国から見れば中国は最重要顧客であり、日本からの輸入品は早く内製化して赤字を解消したいと思っている。そして、韓国経済が大きく低迷し、ウオン安に苛まれているのは、中国経済の低迷ということだけではない。中国は、これまで韓国からの輸入品であった液晶や半導体を急速に内製化しつつあるからだ。

韓国経済の飛躍的な発展は、鉄鋼、造船、液晶、半導体と、かつて日本が得意としてきた分野を国と財閥が一体化して繁栄させ成し遂げられたものだった。一時は、一人当たりのGDPで韓国が日本を追い抜くかという状況にまで到達した。しかし、その全ての業種において中国から追い上げられ、日本の背中はまたさらに遠くなった。今や、中国は韓国にとってお得意様から熾烈な競争相手に変化した。ここで文在寅政権が韓国経済に対する起死回生の一手として考えていると思われるのが、安価な労働力と豊富な地下資源を有する北朝鮮との経済的統合だという推理は、決して荒唐無稽ではないだろう。

第二次世界大戦後、分断された国家は、ドイツ、ベトナム、朝鮮の3カ国だったが、ドイツは東西統一でヨーロッパの最優等生となり、近年、ベトナムもアジアで最も高い成長を示す国家となった。残されたのは、世界で唯一、朝鮮だけである。特に、ドイツが西欧で最も経済が繁栄した大きな原因は賃金が抑制されたからだと言われており、安価な労働力を有した東ドイツとの併合が大きな要因である。文在寅政権は、このドイツを目標としているのではないか。現在、韓国国内では、ブルーカラーの極端な人手不足に悩んでいて、政府が主体となってアジア各国から多くの労働力を補充している。文在寅政権としてみれば、同じ朝鮮語を話す、安価な労働力が目の前に豊富に存在するというのに、なんと勿体無いことと思っているだろう。

世界が、対北朝鮮政策の基本としている「非核化」という問題についても、今の文在寅政権は、本当に大きな問題と捉えているかどうか甚だ疑問である。常識的に考えて、同じ民族である同胞に対して残虐な核兵器を使用するとは考えられないからだ。むしろ、将来の朝鮮半島統一国家として核保有国の資格を得られるというメリットの方を文在寅政権は好ましいと考えているのかも知れない。

もちろん、日本として、こうした文在寅政権の考え方については、全く同意できない話であるが、アメリカは、特にトランプ大統領は、一体、どう考えているのだろうか? 私には、トランプ大統領は、北朝鮮については、もう、どうでも良いと思っているのではないかと思えて仕方がない。アメリカは、かつて、共産勢力が世界で覇権を持つことを阻止するために、多くの自国民の犠牲を伴ったベトナム戦争を仕掛けたが、結果として大敗北をした。それでも、北ベトナムに統一された「新たなベトナム」が中国の属国になることはなかった。鄧小平時代には、中国から戦争を仕掛けられても、ベトナムは決して中国に屈することはなかった。

だから、アメリカは、仮に、在韓米軍を撤退させて、最悪、北朝鮮が韓国を併合したとしても、中国は、朝鮮半島を支配下に置くことは出来ないだろうと思っている。中国とベトナムが、長い歴史の中で、常に、戦ってきたのと同じく、中国と朝鮮半島の間にも長い戦いの歴史があった。韓国は、世界でも珍しくチャイナタウンが存在しない国である。そればかりか、私は、ソウルで中華料理店を見たことがない。韓国と中国との間には、今でも、かつて高句麗であった広大な中国東北部の帰属という深刻な問題を抱えているからだ。こうして考えると、全くの極論だが、アメリカは、中国への牽制として、朝鮮半島に核保有国があっても構わないと考えているのかも知れない。

その意味で、アメリカは、既に、北朝鮮を核保有国として認めても良いと思っているかも知れない。世界で、一度、核を保有して断念した国は南アフリカしかない。今更、北朝鮮で非核化を実現するのは、もはや無理だと思っているだろう。それでも、アメリカを標的とする大陸間弾道ミサイルさえ持たなければ、当面、アメリカにとって実害はない。北朝鮮が、連続して大陸間弾道ミサイルの打ち上げに失敗したときに、実は、アメリカのサイバー攻撃が原因ではないかとの噂があった。アメリカには、その位の技術力は十分にあると思った方が良く、また、迎撃ミサイルで防御するより、はるかに現実的な話である。

以上、私が述べたことは、すべて何の根拠もない妄想だと思って頂いた方が良い。ここで私が申し上げたいことは、日本と韓国の間の政治的な問題は、日韓両国政府だけで解決できる問題ではなく、アメリカや中国やロシアなどを含めた複雑な国際関係が絡んでいるので、直ちにスッキリ解決できる道はないということである。だからこそ、日韓両国間においては、民間ベースの関係をさらに発展させて行く道しか残されていない。そして、それこそが、我々が出来る日韓関係改善の唯一の方法である。